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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
九章:虐殺の引き金
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攻勢



「露と滅せよ――虹式カラド煌剣ボルグ


 放たれた斬撃は宙を飛び、ティアマトの頭部に命中しました。頭部の甲皮を切りながらティアマトの肉をえぐってみせました。


 その斬撃を放った人物は――エレインさんは、転移狙撃対策に張られた煙幕に乗じてティアマトに駆け寄りながら攻撃を続けました。


 ティアマト周辺に展開した魔物の群れも、煙幕の影響でエレインさん達の接近に気づくのが遅れ、足蹴にされながら突破を許してしまいました。


 マティーニに向かい猛進するティアマトの横合いから現れたエレインさんは飛びました。煙幕の上に出て、ティアマトの顔面に向けて飛びました。


「――――」


 その時、ティアマトも動いていました。


 側方から飛んでくる鬱陶しい斬撃が自分の巨体を引っ掻いてくるのを鬱陶しく感じたように身じろぎし、空中に飛んだエレインさんに向けて体当たりを仕掛けてきました。


 山が急にスライドしてきたような面積の体当たりを前にしてもなお、エレインさんは怯みませんでした。


 彼女を援護するために共に来ていた冒険者が魔術を行使しました。


 行使されたのは障壁魔術でした。ですが、所詮は人間の業。人を遥かに超えた竜種ティアマトの前ではガラスのように破壊されていく事になりました。


 ですが、エレインさんは難を逃れていました。


 ティアマトの体当たりで魔術の障壁が割られる寸前、障壁を足場にして天へと駆け上っていき、ティアマトの体当たりを回避してみせました。


「露と滅せよ――」


 体当たりを回避し、上方に展開された魔術の障壁を蹴って下方に飛びました。


 下方そこにあるティアマトの頭部に勢いよく飛び込み、剣を突き刺しました。


「虹式煌剣ッ!!」


 下方への突撃によりティアマトの頭部に剣を突き刺し、魔術を行使し、零距離から虹式煌剣を放ちました。


 今日の彼女の得物は双剣ではありませんでした。


 彼女の身の丈の2倍以上巨大な大剣でした。本来は巨人用の剣ですが、彼女が対大型魔物用に用いている巨剣です。それを使ってティアマトに攻撃を仕掛けていました。


 その剣を持ってしてなお、ティアマトの巨体には致命打を与える事ができませんでした。超弩級の竜種であるティアマトにとって、巨人用の剣による刺突など針の一刺し程度の傷にしかなりませんでしたが――。


「ふ、んッ……!!」


 エレインさんは巨剣をティアマトに刺したまま走り出しました。


 虹式煌剣による魔力の放流を推進装置ブースター代わりとし、ティアマトの頭部を縦断しながら「針の一差し」を「斬撃痕」にしてのけました。


「この辺でいいですかねっ……!」


 身を捩るティアマトから振り落とされないよう、巨剣をしっかり握って踏みとどまっていたエレインさんは――ティアマトの動きに合わせてさらに巨剣を深く突き刺し、連続して詠唱を唱えました。


 ティアマトの脳天で叫びました。


「虹式煌剣、虹式煌剣、虹式煌剣、虹式煌剣虹式煌剣虹式煌剣虹式煌剣ッ……! ハッ! 採掘作業を思い出しますね!? まだまだ行きますよッ! 虹式煌剣虹式煌剣虹式煌剣虹式煌剣虹式煌剣虹式煌剣虹式煌剣……ッ!!」


 杭打機のように虹式煌剣を放ち続け、ティアマトの頭蓋を砕いて「脳まで届け」というように攻撃を続けました。


『アリスト』


『わかっている……!!』


 好き放題にされるとマズイ、と判断した騒乱者達も対応に動きました。


 ティアマト内部から外部まで転移魔術で出てきた墓石屋は、抑揚をつけながら歌うように虹式煌剣を放ち続けているエレインさんに向け、二丁拳銃を向けながら転移銃撃を放ちました。


