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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
間章:星狩と家畜エルフ
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集合野営地の水事情




 喫茶で食事を取り始めた二人でしたが、食事以外の目的も持っていました。


 シュセイ及び昨今の星狩り事情についての情報収集です。タイミング良く隕石が落ちて喫茶が空いていたため、店主さんは雑談ついでに話に応じてくれました。


「姉さん繁盛してるみたいだねぇ。人めっちゃ来るっしょ?」


「来るけど困ってるのよ~。もうシュセイでの営業止めるか検討中」


「ありゃ、そうなの?」


「私、これでも10年前からここで営業してるんだけど、確かにここ最近は星狩り目的の冒険者が来てるわ。でもねぇ、隕鉄……というか金目当ての冒険者がゴロゴロ来るから、毎日どこかしらかで乱闘騒ぎよ。やんなっちゃう」


 店主さんは少しすねた様子で唇を尖らせつつ、店の一角を指差しました。


 白狼会の二人がいるのは雨除けのための天幕の下にあるカウンター席でしたが――指さされたのは天幕の外のボックス席でした。


「ウチの店でも乱闘があってね? 机と椅子が壊されちゃったのよ~」


「ほー」


「そこにあるのは、新しく取り寄せたもの?」


「いや、乱闘騒ぎ起こしたアホの子達よ」


「「なるほどね」」


「まー、ウチの店はお酒出さないからまだマシね。2号野営地の縁六亭なんて酔っ払った子達が店の机で脱糞大会始めて、翌朝、その子達は冷たくなって肥溜めで見つかったそうよ。そのおかげで縁六亭の主人が疑われてるのよ~! 可哀想」


 バッカス王国には排便をしない種族もいます。


 が、大半の国民の皆さんが排便を行わないといけないため、集合野営地の一角でも肥溜めが出来上がっています。


 直ぐ近くは臭いのですが、臭いを抑えつつ肥料として転用する薬品が投入されているので野営地一帯が臭いという事は薬品をウッカリ切らした時ぐらいです。


 肥料に関してはシュセイからの帰りにお土産に持たして出荷――という事は流石にしておらず、集合野営地シュセイで欠乏しがちな野菜を育てるための肥料として試験的に使われている状態です。


 ちなみにトイレは野営地を囲む壁上にあります。肥溜めはトイレの下です。


「暴力的な子が多いうえに、この間から隊商の行き来が殆ど無くってねぇ……ウチも仕入れに困ってるのよ。ホラ、お品書きも殆ど消してるでしょ」


「ホントだ」


「言われてみれば確かに……これは閉店も検討したくなりそう」


「お冷も有料よ。ま、これに関しては……水は前から有料だけどね」


 シュセイは常に節水中です。


 周辺が乾いた荒れ地ばかりで水が豊富な場所ではなく、河すらろくに流れていません。井戸水に頼る――だけではまったく足りていない状態です。


 そのためシュセイには星狩りだけではなく、「水汲み専門」で雇われている冒険者部隊もおり、現在も皆でボトル担いでえっちらおっちら近隣の井戸周りを行っています。2日ほどかけて水を取りに行くためだけの遠征が行われる事もあります。


 雨はまさしく恵みの雨であり、喫茶がある場所の上に張られた天幕も中央部が僅かにくぼんでおり――そこに開いた穴から天幕で集めた水を垂れ流し、集める作業が行われる事もあります。シュセイ全体で見受けられる日常の光景です。


 また、野営地から少し離れた場所に人工も溜池も作られています。


 雨を溜めておく用なのですが……いま現在は底が見えている状態でした。


 都市間転移ゲートのある都市であればゲートによる転移でジャンジャン水を運んでくる事が出来るのですが、集合野営地であるうえにゲートを作るだけの下地レイラインの無いシュセイでは都市のようにはいかないのです。


 魔術は様々な不可能を可能とします。


 ですが、全ての不可能を軒並み解決するのは難しく、人間が生存のために必要な水がシュセイでは不足気味。ゲートのある都市でも、水の調達が困難になったら大変な事になるでしょう。


「人が増えた事で水の価格も高騰。1年前から言うと5倍に跳ね上がったわ」


「ひえー!」


「水売りの方は良い商売になりそうね」


「自治会が手配してる水汲み部隊以外にも水取りに行って売る子が出るほどよ。そっちはそっちで自治会が整備している野営地外の水場を勝手に使って、騒動になってたりするわ。蓋して土で埋めてた井戸が掘り返された跡が見つかってね」


