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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
七章:海を征く教導隊
233/379

Vs:セタンタ班 後編



「ふっ――――!」


 課題の模擬戦にて、セタンタ君は槍を突き出していました。


 アッキー君――八代目アキレウスではなく、自分の方に寄ってきた敵に槍を突き出し牽制し、横合いからやってきたアッキー君に後は任せて後退しました。


 手は盛んに槍の石突で甲板上にルーン文字を書いて罠を敷設しつつ、舌を巻く思いの中で此度の相方が縦横無尽に暴れる姿を見つめました。


「強えな、お前」


 実戦形式訓練においてアッキー君は第3位の成績。


 キウィログちゃんと共にタルタロス士族でトップ3をのうち2角を取っていた冒険者でした。正面切って戦うとセタンタ君でも速さで押し切られるほどの実力者である事は、セタンタ君自身がよく理解していました。


 それでもなお、肩並べて動き見守り戦う事により、少年の胸中に「本当に強いな」という感嘆をもたらしていました。


 好き勝手に暴れまわるのをフォローするのには苦労する事になりましたが、援護そこを上手くする事でより一層暴れさせる事が出来る事に少年は少し、ワクワクしていました。



「お前の強さを活かしてやらなきゃな」


 そう言いつつ、敷設した罠の一つを起動しました。


Thornソーン


 それは爆破ではなく拘束の魔術。


 茨の如きつるが擬似魔物のうち一体の脚を捉え、動きを止め、その停止により群体で動く敵の半数の行動を一時、阻害してみせました。


 仲間アキレウスがすかさず飛び込むのに合わせ、追随して前に出つつ――甲板を槍でこすりながら振り上げ、槍に新たな拘束魔術イバラを引っ掛けました。


 引っ掛けたそれを鞭のように振るい、信じて突撃していった仲間に対して振るわれた敵の腕に引っ掛け、僅かに時を稼ぎました。


 どの拘束も直ぐに断ち切られる程度のもの。


 ですが、拘束が断ち切られるより速く、太刀使いの劔がひらめいていました。


「シャァッ!!」


ThurisazスリサズEhwazエワズ


 重なるさらなる連携。


 太刀使いがさらに斬り込み、槍使い――いえ、魔術使いが仲間の身に祝福を施して発破をかけました。使った魔術はかつて少年が、ガラハッド君とパリス君と夜の市壁上を走った時に使ったものでした。


