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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
間章:星狩と家畜エルフ
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長耳



「若殿、アタランテさん、お疲れ様です」


「見事な手並みでした。助かりました」


「いやいや、こっちの方が助かったっすわ。俺らが好き勝手に暴れる中、要所要所で叩いてくれただけじゃなくて、逃走経路も魔術の印で案内してもらえたし」


「お二人が囮役をこなしてくれたおかげですよ」


 白狼会と士族戦士団はしばし談笑して一服した後、再び雨の中を進み始めました。今回の目的はあくまで星狩りであり、魔物討伐は障害の排除です。


 一行はザイデンシュトラーセン士族が事前に目星をつけていた隕石の落下点へと向かい、確保を急ぎました。


 魔物が居座った事で手付かずの宝の山でしたが――。


集合野営地シュセイを出る際、こちらの後をつけてくる者達がいました」


「いつもの事だけど、見境ない後追いのヤツらがいるからねぇ……」


 士族戦士団の人達が回収の手を進めつつ、呆れた様子で呟きました。


 一種の腐肉漁り行為で、邪魔な魔物達を排除した事で安全に隕鉄採取がしやすくなったところを見計らい、横取りしようとする者達がいるのです。


 採取前のものを確保する行為は一応、違法行為ではありません。しかし嫌われる行為ではあり、ザイデンシュトラーセン士族側も黙ってはおらず、攻撃――をしてしまうとそれこそ違法行為なので、回収を急いでいる形です。


 観測所を持っているような星狩り慣れした集団は先んじられた事に歯噛みしていますが、それでも我慢して別の隕石を待ち構えています。


 誇りの有無以前に星狩り慣れしていない者達は紳士協定など知った事ではなく、今回のように後をつけて隕鉄を確保するという事もあります。


「一応、こっちが走ったら十分に引き離せたものの、急ぐという事で」


「へーい。んじゃま、俺らも取るの手伝うか」


「そうね」


「お二人は休んでいてください。先ほどの戦闘では一番ご負担かけましたし」


「大丈夫大丈夫、もう完全復活。これ掘り返せばいいんしょ? 掴んで一足に」


「待って、若殿待って」


 半ば土をかぶっていた大きめの隕石に対し、手を伸ばしたレムスさんが無理やり引き抜こうとして、持ち手のところだけがボロッと崩れ取れました。


「あっ、壊しちゃった」


「あははは。包んで言うと邪魔です」


「包んで言ってそれなんだ……」


「その辺の隅っこで休んでてください。採取は我々専門家にお任せを」


「は~い……」


「やーい、怒られてやんの」


「くやしい」


 レムスさんはアタランテさんに追い打ちされ、メソメソと泣くふりをしましたが、頬を垂れるのは涙ではなく全身を濡らす雨でした。


 大人しく待ち始めた二人はすっかりと空を覆い尽くした雲を眺めつつ、戦士団の索敵班に混ざって周辺の警戒を行いました。作業の方は順調そのものです。


「おい、大丈夫か? 身体冷えてないか?」


「魔術あるから平気よ。それより、アンタの言う通りになったわね」


「雨か? まあ、たまたまかもしれねえけど……何か嫌な感じがする」


「冒険者稼業始めたばっかりの頃も、こういう大雨の中で全滅しかけたでしょ」


「そうだっけ?」


「ほら、ロムルスの仕切りで同年代だけでの初遠征行った時……」


「あぁ、あったあった。雨の中で右往左往したわなー」


 レムスさんは少し苦い顔で過去に想いを馳せていました。


 それは彼がまだ青年ではなく少年であった頃で、彼の双子の兄であるロムルスさんが指揮して遠征に向かった中、突然の大雨に見舞われた時の事でした。


 早めに野営する事も考えられましたが、若く血気盛んな彼らは雨などに構わず進軍する事を指揮官に直訴し、それが通って――結果、本当に全滅しかけました。


 草木で視界が利かない中、雨音で索敵に障害が出る中、正面の魔物の群れに集中していた人狼達は横合いから突っ込んできた別の群れに襲われ、戦闘の最中で散り散りとなっていったのです。


 まだ年若く経験乏しい一団だったとはいえ、人狼を筆頭に丈夫で強い子達が揃っていたので鎧袖一触とばかりにバタバタとやられず、怪我人は出ても何とか死者は出なかったのですが――散り散りになって全滅寸前まで追い込まれました。


「部下から『戦いた~い』って煽られたとはいえ、あれぐらい視界利かないとこで直ぐに戦闘開始したロムルスの差配はマズかったわ。私は反対したのに~」


「兄者だって間違える事ぐらいありますぅ。兄者一人の所為にすんな」


「まあ、直ぐに立て直せなかったのは狼狽えた私らが逃げ回りつつ、撤退指示が飛んでんのに手近な敵を殺す事に集中してた所為っても大きいけどさ……」


「あれは最終的には兄者が収めてくれただろ?」


「まあね」


「完全に頭に血が登った俺らを一人ひとり探して、『冷静になれ』ってボコってきた兄者が直接撤退指示して、負傷者の治療と俺らの頭落ち着けるために一人で殿務めて、最後は反攻作戦でドーン! と撃滅して大勝利収めたんだからな。さすが兄者だぜ」


