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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
八章:剣戟の果てに
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少年達の近況



 話をそらしたい少年は積極的に口を開きました。


 心配している少年は話を元に戻したかったものの、本人にその気が無いために押され、やがて少しずつ近況を語っていきました。


「へえ……パーティー結成したのか」


「おう。期間限定だけどな」


 パリス少年は新しい仲間の事を語りました。


 二人ほどクセがある人がいるものの、年長者ケパロス相棒ライラがしっかりしているおかげで何とかなっているという事。


 ガラハッド君達が留守の間に都市防衛戦にも参加し、大活躍――はさすがに出来なかったものの、貴重な経験は出来たという事を語りました。


「それと、あの嫌なアイアースの取り巻き連中と勝負してんだ」


「「勝負?」」


「一年先、どっちがスゲー魔物倒せるかって勝負」


 そう言いつつも、パリス少年は眉根を寄せて難しい顔をしました。


 取り巻きの子達とはギルドでちょくちょく顔を合わせ、その度に口論したりもしつつ、首級を比べあって――今のところ負けているようです。


「さすがに、アイツらの方が今のオレ様より強いぜ……。話を聞いてると色々と出来る事の幅が広くていいなぁって羨ましがらずにはいられない」


ふかし混じりだろ、あんな奴らの言うことは」


「まあそうかもだけど、常識的に考えて向こうの方が強い可能性高いだろ~? まあでも、オレ様は負けないぜ。あくまで一年先が期限の勝負だからな」


 パリス少年は自分なりに考えている計画を語りました。


 今は訓練期間。技術を磨き、知識を蓄え、来るべき総決算に備えていき……一年経つ前にキッチリと「大物」を狩って逆転してみせる、と言いました。


 その計画は存外、現実的なものでした。


 計画はあくまでパリス少年がしつつ、大人フェルグス達に意見を貰って修正しつつ組み立てた計画だけあって、けして不可能ではないものになっていました。


 セタンタ君はそれに聞き入り、ガラハッド君はむず痒そうにしながらパリス少年の肩を小突きながら語りかけました。


「そういう計画はなしには私も混ぜろよ。まだその、黒獅子討伐? のための部隊パーティーは構想段階で、面子が揃ってるわけじゃないんだろ?」


「まあ一応な」


「なら、前衛として私も混ぜてくれ! 雇いたくなるぐらい強くなって帰ってくるから、頼むぞ。教導遠征明けの私を見て、判断してくれ」


「え~、どうしよっかなぁ~?」


「こ、コイツ……! 私がいないと寂しいだろう!?」


「戦いの事だから寂しい、寂しくないの話は関係ないような……。ま、オレ様にはライラがいるからな。ライラがいれば寂しくない」


 パリス少年はニッと笑いつつ、ライラちゃんを抱っこしました。ライラちゃんは同意するようにぺろり、と少年の頬を舐めました。


「ぐ、ぬぅ……。セタンタ! お前からも何か……言ってやってくれ!」


「パリス。当然、俺は勘定に入れてんだろ?」


「おう。相手は強敵だからお前のルーンがあると有り難え。もちろん報酬とかに関しても検討してるから、その辺はまた交渉させてくれよな!」


「おう。中々、隊長っぽさが板についてきてるな」


「まだまだ全然だ。ベンキョーする事が多くて大変だ……」


「パリス、私は? ホントは私も雇う勘定に入れてるんだろう? なあ?」


「どうしよっかなぁ~~~~?」


「貴様ッ! 裏切ったな……! 寂しいぞ……!」


「冗談だよ」


 少年はケラケラ笑い、告げました。


「前衛も必要だから、どうせならガラハッドとも一緒に行きてえ。教導遠征明けにはビックリするぐらい強くなってるだろうから、予約させてくれよ」


「ああ、もちろん……。強くなって帰ってくるさ」


「現状でも結構、強くなってるけどな。抜き打ちで少しだけあった筆記試験はボロクソの結果で、戦闘用以外の魔術もボロクソだったけど、それでも戦闘訓練の方は結構、いい結果を残してるんだぜ、ガラハッドは」


「戦闘以外ボロクソなのか……」


「私は脳みそまで筋肉で出来ているのだ」


「自分で言ってて悲しくないか?」


「あ、戦闘訓練といえば、ガラハッドはあの嫌味な羊系獣人の女にも勝ったぞ。少し追い込まれはしたものの、見事に投げ飛ばしてみせてな」


「おぉぉ……! やるじゃん!!」


 少年達は教導遠征についての話も忌憚なく交わしました。


 同席しているフェルグスさんは時折、口を挟みつつもサングラスの奥にある目を細め、聞き役に徹していました。


 ライラちゃんはパリス少年に抱っこされたまま、いつもの様子で「ハッハッ」と息を吐きつつ、少年達の話をじっと聞いていました。


「そうだ、レムスさんとフェルグスの旦那が闘技場で戦ったのも見たぜ」


「おっ! どっちが勝ったんだ?」


 セタンタ君が事の勝敗が気になるらしく食いつき、パリス少年についてきていたフェルグスさんは「当然、私が勝った」と言い放ちました。


「勝ったがカンピドリオ士族の人狼の強さというか狡さを改めて実感したな。若殿も順調に強くなっているし、10年先はどうなる事やら……」


「オッサンが弱気になってる」


「弱気にもなるさ。私も順調に歳をとっているからな。セタンタも、さっさと追いついて来い。時間は有限なのだから」


「うん……わかってる」


「カンピドリオの若殿といえば、彼の方がティアマトの眷属……というか、ティアマトに関係している魔物をまた目撃したようだ」


 フェルグスさんは伝聞で聞いている話をセタンタ君達にも伝えました。


 レムスさんが星狩の地、シュセイに行った際にティアマトと行動を共にしていた新種の魔物を見かけて以来、各地で同じような事が起こりつつあるようでした。


「目撃情報はヴィントナー大陸に偏ってはいるものの、最初に目撃されたのはアラク砂漠だ。ここは島とはいえ、サングリアといい、西方諸国といい、アラク砂漠とは同じバッカス大陸ゆえ、教導遠征中に出てくる事もあるやもしれん」


