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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
間章:星狩と家畜エルフ
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天文台



 シュセイにある観測所とは、天文台のようなものです。


 星狩りは隕鉄を目的としていますが、まずは隕石を見つけないといけません。


 その隕石を見つける方法は主に三種類あります。


 一つ、地道に探し回る方法。


 二つ、流星の光跡を頼りに落下地点に向かうという方法。


 三つ、落下前の隕石を観測所で早期発見するという方法です。


 シュセイの東側に広がる隕石地帯は異常なほど――実際、異常なのですが――隕石が落下してくるという事が長年続いています。


 観測所では宇宙そらにある落下前の隕石の動きを調査しています。


 望遠鏡や観測魔術、及び過去のデータを使っての落下地点の予測が行われ、予測地点付近で待機するという方法も取られているのです。


 これは上手くいけば落ちた後から隕石を確保しにくるよりも先んじます。


 ただこれは100%、先回り出来る方法ではありません。


 落下してくると予測していた隕石が落ちてこない事もあります。仮に落ちてきても落下予測地点から大きく外れた位置に落ちる、という事もあります。


 それでも落ちてきた後から探しにいくより競争になりづらいため、長年、落下地点の予測の精度を上げてきた星狩りの専門家達は観測所からの早期発見による星狩りも行っているのです。


 白狼会の二人はそんな観測所のうち、一つを訪れていました。


 シュセイに存在する4つの観測所のうち一つを管理している人達と縁があるため、それを頼りにお仕事探しと質問を兼ねて訪ねていきました。



「「こんばんわー」」


「おー……? おぉっ……!? カンピドリオの若様じゃねーか!」


「アタランテちゃんもいるじゃない。久しぶりー」


「どもー」


「この間は試合付き合ってくれてありがとな。爺さん喜んでたわ」


「いやいや、好き好んで参加しただけだよ」


 レムスさん達が訪れたのは「ザイデンシュトラーセン士族」という集まりでした。カンピドリオ士族と同じくバッカス王国傘下の士族です。


 カンピドリオ士族よりは小規模な士族ですが、武闘派士族としてバッカス建国以前から存在している由緒正しい集まりです。


 構成員は褐色のエルフ――ダークエルフという種族が主で、バッカス王国が出来る以前はあまり定住せず、各地を渡り歩く者達でした。


 カンピドリオ士族とは同じ武闘派ながらも喧々囂々と喧嘩したりはせず、共同戦線で魔物に挑み、商売での取引先としても親しい集団です。


 ザイデンシュトラーセン士族は以前から隕鉄目的でシュセイに士族戦士団の一部隊を常駐させており、取れた隕鉄は自前の輸送部隊で最寄り都市に運び、全てカンピドリオ士族が買い取っています。


 買い取られた隕鉄は大工業都市・ガリアに運ばれて必要としている工房に下ろされ、隕鉄製の武器防具として生まれ変わっていました。


 親しい士族の若様という事もあって、レムスさんは歓迎され、ちょっとした宴会に誘われる事になりました。大盤振る舞いという程の量ではありませんが、シュセイの相場で言えばかなり贅沢な量と品が供されました。



「こんなご馳走して貰わなくていいよー。いま物資事情大変なんじゃねーの?」


「いや、ウチの士族はそうでもないよ」


「自分のとこの輸送部隊にガンガン物資買い付けて持ってきて貰ってんのよ」


「あー、ザイデンの輸送部隊なら強行突破も楽勝か……」


 ザイデンシュトラーセン士族は元々、武装商人達の集まりです。


 各地を渡り歩いて交易を行い、邪魔をしてくる魔物や人間を倒していく過程で武力面でも強くなった事で武闘派士族として名を馳せているものの、商業活動は未だ怠っていません。


 士族お抱えの輸送部隊は士族戦士団の一部隊。


 護衛の戦士達だけではなく物資運搬の者達ですら戦い慣れており、そこらの隊商とは比較にならないほど危険地帯を突っ切る事など造作もありません。


 シュセイと最寄り都市を結ぶルートが荒れている状態であっても余裕綽々で物資運搬をこなし、シュセイの物資事情に大いに貢献しています。


 もちろん、慈善事業でやっているわけではありません。


「魔物が暴れてるおかげで競争相手が減ってるうえに、冒険者だけはガンガンやってくるからシュセイでの商売だけでもメチャクチャ稼いでるよ、いま」


「どこから仕入れても、売値が数倍に跳ね上がるから横流しボッタクリ祭よ」


「抜け目ねえ」


 現在のシュセイでは物資で困っている人が沢山います。


 喫茶の店主さんのように店じまいを検討している人もいますが、一方で冒険者増加という需要増の波に乗りに乗りまくっているのが彼らなのです。


 常駐部隊は星狩りをしつつ、物資需要の調査を行い輸送部隊に結果を報告。


 報告書と隕鉄を帰りの荷物として持ち帰っていき、商売敵が足踏みしているうちにピストン輸送を繰り返していました。


 商売敵となる隊商も黙ってはおらず、何とか魔物による封鎖線突破を試み――バーネットさんのように失敗して大損していく中、現状に非常に満足しているザイデンシュトラーセン士族はシュセイの商業分野でほぼ一人勝ち状態です。


「そろそろ行われる魔物の掃討戦が終わるまでの特需ではあるけど、星狩りに来る人が増えてるから、今より減るぐらいで十分商機はあるけどね」


「なるほどねー。ウチの総長もこれぐらいバンバン稼いでくれたらいいのに」


「言うな、年季が違うわ」


「ところで、若殿達はシュセイには何の用事で?」


「手紙の配達。てか変わらず行き来できてるなら、そっちに頼めば良かった気が」


「ああ、それ多分、ウチが断ったやつだ。受け取りの署名貰って届ける手間もあるから。ギルドの方から話は持ちかけられてたんだけど……面倒くさいから」


「なるほど」


「若様達は星狩りして帰られねえので?」


「出来れば手紙受け取りの署名が全部終わるまでやりたい。隕鉄というか金稼ぎしたいんで、ザイデンの方で使いっ走りとして雇って貰えねーですか?」


「露払いとかそういうのでもいいんで」


「それなら丁度、隕石取りに行きたいとこに魔物居座って困ってるとこあるから、若殿とアタランテちゃんに手伝い頼みたいな。二人なら何とか出来そう」


「「おまかせあれー」」


 かくして二人は星狩りのための魔物討伐の手伝いをする事になりました。


 どうもシュセイ全体で対応に苦慮している魔物の群れがいるようです。


 自治会が音頭取って精鋭部隊を供出し合って共同戦線を張る話もあったようですが、取り分や野営地の移転話で揉めている状況で話が進んでいないようです。


 そんな中、白狼会の力も借りて他に先んじ、採取出来ていない隕鉄を根こそぎ持っていこうという話が進んでいく事になりました。


 隕石地帯にも魔物は出没し、隕鉄採取を邪魔してくる事もあります。


 居座られると星狩りが滞る事もあり――隕石でポックリ死んでしまう事もありますが、今回はまだ倒す事が出来ていないようです。


 一同は「近場だから明日、作戦決行で」と手早く段取りを決め、今日野営地入りしたばかりのレムスさん達に魔物の詳細と作戦を説明していきました。




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