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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
七章:海を征く教導隊
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鈎剣と巻き技



 ひとまず、座学を終えた後の自由時間。


 ガラハッド君は氷船の武器庫に来ていました。


 勝ち筋と負け筋について改めて考える中、武器に関しても見つめ直すために武器庫に訪れたようです。教導隊に貸し出している武器を実際に眺めながら考えてみよう――と思いつき、やってきたのです。


「すみません師匠。鍵開けて貰って……出来るだけ早く終わらせるので」


「いいですよ、お構いなく」


 エレインさんは微笑みつつ、船に持ち込んでいた本を掲げながら「部屋で本を読もうとしてただけで、場所が変わるだけですから」と言いました。


 それでいて本よりも弟子が改めて武器を見つめ直すのに興味津々といった様子で、本はさっさとしまって弟子が武器庫を見る姿を黙って見つめていました。


 しばし、ガラハッド君が眺め、思考するのに任せていました。


 途中から声をかけていく事にしましたが、少年自身にも考えさせるようです。


「武器を検討するのは良い事です。自分で使わないにしても、用途を知っておけば相手が使う時に対処しやすいですからね」


「ですよね……私は、そういう事すら全然知らなくて……」


「ガラハッド君は冒険者であって、対人戦闘の知識習得は優先度低いゆえに仕方ない、とも言えますけどね」


「……仕方ない、では済ませたくないですね……」


 硬く真面目な表情を浮かべた少年の横顔を見つめていた黒髪巨乳エルフのエレインさんは微かに笑みを浮かべつつ、重ねて話しかけていきました。


「ガラハッド君は真面目ですね」


「そんな事は……」


「対人の戦闘技能や知識を身につけるのは、魔物にもいくらか転用出来ます。そうですね……例えば、これなど対人向けの武器なのですが……」


 エレインさんは二本の剣を手に取りました。


 それは先端が曲がっている揃いの形をした双剣でした。



「面白い形をしているでしょう?」


「大きな釣り針みたいですね」


「鈎剣と言います。釣り針の如く、引っ掛ける用途に使えるわけですが――」


 エレインさんはガラハッド君に盾を渡し、構えさせました。


 そしてカギ針部分を盾の縁に引っ掛け、軽く引いてみました。


「こうして引っ掛けて、盾や剣を奪う使い方が出来ます」


「あぁ……取れずとも、引っ掛けるところがあれば、防御ガードを無理やりズラして、空いてる方の鈎剣で斬りつけたり出来るんですね?」


「そうです。魔物相手には使いづらいですが、闘技場で対人戦闘を主にする人の中には愛用者がいたりします。ただまあ……ちょっと露骨ではありますけどね」


「露骨?」


「鈎剣の用途を知っていると、コイツはこっちの武器に引っ掛けてこようとするな~、と行動を読まれやすくなるのです。読まれた末に引っ掛けられたところを逆に引っ張り、体勢崩されるという事もありますね」


「そういう危険性もあるのか……」


「逆に、そこまで露骨に意図を見せつつ警戒させ、実際は別の攻め手を使うという方法もありますけどね。魔物との戦いではその手の心理戦になる事は少ないのですが、人間同士の戦いではそういう駆け引きも頻繁に発生します」


 ガラハッド君は、少しだけ鈎剣に惹かれました。


 アイアースちゃんの大盾対策になると思ったのです。


 ただ、冒険者としての本分が魔物を倒す事だと思うと、「一つの負けに拘って可能性を狭めるのも問題なのかも……」と思い、鈎剣は諦めました。


 諦めつつ、こういう用途の武器があるとはよく記憶しておきました。


「鈎剣と同じ事をする業はありますけどね」


「え? 魔術的なものですか?」


「いえ、非魔術的な技術です。魔術使ってもいいですけどね」


 エレインさんはそれはひとまず置いといて、武器庫見学を続けさせました。


 そして、一通り見た後に甲板に移動して弟子に剣を構えさせました。



「実演しましょう」


「お願いします……!」


「業の名を、巻き技と言います」


「巻き技――」


 ガラハッド君が呟いた時には、もうエレインさんは動いていました。


 動き終わると少年が構えていた剣が天に向かって飛んでいました。


 武器つるぎを、飛ばされていました。


 それを素早くやってのけた黒髪エルフのエレインさんが持っていた剣は、武器を無くし、無防備になった少年の喉元に突きつけられたいました。


 一瞬の早業です。


「なっ……」


「見えましたか?」


「す、すみません……見過ごしました」


「ちょっと早すぎましたか。ですが、起こった結果はわかりましたね?」


 エレインさんはそう言いつつ、落下してきた剣の柄を視線も向けずに受け止め、おっかなびっくりといった様子の少年に返却しました。


 少年は師の言葉に頷きつつ、問いに答えました。


「わ、私の剣が、跳ね飛ばされた……?」


「その通り。では少しゆっくりと、どうやったか解説しますね?」


 二人は改めて剣を交えました。


 エレインさんはゆっくりと、少年が構えた剣に自分の剣を添えました。


「巻き技とは、相手の武器を奪うか跳ね除けて隙を作る業です。ざっくり説明すると、相手が構えた切っ先に自分の剣を当てて――」


 渦を描くように剣を「くるり」と回しました。


「剣で相手の武器を絡め取って、奪う業ですか……」


「そうです。それなりの勢いが無いと弾けません。単に剣を動かすだけではなく、ちょいと前に進みながら巻き上げるといいですね。あと、相手が武器なり、盾なりに込めている力に関してもよく観察する事です」


「いや……難しそうな業ですね」


「実際難しいです。これ一本で勝っていくのは難しいので、余技として持っておくと良いでしょう。頻繁に使うと対策されやすいですよ、何事も」


 難しいものの、魔術の才能が必須ではない技術。


 エレインさんは言いつつ、さらに言葉を重ねました。


「まあ、魔物相手にはそこまで使わない業ですけどね。上手く使えば魔物の突撃をいなしつつ、直ぐ様攻撃に移れたりはしますけど」


「あくまで対人向けですが……」


「ええ。まあ、私個人の願望はさておき、ガラハッド君も訓練で勝てないとつらそうですからね……それは私も可哀想だなぁ、と思ったりはします」


「う……やっぱり、見られてますか」


「もちろん。教官役として参加している以前に、キミは私の弟子です。私は教え下手ですけど、自分の弟子が苦悩して落ち込んでいるのを気にする心ぐらいは、一応は持ち合わせているんですよ。一応」


「すみません……不甲斐なくて」


「人は皆、最初は不甲斐ないものです」


 エレインさんはそう言って、少し黙りました。


 が、正直に話す事にしました。



「実のところ、今回の教導隊において、私はガラハッド君の指導はあまり行わない事にしてます。勝手にそうしようと思っています」


「え?」


「今回、私が教えずとも教えてくださる教官の方々が沢山いますからね。私はホント、教え下手ですし……色んな人に師事する事は良い事ですよ」


「はい……親切な方が多いので、そうしてみます」


「教官に限らず、同じ生徒の業もよく見て……盗む事です。それに関しては既によく観察して、やろうとしていますね。良い傾向です」


 この機会に、色んな教えを請いなさいと黒髪エルフの師匠は言いました。


 複数の教えを自分なりに噛み砕いて理解。


 すり合わせて新しい考えを生む事が大事だと説きつつ、改めて剣を構えました。



「よく悩み、よく学びなさい」


「……はい」


「ただ、今日のところは少し、巻き技の練習を手伝います」


「はい、お願いします……!」


「全ての局面で使える業ではありませんが、覚えておいて損はありません」




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