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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
七章:海を征く教導隊
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魔術訓練



「ふぬっ……!」


「おー、いい調子いい調子。そのまま頑張れー」


「はいっ……!」


 ガラハッド君が他に遅れつつも、水上歩行の訓練に励んでいるのをそっと甲板上から覗いている二人の影がありました。


「おー……昨日よりよくなってるじゃん」


「これはコツ、掴んじゃったかな? 良かったねぇ」


 セタンタ君とマーリンちゃんです。


 ガラハッド君はまだ出遅れているとはいえ、精神的には持ち直してきたようです。その様子に二人揃ってホッとしつつ、二人も訓練へと向かっていきました。


「今日は個別の魔術訓練だけど、俺らどこ行くんだっけ?」


「セタンタ聞いてなかったのぉ?」


「ついうっかり。まあ、マーリンは聞いてただろ?」


「ボクも聞いてなかったんだよぉ?」


 二人は「これはヤバイな!!」と思いましたが、大人しく教導隊長のところに出頭し、深く長い溜息をつかれました。


「まったく……人の話はよく聞くこと! これが例えば遠征中の合流場所についての話だったら、聞き逃していると大変な事になりますよ、ホントに」


「「ごめんなさ~い」」


「まあまだ始まったばかりなので、今回は警告だけで済ませます。次やったら怒りますよ。いや、いまも怒ってる事には怒ってますけどね?」


「師匠、ちゃんと叱ったりできるの~?」


「相手が嫌がる事をするのは得意です。そうですね、次に遅刻しようものなら赤蜜園の孤児院長に言いつけます。お宅のお子さんが冒険者不適格ですよ、と」


「「ごめんなさーい……!」」


 エルスさんは半泣きになった二人の反応に満足げに微笑みつつ、「ついてきなさい」と言って二人を先導していきました。


 そう言って、居住区にある教室の一つへ向かったのですが、そこを開けても誰もおらず、「隣だったかな?」と言いながら船内をうろつきました。


「師匠、なんでウロウロしてるの?」


「いや、教官役を務めていただく方を探していましてね」


「今から探してるんすか」


「いやいや! 先にお願いしておいたんですよ? でも、いませんね? おかしいな……。のんびりした人なので、別に遅刻したところで怒って帰ったりせず、『あ、遅刻したの?』と小首かしげるような人なんですが」


「教官さんの方も遅刻してるんじゃないの?」


「まっさかー」


 エルスさんは笑って、脂汗を流しそうになりながら「まっさかー……」と言いながら二人を引き連れて船内を小走りに進みました。


 進んで、教官役を務める人の部屋の扉をコンコンコンとノックしました。



「カスさん? カスさーん? いるんでしょ? 索敵魔術でわかっ――あっ! いま索敵欺瞞使い始めましたね。起きて……開けて、起きてください、お願いですから……魔王様にカスさんが仕事しないと言いつけますよ……」


「「…………」」


「お二人とも、ちょっと待っててくださいね? ねっ? はい、カスさーーーーん! 起きてーーーー! 今日は教官役お願いしてたでしょーーーー!?」


 少年少女は胃が痛そうに必死になってる教導隊長を見ないよう、背を向けて三角座りしながら膝つきあわせて小声で話し合いました。


「教導隊長って立場弱いのか、普段から」


「腕っ節は強いんだけど、存在がクソ雑魚系だから……」


「聞こえてますよ……!」


 エルスさんは悪戦苦闘しつつ、部屋の鍵を開けて無理やり立ち入りました。


 部屋の中には有事の際の対人戦闘担当として乗り込んでいた近衛騎士のカスさんが眠そうにベッドに寝転がっていました。


 仕事のために一度起きて、仕事着である白スーツを出したものの「教官役とか面倒くさ……」と思い、スーツ下の黒シャツだけ着たところで力尽き、ゴロリと寝ていた事を釈明したカスさんは「ごめんね」と言いました。


「ほら、謝ったからもう寝てていい……?」


「反省の色がまったくない……!」


「チッ。反省してまーす。はい、謝った謝った……」


「カスさん、お願いしますから、若人を導いてあげてください。ちゃんと仕事をしていただかないとですね? 魔王様に言いつけますし、私は泣きます。良い歳した爺がギャンギャン泣く光景なんて見たくないでしょ?」