 回避不能の十連射。


 それはエレインさんの急所を貫き、赤い花を咲かせるはずでした。


「――――」


 ですが、エレインさんの後から来た冒険者に全て阻まれました。


 放たれた魔弾は、剣の一振りで掻き消えていきました。


 転移中で姿の見えないそれらに対し、解呪魔術付きの一撃が振るわれ、転移魔術も魔術で編まれた弾丸も砂ぼこりのように消えていきました。


『今のを迎撃するか……!』


「…………」


 遅すぎても早すぎても失敗していた迎撃を、冷や汗1つ流さずにやっておけた甲冑姿の冒険者は――ランスロットさんはエレインさんを庇うように立ちました。


 歌うように詠唱を唱え続けているエレインさんの声を聞きつつ、転移銃撃を放ってきた墓石屋に「何発撃っても無駄だ」と言う代わりに睨みつけました。


 その光景をカメラ越しに見ていた機屋はうめき声を漏らしました。


「アレ、迎撃できるの?」


『彼ならやってのけるさ。守りの技術に関しては師を凌ぐ男だからね』


 戦争屋はランスロットさんの力をそう評しつつ、『でもさすがにこれは無理だろう』といいながら手近な柱に掴まりました。


 片手で天気屋の身体を抱えつつ、機屋の方には『自分で何とかしてー』と言いながらティアマトの動きに備えました。


『墓石屋、ギリギリまで足止めよろしく』


『マジか貴様。吾輩も潰れたらどーする!?』


『転移魔術で帰っておいで。転移狙撃はランスロットに防がれるだろうけど、彼らが逃げる妨害にはなるからね』


 ティアマトが咆哮と共に動いていました。


 大きく身を捩り、頭部付近を軽く飛び上がらせ、空中でぐるりと回転し始めました。エレインさんとランスロットさんのいる場所を下方に向け――そのまま大地と自分ティアマトでサンドイッチにしようとしました。


