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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
間章:星狩と家畜エルフ
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天空の楔



 討伐隊救援のため、レムスさんは走りました。


 彼にとって討伐隊は赤の他人。ひょっとすると知人が混ざっているかもしれませんが、概ね赤の他人であり、同じ冒険者稼業という意味では商売敵でもあります。


「だけど敵じゃねえ……命かかってんだ、協調は出来るさ……!」


 荒野を渡り、討伐隊が控えている森の中に進み入りながら青年は現状の再確認と自分がやるべき事に関して考え始めました。


 対峙する主な魔物は二種類。


 一つは大空を我が物顔で飛んでいる毒塊を吐く鷹馬。


 二つ目は虎ほどの大きさで地をひた走る毒の地を持つ四足の魔物。


 後者は先の戦い――砂漠の都市・エルミタージュで対峙する事になった時よりは少ないようですが、天地両方の魔物を相手にしないといけません。


「エルミタージュの時みたいに、遅れをとる事はねえだろうけどよ……」


 今回は前回と状況が異なります。


 エルミタージュでは都市間転移ゲート復旧のための籠城戦をしなければいけなかったものの、今回は一処に留まらず駆け回る事が出来ます。


 前回ほどではないとはいえ、物量に押されそうであればさっさと逃げて位置取りを変えれば何とでもなる。足を止めてやり合わなければいい。


 いま大混乱に陥っているとはいえ、討伐隊が十全に動き始めれば地上の魔物に限れば、互角以上の戦いが出来る――と青年は考えました。



「問題はあの空にいるヤツだ――なッ!」


 青年は拾った赤子の頭ほどの石を空に向け、思い切り投げました。


 身体強化魔術で放り投げられたそれは他の冒険者が放った矢を追い抜くほどの速さで飛翔する鷹馬に激突しました。激突するどころか羽を貫通しました。


 ですが、その一撃で落とす事は出来ず、青年は思わず舌打ちしました。


「ピクリともしてねえ。ありゃほぼ飾りで浮遊して――」


「う、うわあああああああ!!」


「あ?」


 青年の尻に矢が突き刺さっていました。


 どうやら討伐隊の一人が人狼レムスを魔物と間違え、射掛けてしまっていたようです。青年はわりとよくある事なのでゲンナリしつつ怒っておこうと思いました。


 が、自分に矢を射てきたのがまだパリス少年やガラハッド君ぐらいの年若い少年で、その少年は背に同年代ぐらいの女の子を庇っている姿を見たのです。


 誤射は錯乱の影響もありますが、女の子を庇うためという事もあったようです。


「あ、あれっ? カンピドリオ士族の人じゃ……!?」


「えっ!? ひ、ひぇぇぇ、殺されるぅ」


ゆるーーーーす!」


 微笑ましいあまり青年は許しつつ、二人を捕まえました。


「お前らどこの隊のもんだ!? 迷子か?」


「わ、私達、クラン・ヴェンジェンスの者で……」


「皆とはぐれたからとりあえず上飛んでるヤツらがいないとこに逃げようとしたんです殺さないで! ごめんなさい! 殺すならおれだけにして!!」


「おう、とりあえずどっかの誰かと合流させてやる。ついて来い!」


 青年は潰走中の別の討伐隊をまとめ上げ、逃げるよう指示しました。


 手伝わせたいのは山々でしたが、数はいても狼狽えて逃げている面々がいても足手まとい。場を混乱させないためにも一時離脱させた方がいいと考えました。


「ひとまずあの、空飛んでるヤツからは遠ざかる形で逃げろ! シュセイ方面はまだそんないねえはずだ。けど地上闊歩してる四足のヤツには気をつけろ。そいつの血に触れたら猛毒で死ぬぞ。殴り殺すか離れた場所で殺せ」


「アンタは逃げないのか……!?」


「まだやる事がある。いいから、構わず走れ!」


「わかった! ありがと!」


「ああ、それと、誰か大弓とか持ってきてなかったか!?」


「見てない、今回、飛行種はいないはずだったし……!」


「そっか、わかった、よし行け!」


 青年は討伐隊の一部を遠ざけ、次の一団に向かいかけ、頭上を横切った影に対して「おいおいおい……!」と叫びつつ、来た道を後戻りしていました。


 先ほど別れたばかりの一団に対し、二体の鷹馬が追いすがり、毒塊を吐き落とそうとしていたのです。まだ一団が森を出ていない時の事でした。


「ちょっと待て、コイツら適当に吐いてんじゃねえのか!? 正確に狙っ――」


 逃げた一団は鷹馬をやり過ごそうと、森の中で動きを止めていました。


 ですが、相手は草木に阻まれて殆ど見えていない逃走者達に対し、殆ど正確に――毒塊で押しつぶしかねない位置取りで――直上から仕掛けました。


 その真下には青年が助けた少年少女の姿もありました。


 直撃、あるいは毒の吸引で死ぬ事になるでしょう。


「ッ……! 人様の邪ァ魔してんじゃァねえッ!!」


 青年は駆け、飛びつつ、タイミングを見計らって足を振り抜いていました。


 毒塊を蹴飛ばす――わけではなく、闘技場で老戦士フェルグス相手に使った血を爆破する業を一か八かで使いました。


 それは上手く毒塊を迎撃し、焼き、弾き、毒をほぼ雲散霧消させていました――が、肝心のそれを放った魔物に対してはさすがに届かないようです。


「くっそ! こんな事なら俺もちゃんとした弓持ってきてりゃ良かった……!」


「う、うわ……」


「あんなの、倒せっこない……」


「倒す方法はある――――そうだろ!?」


 レムスさんが大声で叫ぶ中、その声に応え弓を構えた女性の姿がありました。


 全力疾走して追ってきてくれていたアタランテさんです。


 彼女は疾走を一時止め、狙いすまして――大雑把に――天を穿っていました。


 鳥の群れのような魔矢は、鷹馬2体に着弾したところで即座に爆裂。いくつもの小爆発を起こして体表を焦がし、体内も揺らし、さすがにバランスを崩してふらつき、落ちかけましたが持ち直しました。


「うわ、今の持ちこたえるのね。じゃあこっちで死ね」


 持ち直しましたが、獅子系獣人の女性の容赦なき追撃の掃射を受け、黒煙を上げて大地へと落ちて死んでいきました。


 レムスさん達は反撃の狼煙を上げた射手に惜しみない拍手を送りつつ、出迎えました。アタランテさんもそれに軽く手を上げて応え、相方に問いました。


「で、私は何をすればいい?」


「空を飛んでるクソ邪魔な魔物を、撃ち落としていってくれ! 俺はもう一回、森の中へ入っていってお前の後ろ側に逃げたり、お前を手伝えって言ってくるから」


「はいはい、おまかせあれ。気をつけてね」


「お前もなー!」




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