「あらま……そりゃまた荒れそうな事に……」


「水飲めねえのは辛えぞ。食べれねえより水分取れねえ方が餓死早まるからなぁ」


「そうね。野営地の移転は考えてないの?」


「自治会の会議で何度も議題に上がっているわ」


 現在、シュセイがあるのは隕石地帯の直ぐ側です。


 今までであれば乾燥した現在の野営地でも水汲み部隊で対応は出来ており――出来るだけ隕石地帯に近づく事で星狩りの利便性を高めていました。


 しかし、それは星狩りに押しかける人の多さで崩されています。


 採水にかかる費用に関しては現地の水価格で何とかしていたわけですが、人が増えた事で水価格を引き上げるだけで調整すると喫茶の店主さんのように困る方々が続出するため、野営地使う事による水税も検討されています。


 それ以上に抜本的な解決に繋がるかもしれない「現在地より水事情豊富な土地への野営地移動」を検討し、水場調査も行っているようですが……。


「シュセイの水事情を厳しくしてるのは、冒険者が増えた事なのよ。だから半分ぐらいは野営地移転させつつ、シュセイはシュセイで残す案が主流ね」


「なるほど。それ踏み切ればいいんじゃねえの?」


「踏み切ろうにも、これは超揉める案なのよ……現在進行系で揉めてる」


「何で?」


「誰がシュセイ使うかで揉めてんでしょ」


 アタランテさんが氷無しアイスコーヒーを飲みつつ、そう答えると店主さんは「正解。その通りよ」と言ってニコッと笑いました。


 レムスさんも合点がいったらしく、確認のために口を開きました。



「シュセイは集合野営地としては隕石の被害が比較的少ないうえに、収容人数を区切れば隕石地帯に向かうには丁度良い位置なんだよな。北にあるタルタロス士族限定で使える都市を除けば」


「そうね」


「んで、シュセイ以外に水源しっかりした野営地を作るとなると……当然、隕石地帯から遠ざかる事になって、星狩りの利便性は悪い都市になるわけだ」


「シュセイが使えなくなるわけじゃないから、星狩りに便利な野営地を誰が使うか~って事で揉めてるわけなのよ~」


「なるほど。そりゃ揉めるわ……」


 これが都市なら、自治している人の差配で入場制限もかけやすくなります。


 実際、批判は浴びているものの隕石地帯北側にあるタルタロス士族の都市などは士族限定で星狩りに非常に便利な場所となっており、タルタロス士族は隕鉄採取で大きなアドバンテージを得ています。


 対してシュセイは自治会はあるものの、あくまで合議の場に過ぎないので誰が主導権を握るかなどの話題となるとそれぞれが「ウチが管理する」「いやいやウチのクランに任せろ」「邪魔だ」「お前が邪魔だ」「死ね!」と揉めてしまうのです。


「シュセイはいま星狩りの最盛期を迎えてるけど、最盛期過ぎて立ち行かなくなりつつあるのよ。皆、隕鉄で儲けたくて隕石の量は確かに増えてるわけだけど……」


「魚はいっぱいいるのに、漁港の方がギュウギュウでダメになりつつある感じか。へー、儲かってるのにヤバイ事になるって事もあるんだなぁ……」


「面白いでしょ」


「うん。けど、数日しか滞在しない俺が面白いとは言っちゃあいけない気がするなぁ……不思議だなぁ、って意見に留めとこ」


「いやいや、いいのよいいのよ。自治会のカス、アホ、ボケ、隕石の野郎、定期的に冒険者間引けとかそれぐらい言ってもいいのよ」


「こわぁい、このお姉さん」


「フフフ♪ そんなことないわよぉ~」


 喫茶の店主さんは大きな手のひらで青髭を撫でつつ、ニコニコと微笑みました。


「商売するならシュセイの水問題を何とか出来たら、儲かるのかね」


「ナス士族の天候管理部署から、雨乞い出来る子でも連れてきて頂戴」


「あー、無理。俺らカンピドリオ士族だから、ナス士族と仲悪いんで……」


「士族が仲悪いというか、向こうの士族長がウチらメチャクチャ嫌ってんのよね」


「あらそうなの? まー、水問題を解決するなり……もしくは人が増えてる原因である隕石の事を何とかしちゃって欲しいわ。私も元の状態に戻ればシュセイで商売続けるのもやぶさかじゃないし」


「そもそも、なーんでいま隕石が増えてんだろ?」


「それはね――」


 店主さんは気安く答えようとしてくれました。


 ですが、ちょうど先ほどの隕石を確保出来なかった冒険者さん達が舌打ちしながら帰ってきた事で接客で忙しくなっていきました。


「ちょっとごめんなさいね。暫く忙しそうだわ――オイ、椅子ども、逃げるな」


「いや、こっちこそ邪魔したうえに良い話教えてもらって有難うございました」


「どもでーす」


「隕石増加の理由を知りたいなら、どっかの観測所に聞きにいってみなさいな」


 白狼会の二人は顔を見合わせつつ、店主さんの言う通りにする事にしました。


 人型の椅子が示し合わせたように四方八方に逃げる光景を横目に、「仕事探しも兼ねて行ってみるか」と観測所に向け、野営地内を歩き始めました。




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