 エレインさん達は一瞬、潰されないようにティアマトの腹側に逃げようとしましたが、墓石屋の転移狙撃に阻まれる事になりました。


「一度下りましょう」


「そうですね。また来ればいいですし」


 元騎士ランスロット元近衛騎士エレインはティアマトの身体を蹴り、ランスロットさんが展開する魔術の障壁を足場に急速に離脱していきました。


『チッ……!』


 舌打ちしながらそれを見送っていた墓石屋は、転移魔術を行使しました。


 自身の側面に転移門を開き――側方から飛んできたブロセリアンド士族の狙撃を転移門であらぬ方向へ飛ばしつつ、自身も転移門をくぐってその場から離脱しました。


 その一拍後、ティアマトの巨体が大地に激突しました。それにより、ティアマトだけが痛手を負う事になりました。


『おーい、ティアマトの体表に何か刺さっているのだが~?』


『杭か』


 大地に激突したティアマトの身体に無数の杭が刺さっていました。


 その杭は1つ1つが10メートルほどの長さの杭で――いくつかは刺さり損ねて折れていましたが――ティアマトの身体に深々と突き刺さっていました。


『こっちの動きを読んでバッカスの工作班が罠を起動したかな?』


 戦争屋の言う通り、バッカスの工作班が動いていました。


 彼らはティアマトが激突してくる直前に遠隔地から罠を起動し、地上に杭を出し、ティアマトの勢いを借りてそれを刺す事に成功していました。


 刺し込んだ杭の数は36本。


 それすらも致命傷にはなりませんでしたが――。


「戦争屋~、マズイ~。運送屋が怒ってる。杭が抜けないって」


『ありゃりゃ』


「返し付きの杭ですか。刺さったままでは再生も出来ませんね……」


 それは強力な再生能力を持つ魔物に対し、バッカス王国がよく用いる手段でした。


 単に傷つけるだけでは再生能力で傷が塞がる。ならば、塞がらないように杭を打ち込み、それで再生を阻めばいい。そういう意図で使われた杭でした。


『とりあえず我慢してもらおう。関節部にねじ込まれたわけではないし、数十、数百の杭が刺さるだけじゃあティアマトは死なないさ』


『双剣使い――もとい、巨剣使いのつけた傷は――』


「もう塞がったよ~」


 杭による傷は、杭で阻まれて再生していないものの、エレインさんが斬撃と刺突でつけた傷は既に塞がっていました。


 煙幕の中、ティアマトと並走していたエレインさんは不満げに息を吐きました。


「ウチのまな板もあのように再生すればいいのに……」


師匠エレインが力加減を調整すればいい話ですよ、それは」


「うるさいですね。露と滅せよ――虹式煌剣」


 弟子ランスロットの諌言を聞きつつ、エレインさんは斬撃を放ちました。それは再びティアマトの身体をえぐりましたが、零距離で放った時のような破壊には至りませんでした。


 ただ、ティアマトはその斬撃に反応して動いていました。


 その動きを観測魔術で捉えていたマーリンちゃんが、エレインさん達に対して忠告のための言葉を交信で飛ばしてきました。


『気をつけて! 撃ってくるよー!』


 ティアマトは――ティアマトを内部から操っている騒乱者はエレインさん達の存在を羽虫のように鬱陶しく感じつつ、反撃を行いました。


 鎌首をもたげたティアマトは――先ほどの斬撃が飛んできた場所を頼りにしつつ――口を開き、熱線を放ちました。


 再び無理をして放たれた熱線でしたが、まともに当たればエレインさん達を殺すだけの威力は備えていました。


 マーリンちゃんの誘導に従い逃げていたエレインさん達は、ギリギリのところで逃げ損ね、熱線に飲まれていましたが――。


『やったか!? ぬおっ……!』


 熱線が大地を焼いた後も、変わらず虹式煌剣が飛んできました。


 エレインさんは斬撃を放った後、「よくできました」と弟子を褒めました。


「いい感じです。その調子で熱線を防ぎ続けてください」


「そう何度もは防げません」


 ランスロットさんは防御用の魔術を解きつつ、熱線で焼け焦げた大地を、師と共に疾走し続けました。


「先ほどのは端っこがかすった程度なので防げましたし、第一射より格段に弱いものだったので私でも何とかなりましたが、直撃は面倒見きれませんよ」


「まあとにかく防御は任せましたよ」


「承知」


 師の言葉に応じ、ランスロットさんは剣を振るいました。


 熱線により、局所的に煙幕が消し飛ばされた事に乗じて飛んできた転移狙撃を再び迎撃しつつ、師の前へと出ていきました。


 そして、自分達に向かって襲いかかってくる魔物の群れを――熱線に飲まれず生き残っていたティアマト配下の魔物達を、身体強化魔術と防護の魔術で強引に跳ね飛ばしながら師のための道を作り始めました。


