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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
八章:剣戟の果てに
254/379

無様



「……ガラハッド、まだ出てこないか」


「だ、大丈夫かなぁ……」


「さすがにそろそろ出てくるとは思うけど……」


 ヴィンヤーズに寄港し、二日目。訪れた御前試合当日。


 参加者が一人ずつ試合の場へと出ていき、国王や士族長、そして家族らに見守られながら戦い始める中、ガラハッド君の姿はまだ見えていませんでした。


 朝、セタンタ君とマーリンちゃんが部屋を訪れた時には「先に行っててくれ」と言い、そのまま現在も船から出てきているのかも曖昧な状況。


 自分が試合に参加するわけでもないのにオロオロと心配していたパリス少年が「様子みてくる」と試合観戦の場から離れ、ライラちゃんもトコトコ歩いてそれについていきました。


 マーリンちゃんもセタンタ君から離れ、ついていく事にしました。


「ボクも見てくるよ。探すの得意だし~」


「俺も行こうかな……」


「セタンタは試合に向けて集中しときなよ。ボクは別に勝つつもりないけど」


「お前、堂々とそういう事を」


「ボクは最初からやる気ない宣言してるけど、セタンタはこの機会に本気で一戦挑もうとしてるんだし、そのための集中がここで削がれたらガラハッドが責任感じちゃうかもでしょ?」


「む……」


「いいから、任せといて」


 そう言い、マーリンちゃんもパリス少年の後をついていきました。


 セタンタ君は集中しろと言われたものの、もやもやとしたものを抱えたまま、他の教導隊参加者達が試合に挑む様子を見つめていきました。


 セタンタ君達以外にもガラハッド君の動向を心配している子もいましたが、何があったのかを知る者は殆どおらず、皆、観戦の場やその外で自分が挑む試合の準備を整えていました。


 その中にはメドさんとキウィログちゃんの姿もあり、二人はいま、試合開始となった一戦を目をそらさずに見つめていました。


 メドさんの方はどっしりと腰を据え、腕組みをしたまま。


 キウィログちゃんの方は心配そうに試合場を見ていました。


 二人の視線の先にいたのは羊系獣人のアイアースちゃん。


 大盾と槍を手に緊張した様子で佇んでおり、チラチラと会場の一角を――観戦しにきたタルタロス士族関係者の席の様子を見ていました。


 それから試合が始まったものの、結果は散々なもの。


 これといって良いところもなく、彼女が指名した教官が少し気を利かせて少しだけ粘らせてあげて、それでも反撃らしい反撃も出来ず負けていきました。


 気もそぞろで無ければもう少し善戦出来たかもしれませんが、既に試合は終了。アピールらしいアピールも出来ず、固い表情で試合後の礼をしていました。


 そんなアイアースちゃんに対し、追い打ちをかけるような声がいくつか響きました。それはタルタロス士族の観戦席の方から聞こえたものでした。



「まったく……士族の面汚しとしか言いようのない試合でしたな」


「無様にもほどがある」


「次代を担う若者がアレでは、サラミース武会には何の期待も持てませんな」


 その声が届いたのか、羊系獣人の少女はビクリと肩を揺らしました。


 恐る恐る自士族上層部の観戦者達の方を見ようとしたものの、そのままぎくしゃくとした動きで会場を後にしていきました。


 出ていこうとしたところで、不満げに溜息をついた士族長の声も聞きました。その士族長の声は傍らにいた巨人種の男性へと向けたものでした。


「テラモーン」


「はっ……」


「アレは本当に貴様の娘か? 父親の力を、何一つ引き継いでいないように見えるぞ。貴様まさか、妻に不貞を働かれたのではないだろうなぁ?」


 嘲りも交じる言葉でした。


 それを聞いてしまった少女は、青ざめながらも走って会場を後にしました。


 キウィログちゃんはその様子を見て、オロオロしながらもアイアースちゃんの後を追おうとしましたが――メドさんに止められる事になりました。


「キウィは次、試合だろ。やめとけ」


「でも……」


「俺が様子だけは見てくる。何かやらかそうとしてたら、止めるさ」


 メドさんはそう言い、ゆっくりとアイアースちゃんの後を追いました。


 彼女はこうなる事が半ば予想がついていました。


 アイアースちゃんが教導隊に参加出来たのは、タルタロス士族内の政争が発端。極めて優秀とは言い難い彼女が試合で「無様」を晒すのは既定路線。


 そうならないよう、もっと周りにも訓練にも真摯にやれとメドさんの方でもそれとなく言っていたものの――既定路線は変えられないままでした。



「なんて言えばいいのかね……」


 かけるべき言葉に惑いつつ、アイアースちゃんの後を追っていきました。


 追っていき、自分以外に彼女の事を追っている人の姿に気づきました。




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