 訪れる祝福エンチャントは加速。


 ただでさえ速い太刀使いの速度が「ぐん」と更に速度を増し、目にも留まらぬ動きで刃の煌めきだけを残し、下から鋭く斬り上げる斬撃を決めていました。


 数の上ではまだまだ、少年達が不利。


 ですが、セタンタ君が敷設したルーン魔術で地の利を整え、無邪気に信頼を寄せてくるアッキー君が速さで敵を圧倒し初めていました。


 二人の立ち回りは、ここに来て凄まじい勢いで噛み合い初めていました。



 かつて、槍使いの少年は一人ぼっちでした。


 一人で全てを完遂する単独行ソロを続けていました。



 結果、その戦型は槍を主体に魔術を補助に使うというものでした。


 一人ぼっちの少年には、一人ぼっちではなくなりつつありました。


 拙くも一生懸命な駆け出し冒険者の友達二人を見守りつつ、類まれなる索敵魔術の使い手に背を預けていました。一人で戦う機会が減りつつありました。


 それは少年の心持ちだけではなく、戦型スタイルも変化させつつありました。


 彼は小兵ながらも優れた槍捌きで前衛に立つ事も出来ますが、ルーン魔術による後衛的な立ち回りも前衛仕事に負けず劣らず得意としていました。


 罠を敷設する罠師トラッパー


 祝福与える加護術士エンチャンター


 仲間さえいれば、臨機応変に立ち回りと戦型を変化させる器用さの持ち主。その力を元々強い相手を「より強く活かす」方向に使いつつありました。


 戦況を見つめ、的確に援護アシストする方法を深化させていきました。


 それは彼が信頼と尊敬を寄せる大剣使いの老人にしていた援護を基礎となりました。力寄せる相方に合った補助を、よく考え、施行していきました。


 その事に手応えを得つつありました。


 信頼を寄せてくる相手もまた、手応えを得つつありました。



「班長!」


「何だ!?」


「加速加護、もっと貰えるっすか!?」


「すっ転ばねえか、これ以上は!?」


「いやいやいやいや、自分、まだ行けるっすよぉッ!!」


 八代目アキレウスは笑って、さらなる速度を請いました。


 班長が吹かせてくれる追い風を乗りこなしてみせる、と満面の笑みを浮かべ――それでいて目つきはギラついたものにしつつ、動き始めました。


 セタンタ君は無茶を続ける仲間に呆れ、笑いつつ、「転んで死んでも知らねえぞ」と言いながら加速の加護を追加していきました。


 その風を背に受けた太刀使いの少年は飛びつつ、靴を脱ぎ捨てていました。


裸足これで、どうっすかねっ……!」


 やけっぱちを起こしたのではありません。


 少年は裸足で甲板を踏みしめつつ、身体強化の応用で足裏の強度を強化。靴を履いている速度と大差はありませんでしたが、狙いは最高速度強化とは別。


 その狙いはのけぞり、敵の拳を避けた時に機能しました。


「んぎっ……!」


 少年がやや苦しそうに――それでいて楽しげに――表情を歪めながら回避。転んでしまってもおかしくない角度でのけぞりながら進んでいきました。


 そして、転びませんでした。


「足裏に、空気の膜を作るみてーに……!」


 少年の脚がピタリと、甲板とひっついているがゆえに転びませんでした。


 魔術により、吸盤のように機能した足裏が甲板に身体を固定し、転ぶのを防止していたのです。それは今日、本来戦う予定であったスライムの挙動を少年なりに模倣してみせたものでした。


 それにより無茶な姿勢でも転ばず立ち回れるようになった少年は、達磨ダルマのように倒れそうに見えても倒れず、勢いよく進み、回避、回避、回避回避回避回避斬撃回避回避斬撃斬撃――と、攻撃と回避を絶え間なく行っていきました。


 ただでさえ速かった少年の速度が本人の身体強化、立ち回り、セタンタ君の加速加護、足裏吸着姿勢制御により掛け算的に再加速。


 観戦者達がその速度に度肝抜かれていく中、加護を与えている少年セタンタも驚き、「あそこまで速くなるのか」と瞠目し、悔しがらずにはいられませんでした。


「いいな、ああいう、英雄的いかにもな強さ……!」


 自分にも欲しい強さだと、少年は思わずにはいられませんでした。


「じゃあ、こっちも試してみるか……!」


 既に罠は十分に敷設。


 仲間との連携にも加速度的に慣れていき、十分に前へ出れる余裕が出来ました。


 普段なら槍だけを頼りに前に出るところ、少年は別のものも加え動きました。


「…………!」


 使い始めたのはルーン織の外套マント


 それに魔力を一気に流し込み、可変させていったのです。


 途方もないほどルーン文字が織り込まれた外套は使用者の意志に応じて形態を変える機能も付与されており――少年はそれを使い、外套の一部を自身の肌のように纏っていきました。


 外骨格のようになったそれで身体性能を強化した少年は、駆けました。


 駆け、バネ仕掛けの人形のように飛び、敵を穿っていきました。


「――――ッ!」


「ぬおっ!! 班長!?」


「混ぜてくれよ、俺も」


「いまの自分が狙ってたのにぃ!」


「競争だ。こっちはお前の援護アシストもやるけどな」


「ははっ! 任せまーす!!」


 少年達は肩並べ、前へ出ました。


 加速した二人が刃閃かせる先には斬り殺された疑似魔物が転がっていきます。



「「残りハチッ!」」


 押されていた戦いを一方的な狩り比べとしていく二人の少年。


 もはや、疑似魔物達はノリにノった二人を捉えられる事は出来ません。



「「六ッ!!」」


 斬り込み、仕留めた太刀使いを倒そうにも飛んでくる槍の一突き。


 罠により崩れたところに隙かさず飛んでくる一文字の一刀。



「「四ッ! 二ッ!!」」


 ばらけ、少年達を包囲しようとした疑似魔物は背を合わせ、ぐるりと回転した少年達の振るう刃の餌食になり、脱落。


 一歩引こうにも、その足に絡むイバラが後退を拒否してきます。



ゼロッ――――いや、一……!」


 槍が援護として敵を縫い留め、その隙に振るわれた太刀の連撃が敵を沈めていきましたが、二人は再び走り始めていきました。


 疑似魔物スライム操り、穏やかに満足げな笑みを浮かべる教導隊長のもとへ。


 正確には、教導隊長が最後に生成した敵のもとへ。



「貰ったっす!!」


「ああ――――行けッ!!」


 槍使いの少年は、先征く太刀使いに得物を譲っていました。


 譲りつつ、太刀使いが存分に動けるよう、魔術を行使しました。


 この連撃にて、決着がつくことになったのです。


 セタンタ班は難易度を上げてなお、課題をクリアしていました。


 戦いの中、お互いの強さを進化させながら。


 二人の奮戦は互いだけではなく、見守る生徒達の闘志にも火をつけていました。



「まだまだ、強くならないと……」


「…………」



 見守っていた少年剣士が朗らかに笑い呟く中、甲冑の少女も頷いていました。




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