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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
六章:お別れ
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アワクム甲板上にて



 パリス少年達と別れたセタンタ君達は、ひとまず甲板上に集合となりました。


 船員さん達は出港の準備で忙しいのですが、教導隊の面々は出発前の点呼と今回の教導隊の隊長を務めるエルスさんによる挨拶があるのですが……。


 挨拶前の点呼にて、教導隊長エルスさんが冷や汗流して焦る事になりました。



「ひ……さ、三人、足りない……怪奇現象でしょうか……?」


「ふつーに遅刻じゃない……?」


 何度名簿を見ても三人足りない事にエルスさんが「あわあわ」と焦り、その隣にいた女性が――身の丈100センチの女性が眠たげに言いました。


 エルスさんはとても困った様子で隣の女性に「カスさん、ちょっとひとっ走りして探しに行ってきてくれませんか?」と耳打ちしました。


「あ、挨拶の方を引き伸ばして時間稼ぐので……!」


「挨拶云々より、出港の方を急かされるんじゃない……? 教導隊こっちは乗せて貰ってる身で、船の人達は物資輸送の任があるんだからー……」


「あああああ……! そ、そうでした……!」


「まあ……もう来たっぽいから、大丈夫でしょ……」


 女性は眠たげな瞳でそう言いつつ、せっせとビーチチェアとテーブルの設営に夢中になっていきました。そこで日向ぼっこする腹積もりのようです。


 ただ、女性の言葉通り、パトリモニオの都市間転移ゲートを通って「遅刻者」の三名がやってくる事になりました。エルスさんもその光景を見てホッと胸を撫で下ろし、「調係長じょうしに怒られずに済む……」と息を吐きました。


 セタンタ君達の方は、遅刻者達を少しギョッとしながら見守りました。


 三名のうち、甲冑姿の一人は大荷物を背負い、空翔ける飛竜に跨っていました。


 もう一人はその飛竜の脚でガッチリ掴まれた男の子で、荷物片手にブラブラと空中で脚を揺らしていました。落ちたら痛そうですが、本人は「うっひょー」とか言いながら下を見下ろし、呑気な様子です。


「お、遅れて、ごめんなさーーーーい!」


 最後の一人がそう謝罪しました。


 ただ、その謝罪の言葉は飛竜の口から聞こえてきました。


 飛竜は謝罪と共に凄まじい勢いで甲板上に急降下をかけてきました。


 そして途中で黒い飛竜の姿から――背の高い女の子の姿へと変化しました。


 女の子の姿でズドッと甲板の氷にヒビを入れつつ着地し、竜となっていた女の子にまたがっていた甲冑姿の子も同じように着地し――脚で掴まれていた男の子は頭から甲板に落ちる事になりました。


「いてー、死ぬー」


「お前ホント死んどけよ……お前の所為で遅刻したんだからな……」


 甲冑姿の一人が頭から落ちた男の子にドスの利いた声で苦言を投げかけましたが、男の子の方は「めんごめんご」と気安い様子で返し、蹴られました。


 二人のやり取りにかまっている場合ではない竜となっていた女の子は滑り止め加工済みの氷の甲板上を滑るような勢いで進み、重ねて謝罪しました。


「たっ、たた、タルタルソース……ああああ、じゃ、なかった! タルタロス士族から参りましたキウィログいいますぅ! この度はせっかく誘っていただいたのにえろう遅うなってしもうて申し訳ございません! 遠征隊長さんも顔に泥塗るような事してしもうてごめんなさい! 皆さんもお待たせしてしもうてごめんなさい! か、堪忍してくださいぃぃ……!」 


「いえいえ、いま来たところですよ」


「その返しは、いくらなんでも苦しすぎる……」


 苦笑いで応じたエルスさんに対し、ビーチチェアを設営し終えた背の低い女性が信じられないようなものを見るような目で見つめる中、残りの遅刻者2名も着地点から近づいてきました。


 近づいてきて、男の子の方が気安い様子で喋り始めました。


「あ、自分もキー姐と同じくタルタルソースっす」


「タルタロス士族!!」


「あー、そうそう、タルタロスっす。名前はアッキーっす。なんかー? 急に推薦で行けって事でー? 教導隊参加する事になって? 昨日は緊張してマジドキドキだったんすけど、朝爆睡して寝坊しちったんすよー。んで? キー姐が発狂しそうな勢いで壁ぶち破って飛んできて、一緒に行動してたメドと三人揃って遅刻しちまったんす。スマセーン。かけっことか得意なんで、それで挽回しまーす」


