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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
間章:星狩と家畜エルフ
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新しい仕事



「それでは、レムスの敗北を祝して――」


「祝すな! 乾杯!!」


『カンパーイ!』


 夜。闘技場の昼興行が終わった後、レムスさんはアンニアちゃんやアタランテさん達と共に焼肉会へと参加していました。


 場所は昼間と同じ闘技場で、現在は夜興行中。


 興行を観戦しながら飲み会を行えるスペースにて、レムスさんは友人らと談笑しつつ、闘技観戦もしつつ、飲み食いしながら「あーだこーだ」とフェルグスさんとの立ち会いの感想と反省、意見交換をしているようです。


 そこにはパリス少年とライラちゃんの姿もありました。


「おう、パリス、飲んでるか!?」


「う、うん。酒じゃねえけど……」


「酒飲まねえと大きくなんねえぞ! ほれ!」


「えぇぇ……」


「あにゃ! にいたん悪い子っ!」


 少年にアルハラをしているレムスを見つけたアンニアちゃんがプリプリと怒りながら「あにゃにゃにゃにゃ!」とお兄さんのお尻を太鼓にしました。


「飲まない人にすすめちゃだめって、パパいってた! めめめっ」


「いてて! でもよぉ、アンニア、メシもいいけど酒も良いもんだぜ」


「めめめっ」


「いてて!」


 レムスさんは口尖らせて「わかりましたよぅ」と妹ちゃんの言うことに従いつつ、「むふっ♪」と満足げな笑みを浮かべている妹ちゃんを抱っこしました。


「まあ酒は飲まなくてもいいけど、ジャンジャン食べろや、パリス。ライラちゃんもな。フェルグスのオッサン帰ったから、その分もな」


「う、うん」


「支払いは俺持ちじゃねえけどな!!」


 快活にそう言い、ゲラゲラと笑ったレムスさんにアンニアちゃんも抱っこされながらケラケラと笑い、追随しました。


 支払わされる事になった人達――レムスさんの友人やカンピドリオ士族の仲間からは「ぶぅぶぅ」と文句が飛ばされてきていますが……。



「レムス若、別に払ってくれてもいいんですぜ?」


「そうそう。次期士族長の懐剣として、人心掌握のためにも大盤振る舞いを」


「うるせー! お前ら人の勝敗で金賭けやがって!」


「若様まだ怒ってる~」


「怒ってるので、今日勝ったヤツらの奢りで頼むぜ」


『へ~い』


「お金の出処は負けた方の気がする」


「私は若様の勝利を祈願して賭けたのに~」


「いやあ、悪いなぁ。安心しろ、次は勝ってやるから全財産つぎ込んでもいいぞ」


 レムスさんはヘラヘラ笑いましたが、直ぐに頬掻きつつ少しだけ神妙な顔つきになり、この場に集まった人達に語りかけました。


「まー、お前らも承知の事だとは思うが、闘技場で賭け事すんなら個々人でやり過ぎんなよ。賭けるなら闘技場が仕切ってる正式な賭博でやれ」


 昼間、レムスさんとフェルグスさんが戦い、いま一同が観戦している闘技場は一種の公営賭博です。バッカス政府が許可を出し、カンピドリオ士族が闘技場の運営共々取り仕切っている形です。