「皆の前では微笑んでたけど、アイツ、裏でメッチャキレかけてたわよ。怒鳴ったりはしなかったけど、頭抱えてた」


「マジで?」


「そりゃ、戦端切られると私らが好き勝手に暴れだしたからね。その所為で立て直し遅れたわけだし、死人は出なかったけど……それも結果論だしねぇ」


「かわいそうな兄者……」


「ちなみに暴れまわって、一番最後に回収されてたのは誰だったっけ?」


「俺です。かわいそうな兄者……」


「まあ、頭に血が登りやすい面々を上手く転がし損ねたのもアイツだけど」


「兄者の所為にすんな。ばーか、ばかばかばーか」


「バカって言った方がバーカ!」


「バーカ!」


「バーカ!」


 二人はしばし、ロムルスさんが見たら眉間を押さえて黙りそうな可愛らしい喧嘩を繰り広げていましたが、やがて止められる事となりました。


 ザイデンシュトラーセン士族の方が身体を温めるための差し入れとして、蜂蜜生姜を持ってきてくれた事で「わぁい」とそれにたかっていったのです。


 差し入れてくれた士族のダークエルフの女性も、苦笑しつつ二人を見ています。


「お二人は仲良いですねぇ。お付き合いされてるんですか?」


「お付き合いしてたの。主導権の取り合いで別れたけど、俺は今でも好きだぜ」


「私は嫌いかな。コイツと付き合ってると疲れるし」


「ひどぉい」


「アタランテちゃんは何か、普段より肩肘張ってる感じがするわ。異性としてよりも友達として張り合ってて、おかげで素直になれない的な匂いがする……」


「は、はあ? そんなことないし」


「コイツ、トロットロになると凄え甘えてくれる時あるんすけど、その時メッチャ可愛ウゴッ!? て、てめぇ……不意打ち肘打ちは照れ隠しでもひでぇぞ……」


「照れ隠しじゃないしー!」


「あはは、素直にならないと、そのうち誰かに横取りされちゃうわよー」


 ダークエルフのお姉さんがくすくすと笑いつつ、手を動かしました。


 髪についた雨粒を手櫛で拭い、次いで耳を触り、その手をレムスさんが咄嗟に掴んでいました。レムスさん本人も驚きながら、咄嗟に。



「ど、どうかしましたか、若様……?」


「あ、いや、ちょい、耳、触っていい?」


「は、はいっ。あぁ~、ごめん、アタランテちゃん、若様に手篭めにされるぅ」


「どうぞどうぞ」


 お姉さんは照れながらされるがままになっていましたが、レムスさんの方は極めて真面目な様子でダークエルフのお姉さんの身体を触りました。


 特に耳を触っていました。何かを確かめるように。


 そして触り終えた後、「いや、まさか」「でもそう考えたら……」と呟いた後、戸惑いギクシャクした様子でアタランテさんに向き直りました。



「アタランテ、バーネットさんのこと覚えてるか?」


「は? 当たり前でしょ? 出会ったばっかなんだから」


「バーネットさん、多分、エルフだ」


「……は? 何言ってんの?」


 今度はアタランテさんが戸惑う番でした。


 相方が唐突に、何を言い出し始めたかわからなかったのです。


「バーネットさんはヒューマン種でしょ、見た目的に」


「本人がそう言ったか?」


「そんな事ないけど……エルフの長耳だけ整形したって事?」


「いや、多分、全身整形してる」


「根拠は?」


「あの人、頭の横を触るような仕草してただろ? ありゃあ多分、整形前はあったエルフの耳を触る仕草だ。整形しても癖が残ってたんだろう」


 レムスさんはそこで一度言葉を区切り、冷や汗を垂らして再び口を開きました。


「それと全身整形の根拠は、ラカムのオッサンに対する態度だよ」


「態度?」


「あの二人は表向き、出会って間もない仲だ。なのにバーネットさんは初対面のオッサンに対して400万も借金肩代わりしてんだよ」


 青年はそれを損得勘定抜きで、バーネットさんがラカムさんの存在を父親に重ねてやった事だと思いました。思っていました。


 でも、踏み倒される心配すら相手に対して行う施しとしては思い切りが良すぎると考え始めていました。その答えも、推測ながら至っていました。


「ラカムのオッサンには娘がいる。同じエルフらしい」


「……バーネットさんは、その娘さんかもって事?」


「ああ。見た目は男でヒューマン種だったが――」


「復讐のために、全身整形までして、正体隠して近づいてるって事?」


「…………」


 青年は静かに頷きました。


 そして、士族戦士団に対して願い出ていました。


 自身の至った結論が「間違っていた方がいい」と、思いながら。




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