 あまりすまなさそうな様子のない謝罪でした。


 それを見た教導隊参加者のアイアースちゃんが――彼と同じタルタロス士族所属のアイアースちゃんが――眉根を寄せてとても不機嫌そうな顔で彼を睨みました。


 睨むだけでは終わりませんでした。


「この……愚図ッ! タルタロス士族の恥さらし……!」


「おっ! アイちゃんじゃーん! チョリーッス! なんかスゲー機嫌悪そうな顔してるっすけど、ウンコっすか? あ、自分、ちり紙持ってきたんであげるっすよ。何なら甲板から落ちないよう、踏ん張ってんの支えてあげるっす」


 アイアースちゃんは憤死しそうな勢いで同士族の少年――ではなく、遠征隊長のエルスさんに食ってかかり、少年を船から下ろすよう希望しました。


「このッ、カスを船から下ろしてくださいませ!! 同じタルタロス士族の者として恥ずかしい……! というか何であなたのような雑魚が教導隊に!?」


「さー?」


「教導隊長!! そこの阿呆に、即刻退船命令をッ!」


「いや、ええ、私の一存では、なんとも……」


 エルスさんはお役所対応で誤魔化しました。


 胃がキリキリ痛むような感覚を得てお腹を押さえましたが、今のところは遠征隊長として必死に、ほどほどに、角が立たない程度に頑張る事にしたようです。


「あ、メドさんも簡単に自己紹介お願いします……」


「メドラウト。職業冒険者。タルタロス士族と、そこのチャラチャラした阿呆とは無関係。ただキウィログに恩があるから一緒に行動している。以上。あと、遅れてすみませんでした」


「ちょ、ちょっと無愛想な女の子ですけど、皆さん仲良くしたげてくださいっ」


 キウィログちゃんがエルスさんに負けず劣らずな困り顔で、甲冑姿の女の子――先日、パリス少年に助け舟を出したメドちゃんをフォローしました。


 それでひとまず全員揃った事に満足げな笑みを浮かべたエルスさんが、騒ぐアイアースちゃんをなだめ、改めて自己紹介と挨拶を始めていきました。



「今回の教導隊を任せていただく事になりました、冒険者のアハスエルスです。戦闘中呼びづらいのでエルスとお呼びください。改めてよろしくお願いします」


『よろしくお願いしますー』


「チョリーッス!」


「はい……元気な子もいるので、私、早速、胃痛で死にそうな状態です。問題行動とか起こすと甲板の掃除とか命じないといけないので、その、せめて、教導遠征が終わるまで皆さん、仲良く、折り目正しく、お願いしますね……?」


「チョリーッス!」


「この、タルタロスの恥部……!」


 エルスさんはちょっと泣きそうになりました。


 しかし、彼女……もとい、彼には果たすべき使命があり、その達成のためにも胃が痛くなりそうなメンバーが揃いそうな教導隊を頑張って率いる事にしました。


 ただ、ちょっと精神を休ませたいので挨拶は早めに切り上げる事にしました。


「ええっと、教官として同行してくださる方はもう一人、途中で合流する予定なので、その方含めて皆さんの自己紹介とかは、また改めてしますね……。ただ、もうお一人紹介させてください。はい、カスさん、お願いします」


「あぁ、うん……カスです。どうも。今回の遠征では対人戦闘担当だから……人を撃つのは任せろー、うぉー……。はい、こんなもんでいい……?」


 エルスさんはビーチチェアで日向ぼっこしたくてウズウズしている幼児体型の女性に対し、泣きたくなりながら簡単に説明を添えました。


「カスさんは、魔王様の近衛騎士の一人です……強い御方なので、対人戦闘ならこの方にお任せしてください。きょ、教導も手伝っていただけますよね?」


「…………」


「手伝ってくださいね? ほらっ! 魔王様の命令書も預かってますからね!?」


「…………たいようさんさん、いーいーてーんき~……らんらん……♪」


 顔を背け、歌いだした幼児体型の女性の声にエルスさんは俯き、鼻をすすりつつ、教官役として参加したエレインさんに助けを求める視線を飛ばしました。


 が、エレインさんは自由気ままに皆から離れ、甲板の端っこでパリス少年と旦那さん達に手を振っているところでした。エルスさんの精神はもうボロボロです。




「はい……では、気を取り直して、第349回教導遠征、出発です。


 この旅が皆さんにとって実り多きものになるよう、共に努力していきましょう」




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