 エレインさんはその後ろをゆうゆうと走りつつ、巨剣を振るって魔物達を次々と血祭りにあげながら弟子と共に再び煙幕の中に消えていきました。


『あの男も規格外の戦士だなぁ。エルスほどではないが……』


『墓石屋、そろそろ戻っておいで。次の攻撃が来るよ』


 戦争屋の言葉は事実でした。


 転移魔術を使い、ティアマト体内に逃れた墓石屋が立っていた場所で――ティアマト頭部周辺で、次々と爆発が発生しました。


 着弾した砲弾が弾け、ティアマト頭部周辺の広範囲が弾けました。


「敵の砲撃が始まったの?」


『そのようだね』


 抱きかかえていた天気屋を下ろしつつ、戦争屋は肯定の言葉を吐きました。


 ティアマトの外を写すモニターには、煙幕の中から砲弾が雨あられと飛んでくる様子が映っていました。


 砲弾を放った主達の姿は煙幕によって隠されていましたが、それでもおおよその位置はわかっているため、天気屋が「熱線で反撃できないの?」と言いました。


『いま撃ったばかりだ。厳しいねぇ』


「あんまり連続で撃ち続けると、さすがのティアマトも保たないからねー。そもそもブレスで自分の体内が傷つくのを再生能力で無理やり我慢してるし」


 機屋は「それでもまったく反撃できないわけじゃないよー」と言いつつ、ティアマトを操る運送屋なかまに指示を飛ばしました。


 運送屋はそれに応じ、魔物達を動かしました。


 ティアマトから見ると大地を埋め尽くす蟻のような――人の視点では自分達より巨大な軍勢が、バッカス陣営の砲撃地点へと殺到していきました。


 魔物達はブレスによって焼けた森だろうが恐れず突っ込んでいき、燃える倒木を踏み砕きながら進んでいきました。


 いち早く砲撃地点に辿り着こうとしていたのは煙幕の上を飛行していた魔物達でしたが――それらはティアマトから魔物の軍勢に標的を変更した砲撃手達によって撃ち落とされていきました。


 地を征く魔物達もバッカス陣営の罠に阻まれ、息絶えていきました。


 だが、それでも――。


「多少の損耗は問題ないねー」


 騒乱者達は「この一戦だけ持てばいい」という態度でした。


 魔物達に魔物達なかまの死体を踏み越えさせ、強引にトラップ地帯を突破させていきました。数で圧倒しているがゆえに出来る荒業を使いました。


 突撃開始から1分とかからずバッカスの砲撃地点にたどり着きましたが――。


『もぬけの殻だねぇ』


「ちぇ~っ」


 最初の魔物が辿り着いた時にはもう、バッカスの砲撃手達は退いていました。


 置き土産として残されていた爆弾が破裂し、魔物達に被害をもたらす中、戦争屋は「とにかく追い回しておけばいいよ」と言いました。


『こちらの軍勢だけではなく、ブレスを警戒させて1つところに絶対にとどまらせない。砲撃に集中させず、攻撃機会を奪い続けよう』


 数に物を言わせて人工山脈内に魔物を展開していきました。


「こっちの方が損耗激しいけど――」


『いいよいいよ、全然いいよ。こいつら()ここで使い切っていい』


 砲撃に適した場所に先んじて軍勢を送り込んで邪魔をし、山の中を逃げるバッカス陣営を数の暴力で追い回し、少しずつ敵を削っていきました。


 バッカス側も一方的に削られるだけではなく、次々と反撃の手を打ちました。


 煙幕に隠れながらティアマトと並走しているエレインさんの斬撃や、逃げながらもティアマト頭部付近への砲撃を止めない砲撃部隊が超弩級竜種にダメージを蓄積させていきました。


