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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
九章:虐殺の引き金
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戦争屋の正体



「私に何か用事があるのか?」


「うん。ちょっと、お話できんかなぁ……?」


 竜系獣人のキウィログちゃんは2メートルの大きな身体を屈め、申し訳無さそうな顔をしつつ両手をあわせて――マーリンちゃんとセタンタ君の方をチラリと見ました。


 ちょっとこの場から離れてほしそうに視線を送ってきました。


 セタンタ君はそれに気づかないフリをして槍の手入れをしながら居座ろうとしましたが、マーリンちゃんは「セタンタ、ちょっと来て~」と言ってセタンタ君の首根っこを掴んで砂浜を引きずっていきました。


 それを見てホッとした表情を見せたキウィログちゃんは、「ほら、アイアース様」と言いつつ、自分の背に隠れていたアイアースちゃんに前に出るよう促しました。


 促され、おずおずと出てきたアイアースちゃんは、ポツポツと小声でガラハッド君に語りかけていきました。


 少し離れたところで聞き耳を立て始めたセタンタ君とマーリンちゃんは、アイアースちゃんの話がよくない類のものでは無いようなので、聞き耳を立てるのをやめてもう少し距離を取りました。


 セタンタ君の方は少し心配そうにしていましたが、マーリンちゃんに促され、一緒に距離を取りました。


「なんだ、アイツ……」


「まあまあ。喧嘩する内容じゃないみたいなんだからさ」


 アイアースちゃんに対して「アイツ」と言ったセタンタ君に対し、マーリンちゃんは肩をぽふぽふと叩きながら「セタンタは槍の手入れでもしてな~?」と勧めました。


 セタンタ君は嘆息しつつ、槍を手入れしていましたが……マーリンちゃんに対して話しかけていきました。2人きりじゃないと話しづらかった話を。


「さっきの戦闘、あの墓石屋って奴は首都地下で戦った奴と同じ奴かもしれねえんだけどさ……」


「うん?」


「もう1人の方も知ってるかもしれねえ」


「え? ホント?」


 セタンタ君の言葉を聞いたマーリンちゃんは前のめりになり、セタンタ君に詳細を話す事を求めました。


 少年は「確信があるってわけじゃねえんだけど」と前置きをしつつ、少女に対して語り始めました。


「もう1人の方は、確か、戦争屋って呼ばれてんだっけ?」


「うん。捕虜からの情報ならそう。まあ本名じゃないだろうけど」


「あの戦争屋って奴、俺の名前を知ってたんだ」


 初対面だと思っていたのに名前で呼ばれた。


 その事から疑問を抱いたセタンタ君は、どうして自分の名前が知られていたかを考えていました。


 神経由で騒乱者が自分の情報を得ていた可能性も考えましたが、エレインさんほどの実力者ならともかく、自分の事を注目するのはおかしいと考え、「そういう話ではない」と結論づけていました。


 戦争屋の正体は、自分セタンタの事を知っている知人だと考えました。


「あの口調と立ち回り、エイのオッサンに似てたんだよ」


「カラティンの?」


「そう。小耳に挟んだんだが、いま行方がわかってないみたいなんだよな」


 セタンタ君は教導隊に参加する前に聞いた話を思い出しつつ、そう言いました。


 マーリンちゃんも同じ話を知っていたため――エルスさんがエイさんに対して疑いを持っていたこともあって――表情を固くしてセタンタ君の話に耳を傾けました。


「でも、エイのオッサンだとしたら、エレインさんの魔眼が効いてないのが変なんだよな。あの人、バッカス建国前から生きてる歴戦の戦士だし、古傷なんていくらでもあるしさ。だからさすがに別人だと思――」


