集合野営地の依頼掲示板事情
「まさか、俺ら二人が収穫無しで終わるとは……」
「というか、声かけるほどの子が殆どいなかったのがね……」
「アタランテ、モテない男みたいな言い訳してるぅ痛ァいッ!!」
二人の冒険は不作で幕を下ろしました。
折り悪く女性冒険者が殆どいなかった事もありますが、そもそもシュセイは水事情の悪さから水浴びもお風呂も行いづらい集合野営地。
それゆえに比較的、女性冒険者は訪れ難いのです。
意気消沈した二人はリサーチ不足を認めつつ、野営地内の酒場で騒ごうとしてお品書きの価格を見て――高すぎる事から――真顔で冷静になっていきました。
「高ぁい。どのお酒も高ぁい」
「シュセイってクソだわ」
「それな」
「私もう帰りたい。帰ってアンニアをもふもふしたり、ウブな女の子なりショタを口説いてお持ち帰りして首輪とかつけてあげたい」
「アンニアと女の子は同意だが、ショタかぁ……男はちょっとなぁ」
「女の子みたいに可愛い子がいたら、心揺らされない?」
「あー、それはあるかも」
「アンタもショタにドハマりして、すね毛が生えそろうのと共にイキって調子に乗ってきた元ショタの存在に辟易しながらショタの闇を知っていけばいいのよ」
「お前そういうヤツと別れる時に俺引っ張ってきて、『こいつ新しい彼氏だから』って言うのやめろよ。俺めっちゃ悪役になった気分になるんですけどぉ」
「だってだって、ちょっと自信ついてきたからって調子に乗る子多いんだもん。昔はあんな可愛かったのにな……と思い起こすようになるの」
「口実に連れて行かれた時は大体、『コレ、オレの女』って調子乗ってるヤツが多いけどよ。色を覚えたての男はね? そういう生き物になりやすいの」
「はいはい。ゴメンネー」
アタランテさんが両手の指先を合わせつつ、上目遣いで見つめるとレムスさんは「んもー」と言いつつ、鼻息と共に受け入れていきました。
「あとはアレだ、お前の男運は悪い方だと思う。ダメ男を引きやすい」
「そうかしら」
「あと、育成が下手。ショタでも精神的イケメンショタに導いていけばいいのに」
「ぐむぅ……。でも、アンタもダメ男よね……頭とか……」
「言うな! 俺なんて別れた女の子でも殆ど友好関係続いてるけど、お前の場合は別れたらもう別れっぱなしのヤツが多いだろ。俺と兄者ぐらいじゃね?」
「そんなことないですぅ。男はさておき、女の子とは全員仲良しのまんまですぅ。ちゅっちゅして開発してあげて、男のとこに旅立たせたり、本格的な百合道に踏み出していくのを温かく見守ってるのよ。男はともかく!」
「つまり男運は悪いんじゃね?」
「そうかも……!?」
二人はそんな話をしつつ、夕食を済ませて明日からの事について話し合いました。ナンパ……ではなく、星狩りをするか否かについて。
「観測所は、明日行けそうなら覗いてみましょ」
「夜も交代でやってるだろ? チラッと見に行って取り込み中ぽかったら明日にするとして、寄ってみようぜ。仕事あれば貰おう」
「んー……まあ、そうしましょうか。あ、差し入れ持ってくるの忘れてた」
「生姜酒なら持ってきたぞ」
「じゃあそれで」
基本方針としては星狩りによる隕鉄採取を狙いつつ、手紙受け取りの署名が終わるまでで出来る手頃な仕事を探す事になりました。
昼間から行けていない観測所も覗くことになり、連れ立って歩いていた二人は立ち止まり、何かを眺め始めました。さすがに今度は娼館ではありませんでした。
「おー、人増えてるだけあって野営地内の依頼も増えてるな」
「ホントだ。掲示板からはみ出してるじゃない」
二人が見始めたのは集合野営地の依頼掲示板です。
通常、冒険者に対する依頼は冒険者ギルドに集められます。
政府が依頼を発布するだけではなく、個人でも報酬を用意したら依頼を出す事が出来ます。内容次第では子供のお小遣い程度でも依頼が出せるほどです。
商会や工房が必要な素材を仕入れる時は冒険者と直接やり取りした方が早く、ギルドに仲介料も取られずに済むのですが――ギルドは万が一の保証や依頼の内容に適した冒険者を斡旋を行ってくれるので、政府以外の依頼もよく並んでいます。
冒険者側がギルドを通しての依頼の方が「今後に繋がる」と喜ぶという理由もあります。ギルドを経由した方が考課にも記録を残して貰いやすいのです。
ただ、シュセイのような集合野営地はギルドを使いづらい事情があります。
都市間転移ゲートが通じていないため、依頼するには一度首都まで戻らないといけないのです。余程、脚が早くないと往路でそれなりの日程がかかります。
そのため軽い依頼であれば止むなく、ギルドを通さず自治会が野営地に置いている依頼掲示板を使うのです。利用者は発布側も利用者側も冒険者ギルドによる万一の保証を受けられませんが、それでも使わざるを得ない時があるのです。
「概ね星狩り関係の募集だな。星狩り補充員募集、働きに応じて隕鉄山分け」
「こっちは自治会から水汲み部隊の増員募集と、水源調査の手伝い募集してるわ。ああ、あと、野営地警備及び周辺の索敵、土木工事手伝いとか……」
「彼女募集の依頼もあるぞ」
「ギルド介在してないから無茶苦茶ね……」
冒険者ギルドは国営であり、政府外からの依頼に関しても依頼人の素性を把握しつつ報酬に関しても事前に受け取ってキッチリ管理しています。
対してこのような集合野営地にある依頼掲示板にはお遊び、あるいは洒落の依頼が掲示される事もあるのですが、それ以上に酷い報酬未払いが起きることもあります。イタズラの依頼書が混ざる事すらあります。
それでもなお使わざるを得ない事もあるので、報酬に関してはしっかりと前払いで受け取ったり、ギルドに払うより少し高めの仲介料を支払って自治会なり大手の冒険者クランに仲立ちして貰っているのです。
結局、二人は依頼掲示板には頼らない事にしました。
2、3日でシュセイから出発しないといけない身なので拘束期間などが合う依頼が無かったのです。他、希望条件には合うものの怪しい依頼なので受注を控えたというものもありました。
立ち去ろうとした二人は依頼の内容に関して揉め、殴り合いの喧嘩している冒険者と依頼主の姿を見る事になりました。
周りが喧嘩を囃し立て「どっち勝つか」で賭けをしてるのを見つつ、冒険者側が剣を抜いたところで「はいはい、止めようね」と割って入り、遅れてやってきた自治会雇われの警備員の人達に任せ――ようやく――観測所に向かっていきました。