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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
間章:星狩と家畜エルフ
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集合野営地・シュセイ



 レムスさんが腐肉漁りの過去を聞いた翌日。


 隊商一行はもう大きなトラブルには見舞われず、目的地である集合野営地・シュセイに辿り着きつつありました。


 もっともラカムさんの機嫌は――怒り狂い叫ぶのは収まったものの――よろしくないもので、レムスさんが話しかけても無言しか返ってきませんでした。


 ただ、借金の肩代わりまでしてくれた雇い主であるバーネットさんに対してはぶっきらぼうに接しつつ、多少は気を使っているようです。


 レムスさんは二人のやり取りに少しだけホッとしつつ、隊商に声をかけて斥候として先行し――二つ丘を越えたところで目的地を視界に収めました。


「おう……! 前来た時の、三倍以上の規模になってやがる……!」


 シュセイはもう手が届きそうなほどの距離にありました。


 盛土によって作られた10メートルほどの土壁と、土を掘った後の堀に囲まれた堅牢な野営地が君臨しています。野営地の中央には陸地における灯台代わりとしてバッカス王国の国旗が高々と掲げられ、たなびいていました。


 魔物に対する防備としては実際に堅牢なもの――なのですが、シュセイは東側に隕石地帯が広がっている影響もあり、時折やってくる隕石で野営地が半壊する事もあります。隕石の大きさ次第では全壊です。


 その痕跡を示すように周辺は土が抉れ飛んだ隕石跡が点々と存在しています。


 また、土壁に囲まれた野営地そのものも点々と複数存在しています。一箇所により集まると一度の隕石でまとめて吹き飛びかねないので、分散しているのです。


 野営地の数は全部で六つ。


 バラバラの間隔で存在しつつ、それでいて各野営地の土壁上からいくつものロープが伸び、土壁間に渡されており、軽業師のようにロープ上を歩いて行く滞在者の姿もあります。


 たまにポロッと落ちていますが、身体強化魔術で着地し、そのまま大人しく向かおうとしていた野営地に大地を歩いて移動しています。


 最初からそうしていればいい話ではあるのですが……これはこれで野営地防衛戦時に地上にいる魔物を避けて野営地間を行き来する手段になるのです。つまり訓練も兼ねた軽業移動なのです。


 バーネットさん率いる隊商一行は少ない荷物ながらも中央の野営地に――市場のある中核野営地に進んでいきました。


 見張りの方々が手を振りつつ、隊商と声をかけあって中核野営地へと招き入れてくれました。一応は物資を持ってきた事もあって、見張りの方々以外にも人々が出てきてちょっとした歓待ムードです。


「物資不足のところ、よく来てくれた! シュセイは君達を歓迎する」


「それがですね、途中で魔物に大半の物資をダメにされまして……」


「あちゃ……! ま、まあ、全部がダメになったわけじゃないんだろ? 気を取り直して、自治会に顔出してから商談の方を進めてくれ」


「はい、わかりました」


「おーい、野次馬共ー、邪魔だー。退いてやってくれー」


「買い占め厳禁だぞ、自治会通してからの商談だ、下がれ下がれ」


「ちぇっ、シュセイも締め付け厳しいやりづらい場所になったぜ」


「オレたちの自由の地はどこにあるんだ~?」


「嫌なら出てけ」


「「やーだよ」」


 滞在中の商人や冒険者から「調味料買うぞ! オリーブオイルないか!?」「冷凍でいいから魚持ってきてないかー?」とかけられる買い付けの声を聞きつつ、レムスさんとアタランテさんは顔を見合わせました。


 隊商の行き来が魔物事情で止み気味なため、本当に物資に困っているようです。例年より星狩りに来ている冒険者が増えている事が拍車をかけているのでしょう。


 ただ、本当にどうしようもないほど物資が無いわけではないようです。


 皆さん、仕事でシュセイで来ているだけなので餓死者が出る前に協同で最寄りの都市まで帰還しようとするでしょう。自治会が厳しめに管理しないとと大変な事になりかねないようですが……破滅的な状態ではありません。


 その証拠にシュセイは「一山当ててやろう」とギラギラした目つきの方々で活気に満ち溢れています。中には自分達と同じ冒険者と思しきレムスさん達を見ると、露骨に「商売敵が来やがった……」と睨んでくる人もいるほどです。