 その手の公営賭博以外に少額のちょっとした賭け事ぐらいであれば、普通は政府や都市を自治している士族も目くじらは立てないものですが――。


「ここはウチの士族のシノギの一つだからな。ほんの少しの金額だったとしても、興行にタダ乗りしてると、怖~い人達が暗がりに連れて行っちゃうぞ~」


『は~い。以後気をつけまーす』


「よろしい」


「怖い人って、具体的に誰が来るんです?」


「若様ならむしろ暗がりに連れ込んでほしいんですけど~!」


「ウチのおふくろがくるかも」


「あっ、洒落の通じない御方……」


「こ、殺される……また殺される……!」


 レムスさんのお母さんをよく知るカンピドリオ士族の方々が――泣く子も黙る人狼達がガクガクと震える中、レムスさんは笑ってパリス少年に話しかけました。



「そういやパリス、何か新しくパーティー組み始めたんだって?」


「しょなの? タンタちゃんたちとケンカちたのんっ?」


「ケンカとか、そういうのじゃなくて……セタンタ達は教導隊に参加するからいないからさ。オレはオレで、冒険者活動してんの」


 パリス少年は頭を軽く掻きつつ、事の成り行きを説明しました。


 今日はパーティーでの活動は休みですが、彼なりに考えて――今後の冒険者活動の糧にするためにも――自分で決めて募集をかけてみたのです。


 幸い――幸い? まだ経験と実績の乏しい少年でも実力の上では十分に強い方が揃ってくれたようですが、癖が強い性格が二名ほどいるので苦労してるようです。


「ケパロスさんは当然強いんだけど、ジャンヌがヤバイ。ホント強い。ただ血に酔ってくると凄い勢いで突っ走ろうとするから……」


「あぁ~、そりゃ困るよな。地下の時から何というか、普通よりネジがハズレてる子だとは思ったが……和を乱されると本人どころか周りも危なくなるからなぁ」


「でもアイツ、ホントすごいんだ。ガラハッド達みたいに教導隊に呼ばれてもおかしくないぐらいになりそう。そういうヤツが、思い切り良すぎて無駄に死んだりしたら……勿体無いと思う」


「ふーむ……」


「オレ達のパーティー、今のとこ森狼とか狩ってるんだ。でも、ジャンヌやケパロスさん、それにライラは森狼以上のものも狩れるだろうし、狩場とか変えるべきなのかな……って、思ってるんだけど……」


 少年は思案顔で「レムスさんならどうする?」と聞きました。


「俺かー。ま、パリスの頭の中で大体の方向性は考えてんだろ?」


「一応は……」


「考えあぐねてるのはジャンヌちゃんが暴走しがちって事と、狩場を変えた場合、自分がついていけるかどうかが不安って事……じゃねえか?」


「……うん」


「ジャンヌちゃんは普通の子とは違うが、お前と同じ人間だ。ひとまずパーティー組んだ仲とはいえ、放り出したくねえなら膝突き合わせてよく話するしかねえ」


「うん……」


「根本的な問題は本人の理性が飛んでる事だからなぁ。最終的には本人がしっかり自制しなきゃあならねえ。その取っ掛かりつくるなら……ジャンヌちゃんが言うこと聞きそうな相手も交えて、話すべきなんじゃねえのかな?」


 レムスさんのアドバイスに対し、パリス少年は首をひねりながらも「言うこと聞きそうな人……」と呟き、考え込みました。


「うーん……あ、何か、親のことは結構聞いてるっぽい、かも。仲は良いみたいだけど、怒られるのやです~って言ってた」


「それが突破口になるかもしれねえ。ならねえかもしれねえ。フツーに言って聞いてくれそうにないなら、その辺をネタに……親御さん交えて話をする以外にも、突っ走ろうとした時に親御さんの事を話すとかな」


 レムスさんは笑いつつ、お酒をグビッと飲み干しました。


 隣の少年が酌をしてくれている間にアンニアちゃんのために焼き鳥を串から外し――アンニアちゃんに「めめめっ!」と外すのを怒られつつ、少年に対して言葉を続けていきました。



「もう一つの問題、お前がついていけるかに関してだけどよ」


「うん……」


「なるようにしかならねえさ――って、突き放すのは無責任過ぎるな。まー、そこまでお前一人で重く考える必要はねえだろ」


「皆の意見もよく聞けってこと?」


「そうだ。相談するのは大事だぜ~。何でも一人で決めていく隊長リーダーもいるけどよ、そういうのは自分一人だけでも色んなことを知ってるヤツだけの特権だ」


「あー……オレ、そういうのは無理かも……」


 少年は「頭悪いし、頼りねえから」と言って頭を掻きましたが、レムスさんは肘で軽く突いて「なら悪いとこを改善していかなきゃだな!」と言いました。


 二人の話を聞いていたアタランテさんが「計算……支出……赤字……」と呪詛の如き呟きをレムスさんに送ってきましたが、レムスさんは目を逸しました。


「仲間の意見もよく聞いて、相手の意見を受け入れたり、後で角が立たねえように事を進める話術っていうのも、魔術並みに重要になってくる力になるぜ。そいつもまた立派な技術だ――って兄者が言ってた」


「技術かぁ……。魔力とか魔術適正の問題が無くても、話術とか、苦手だ。でも……苦手ならなおのこと、実際にやってみたりとかしないとダメなのかな」


「だろうな。まあ、魔術適正をどうにかするより、後天的に何とか身につける事が出来る技術ってのは結構有難くねえか。努力で誰でも何とかなるんだから」


「なるほど」


「ま、とりあえずは仲間とよーく話すとこから初めてみな。皆、お前と同じく悩んだり思うところがあったりする人間だ。案外、身近な仲間達の意見で良い答えが見つかるもんさ」


