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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
八章:剣戟の果てに
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決着



 巻き技が来る。


 剣士ランスロットはそれを読んでいました。


 少年が剣を手に、力んだところで読んでいました。


 それは必殺に繋ぐための布石ながら、絶対成功の一手ではない。


 まだ、キミが扱えるほどのものではない――剣士はそう思いました。


 思いつつ、少年の意図通りにあえて巻き技にハマりつつ――完全にはかからず、逆に少年の剣を巻き技で跳ね上げるべく力を抜き、備えました。


 剣士は巻き技を読んでいました。


 しかし、には(・・)読み切れていませんでした。



「――――?」


 やり取りとしては、ほんの一瞬。


 その刹那で剣士は僅かなズレを知覚しました。


 剣が重い。


 自分が握っている剣が、僅かに重い。


 反応が、遅れる――?


 両者の間で渦巻くように動く二つの剣。


 そこに「重さ」を感じ、剣士は咄嗟に退こうとしました。予定を変更し、一時距離を取ろうとして――逃げ遅れました。


 剣を握ったままでいたために逃げ遅れていました。


 相手の剣で、剣をまれていたがために(・・・・・・・・・)



「…………!」


 剣士が退き損なったその時。


 少年は相手の剣先を片手で掴んでいました。がっちりと、魔術も使い。


 いつもの熟練剣士なら振りほどける程度の力。


 されど、今の彼は魔術が使えない。


 いつもの熟練剣士なら、観測魔術で気づけてしまう程度の小細工。小細工無しなら、少年が剣先を掴む前に剣士は退くなり打ち付けていました。


 その「いつも」を崩したのは魔術。


 少年の使ったの魔術でした。



「「かかった!!」」


 パリス少年とセタンタ君が同時に叫ぶ中。


 熟練剣士・ランスロットは相手が何をしたのか理解しました。


 巻き技は偽装フェイク


 狙いは両者の「剣と剣を合わせる」こと。


 双方、剣の腹を合わせたところで少年は魔刃の魔術を起動していました。


 粘着質な魔刃で剣と剣をし、相手の剣を無理やり留め、その一瞬の隙に熟練剣士の剣を片手で無理やり掴みにいったのです。


 ガラハッドは信頼していました。


 自分が繰り出す巻き技は、父親にとって初見のもの。


 されど、それを読み切ったうえで――読んだつもりにさせて――剣と剣を合わせるという状況を作り出し、そこで一気に魔刃による絡め取りを敢行しました。



「貴方は強い」


「…………!」


「僕のりに(・・)、強かった……!」


 少年は片手で相手の剣を封じつつ、開いた片手を突き出していきました。


 剣はまだ接着したまま。


 ゆえに、突き出したその手は空手からっぽ


 盾は先んじて投げ、捨てていました。


 空っぽの手を相手に向けて突き出していきました。


 その手に白く長い――光の魔刃やいばを生成しながら、突き出しました。


 それは殺傷能力など存在しない、硝子ガラスの刃。


 子供柔肌すら貫けない「ただ剣の形をしているだけの魔刃」でした。


 しかし、今回の勝負は頭か胴体に一撃入れれば勝利。


 少年はその勝利条件を見据え、付け焼き刃を突き出しました。



「「行け!!」」


「やっちゃえ!」


「「決めろ!!」」


「「…………!」」


 少年少女達が叫び、驚く中。


 少年剣士の突き出した魔刃は、吸い込まれるように相手の胴体に――。



「届け……!!」


「――――」


























 突き出された魔刃が砕けていました。


 地面に落ちた硝子がらすの如く、儚く砕けていました。



「――――」


「――――」



 その刃は、熟練剣士に届きました。


 確かに届きました。


 届き、その身体に当たった事で砕けていました。



「く――――」


「――――おしい」


「くそっ!!」



 少年がそう叫んだ次の瞬間。


 剣士のけんが少年のアゴを下から打ち抜き、身体を持ち上げていました。



 魔刃つけやきやいばは確かに、相手の身体に届いていました。


 胴体まであと、親指一本分の長さでした。


 その位置で、父親の手のひらが間一髪で間に合い、止められていました。


 手のひらによる防御。


 それは身体に当たっていようとも、有効打とはならないルール。



「――――」


「本当に、惜しかった」



 父は息子を純粋に称賛しました。


 息子が勝ち筋を見据え、ここまで戦ってきた事を褒めました。


 乱打戦は単に自分の体力を削るだけのものでは無かった。


 自分の剣に食らいつき、目を慣らす目的もあった事を知りました。


 知り、驚き、手管に絡め取られ――その上で凌駕しました。


 積み上げられた少年の工夫。


 それを、積み上げられた年月ぎじゅつで凌駕したのです。



「キミの刃は届いていた」


「――――」


「硝子の刃ではなく――真の魔刃であれば――私の手を貫き、届いていた」


「――――」



 少年は声なく倒れかけ、踏みとどまりました。


 剣を落とし、頭を揺らされながらも意識を繋ぎ止めていました。


 そして、叫んでいました。



「まだ――」


「そうだな」


「まだ、まだッ……!



 まだ試合は終わっていませんでした。


 時間制限が残り少ないものの、まだ終わっていませんでした。


 少年はもう何の策も持ち合わせていませんでした。



 それでもまだ立っている。


 まだ戦っていたい。


 まだ、この人と語り合い、教わり――勝ちたい。


 そんな想いを胸に、最後の最後まで立ち向かっていきました。



 一度は希望が砕かれ、シンと静まっていた友人達も声を出していました。


 少年が諦めず、立ち向かっていく姿に魅せられ、再び声を出し始めました。



「まだまだああああああぁぁぁぁぁ!!」



 少年剣士は敗北を喫する事になりました。


 最後の最後に喉を貫くように打たれ、気絶する事になりました。


 倒れゆく少年の胸中にあるのは「悔しさ」でした。


 次はぜったい、勝ってみせる。


 そう誓いながら、意識を手放しました。





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