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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
九章:虐殺の引き金
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群狼



 セタンタ君達が動き出したその時。


 戦争屋は砲撃部隊の1つを強襲し、1人も逃さず鏖殺し尽くしました。


 護衛部隊にはまだ生き残りがおり、砲撃手の死体を足蹴にしている戦争屋に対して雄叫びをあげながら斬りかかっていましたが――戦争屋は気もそぞろといった様子でそれらの攻撃を軽くあしらいました。


『よしよし、これで敵の砲撃部隊は8割方潰したはずだよー……!』


『ん~』


『なに、どうしたの戦争屋?』


 戦果を喜んでいた機屋は戦争屋の気のない返事を聞き、問いかけました。


『しっかりして、まだ戦闘は終わってないよ。さっきみたいに子供と遊ぶのはもう無しにしてね』


『そうだね、まだ戦闘が終わってない。……敵はまだ完全撤退の気配はない』


 バッカス陣営は未だに抗っていました。


 戦闘屋は襲いかかってきた冒険者達を握りつぶして殺しつつ、その事を再認識しました。バッカス陣営がまだ諦めていないと再認識しました。


『でも、もうこっちが遥かに優勢――』


『それはどうかな? 敵はまだ勝ち筋があるからこそ抗ってるんじゃないかな』


『それは神器を強奪して逃げるという勝ち筋?』


 機屋は「そうなっても問題ないよ」と思いながらそう言いました。


 最終的に神に委ねるという方法は面白くないものと思っていましたが――。


『敵全体の損耗も激しい。ティアマト周辺をうろついて攻撃しかけてくる剣士2人組に関しては……完全には潰せてないけど、魔物で上手く牽制できている』


『パッと見、こっちが遥かに優勢なのに向こうが諦めていないって事は~……。うん、そうだね、そろそろ仕掛けてくる頃合いかな?』


『なにを?』


『機屋、運送屋にも指示して。ティアマト内部をよく調べた方がいいかもだよ~』


 監視カメラや魔物を使い、ティアマト内部をよく精査するべきだと戦争屋は言いました。機屋が「監視カメラや計器にはなんの異常もないよ」と返しましたが、戦争屋は『改めて精査すべきだ』と言いました。