「あぁ、それはキモいね……でもがんばりたくない」


「がんばって、やくめでしょ……」


「面倒くさいなぁ、もぅ……」


 幼児並みの体躯で大義そうに寝ぼけまなこをこすった近衛騎士は溜息つきつつ、ベッドから出る事は拒否してそのまま自室で少年少女の相手を始めました。


 自分の身体と同じぐらいの大きさの枕を抱っこしつつ、「アハさん、お茶いれてきて」と教導隊長をアゴで使った後に少年少女をしげしげと眺めました。


「赤蜜園の二人組かぁ……話はそこそこ聞いてるよ……。たーしか、才能はあるのに阿呆なことにも使ってたりするんだっけ……?」


「そんなことないよな。なっ?」


「ねっ? ボクなんて観測魔術で服越しに人の裸見てるぐらいだよ」


「お前がそんなだから俺まで阿呆呼ばわりされるんだよ。オラッ」


「痛い。騎士様~、セタンタが暴力振るってくるんでしょっぴいてあげて~」


「えぇー、バッカス国内の犯罪対応は騎士団の連中に任してるから……わたし、西方諸国とかの外事担当だから……しーらない」


「そんなぁ」


「そんなぁ~ことより、訓練しよっか。ええっと……」


 カスさんはベッドの中をゴソゴソ漁り、くしゃくしゃになった書類を掘り出し、眠たげなまなこでそれを眺め始めました。


「アハさんの立てた教導計画によると、キミらは転移魔術の練習する手はずになってるんだってさ……。ははあ、で、私が呼ばれたわけか、ふーん……」


「俺はともかく、マーリンもですか?」


「ん……事前資料で見てたんだけどさぁ、セタンタ君の転移魔術は実戦では使いづらいね……。改良しなきゃ対魔物用の防衛と罠用途ぐらいしか、難しい」


「まあ、そうなんすよね……」


 セタンタ君は難しい顔をしつつ頷きました。


 近衛騎士はその顔をチラリ、と見つつ呟きました。


「自分でちゃーんと、解決策ねってる?」


「一応は色々と。いっそのこと現状で諦めるのも手って事で、それ以外の敷設が簡単な魔術罠を……爆発とか電撃とか、拘束の魔術の方を磨くのも手とは思ってやってるんだけど、転移は転移で捨てるには惜しくて」


「だろうねぇー」


 少年が使う転移魔術・鮭飛びは上手く使えば格上すら狩れる便利な魔術ですが、十全に運用するうえで様々な問題を持っています。


 教官達の間でもその点は問題として挙げられていました。


 そして、解決策の一つとして持ち上がったのがマーリンちゃんと協同で転移魔術の訓練をする、というものでした。


「二人で転移魔術使ってみる訓練していこうか。基本はセタンタ君がやりつつ、マーリンちゃんが魔術の管理コントロールをする事で敷設の隙や転移限界距離及び限界質量を増やせるよう、頑張ってみよぅ」


「なるほど、転移そのものはボクだけだと難しいけど、セタンタの手伝いなら出来るかも? とりあえず試すだけ試そうかな~」


「おう」


「試してみるといーよ。例えば自分以外にも、離れた場所にいる複数人を転移させる事が出来たりすると……集団全体の機動力を上げるから、戦術にさらに幅が広がる。私も転移魔術は多少、心得あるから……多少は助言したげる……」


「「お願いします」」


「直ぐにモノに出来ないかもだけど……ま、少なくとも5年、10年も経てば、積み重ねてきた事がモノを言うようになるよ……ぶいぶいっとね」


 カスさんはそう言いつつ、人差し指をくるり、と回して魔術を起動しました。


 すると、部屋の外でお茶を持ってやってきていたエルスさんが一気に部屋の中に転移魔術で呼ばれやってきました。


 やってきたかと思えばカスさんがお茶だけ取って「帰っていいよ~」と間延びした声でエルスさんだけ転移させて退室させていきました。



「これぐらいは、余裕綽々で出来る使い手だから……任せて」


「あの、いま師匠が海上に転移させられたっぽいんですけど」


「あれぇ? ま、アハさんなら大丈夫でしょ……」



 カスさんは気にせず、授業を始めていきました。


 二人は色々と心配になってきましたが、強力な転移魔術をさらに強化する事に関しては乗り気であるため、揃って取り組んでいきました。




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