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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
一章:採油遠征と酒保商人
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冒険者寮


 魔物熊を狩り、街に帰ってきた少年冒険者のセタンタ君。


 それなりに首尾よくいったおかげもあり、夕暮れ時よりも早く帰ってきた彼は五体満足。されど、全身をノミやダニに食われつつありました!


 街に到着した彼はまず、安物の殺虫剤をかけてもらう事にしました。人体に害が無く、直ぐ効くものの、小一時間ほどほのかにウンコ臭くなる品です。


 セタンタは「生まれたての糞の臭いがする」などと言われる事をグッとこらえつつ、毛皮と内臓を売り、ギルドに向かいました。


 魔物を狩った証明として、彼は瓶に入れた魔物熊の目玉を二つ納品しました。


 魔物の中には殺すと塵となって消える種もいますが、大抵は死体が残ります。そのため尻尾などを刈り取って討伐数を証明するのが普通です。ただし、目玉はグロいのでギルドの職員も嫌がります。


 嫌がりはしますが、報酬はちゃんと受け取る事が出来ました。


 少し前まで必死にお金を貯めていたセタンタ君でしたが、最近はお金を貯める理由が半ば消失した事により、あまり金銭には飢えていません。でも、あるに越したことはないのでホクホク顔です。


 バッカス王国のギルドは国営で、真っ当な経営をしています。


 国営だから真っ当とは限りませんが、少なくともバッカスの冒険者ギルド――冒険者に依頼を振るための一種の職業紹介所――は報酬の未払いも起こさず、冒険者達に金銭面での安心と信頼を与えています。


 あとはギルドで一仕事終えた後の一杯を……とはいきません。


 昔はギルド内で飲食店の経営も行われてはいましたが、酒を飲んで酔っ払った冒険者が騒いだり床で寝たりするので、職員から上層部への嘆願もあり、ギルド内からは飲食店は一掃されました。


 冒険者連中は「待ち合わせに不便」「浪漫が無い」とブーブー文句を言いましたが、中にはギルド内で酔っ払ってブリブリと糞をする冒険者もいたので、彼らの文句は聞き入れられませんでした。せめてこまめに片付けしてれば良かったのに。


 いつの世も、マナーの悪い人がルールを変えてしまうのです……。


 そんな世知辛いような世知辛くないような事情なんて、セタンタ君は知ったこっちゃありません。まだ若く、酒の味の良さもよくわからないので、彼にとって仕事あがりの一杯はおおむね冷たく美味しいジュースでした。


 一応、酒は飲めるのです。


 バッカスでは基本的に14歳で成人で、セタンタ君は成人した折りに孤児院を追い出されました。最初からそういう約束でした。彼の中には少々心細い気持ちもありましたが、最近ではもうすっかり孤児院外の生活に慣れたようです。


 水分補給をしたセタンタ君は風呂に向かいました。


 広々とした大衆浴場でサッパリする頃には装備のウンコ臭も取れ、しばし寝椅子に転がってノンビリしすぎ、うたた寝しているとすっかり日が落ちていました。


 外食して寝床に帰るのも手ですが、今日のセタンタ君はもう夕食を家で食べる予約をしていたため、慌てて荷物をまとめて帰る事にしました。



 セタンタ君はいま、一人暮らしをしています。


 住んでいるのは冒険者寮。


 寮に帰ってきたセタンタ君は管理人の寮母さんに預けていた洗濯物を受け取りつつ、おみやげに熊肉を渡し、頼んでいた夕食をよそってもらって食べ始めました。


 冒険者寮は管理人さんに頼めば炊事・洗濯・掃除まで手配してくれる賃貸物件です。料金形態は色々ですが、セタンタ君が入っている寮は週に一度の個室清掃、週に五日の洗濯までは賃料に込みです。食事は別途、格安で作ってくれます。


 セタンタ君は孤児院を出てからは一時、オークの冒険者さんのお家に世話になっていたのですが、現在は寮で暮らしています。


 母性がたっぷり詰まった豊満な胸を持つ寮母さんに見守られつつ食事を終えたセタンタ君は部屋に戻り、大事な槍を手入れし始めました。


 大事なものは他にもありますが、孤児院を追い出される時に贈られた槍は彼の一番の宝物で、ずっと使っていたくて、せっせと手入れし始めています。


 セタンタ君が借りている部屋は六畳の居室に、同じ広さの納戸がついている部屋です。納戸というか、倉庫と言うべきでしょうか。


 一人暮らしを始める事にしたセタンタ君がいまの寮に決めた理由は、以前からの知人が経営してる事と、家事付きで道具を保管するための納戸があるためでした。


 冒険者が納戸や倉庫付きの部屋を借りるのはよくある事です。


 冒険に使う道具、武器防具を保管しておくのに便利なのです。


 特に向かう所、討伐対象となる魔物によって武器を変える冒険者などは武器の保管スペースが多く必要になるので重宝されています。中には地下に広い倉庫のある物件に住む冒険者もいるほどです。