「オレがついていけそうにないなら、パーティー解散も手かなって思ったんだけど……もっとこう、身の丈あった感じで……」


「まー、確かにいきなり隊長務めるのは思い切ったなぁ、と思うぜ」


「ぐぅ……」


「けど、もう実際にパーティー集まったんだから、思い切った甲斐あったろ」


「そう、なのかな……?」


「いまあるもんでやりくりして、足りないもんは修行で手に入れればいいさ。でも、お前の場合は現状でも工夫次第で色々出来るだろ」


 レムスさんはパリス少年の音の魔術について語りだしました。


 それは特別珍しい魔術ではありません。適正無くても覚えやすい部類にある魔術であり、熟練冒険者ぐらいになってくると色んな人がある程度は使えます。


「ただ、比較対象を駆け出しや中堅冒険者に限れば、お前の魔術も中々捨てたもんじゃねえぞ。集団戦でも活きる魔術だ」


「集団戦で……」


「例えばある程度デケえ魔物相手であれば、一人でもわりとバチバチやりあえるジャンヌちゃんや、あのドワーフの爺さん辺りは独立で動かし、他はライラちゃんがゴーレム使った盾役として動いて魔物を取り囲む。で、お前は消音魔術で相手の耳を塞いでやるんだ」


 パリス少年はレムスさんの語った魔術の運用法に対し、首をひねりました。


 レムスさんは具体的にどういう意図がある方法か語りかけようとしましたが――少年が頭をひねって答えに至ろうとしているのを見て、黙ってみまりました。


「そっか……魔物が、音で後ろを取られつつあるのとか判断し辛いから、正面にいるヤツは逃げ回って後ろに陣取ってるヤツらがチクチク攻撃していく、とか?」


「そういう方法もあるな。正面から斬り伏せるのばっかりが強さじゃねえ。味方が立ち回りやすくするのも一つの戦い方さ」


 青年はニッと笑って「そういう方法なら、自信もって役割持てそうだろ?」と言いながらさらに言葉を続けました。


「とはいえ、いきなり強すぎるのとやりあうのは危ない。ジャンヌちゃんの件もあるし、相談しつつ……仮に狩場変えるとしたら、ひとまずは都市近郊である程度大きな魔物で、なおかつ動きは鈍い相手がいいだろうな。相手速えとサクサク対応迫られるから、パーティー半壊しやすいし」


「なるほど」


「なんなら、手頃な狩場と魔物教えてやるよ」


「いいの!?」


「詳しくは自分で調べてみろよ~」


 レムスさんは酔いつつもしっかりした筆跡でメモを残し、それを少年に渡して感謝されつつ、良い気分で酔いながら会話を続けました。


 宴会の席で少し萎縮気味だった少年も、そうやって身近な事を話しているうちに緊張がほぐれてきたらしく、次第に饒舌となっていきました。



「あ~! でも、どうせならオレ様も正面でやりあえる強さがほしいなぁ」


「気持ちわかるが結構、茨の道だぞ」


「うー……でも、今日のフェルグスの旦那とレムスさんがバチバチやりあってんのみたら、オレも、ああいう戦いが出来たらなぁ……って思うよ」


「あるある。そういうのあるな。その気持ちは結構な原動力になるぞ。エレインさんに自慢……もとい、聞かされたんだが、槍の訓練とかもしてんだろ?」


「うん」


「いまエレインさんいねえし、何なら俺も手合わせしてやろうか? 弩使った手合わせはしてるけど、槍とか使ったのはまだだったろ」


「うへー、怖いけど……いいの?」


「おう! 何なら明日にでも」


「レムスレムス、盛り上がってるとこ悪いんだけど」


 アタランテさんが慌てた様子で二人の会話に割って入ってきました。


「明日はもう仕事入れてるでしょ。訓練は帰ってからにしなさい」


「あっれぇ? そうだっけ? 何やるんだっけ?」


「手紙配達の代行よ」


「「手紙配達の代行」」


「パリス君が疑問に思うのはわかるだろうけど……レムスも不思議そうに首をかしげるのやめてくれる? 殴っていい? 後で殴る」


「暴力反対! 争いは何も生み出さないぜ!」



 ひとまず、稽古に付き合うのは延期となりました。


 レムスさんとアタランテさんは、手紙の配達に行かねばならないのです。


 手紙の配達先は都市郊外のようでした。



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