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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
間章:星狩と家畜エルフ
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隊商の危機



 戦闘の気配を感じ、レムスさん達は予定していた経路を少し逸れました。


 魔物に襲われている者達が優勢なら見守り、劣勢で危ない状態なら救援をしようという事で丘を駆け上がり、そこから戦闘の様子をみたところ――。


「あ、こりゃヤバイわ」


「隊商みたいだが――」


 どうも商人と護衛の冒険者達が魔物の群れに襲われているようです。


 襲われ、迎撃のための戦闘を行っていたところ――対処に手間取り――最初に襲ってきた魔物以外にも敵を呼び出してしまい、取り囲まれつつありました。


「荷物はもういい! あちらの冒険者を追って、逃げなさい!」


「あっ! あの腐肉漁り……自分だけ、さっさと……!」


「役に立た――ぐおお!?」


 隊商の主が――商人と思しき人物が号令を飛ばし、荷物を捨てさせ、皆で逃げようとしていますが時すでに遅く退路も塞がれつつあります。


 そんな中、レムスさんは「おや?」と隊商が逃げようとしていた方向を見ました。そこに一人だけ手早く逃げ出した――腐肉漁りと呼ばれた人物がいたのです。


 その人物はレムスさんの見知った人物ではありましたが、ひとまずは怪我人も出つつある隊商に向かい、突っ込んでいきました。


「アタランテ!」


「はいはい、手紙と武器以外下ろすわ――そのまま進んで!」


 アタランテさんは声かけられる以前からレムスさんの背に乗せていた荷物を投げ下ろし始めていました。これから戦闘を行うのに邪魔になるためです。


 魔物との遭遇戦となると荷物を丁寧に下ろす暇などなく、投げ置かないといけなくなる事があるため、荷造り段階で必須で無ければ割れ物は入れません。


 二人もそうしていたため、躊躇なく捨てました。


 最悪回収出来ない事もありますが、その時はシュセイに向かって必要最低限だけ揃えつつ――今回の仕事である手紙の配達だけは完遂しようとしているようです。


 荷物を下ろしたアタランテさんは程よく突撃したところでレムスさんの背から飛び降り、流れ矢が味方に向かわないよう注意しながら射掛けていきました。


 レムスさんも四足歩行のまま突っ込み、前足の爪を魔術で強化し、魔物を踏みつけ殺しつつ、アタランテさんが背に残してくれていた武器のハンマーを振るい、隊商の人達の側に立って身を挺して庇いながら参戦していきました。


「助けに来――いてっ! 味方だよ人間だよ!」


「ひぃぃぃ!」


 人狼状態のレムスさんが魔物に間違えられ、お尻に矢を受けるという事もありましたが――混戦状態だとわりとよくある事なので――レムスさんはプリプリ怒りつつも矢を引き抜いて再生して、直ぐに気にせず魔物だけを殺していきました。


