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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
九章:虐殺の引き金
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高空の愚連隊




「アタランテー、向こうはもう始まってるっぽいよ~? 交信で報告来た~」


「そうみたいね」


 ティアマトとバッカス陣営の戦いが行われている北方。


 そこにも超弩級竜種の上げる咆哮が届いていました。


 強風が吹き荒れる中、髪をバサバサとはためかせながら目をつぶってティアマトの咆哮を聞いていた獅子系獣人の女性は――アタランテさんは不敵な笑みを浮かべながら自分達の進行方向に視線を向けました。


 時折、地表に太陽が落ちてきたような眩い光が――ティアマトのブレスが大地を焼く光が彼女の瞳を輝かせました。


 ブレスによって業火に見舞われ、大火災が発生している人工山脈から立ち上る煙を見たアタランテさんは、戦闘中のバッカス陣営からの交信を聞いた仲間に声を返しました。


「こっちからも見えてる。……いやー、相当盛り上がってるみたいね~」


「そうみたい! いやー、楽しみ~――――って言いたいところだけど、間に合うかな、私たち~?  一番美味しいとこ持っていくはずが、大遅刻して返り討ちにあったらどーする?」


「うーん、それは困――おっとっと」


 アタランテさんと仲間達は強風と、急に逆さ(・・)になった足場の影響で一斉に「おっとっと」とよろめきましたが、魔術を使って自分の足を足場に貼り付け、事なきを得ました。


「ギャアアアアアアアアア!!」


「それは困るわ。それはさすがにダサ――」


「ギャアアアアアアアアーーーーッ!!」


「ちょっとパリス君、うるさい。落ち着きなさい?」


「大丈夫~?」


 足場が逆さになっても呑気な様子で会話をしていたアタランテさん達は――自分達の足元で足場に必死に張り付いているパリス少年に声をかけました。


 パリス少年は必死の形相で叫んでいましたが、アタランテさんはそれを見て苦笑しつつ、足場に手足を使って張り付いたパリス少年の脇腹を「うりうり~!」と足を使って軽くくすぐりました。


「ギェエエエエエエ! 死ぬーーーーッ!!」


「そんな慌てなくても大丈夫よ。死んでも首都で生き返るわ」


「オレ様はアンタらみたいにバンバン死ねるほど金もってないの!!」


「保険代ならレムス君が出してくれるっしょ~?」


「あー……そういえばその辺まで責任取ってくれるかは確認してなかったけど、まあ、レムスのツケにしておけばいいでしょ」


「いいでしょ~!」


「それ以前にオレは死にたくねえんだよワアアアアアーーーー!!」


 パリス少年は手を滑らせ、下方へと落ちて行こうとしました。


 が、落ちていったパリス少年の足を、アタランテさんが「むんず」と掴んでくれた事で事なきを得ました。


 下方へと回転していた足場が再び回転していく中、アタランテさんはパリス少年を彼が張り付いていた足場に戻ってあげました。


 パリス少年は震え上がり、足場には頼らずにアタランテさんの足にしがみつき始めたため、アタランテさんは「しょうがない子ねぇ」と言いながら彼の頭を撫で、自分達と同じように足場に魔術で張り付いているライラちゃんに苦笑いを向けました。


 その後、戦況に関する話へと戻っていきました。


「向こうは順調に戦えてないの?」


「半々ぐらい。別働隊は上手くやってるみたいだけど、砲撃部隊の方が大損害出てるんだって~。いま3割ぐらい損耗しちゃったみたい」


「ありゃー。ウチの士族戦士団も出張ってんのに、情けない」


「そりゃ主力は別に動いてるからね」


「あんまり言い訳にならんでしょ、それは。まあ、今回は急ぎで片付けなきゃいけない防衛戦だし、面倒くさいのはわかるけどさー」


「僕らが間に合わんかったらどうするよ?」


 アタランテさんに対し、仲間の冒険者が――自分達の「足場」に対して魔術を行使している冒険者が振り返り、そう問いかけてきました。


 その問いに対し、アタランテさんは肩をすくめながら答えました。


「テキトーに戦ったら逃げつつ、敗残部隊と合流して反攻作戦しましょうか」


「それだと僕らが怒られない? 遅刻してんだから」


「私達が遅刻した程度で負けるなら、私達が間に合ったところで負けてるでしょ。先行したレムスやユースフ達に『行けたら行くって伝えておいて~』って言ってるだけだから、向こうも私達は戦力に入れてないでしょ」


「それはどうかな~?」


 戦場との交信を担当していた冒険者の女性が「ふふん」と鼻を鳴らし、自分達の進む方角を指差しました。


 そこに雲がありました。一見、雲と見紛うものが流れてきました。


「結構期待されてるみたいだよん?」


 雲のように見えたものの正体は煙幕でした。


 ティアマト周辺に展開されているものと同種のもので――雲として偽装して展開し、アタランテさん達の姿を隠していきました。


 アタランテさんは仲間からもらった術式で煙幕内の視界を良好にしつつ、「私達にも融通効かすとか、よほど窮してるのね」と声を漏らしました。


「期待されてんのは良いことじゃ~ん。これでこっちも近づきやすくなったでしょ? これぐらいしてもらわないとブレスでドカ~ンされるかもだし」


「どっちにしろ近くまで行ったら隠れきれないでしょうけどねー」


「期待されてるって事は、上手くいったら勲功も期待できるかもな」


「いいねいいね。やったねパリス君~っ!」


 アタランテさんの足にしがみついているパリス少年――一応は作戦立案者である少年は――先輩冒険者達にバシバシと背中を叩かれ、「いたい、いたい」「おちる、しぬ」と呻きました。


「ただ期待してる分、『早く来いっ!!』って怒ってもいるみたい?」


「そりゃ私も早く辿り着いて暴れたいけど、こればっかりは私達が走ったところでどうにもならないんだから仕方ないでしょ?」


「だよね~?」


「まあでも、もうそろそろ私達も戦闘開始よ。パリス君、いつまでもお姉さんのフトモモ揉んでないで、自分の足で立って武器を手に取りなさい」


「オレもう下りる! 氷船のとこで待ってるって言ったのに!!」


「キミが始めた作戦でしょ。最後まで見届けなさい」


「始めたのはアンタらだろーーーーッ!!!?」


「コラコラ、あんまり叫んでると厄介な狙撃手に気づかれちゃうわよ~?」


 向こうは転移魔術使った狙撃手がいるんだってさ――と脅し文句をアタランテさんが吐いてきたので、パリス少年は涙目になりながら口をつぐみました。


 口をつぐみ、モゴモゴと呟きました。


「もうヤダぁ……首都に帰るぅ……」


「これが終わったらね。狙撃手は先行したレムスに『何とかしろ』『死ぬ気で止めろ』って言っておいたから大丈夫でしょ。たぶん」


「大丈夫じゃなかったらどうするの?」


 パリス少年はライラちゃんにすがりつきながら呟きました。


「ティアマトの熱線で撃たれたらどうすんの?」


『笑って死ぬ』


「長い冒険者人生、そういう日もあるわ」


「…………」


 パリス少年はうなだれ、いそいそと足場に「ぺたん」と張り付きました。


 どうしてこうなってしまったんだろうと思いつつ、自分達が向かっている戦場にいるはずの友人達を――セタンタ君達の事を想いました。




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