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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
六章:お別れ
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2/2 やがて絶望に至ろうとも、



 ある日のこと。


 冒険者になった少年は、まどろみの中で夢を見ていました。


 それはあくまで、夢の中での話でした。


 夢の中の話の、はずです。


 夢の中の少年は笑顔で、仲間達に告げました。



「よぉし、今日は、あのデカい大木まで冒険にいくぞー!」


「おう」


「わかった」


「ワフッ……」


「はーい」



 槍使いの少年は微笑みながらも気安い調子で応じてくれました。


 剣士の少年はそれが当たり前のように真面目に応じてくれました。


 少年に付き従う小型犬も、小さな尻尾をフリフリしながら応じてくれました。


 索敵手の女の子は片手上げつつ、宙に浮遊しながら応じてくれました。


 ただ、女の子は少年の言葉に少し訂正を入れました。



「あ、パリス、あれ多分、木じゃないよ」


「なにぃ、そうなのか!?」


「塔だよ、アレは」


「む……確かに、よく見てみると……そう、なのか?」



 少年は魔術を使い、遠見をしようと試みました。


 ですが、出来ませんでした。


 少年自身が不思議そうにしているうちに周りの仲間達は次々と遠見の魔術を使い、少年が木だと思っていたものが「塔の類だろう」と言い出しました。



「双塔……いや、二股の塔のように見える」


「人工物っぽいな……。塔だとして、何階建てかね?」


「大体250mぐらいの高さがあるみたい……48階ぐらいかな?」


「皆、遠くまでよく見えるんだなぁ」


「お前も遠見の魔術で見ろ。教えてやっただろ?」


「うん……あれ……? あれっ……?」


「というか、ここに導いたのはパリス、お前だろう?」


 少年剣士が告げると、少年は「そうだったっけ」と呟きました。


 呟きつつも、衣服のポケットを探りました。


 その手には一枚の地図が握られていました。


「ああ、うん……そうだったな……地図これの通りに来たんだ」


「何を呆けてるだ。お前が仕入れてきた情報だろう?」


「うーん……そう、だった、よな?」


「調子悪いなら……今日のところは、帰るか?」


「ば、ばか言え。オレ様はいつでも絶好調だぞ」


 少年はそう言って、身体強化魔術を使って飛び跳ねようとしました。


 軽やかに、高く、飛ぼうとしました。


 飛べませんでした。


「ホントに大丈夫か……?」


「えらく重々しい飛び方だったぞ……」


「そ、そんな事ねえよ。オレ様は元気だ、何の問題もない」


 少年は少し悔しげにしていました。


 友達の皆の方が才能に満ち溢れているから、それと比べたら自分の飛び跳ねても不格好で、大して飛べてないように見えたんだろうと思いました。


 そう思う事にして、地図を皆に見せました。



「これは、ニイヤドの地に眠る宝の地図……らしい」


「宝とは……何とも冒険譚らしい単語が出てきたな」


「鉱脈とかの話じゃないの?」


「いやいや、あの大木……じゃなくて、塔に宝があるんだってさ」



 少年は仲間達に地図を見せ、皆で地図に書かれた文字を読みました。


 文字それは殆ど少年少女達に読み取れるものではありませんでした。


 ただ、真新しく書き記された文字はハッキリ読み取る事が出来ました。


 読み取る事が出来たそれを、地図を広げた少年は読み上げていきました。




遺都ここ、ニイヤドの地には至高の宝剣が眠る。


 主を亡くしたつるぎは、静かに眠りにつき、新たな主を待ち続けている。


 やがて、誰かが宝剣を抜き放ち、目覚めさせるだろう。


 ただそれは、ひょっとすると新たな主では無いのかもしれない。


 宝剣かのじょにとって、主とは別の関係性の者かもしれない。



 いずれにせよ、至高の宝剣は、今はまだ眠りについている。


 三千世界を救う可能性を持ちながら、救えなかった悲嘆の剣。


 一を救うため、他全てを斬り刻んだ開闢ヴォーパル聖剣ソード



 それを手中に収めようとする者に、二つ、告げておくべき事がある。


 至高の宝剣は、今はまだ眠っている。


 真の目覚めにはまだ至っておらず、泡沫の夢の中でまどろんでいる。


 そんな宝剣は、憤怒に満ちた番人めさいあが守っている。



 恐ろしい番人がいる事を知ってなお、剣を手にしようとする者。


 貴方が善人である事を祈りつつ、もう一つ告げておきます。


 どうか、主を亡くした彼女の、友達になってあげてください」




 少年は読み取れる全てを読み上げました。