 そして、墓石屋にも指示を飛ばしました。


『墓石屋もティアマト内部に戻って。そっちも戦場になりそうだから』


『よくわからんがわかった。直ぐに戻ろう』


『戦争屋、ちゃんと説明して! 何を警戒しろっていうの?』


『敵がティアマト内部に侵入している』


 戦争屋の答えを聞き、機屋は「ありえない」と言いました。


 彼女が頼りにしている観測器や計器の類は何の異常も示していませんでした。


 ですが、戦争屋は『奴らならそれもかいくぐってくるかも』と言いました。



『僕らはティアマト外部の戦闘に注力してたじゃん? 外部で暴れている部隊がで、彼らが暴れている隙に内部に侵入した部隊がいたら負けるよ~』


『そんな馬鹿な――』


『ここで何度かカンピドリオ士族やブロセリアンド士族、ナス士族とも戦ったけどさー。どいつも簡単に勝てる相手だった』


 彼らなら――有力士族の中でも武闘派の者達であれば、緊急時でももっと強い戦士を寄越せているはずだ、と戦争屋は言葉を続けました。


『そういう奴らの姿を殆どみない。いない事もないけど、煙幕で全体像が隠されたこの戦場にいるのは囮で、ティアマト内部に本命の別働隊がいるかも――』


「――――」


 観測器や計器を改めて調べ始めた機屋は、冷や汗を流していました。


 ティアマト内部を映し出している映像に欺瞞の魔術が仕掛けられていることに気づき――それを暴くと敵陣営の部隊の姿が映っている事に気づきました。


 敵陣営も――バッカス陣営も騒乱者に気づかれた事に気づき、欺瞞工作を止め、ティアマト内部の観測器や計器を破壊し始めました。


『運送屋! 侵入者がいる! 急いで魔物達をけしかけて!』


 機屋はどの程度の敵が侵入しているのか把握するのに務めようとしましたが、部屋の扉が切り開かれたのを見て、直ぐにその場から離れる事にしました。


 切り開かれた扉が蹴りつけられ、そこから白狼系獣人の女性が入ってきたのを見て「行って!」とゴーレムをけしかけました。


 けしかたけたものの、ゴーレムは一蹴されました。ですが、その瞬間に爆発してほんの一瞬、敵を足止めして機屋が隠し扉に滑り込む時間を稼いでいました。


「っ゛……」


 機屋は、敵の魔術により、いつの間にか凍傷にまで追い込まれていた身体を治癒魔術で癒やしつつ、戦場全体を把握していたモニタールームを爆破して放棄し、天気屋のいる部屋に向かいながら全員に警告しました。


『敵襲! 数は不明! 騎士もいる! いま接敵したけど逃亡ちゅ――』


 モニタールーム以外からも爆発音が聞こえてきたのを聞き、機屋は舌打ちしました。バッカス陣営が本格的に動き始めたのを察知しました。


『敵が破壊工作も始めてる! 戦争屋の読み通り、外部の奴らを囮にして中に入り込んで、こっちが感づいたのに気づいたら暴れはじめた! いま天気屋ちゃんの方に移動してるから、逃げる準備してて!!』


 機屋は必死に走りました。


 爆破したモニタールームの方向から異常なほどの冷気が迫ってくる事を感じ取りつつ、天気屋のいる部屋に向けて急ぎ向かい始めました。


『私、下手したら天気屋ちゃんのとこまで辿り着けないかも……。墓石屋! いまどこ!? 私より先に彼女を迎えに――』


『すまん、こちらも敵と遭遇した』


 墓石屋は機屋の声に答えつつ、2丁拳銃を構えました。


 そして、眼前の敵に問いかけました。



『貴様ら、いったいいつの間に。どこから侵入した!?』


「お前らが外に夢中になっているうちに、ティアマトのケツの穴から失礼させてもらった」


『不潔な……!!』


「ケツは冗談だが……。不潔とか高潔とかそういうの拘ってらんねーんだわ。悪いなぁ」


 墓石屋と対峙しているのは黒狼系獣人の冒険者でした。


 冒険者は――レムスさんは「すらり」と剣を抜き放ちつつ、交信網を使って仲間に『敵発見』と報告し、墓石屋にも言葉を続けました。


「気づくの遅かったな。もうティアマト内部には1万の戦士が侵入済みだぜ」


『嘘をつくな! そこまでの人数ならさすがにこちらも気づくわ!!』


「信じる信じないはそっちの自由さ。けど、こっちはそういうことも出来るんだぜ? ラインメタルって知ってるか?」


『……ラインメタルを使い、魂だけを輸送するという方法があるらしいな』


「そう。それを使ったかもしれんぜ、こっちはよ」


 実際には使っていませんが、レムスさんは時間稼ぎのために会話を続けました。


 バッカスはティアマト「外」には、最低限の精鋭しか配置していませんでした。


 エレインさんやランスロットさんといった主だった面々に関しては外で動いてもらっていましたが、増援としてやってきた中でも最精鋭の戦士達は――外の部隊に囮になってもらっているうちに――ティアマト内部への侵入を成功させていました。


 そして、ティアマトを「内側」から討ち滅ぼそうとしていました。


「ティアマトの自慢の図体も熱線ブレスも、体内の敵に対しては意味ねえだろ?」


 レムスさんがそう言ったその時、さらなる爆発音が聞こえてきました。


 騒乱者側が起こした者ではなく、ティアマト内部に侵入したバッカス陣営が仕掛けた爆弾の音でした。ティアマトは内部から肉を抉られ、その衝撃に突き動かされて跳ね上がりました。