 セタンタ君も「物置広いと便利」と聞き、この寮に決めたのです。


 倉庫だけ他所に借りるのも手なんですけどね。


 ただ、槍一本で特にかさばる道具を使い分けていないセタンタ君にとって、やや過剰な広さでしたが「そのうち使うようになるだろう」と開き直っていました。無駄な広さが余分なゴミを招かなければいいのですが……。


 その辺は深く考えてないセタンタ君は明日に備えてさっさと寝る事にしました。



「あ、そうだ、忘れないうちに払っとこ」


 セタンタ君は部屋を出て、厨房に向かいました。


 そこには水を操り、手で触れずに洗い物をしてる寮母さんの姿がありました。


「これ、再来月の分」


 どうも寮費を支払いにきたようです。


 月末に来月分を支払う契約ですが、冒険者として長期の遠征に行く事もあるセタンタ君は忘れないうちにさっさと払っているようですね。


 ついでに冒険者として稼いできたお金を渡して貯金もして貰う事にしました。


 寮母さんが預かり数え、記帳しているとセタンタ君の後ろから青年が近づいてきました。セタンタ君と同じく、ここに暮らしている冒険者さんです。


「お、セタンタ帰ってたのか」


「おう。そっちも遠征から帰ってきたの」


「ああ、予定より早くな。打ち上げも終わったんだが、これから飲みに行かね?」


「打ち上げのうちに存分に飲んで来いよ……」


 セタンタ君は飲みの誘いを断りました。一応、バッカス王国は14歳からが基本的に成人扱いで、それ以降はお酒も飲めます。


 けど、セタンタ君はまだお酒も大して美味しいと感じないようですね。


「あ、寮母さん、オレも寮費の支払い頼んます」


「はいはい、一ヶ月滞納してるのも含めて貰っておきますね」


「いやー、へへ、すんません、遠征行く前に払っときゃ良かったんスけど」


「いいのよ、帰って来なかったら貯金から差し引いたり、部屋に残ってる家具や武器防具を適当に中古屋さんに売っぱらって清算するから」


「ひぇー、それはご勘弁を」


 青年冒険者はジャラジャラとお金を出し、支払いを行いました。


 ただ、その支払った寮費はセタンタ君の二倍ほどの金額のようです。


 部屋の広さ含めた条件は同じなのですけどね。青年冒険者はセタンタ君に向け、「お前は割引あるからいいよなぁ」とこぼしています。


 セタンタ君が適用されている割引は、「ショタ割」といいます。


 この寮にある独自の割引制度で、まだ年若いショタ冒険者に対しては寮費などの割引が行われているのです。


 これは若年冒険者を支援するための寮母さんなりの慈悲――などではなく、ショタ好きの寮母さんがショタを侍らせるためにショタだけ優遇しているのです。


 青年冒険者もかつてはショタで寮母さんの寵愛を受けていましたが、いまはスネ毛ボーボーで遠征帰りの顔にはヒゲもちょっと生えています。なので昔はともかく現在はショタ割を受けられていないのです。


「非ショタの子なら、ウチよりもっと安いところはあるんですよ?」


「いや、そこまで金も困ってないし引っ越すの面倒くさくて」


「何なら良い冒険者寮を紹介してあげましょうか。10件ほど」


「えっえっ、まさかオレ、出ていってほしい流れ?」


 寮母さんはニッコリ笑って、「部屋が一つ開けば新しいショタを補充出来るでしょう?」と遠慮なく言いました。


 そんなぁー、と言って泣く青年冒険者と非ショタには積極的に退寮を迫ってくる寮母さんのやり取りに肩をすくめたセタンタ君はさっさと部屋に戻り、眠りにつきました。


 寮母さんがショタ抱きまくらを所望して呼びにきましたが、今日はフツーに寝たいので寝たふりをしてやり過ごしました。ちなみに寮母さんは既婚者です。


 バッカス王国の風紀はわりと乱れています……。



 セタンタ君も、いずれは非ショタになります。


 魔術で成長止める事も可能ですが、本人は「むしろ成長してほしい」と思っているようなので、いずれはショタ割も消えて出ていく事になるでしょう。 


 ショタ割は消えても、冒険者稼業は続けていきそうです。


 命の危険はありますが、セタンタ君はいまの稼業が嫌いではありませんでした。


 まだ若いとはいえ、働かなければ食っていけないのです。


 庇護して養ってくれる両親もいないので、働く必要があるのです。




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