 そして、静かに仲間達に向けて語りかけました。



「自分で言うのも……なんだけどよ……」


「「「うん?」」」


「スゲー、胡散臭くねえか、この地図……?」


「「お前が言うな……!」」


「そうだよ。パリスが仕入れてきたものでしょ……!?」


「う、うーん……多分、そうなんだと思う……」


「誰から仕入れてきたんだよ?」


「えっと……誰、だったっけ?」



 少年は首を傾げました。


 その時、脳裏にチラリとよぎった姿はありました。


 それはローブを目深に被った隠者の如き人物……だったように、見えました。


 美女のようにも見えましたが、疲れ果てた老爺のようにも見えました。


 しかし、その姿は記憶から掻き消え、ただの胡乱な地図に成り下がりました。


 子供のイタズラ以下の怪しげな情報です。


 多くの冒険者が、こんな地図ものは笑い飛ばすでしょう。


 しかし、彼らは――



「まあ、パリスが仕入れてきたもんだしなぁ」


「とりあえず、行くだけ行ってみるか」


「無かったら今日の夕飯、パリスが奢ってよね!」


「わかってるって! あ、でも……本当に怖い番人がいたら、どうすんだ?」


「いざって時は、保険で死に戻ればいいだろ」


「えぇっ……」


「まあ、いたら正面からやり合わず、宝剣だけ盗んで帰ろうよ」


「まーた、この先輩冒険者二人はケロッとそーゆー事を言う」


「息をするのと同じように言っていたな」



 少年は剣士の友達と苦笑いし合いつつ、仲間の剛毅さに心強さを感じました。


 皆が揃えば何だって出来ると、愚直に信じました。



「でも、宝剣がホントにあったらどうする? 誰が使うの?」


「えっ、売らねえのか?」


「パリスが現金な事を」


「いや、でも、一本しか無かったら山分けするの困るだろ……。その点、お金って便利だよな。換金出来さえすれば綺麗に山分け出来るんだもん」


「ボクも剣貰っても困るけど、セタンタとガラハッドは興味無いの?」


「いや、俺は槍あるし」


「私も山分けできるか否かの方に興味がある」


「あっ、出世払いでもいいんだぜ? 山分けする予定だった分を」


「本当に大それたものだと、私が手に取るのは気が引けるなぁ……」


「ライラはどうだ?」



 犬の冒険者はぷるぷると頭を振りました。


 少年少女達は山分けに関してワイワイと、楽しげに話していましたが……。


 一人の少年が、ふと、地図に書かれた言葉を思い出しました。



「でも、さ……地図の最後に、友達になってあげてくれって書かれてたよな?」


「あ、うん、それが?」


「そういう、人間らしい扱いをすべき宝剣なら……売り飛ばすのって人身売買に当たるんじゃねえかなぁ……? オレ様、監獄にブチこまれるの嫌だぞ」


「人は、武器と友達になれるものなのか?」


「なれるんじゃない? バッカスには人格ある武器もあるしさ」


「そうなのか……」


「そんじゃ、売り飛ばすのは可哀想だなぁ……」


「まー、ホントに凄い剣だったら魔王様のところに連れてってあげようよ。魔王様優しい人だから、大事にしてくれるだろうし、謝礼も貰えるかも……ぐふふ」


「自分で言っといてなんだが、売り飛ばすのは可哀想になってきたな……」


「とりあえず、マーリンの手に握らせるのはヤバイかもしれん」


「なんだとぉ!」


「それにさ……主を亡くしたってことは……その剣、寂しいんじゃねえかな? なあ、ライラは、どう思う……?」



 少年少女達は山分けではなく、剣の事を考え、言葉を交わしました。


 交わした末、とりあえず行ってみる事にしました。


 剣が寂しがっているなら、友達になってあげる事を決めました。


 槍使いの少年は「剣でも子供だったら面倒くさそうだなぁ」とボヤき、索敵手の少女は手をワキワキしながら「子供だったら女の人のおっぱい揉みにいきやすいんだよ?」と言い、剣士の少年の琴線に触れていました。


 地図を開いた少年は、そんな仲間達の中で――少し元気のない――小型犬の仲間を抱っこして撫でつつ、ボンヤリと考えていました。


 誇れるものが何もない自分に、何が出来るだろうと考えていました。


 その答えを見つけるためにも、子供達は冒険に旅立つ事を決めました。



 少年は仲間の背を追い、走り出しました。


 いつもより足取りが重い事を悟りながら。


 いつものように、魔術が使えなくなっている事を悟りながら。


 それでも、前へ、前へと走り出しました。



 焦り顔ながらも、黙って唇を噛み締め、友達の背を追い、走り出しました。


 弱音を吐いて、憐れまれたく無かったのです。


 大事な友達とは、対等な仲間でいたかったのです。


 やがて絶望に至ろうとも、パリスと名乗る少年は――戦う事を選びました。




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