 そして隊商の主を岩の後ろに連れていき隠しつつ、事情を聞きました。


「カンピドリオ士族のレムスだ! ここの隊商はアンタらだけか!?」


「さ、先に逃げた者が……連れも……助けに行かないと!」


「あー! アイツは放っとけ! 大丈夫大丈夫!」


「いま死なれては困ります……!」


「あっ! ちょっ!」


 隊商の主――男性らしき商人はレムスさんの制止も聞かず、護身用の剣を抜き、先に逃げていった男の方へ駆けていきました。


 明らかに隊商を見捨てて先に逃げた男――猫背のエルフ――なのに、助けにいくつもりのようです。レムスさんは呆れつつも、完全には止めず叫びました。


「アタランテ! こっちは俺がやるから向こう助けてやってくれ!」


「はいはい」


 アタランテさんが魔矢の爆撃を放ちつつ、隊商の主――そしてその主が追っている男がいる方向に向けて素早くかけていきました。


 さらに10体以上の魔物が詰めかけてきましたが、人狼が振るう槌に次々と殴り倒され、ひとまず急場は凌ぎました。



「よっしゃ。とりあえず魔物は何とかなったが……」


「た、助けてくれてありがとう、カンピドリオの人」


「おかげで何とか死人は出なかったよ……」


「そりゃ良かった。命あっての物種だからな」


「ひぃぃぃ!」


「おい、この錯乱するあまり、俺のケツに10本も矢を当ててきたアホを気絶させていいか? 大丈夫、ちょこっとだけ……殺しはしねえからよぉ」


『ど、どうぞ』


 一名、錯乱の末に気絶しましたが、何とか全員無事だったようです。


 重傷を負った者もいましたが、そちらも治癒魔術で何とかなりそうですが――。



「すまん、さすがに荷物全部は守りきれなかった」


「オレらは雇われだからいいっすけど……」


「バーネットさんが、ヤバイかもな……」


 護衛の冒険者達が気まずげに顔を見合わせました。


 彼らはあくまで護衛として雇われていただけで、運搬されていた荷物に関しては彼らの雇い主――つまり隊商の主の所有物でした。


 どうも運んでいた荷物が魔物に駄目にされた時の保証契約は結んでいなかったらしく、護衛の方々はホッとしつつも責任を感じて気まずそうにしているようです。


 ただ、護衛として雇われていた一人は違いました。


「ややっ! 皆さん、よくぞご無事で~!」


『…………』


「いや~、良かった良かった、全員無事みたいですねぇ。いやいや、わたくしめも必死に皆さんから魔物を引き剥がそうと囮を買って出た甲斐がありましたよ」


 自分の命大事に真っ先に逃げ出していた人が揉み手をしながら戻ってきた事で、場の空気は冷え切っていきました。


 その人物の後ろには――助けにいっていた――隊商の主とアタランテさんの姿がありました。アタランテさんは呆れ顔。隊商の主は引きつり気味の苦笑いを無理に浮かべている様子でした。


 他の冒険者さん達は、石でも投げそうな勢いで怒り始めました。


「何が囮だ! 真っ先に逃げただけだろうが!」


「バーネットさんが逃げる許可くれる以前に逃げてただろ!!」


「えぇ~? そんなことないですよ~?」


「大体、この経路選んだのアンタだろ!? おかげでのこのザマだよ!」


「はあ~? 人の所為にしないで貰えますカネ~!?」


「おい、おい、そこらにしとけよ、オッサン」


「うっせ! 邪魔すん――ゲーッ! カンピドリオ士族の……!」


「久しぶり……ってほどでもねえか。確か、ラカムって言ったっけ、アンタ」


「ケッ……」


 腐肉漁りの冒険者、ラカムさんが足元にツバを吐きました。


 レムスさんにとってはジャンヌちゃんを探して首都地下に潜った時ぶりの人で、仲が良いわけではありませんが――悪名は知っているので――マジマジと見つめながら疑わしげに問いかけました。