 ですが、それらでついた傷はティアマトの再生能力で瞬時に塞がれていきました。


『ええいっ! 再生するゆえ効かんが一方的に撃たれると面倒だな!?』


 巨体ゆえに簡単に砲撃が命中するティアマト内部で墓石屋は歯噛みしました。


 敵が煙幕に紛れ、ずる賢く立ち回っている姿に「鬱陶しい」という感情を抱きつつ、戦争屋に対して言いました。


『ティアマト本体で敵を追い回すべきではないのか!?』


『それじゃあ敵の思うつぼなんだよ』


 戦争屋はぼやきつつ、この戦争とは別所の光景を写したモニターに視線を写しました。そこにはマティーニに向かっているバッカス陣営の姿がありました。


 バッカス王国側のさらなる増援です。今回の戦いにあまり気乗りいないものの、政府に尻を叩かれてやってきた一団でした。


『時間をかけすぎると敵の増援が来るし、その辺にいる敵を減らせたところで……時間をかけすぎるとティアマトの身体にダメージが蓄積しすぎる』


『致命打を受けない限り問題なかろう』


 ティアマトの再生能力でゴリ押してしまえばいい。


 墓石屋はそう思って発言しましたが、戦争屋は首を振りました。


『再生能力頼りだと負ける。完治しても傷を負った過去じじつは消えないからね』


 それこそが致命傷になる、と思いながら戦争屋はボヤきました。


 彼がこの戦場で最も厄介だと思っている相手を何とか潰す方法について考えを巡らせましたが、護衛付きなのでそう簡単にはいかないと判断しました。


『……まあ、コイツはこの戦いが終わるまで保てばいいからねぇ』


 戦争屋はそう呟きつつ、ティアマト体内の壁を撫でながら言葉を続けました。


『とにかく前進だ。時間は向こうの味方で、こっちの敵だからね』


 戦争屋の命により、ティアマト本体は引き続き前進を続けました。


 人工山脈を超え、マティーニに辿り着くために進み続けました。さらに大量の魔物を放ちつつ、進み続けました。



「うー……釣れてくれないかぁ……」


 前進を続けるティアマトの姿を見て、マーリンちゃんは表情を歪めました。


 こちらの攻撃を先に黙らせるため、敵が前進より攻撃を優先してくる事を期待していましたが、そう上手くはいかない事実を見て表情を歪めました。


「致命打も全然与えられてない……。可能な限り火砲を揃えたけど……」


 猫系獣人の少女は表情を歪めつつ、バッカス陣営の与えたダメージについて分析しました。ティアマトの全体図に斬撃や砲撃が命中した箇所をプロットしながら分析をしました。


 その傷がどれもこれも敵の再生能力で既に塞がっている事実を再確認し、溜息をつきながら観測や交信網構築の仕事を続けていきました。


「一撃で仕留めたいけど無理だな~……これは……」


 敵があまりにも巨大すぎました。


 大型の魔物だろうと一刀で屠ってみせるエレインさんの巨剣ですら、ティアマトにとってはナイフ未満の刃物に過ぎませんでした。


 魔物に追い回されながらも必死に続けられている砲撃すら、ティアマトにとってはちょっとした火傷に過ぎませんでした。


 最も効果を上げているのは大型杭を使った罠でした。杭は未だに敵の巨体に食らいつき、敵が再生能力で塞ぐのを強引に阻んでいました。


アレは通じ続けている。敵の再生能力も無敵じゃない」


 そう言いながら作業を続けつつ、少女は「けど」と思いました。


 敵の傷跡を物理的に塞ぐ方法は、そう簡単に使える手段ではありませんでした。敵はそう何度も罠にかかってくれませんでした。


 それでも攻撃を続けるしかない。


 超弩級竜種の咆哮が山谷を反響し、人々の心根を震わせ続けていました。自分達より遥かな巨大な化物に対する恐怖心を掘り起こされていました。


 それでも攻撃を続けるしかない。


 マーリンちゃんも、他のバッカスの戦士達も震える心を押さえつけ、奮い立ちながら自分達が与えられた役目を淡々とこなし続けました。


 1人1人は弱くとも、それらを束ね、敵にひたすらダメージを蓄積させていくことさえできれば打ち勝つ事が出来ると信じて戦い続けました。


「マーリンちゃん、私達のところにも魔物が迫ってる」


「移動開始だ。行くぞ」


「了解」


 バッカス陣営を追い回している魔物の一団の一部が討伐隊の裏方達に迫りつつありました。正確に追ってきているわけではないので、煙幕に紛れる事で簡単に撒く事ができました。


「……煙幕はちゃんと機能している……」


 突貫工事で作られた地下通路に密かに逃げ込みつつ、マーリンちゃんは呟きました。敵の転移狙撃が十分には機能していない事で、全てが敵にとって優位に進んでいるわけではないと考えました。


 マーリンちゃんは地下通路を通って新たな観測場所に移動し、バッカス陣営の攻撃の着弾地点を記録しつつ、ティアマトの弱点を何とか探そうとしていました。


 前進を続けるティアマトの背中。


 そこに開いた穴から何かが飛び出していく光景を見つけました。


『ティアマト体内から飛翔体の発進を確認。これは……ゴーレム……?』


 マーリンちゃんの見つけたそれは飛翔する人型機械ロボットでした。


 機屋がヘリワードの面々に見せつけていた人型機械でした。


 それらは背中や脚部に取り付けられた推進装置スラスターを吹かし、ティアマト体内から飛びたって急降下していき、煙幕の中に飛び込んでいきました。


 その様子を見守っていた機屋は無表情に呟きました。



「さあ行っておいで。


 他人ヘリワードの名前じゃなくて、


 君達ヘリワード自身の名を刻みつけに行っておいで」





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