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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
八章:剣戟の果てに
251/379

父と母



「母さ――」


「…………」


「…………」


 ガラハッド君がお母さんを見つけた時、お母さんは一人ではありませんでした。


 ランスロットさんと対峙していました。


 彼は戸惑ったような――それでいて覚悟していたような表情で立っていました。


 その傍にはガラハッド君のお母さんが来る前にランスロットさんと会話をしつつ、彼を船外に連れ出していた教導隊長の姿もありましたが……そちらは直ぐにその場を去っていきました。


「…………」


 ガラハッド君は二人が黙って対峙している様子を見て、思わず、歩幅を緩めました。お母さんが唇を軽く噛み、ランスロットさんを睨みつけている光景を見て――微かな恐れを抱き――思わず歩幅を緩めてしまいました。


「……貴方さえ、いなければ」


「……すまない」


「まさか、貴方の方からガラハッドに話しかけていってたりは――」


「それは、無い。今回、彼が教導隊にいたのは……本当に、私は知らなかったんだ……。後から、合流して……。教官としての仕事はしていたが、極力、関わらないようにしていて……その……信じて、ほしい」


「貴方の……よりにもよって、貴方の言う事を?」


「…………」


「……わかってる。わかってます。私には、本当は文句を言う権利が無いことを」


 ランスロットさんは青ざめていました。


 青ざめつつもガラハッド君のお母さんに視線を向けていました。


 ガラハッド君のお母さんはランスロットさんを睨みつつ、握りしめた拳を震わせつつ――どこか泣いてしまいそうな雰囲気で佇んでいました。


「わかっている。キミとの約束は守るようにしている。だから――」


「…………」


「せめて、養育費は使ってくれ。彼のためにもキミのためにも――」


「…………!」


 ガラハッド君の「母親」は手を振り上げました。


 平手打ちの姿勢で手を振り上げ、それを見たガラハッド君は慌てて走って近寄っていきましたが――平手打ちが見舞われる事はありませんでした。


「…………」


 母親は誰に止められるでもなく、手を下ろしていました。


 ガラハッド君は走ってお母さんに近づき――ランスロットさんを睨みつつ――二人の間に割って入りました。


 遅れてガラハッド君に気づいた二人は動揺していました。



「が、ガラハッド……」


「いいんだ。知ってるんだ。この男が、僕の父親なんだろ?」


 ガラハッド君の言葉に対し、お母さんは目を見開き、「知っていたの」と小声でこぼしましたがガラハッド君は構わずにまくしたてました。


「この男が、僕達の事を捨てたんだろ?」


「捨て……えっ……?」


「わかってる。この男が、母さんを悲しませた男だって事はわかっている。わかってるから、僕は冒険者になったんだ。……この男に復讐するために」


 少年は戸惑っている母親を庇いつつ、父親を睨みました。


 父親の方も戸惑い、反射的に誤解を解こうとしましたが――自分には反論する権利などないと思い直し――俯いて言葉を飲み込みました。


 そして、別の言葉を吐きました。


「そうだな。キミには私を殺す権利がある」


「勘違いをしないでほしい。僕は、あなたなんかのために罪を犯すつもりは無い」


「…………」


「僕は立派な冒険者になる事で、復讐を果たす。冒険者としてあなたを超える。あなたが捨てた子供は、家族は、価値のある存在だったという事を証明してみせる」


「ガラハッド、ちょっと、待って……」


「そのために冒険者になったんだ。今に、見ていてください。僕は……私はまだ弱い。けど、絶対、私達を捨てたあなたに勝ってみせる」


 少年に睨まれながらそう言われた父親は、何と言えばいいかわからなくなりました。元々わかっていたわけでは無いものの、少年の真意を知り、黙りました。


 小さく「そうか」とだけ呟き、その場を去っていきました。


 少年は「逃げるのか」と言いかけましたが、母親が「違うのよ」と言ってすがってくるのを聞き、努めて微笑んで振り向きました。



「母さんは何の心配もしないで。僕は、きっと立派な冒険者になってみせるから」


「ガラハッド……」


「強くなって、あの男を見返して、母さんが正しかった事を証明する」


「違うのよ……。間違っているのは、私なの……」


「そんな事ないよ。僕が強くなる事が、今まで僕を育ててくれた母さんが何もかも正しかった事を証明する事に――」


「私は、ちちおやから子供を奪っただけの女なの」


「奪った……? え……?」



 今度は少年の方が戸惑う事になりました。


 その「母親」は、つらそうな顔をしつつも正直に告げました。


 ずっと、告げられずにいた真実を告げました。



「私は、貴方の生みの親じゃないの」




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