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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
間章:星狩と家畜エルフ
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戦い終わって



 戦いの終わりは、狼系獣人の青年にとって肩透かしとなりました。


 敵方の主攻を担っていた鷹馬は鈍色の雲間に消えていき、青年は「引き際が良すぎる」と思いつつも後に残った四足の魔物の掃討へと移っていきました。


 討伐隊は大きく戦力を損耗したものの、死人が出るのは日常茶飯事。


 保険もある事から大きな出費に嘆きつつも、ひとまず残った者達は今を切り抜けるために剣を振るい、白狼会の二人も事態収束まで手伝いました。


 その後、レムスさんはラカムさんのところに戻りました。


 そこに腐肉漁りのエルフの姿はありませんでした。


 ただ、彼が殺した人間の遺体が埋葬されているだけで――魔物が襲ってきて逃げたというわけでもなく――ラカムさんの姿はそこにはありませんでした。


 青年は予感しつつも「こうならないで欲しかった」と溜息をつきました。


 ひとまずはシュセイに戻り、一泊して手紙受け取りの署名を自治会から貰い、ザイデンシュトラーセン士族に挨拶した後、首都サングリアに戻っていきました。



「あー……何かドッと疲れたぜ……」


「にいた~ん、おちゅかれさま」


「おぉ、アンニア。ありがとな」


「ねえたんもあげぅ」


「ありがと。良い子にしてたアンニアにはおみあげをあげましょう」


「まことに~!? あんにゃ、うれぴぃ♪」


 白狼会の事務所にて、アンニアちゃんに出迎えられて水道水を貰った二人は人心地つきつつ、改めて「お疲れ様」と言って言葉を交わし始めました。


「残念だったわね。あの腐肉漁りのエルフのこと」


「まあ、な……。逃げられちまった」


「ま、あの場であのオッサンの確保だけしてたら討伐隊の救援行けなかったし、かといって縛ってて魔物に襲われたらアンタの罪になるわ。他にやりようは無かった。あのオッサンが裏切っただけ。アンタが気にする事ないわ」


「なんだよ~。慰めてくれてんのか?」


「……そうよ? 悪い?」


「全然悪くないです。ちょい隣に来て座っててくんね?」


「はいはい」


「あにゃ! あんにゃも、にいたんのお膝のるぅ」


「おー! 来い来い!」


 アンニアちゃんはご機嫌な様子でお兄さんに走り寄りました。


 走り寄って、バッタが飛ぶような勢いで飛び退りました。


「アニャアアアアア!? にいたん、洗ってないワンコのにおいがすりゅ……」


「あー、風呂入れてねえし水浴びも出来ずに雨ざらしになってたからよぅ」


「くちゃい!!」


「し、仕方ねえじゃん! あとで兄ちゃんと一緒にお風呂屋さん行こうぜ? セタンタから良い風呂屋聞いたんだよ。絶対アンニアが気にいるやつ」


「まことに~!? あんにゃ、あんにゃが気に入るやつ、しゅき❤」


 でも今はあんまりお膝に座りたくない臭いをしてるらしく、アンニアちゃんはトコトコと事務所内の自分の遊び場に向かっていき、レムスさんはガッカリとした様子でアタランテさんにひっつこうとしました。


 が、肘で押し返されて泣く泣く隣に座るだけで我慢しました。


「あの後の事だけどさ」


「あの、新種の魔物が現れた後か?」


「うん。アンタが手紙の方の報告をしに行ってるうちにギルドの人から聞いたんだけど、血が毒の魔物は大体殺せたっぽいけど、途中で逃げてった飛行種はあの辺の都市から離れた場所で見かけるようになったんだって」


「群れで行動してるのか? 近場で?」


「いや、殆どバラバラみたい。広範囲で目撃されてるってさ」


「あの魔物は、明らかにおかしかった。魔物にしては引き際が良すぎる。普通、人間みたら自分が死ぬか相手が死ぬか、見失うかまで戦い続ける筈だ」


「大体そうよねー……。アンタが潰したゴーレムの使い手が、騒動の主?」


「それだけじゃねえだろ。あの空を飛んでたヤツはエルミタージュにも出てきた魔物を自分の体に載せてきてた。ティアマトも絡んでる筈だ」


「ティアマトが、シュセイ近辺に潜伏中って事?」


「どうだろうな。確かに近くにはいたかもしれねえが、もう全く別のとこに移動してるかもしれねえ。例えば、今回の騒動にしても政府なんかは俺らみてえにエルミタージュとの絡みは察してるだろ?」


「ギルドの人に聞いた話じゃ調査中って事だけど、まあ気づいてるでしょうね。とりあえず滅多なことは言えないから調査中って言っただけで」


「それは向こう……ティアマト側も察していて、ティアマトがこの近辺にいるんじゃないかって情報だけちらつかせて、捜索隊を誘き寄せるとか……そういう事をやろうとしてんじゃねえのかな……?」


「アレは魔物でしょ? そんな陽動作戦みたいなこと出来るの?」


「だが、今回の戦いでは人間が指揮してるような小狡い立ち回りだった」


「まあ……確かに……」


「人間が魔物を操る事もまったく不可能じゃねえ。けど、ティアマト……あるいはティアマトそのものを操ってる存在は、他とは比にならねえぐらいヤベえかもなぁって、ふと思ったんだよ……」


 青年は自分でも確認に得られていないため、歯切れ悪く答えました。


 ただ、実際にこれ以降、各地でティアマトに関連していると思しき魔物の目撃情報が多発していく事となりました。


 都市を脅かしかねない超大型の魔物であるティアマトの存在を裏に見出したバッカス政府は、捜索と討伐の遠征部隊を各地へ派遣させられる事になったのです。


 肝心のティアマトに関してはハッキリとした目撃情報は無く――それでも早めに叩いておく必要性があるため――戦力を都市から離れた場所に割かざるを得ない状態となっていったのです。



「ま、とりあえず風呂行くか。アンニア抱っこ出来ないのは辛い」


「アンニアー、おいでー、お風呂行くわよ~」


「は~い♪」


 アンニアちゃんは玩具をしまい、トコトコ走ってぴょんとアタランテさんに抱っこされました。レムスさんはそれを信じられないものを見る目で見つめました。


「えっ、何でアタランテはいいの?」


「アタランねえたんは、良いにおいするぅ」


「私はアンタと違って、都市郊外でもお手入れしてるし……」


「うそぉ。俺も女子力高めなきゃ」


「キモいから止めて」


「あ、あのぉ……ここって、白狼会の事務所ですかい……?」


「あ、はーい」


「お客さんかねぇ?」


 白狼会の二人は事務所の入り口からかけられた声に振り向きました。


 二人は依頼でも持ち寄られたのかと思いましたが――全然違いました。


 やってきたのは猫背のエルフだったのです。


「…………」


「…………」


「へへっ、ど、どうも……ご無沙汰しておりまして……」


「ふにゃ……しらないひとだ……」


「よし……よし……とりあえず、アレだな?」


「確保ね」


「えっ?」


「テメエ、ラカムのオッサン!! 良くも逃げやがったなあああああ!?」


「ひっ、ひぇぇっ! ちょ、話が、ちがっ……ひぃぃ……!」


 やってきた猫背のエルフ。


 ラカムさんはレムスさんとアタランテさんに簀巻にされていく事となりました。


 簀巻にされた後、「逃げた」理由について泣きながら話し始めました。




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