「――――」


『――――』


 跳ね上がったティアマトの体内で冒険者レムス騒乱者アリストは同時に動きました。


 レムスさんは魔術で強化して針のように尖らせた髪を投じ、墓石屋は転移銃撃で敵の急所を撃ち抜きました。


 墓石屋の方は転移で攻撃とティアマト落下の衝撃を回避し、眉間と心臓を打ち抜かれたレムスさんは落下の衝撃をモロに受けましたが――。


「いってえなぁクソッ! けど、ティアマトの方はもっと痛えだろうなぁ!?」


『無意味だ。外部からの攻撃も内部からの攻撃も、ティアマトの巨体にとっては致命傷には成りえない。此奴の再生能力の前では貴様らの反抗など一切無意味――』


「ハッハー! そいつはどうかなぁ?」


 レムスさんは人狼の再生能力で万全の状態に戻りつつ、嘲笑いました。


「なんかちょっと焦げ臭いと思わねえか?」


『――貴様ら、まさか』


「なあなあ、ティアマトの再生能力って、火事を消火できるのか?」


 バッカス陣営が内部で使った爆弾は単なる爆弾ではありませんでした。


 爆発で火をつけていました。可燃性の高い焼夷剤を撒き散らし、ティアマトが再生しようと構わず燃え続ける火を提供する焼夷爆弾を使っていました。


 爆発の衝撃後も続く可燃の痛みに対し、さすがのティアマトは進行を止めました。その揺れる体内でレムスさんは笑いながら言葉を続けました。


「まあ、焼夷爆弾これも致命傷にはならねえよな。でも、痛えよなぁ? つれえよなぁ!? でも頑張ってやせ我慢大会しような!!?」


『貴様らも焼け死ぬぞ! 精鋭を決死隊に使うとは……!!』


「いやだって、死んでも生き返れるし? 別に問題なくね?」


『狂人共め――くたばれ』


 墓石屋は銃口をレムスさんに向け、転移銃撃を行いました。


 放たれた弾丸はレムスさんに――命中しませんでした。


 墓石屋の背後・・に迫っていたカンピドリオの士族戦士達の脳天を撃ち抜いていました。レムスさんが注意を引いているうちに背後に回り込んでいた士族戦士達の存在は墓石屋にバレており、転移銃撃で迎撃されました。


 しかし――。


「若、すみません! せっかく囮を買って出てくださっていたのに……!」


「いいっていいって、少しずつ手足をもぎ取ってやろうぜ~」


 レムスさんは仲間に笑顔を向けてそう言った後、敵にも笑顔を向けました。


 大きな狼口でニタリと笑いかけました。


「まあともかく、俺らはティアマト内部で好き勝手暴れまわらせてもらうぜ! 熱線とか気にせず、一方的に攻撃させてもらうからヨロシク!!」


『吾輩がそれを見逃してやると思うか?』


「思わねえよ。けど、お前、俺らに勝てると思ってんのか?」


『――――』


 墓石屋は周囲に敵が増えつつあるのを感じ取っていました。


 外と比べると「広い」とは言い難い場所を――ティアマト内部の通路内で、他方に獣臭い人狼達がワラワラとやってくるのを感じ取っていました。


「お前の転移銃撃は確かに脅威だ。でもそれは近接戦闘用の業じゃねえ」


『…………』


「ティアマト体内なら転移できる場所は限られる。閉所だと転移の有利点アドバンテージが殆どなくなりそうだけど、逃げずに頑張ってくれよな! ……ティアマトを捨てて逃げるなら俺らは好き放題やらせてもらうからよ」


『――御託は結構だ』


 墓石屋は腕を交差させながら銃を構え、静かに口を開きました。


『かかってこい。もてなしてやる』


「じゃあ、お言葉に甘えて――!!」


 2人の言葉を皮切りに、人狼達が一斉に動きました。


 凶暴な群狼カンピドリオに対し、魔弾の射手は孤独な奮戦を開始しました。



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