「げー、あのデカブツがか……」


「ティアマトそのものはまだ目撃されていないのだがな。ギルドが討伐隊を組織し、各地に派遣してティアマトの眷属を狩りつつ、ティアマトを探しているが見つかっていない。予断は許されない状況ゆえ、気をつけておけ」


「情勢次第では、教導遠征中止の可能性もあるのかな」


「その可能性も十分にあるだろうな。遠隔蘇生ほけんはあるし、お前たちが乗っているアワクムには海戦巧者の船員達だけではなく、海戦においてはバッカス最強と言われる御仁も乗り合わせているから……早々、中止にはならんと思うが」


「教官の人達もスゲー強い人達が乗り合わせてるし、近衛騎士の人も一人いるんなら大丈夫そう。結構、そうそうたる面子なんじゃあ……?」


「そうだな。そこらの遠征部隊より遥かに強い面子が揃っている」


 重要な作戦が始まっても問題の無いだけの人員が揃っています。


 対人戦闘であれば極めて強力な戦力となる近衛騎士カス。騎士を務めた事もあるランスロットさん、エレインさんの達人二人。


 その辺りの面子を除いても元々アワクムに乗り合わせている船員の方々だけで海戦であれば十分な力を持ち合わせています。


 教導隊参加者達もまだ若いながらも「若手のホープ」を集めただけに優秀な人材が揃っており、政務官として乗り合わせているロムルスさんも騎士に任命されてもおかしくないほどの実力者。


 氷船アワクムそのものの性能も優れているため、余程の事が起きない限り外圧を軽々と跳ね除けるだけの人員が、確かに揃っています。


 中でも教導隊長が最高戦力として期待され、教導遠征ついでに「西方諸国周辺にティアマトの影が無いか」についても調べるよう任じられていました。本人は胃の痛い日々を送っていますが、治癒魔術があるので健康に問題はありません。


 そもそも、死のうに死ねない人ですが。



「あにゃあ~!」


「おっ……聞き覚えのある、声が」


 舌っ足らずな声に誘われ、その声の方向を見ると幼女がいました。


 カンピドリオ士族のアンニアちゃんです。


 ヴィンヤーズの中央区でお兄さんとアタランテさんが足止めされていたのに付き合っていたものの、いまは来れるようになったのか元気に走――走ったりはせず、レムスさんに肩車して貰ってその髪の毛を操縦桿のように握ってます。


 ムフムフと鳴きながらセタンタ君達のところへ辿り着き、「あにゃ!」と鳴き、レムスさんとアタランテさんも口々にセタンタ君達と挨拶を交わしました。


「お前ら元気だったかー? あ、マーリンちゃんは?」


「マーリンなら昨日の訓練を頑張ったご褒美に船内を滑ってるよ」


 ほら、とセタンタ君が指差すとちょうど、氷で出来た船の船体の中に作られた通路をマーリンちゃん――を乗せたソリが走っていくところでした。


 ご褒美用に作られた通路でちょっとしたジェットコースターのような軌道で動いており、「ふぇぇ」と鳴いたアンニアちゃんが直ぐに興奮し出し、「あにゃもあれのりたい!」と叫びました。


 レムスさんは笑って妹の願いを叶えてあげる事にしました。


「よしよし、後で密航しような」


「やったぁ♪」


「マーリンちゃんはわかったけど、ウチの兄者は? 政府の人にブーブー言って、ナス士族が邪魔してくるのを魔王様の転移魔術で躱してここに来たんだけどよ。兄者がいねーといけねえよ。兄者を出せ!」


「あぁ、ロムルスさんならまだ西方諸国だったかと……」


「はぁ?」


「政務官の仕事で西方諸国入りしたまんまで、教導隊がヴィンヤーズから出港した後、北上しながら途中で合流するらしいですよ」


「マジか……。アンニア、兄者いまいねえってよ……」


「やだぁ! プンプンププンプンッ!」


「やだよなぁ? これは密航しねえといけねえよなぁ……?」


「そだよ」


「さすがに追い出されると思……おっ?」


 セタンタ君達がレムスさんに呆れていると、東臨港がにわかに騒がしくなり始めました。人が急に増えてきたのです。


「あっ、臨時ゲートが開通したのか……」


「おお、俺らはアレで来たからよ。臨時ゲートといっても魔王様が手動で関係者を転移させてくれてるだけだけどなー」


 教導隊が到着した事でヴィンヤーズの中央区からも人がやってきつつありました。教導隊参加者の家族が様子を見にやってきたのです。



「あっ、母さん……」


 やってきた人の中にはガラハッド君のお母さんの姿もありました。


 直ぐに人垣で見えなくなってしまいましたが、ガラハッド君はやってきてくれたお母さんの姿を求め、「ちょっと行ってくる」と一人で行ってしまいました。


 父親ランスロットの事に関する真意を確かめるためにも、探しにいきました。




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