「ああ、いいな……この野性味あふれる活気」


「私は嫌。少しだけ星狩り参加したらさっさと帰りたいわ」


「安心しろ、お前がテントに連れ込まれて犯されそうになったら俺が助ける」


「いや、そうなったら普通に相手の金玉潰して自治会に突き出すわ」


「なんだよぅ、たまには甘えてくれよぅ」


「たまには甘えてるでしょ……?」


「たまにな。トロけて、猫みたいに大人しくなっちゃった時とか、すげーかわいいよなー……お前……指くわえて物欲しそうに見てきてさぁ……」


「人前でそういうの言いふらすのやめなさいよ。もう」


 軽くイチャつくカンピドリオ士族の二人に対し、ラカムさんがとっても不機嫌そうに視線を飛ばしていましたが、二人はまったく構わずイチャイチャしました。


 そうこうしているうちに一行は野営地自治会のテントへと辿り着きました。


 その横に邪魔にならないようにどけつつ、バーネットさんは護衛と荷運びを務めてくれた一行に対して深々と頭を下げつつ改めてお礼を言いました。


「皆さんのおかげで無事にシュセイに辿り着けました。これでひとまず解散ですが、また縁がありましたらよろしくお願い致します」


「「「荷は無事じゃなくてスンマセン……」」」


「いえいえ! 命あっての物種ですよ。報酬に関してはギルドに預けているので、首都に戻り次第、そちらからお受け取りください」


「バーネットさんは暫くシュセイ滞在すんすかー?」


「隕鉄の買い付けとかして帰るなら、行きのお詫びに帰りの護衛手伝うけど……」


「ひとまず持ち込んだ商品の商談をする予定で、滞在はそこまで長くならないと思いますが帰りは大丈夫です。ラカムさん達と帰ります」


「よりによって腐肉漁りと……」


「うーん……考え直した方が、いいんじゃ……」


「ラカムさん達と、帰ります」


 バーネットさんは護衛の冒険者さん達と円満に別れていきました。


 ただ、全員とは別れずラカムさん含めて数人の冒険者さんは引き続き護衛をするようです。レムスさんとアタランテさんは別れる形ですが――。


「何なら、俺らも帰り一緒しようか?」


「こっちの用事済んでたら危険地帯突破するまではタダで付き合っていいけど?」


「大丈夫です。私含めて6人で帰りますし、帰りはもう荷物殆ど無いですから」


「そっか」


「こっちは少なくとも2、3日は滞在してるだろうから、何か困った事があったら言ってくれ。オッサンも――」


「…………」


 レムスさんはラカムさんに声をかけたものの、何と言っていいか迷い――自分の頭をガシガシと掻いた後、片手をあげてニッと笑って言いました。


「何か困ったら言え」


「テメーみたいな金持ちのボンボンに話しかけられる事が、困った事だよ……」


「そう言うなって。まあ、例えば腐肉漁り稼業から脚洗いたくなったら言いに来てくれ。俺は金持ちのボンボンだからよ、多少は転職先紹介出来るぜ」


「…………」


「それこそ商人稼業とか……やり直してみたいと、思わねえかい?」


「…………」


「即答じゃなくていいよ。決心ついたら声かけてくれ。これ、俺の家の住所だ」


 レムスさんは白狼会の事務所兼自宅の住所を紙に書いて渡しましたが、ラカムさんは受け取ったそれを直ぐにくしゃくしゃに丸め、地面に投げつけました。


 そして、眉間にしわを寄せた一瞥を向け、「見下してんじゃねえ」と言ってその場から去っていきました。バーネットさんに「宿の準備しとく」と言いながら。


 レムスさんはそれを見送りながら投げ捨てられた紙片を拾い上げ、指先で丁寧にほぐし広げ、隊商の主に話かけていました。


「バーネットさん……住所これ、頼めるかい?」


「はい。折を見て……受け取ってくれそうな時に、渡しておきます」


「すまねえな。アンタも困った事あったら頼ってくれ。いまちょっと事情あってカンピドリオ士族からは離れてるんだが、自分で冒険者クラン設立してっから、今回に限らず護衛の仕事とか受けれるぜ。派手に戦う案件とか大好き」


「ありがとうございます。機会が……あれば……頼りますね」


 ラカムさんは怒り、去っていきました。


 ですが、バーネットさんの方とは微笑み合いながらの別れとなりました。


 別れた後、チラリと見るとバーネットさんは例の癖を続けていました。レムスさんは「何の癖なのか聞くの忘れてたな」と思いつつ、別れていきました。


 自分でもどこかで見覚えがあり、喉元まで出かかっている不明な癖を気にしてはいたものの、大して問題視していなかったのです。




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