「魔眼が効かないのは、身体全部が機械になってるって説があるんだ」


「…………」


「だから、セタンタの推測は間違ってないかも……」


 知人が騒乱者かもしれないという推測など、外れていてほしいと思っていたセタンタ君は曖昧な表情を浮かべ、目を伏せました。


 マーリンちゃんも杞憂であってほしいと思っていた話なので、セタンタ君と同じような表情を浮かべましたが、直ぐに立て直してセタンタ君に言いました。


「これ、大事な事だから師匠達に相談した方がいいよ」


「いや、でも、なぁ……。エイのオッサンが騒乱者なんかになってたとしたら、俺はフィンになんて言ったら……」


 つい先日会ったばかりの赤蜜園の後輩の少女を――エイさんの事を慕っている少女の事を思い浮かべ、セタンタ君は苦い表情を浮かべました。


 マーリンちゃんは「セタンタだけが抱えるべき事じゃないよ」と言いながら彼の背を軽く叩きつつ、言葉をかけました。


「まだ確定したわけじゃないけど、もし本当だったらかなり重要な話だから……この話はここだけの秘密にするのはやめて、ちゃんと言わなきゃダメだよ」


「……そうだな。うん……お前の言う通りだ」


「師匠達にはボクの方から言っておくよ。それでもいい?」


「止めても言うんだろ? さすがに」


「セタンタは止めないでしょ。皆の命にも関わる話だもん」


 まっすぐに見つめてくるマーリンちゃんの視線を正面から受け、セタンタ君は深々と溜息をつきました。


 そして「頼む」と言って、他の人への説明はマーリンちゃんに任せました。


 マーリンちゃんは交信魔術を使い、手早くその事をエルスさん達に伝えました。エルスさん達は――確定した情報ではないとはいえ――セタンタ君の所感を共有しました。



「エイのオッサンが騒乱者になるとか、無いと思うんだよな」


 マーリンちゃんが交信で情報共有をしている間、俯いて黙っていたセタンタ君はマーリンちゃんが交信を終えたのを見て、そう言いました。


「マーリンだって知ってるだろ? あの人、神に弱みを握られたりなんかしないはずだ。脅迫されても笑って突っぱねるような爺だもん」


「うん、脅迫されるような弱みは無いかもね。けど、バッカス王国建国前から……西方諸国が権勢を振るっていた時代を知っている当事者でもあるじゃん」


「……あぁ……そっか。そういやそっかぁ……」


「弱みはなくても、例えば……西方諸国に対して恨みの感情を持っている可能性もゼロではないんじゃない? こういう話、あんまりしたくないけど……」


「それはあるかもしれねえけど、だけど――」


 セタンタ君は孤児院時代、稽古をつけてくれていた1人であるエイさんの事を思い出しつつ、ゆっくりと口を開きました。


「あの人はそういう恨みつらみとは無縁の人の気がしたんだけどな……。西方諸国から逃げてきた俺に対しても普通に接してくれたし。訓練でボコボコにされる事は結構あったけど、それは他の奴らだって一緒だしさ」


「……セタンタは討伐隊に参加しない方がよくない?」


 知人が敵として立ちはだかる可能性が浮上してきた事もあり、マーリンちゃんは改めてそう言いました。少し遠慮がちに。


 セタンタ君はその言葉にはしばしの沈黙を返しましたが――。


「いや、行くよ」


 そう言いました。


 やる気に満ちている友人が――ガラハッド君が自分達の方に歩いてくるのを見つつ、この話に関しては打ち切ってそう言いました。


 ガラハッド君の方はセタンタ君達が妙な雰囲気をかもしだいている事もあり、「何の話をしていたんだ?」と聞きましたが、セタンタ君達にごまかされ、奇妙に思いつつも深堀りはしませんでした。


「お前の方はもういいのか? ガラハッド」


「女の子2人に言い寄られてたじゃ~ん」


「い、言い寄られてはいない! 真面目な話をしていただけだ」


 話を逸らすために茶化し始めた2人に対し、ガラハッド君はちょっとあたふたしながらも何の話をしていたか語り始めました。


「要約すると、自分の分も頼むと言われていたんだ。アイアースに」


「「へぇ?」」


 アイアースちゃんはティアマト討伐隊には不参加、という事になっていました。


 本人は参加を希望したのですが……彼女の実力は今回の作戦には不足していると判断され、参加を断られていました。


 アイアースちゃんはその事に憤慨し、自分より下と見下していたガラハッド君は討伐隊に参加する事実に怒り狂いそうになったそうですが――。


「認める、と言っていた。負けているのは今の自分の方だ、と」


 ガラハッド君への認識を改めつつ、先ほどの戦闘でかばわれた事を改めて感謝しつつ、「ビシッ!」と指を突きつけられて別の言葉を吐かれました。


 ガラハッド君はその時の事を思い出し、笑いつつ、言いました。


「いまは負けているけど、負けないから、ティアマトなんかに負けずに生きて帰ってきて、教導遠征の続きで勝負だーって言われたんだ」


「へぇ~……。ガラハッドはなんて返したの?」


「望むところだ、と言ってやった」


 ガラハッド君は快い気分で笑いつつ、友人2人の肩をバンバン叩きました。


「まあそんなこんなで私は生きて帰らねばならん事情が増えた! マーリンもセタンタも生きてここに戻ってきて、皆で教導遠征の続きをしよう!」


「痛い痛い。骨が折れる」


「暑苦しいな、コイツ……」


「照れるな照れるな!」


 セタンタ君達が沈んだ気分でいたことはつゆ知らず、笑みを浮かべたガラハッド君は2人の肩を抱いて叫びました。


「私達の教導遠征はまだ始まったばかりだ!」


「そういう暑苦しい意気込み言うのやめた方がいいよぅ」


「恥ずかしいし、物語だとこの後死ぬ奴が言う言葉だな」


「というかそもそも教導遠征は大分締めくくりに入りつつあったじゃん。ティアマトの所為で中断する事になったけどさ」


「うるさい! 照れるな! 生きて帰るぞ!」


 元気よく叫び始めたガラハッド君の様子を聞き、「なんだなんだ」と言いながらやってきたティベリウス君やアッキー君は同調して叫び始め、他の教導隊参加者の一部も3人につられて叫び始めました。


 直ぐに大人の人達に「うるさい」「作戦行動中だぞ」と怒られる事になりましたが、にぎやかなガラハッド君の振る舞いを見て、セタンタ君とマーリンちゃんは苦笑しながらささくれだった心を少しだけ癒やしてもらいました。




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