「何でこんなとこいるんだ? 腐肉漁りのアンタが」


「いちゃ悪いんですかよぅ」


「また何か悪さ考えてんだろ。いい加減にしとけよー」


「人聞きの悪い! 俺はね? 金持ちのボンボンやってるアンタと違ってクソ真面目に毎日のように働かないとやってけないんだよ! 真面目に! 働いてんの!」


「ウソくせー」


 ラカムさんは常に何かしらの悪さをしてやろうと考えている人ではありましたが、しかし、今回は本当に護衛兼案内役として動いていたようです。


「俺はこう見えてもこの辺の事情には詳しいんだよぅ。その辺の見識を買われて、シュセイへの案内役やってるわけ。わかった?」


「マジでこのオッサンに案内任せてんの? ええっと……」


「バーネットと申します。ええ、ホントですよ」


 隊商の主――バーネットと名乗った人物が微笑みながら頷きました。


 声色は穏やかですが低音で、声と同じく柔和な顔立ちの男性のように見えます。


 バッカス王国にも多く存在するヒューマン種のようです。


 褐色の肌と黒髪を持ち、髪の方は刈り上げているものの体つきは細く、低音の声と髪型が変われば女性のような人物でした。その瞳は特徴的な赤色でした。


 先ほど魔物に運んでいた商品を駄目にされたばかりであるものの、その件は「まあ、皆さんが無事で良かったです」と言って明るく笑いました。


 半分以上の商品がボロボロになり、残ったものも魔物の獣臭で汚され、殆ど売り物として耐える状態では無さそうでしたが、まったく気にしていないようです。


「全てが駄目になったわけでは無いですからね。無事なものを回収した後、改めてシュセイの方へと向かいましょう」


「あー……その件なんだけどよ、バーネットさん」


「商品の保証契約は結んで無かったけど、護衛の前金は半分返すよ」


「全額貰うのはさすがに心苦しいし……。もちろん、このままシュセイまで付き合うけど、こりゃもう成功報酬も貰える状態じゃないから、そっちもいいよ」


「いえ、お気づかない。こうなる危険があってなお、シュセイに行く事を決めたのは私です。自業自得ですよ。皆さんが気にしなくても良いんです」


 数人は黙ったままですが、護衛の半数が報酬についての減額を申し出たものの、バーネットさんは笑ってそれを断わりました。


 レムスさんは「商人らしからぬ言動」と言いかけましたが、「まあ商人が全員がめついわけでもねえ」と思い直して黙りました。


 ただ、一つ引っかかる事がありました。


 バーネットさんが変な仕草をしていたのです。



「ん……?」


「どしたの、レムス」


「ああ、いや……何でもねえ」


 レムスさんが見た「変な仕草」とはバーネットさんの右手の動きでした。


 微笑みながら減額の譲歩を断わりつつ、右手を頭の横に持っていき、何かを触るような仕草を見せていました。ただ、そこは何もない空間でした。


 あるといったら直ぐ側に頭があるぐらいですが、自分の頭や耳を撫でるという事もなく、頭の横を何かの癖のように揉み、撫でそうになっていました。


 レムスさんはその仕草が少し引っかかりましたが、直ぐに気にせず――約一名の所為で喧嘩に勃発しそうな隊商の様子を見守りました。


 喧嘩を起こしそうなのは、ラカムさんの存在でした。


 他の冒険者が譲歩しているのを見てもヘラヘラと笑い、それだけではなく「アンタら真面目だねぇ」と言って揶揄し始めたのです。


「くれるって言ってんだから貰っとけばいーじゃねーの」


「アンタがそれを言うか!」


「言っちゃ駄目かねー? 俺はねぇ、別に悪い事してないしー? 商会からの紹介とはいえ、わざわざシュセイまで行くんだ。金貰えないとやる気出ませんわー」


「コイツ……!」


「まあまあ! 私が気にしてないので、怒りを収めてください!」


 ラカムさんを殴ろうとしていた冒険者さんの前にバーネットさんが慌てて飛び出て、押しとどめた事で何とか喧嘩沙汰にならずに済みました。


 レムスさんはその様子を見つつ、隣のアタランテさんを軽く突きました。



「なあなあ、アタランテ」


「何よ。シュセイまでタダで護衛手伝ってあげるつもり?」


「駄目か? 何か可哀想だ」


「まあ、ここまで飛ばしてきたし……行程的には、あと1日ぐらいかしらね」


 アタランテさんは大まかな地図を思い浮かべ、思案した後、頷きました。


「1日、2日ぐらいなら遅れてもいいわ。最悪、私だけ先にひとっ走りして手紙だけ届けにいくから、多少はアンタのお人好しに付き合ってあげる」


「わかった。ごめんなー、甲斐性無しで総長で」


「そんなの今に始まった話じゃないでしょ?」


「へへー、よくわかってらっしゃる」


「私、周辺の索敵しながら荷物拾ってくるから、話つけといて」


「了解」




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