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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
六章:お別れ
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ウルフパック



 パリス少年は必死で逃げました。


 背中に幼女を背負い、腕には瀕死のライラちゃんを抱え、奪った剣は――捨てるか迷ったものの――腰の鞘に戻して息を殺して走りました。


 ライラちゃんの機転とパリス少年が直ぐに逃走した事で、一時、相手方の視界の外まで逃げる事には成功しましたが……。


「向こうか!?」


「ああっ、馬鹿が――こっちの索敵魔術から逃げ切れると思うなよ!」


「ひっ……!」


 視界外に逃げたところで、安堵は出来ませんでした。


 索敵魔術で微かに残った足跡を拾われ、視界外に逃れようとも追跡の手は少しの迷いだけで続行されました。索敵の手間が相手に全力疾走させ損ねてはいるものの、完全に視界に捉えられてしまえば、その枷も無くなります。


 現状でも、確実に距離を詰められつつあります。


 敵方は複数人。全員、パリス少年より格上です。


 正面から策無く斬り合えば誰を相手取っても負ける事になるでしょう。下手に足を止めて斬り合おうとした時点で、囲まれて負けるでしょう。


 未熟な少年でも、彼我の戦力差ぐらいは察する事が出来ていました。


 出来ていたからこそ、顔を恐怖で染めていました。


 泣き叫ばずにいられたのは守らないといけない相手がいる事実だけでした。全身が死と暴力の恐怖に震えても、それでも何とか走れていました。


 少年にあるのはスタートのアドバンテージのみ――ではありませんでした。



「…………!」



 少年はそれに気づきました。


 気づいたからこそ、自身も索敵魔術を起動しました。


 それはまだ、完調ではありませんでしたが――十分な情報を拾い上げました。


 拾い上げた後、少年は魔術で拡声した上で叫びました。


 重ねて、自分の進行方向に関しては声が飛びすぎないよう音を抑制しました。



「わああああああああああああああああああああああッ!!」



 頭目に先んじて追跡していた者達は、少年の叫びを聞き届けました。


 断末魔ではない……が、もう、ヤケになったか。


 彼らはそう思い、叫び声が聞こえた方向に走りました。


 そして、走った先の横合いの道から出てきた魔物達と鉢合わせしました。



「あっ! くそっ!」


「あのクソッ! 魔物呼びやがった……!」


 パリス少年の狙いは、追跡者に魔物をぶつける事でした。


 索敵魔術で魔物がいる場所を探り、その直ぐ側を通りながら叫び――人間の存在を察知した魔物達が少年を追い始めたところで、追跡者達が遭遇したのです。


 横合いから出てきた魔物は大ネズミ。


 幸いと言うべきか、10匹以上が群れで出没してきました。


 追跡者達は一時それに阻まれ、大ネズミの絨毯と化している地下道に踏み込みそうになってつんのめり、少し後退しながら迎撃しました。


 追いついてきた頭目が怒鳴りつけるまでもなく、追跡してくる犯罪者達は大ネズミを始末していきました。30秒とかからず始末し、追撃を再開しましたが……。


「ああ、くそっ! また魔物かよ!」


「テメエら、ネズミと戯れてる場合かッ!!」


「す、すみません頭っ、やべーす……見失ったかも……」


「チッ……! 使えねえ愚図共が……!」


 最初にパリス少年と接敵した頭目達は、少年の姿を見失いました。


 見失いましたが――頭目は懐から地下迷宮の地図を出しました。



「頭、どうしやす!?」


「地下に散開してる野郎共に連絡しろ、近場の階段……地上に戻る階段を全封鎖。ここと、ここと……とりあえず、ここを封鎖させろ。区画番号で音信通達」


「了解!」


 頭目は地下迷宮の地図を指差しつつ、部下に指示を飛ばしました。


 指示を聞いた部下の一人が両手で指笛を作り、魔術を併用して特殊な音波を発信。モールス信号の要領で離れた場所にいる者に伝達。


 音信で指示を聞き届けた者達も各々の道具――口笛やホイッスル等――と魔術で連絡を返し、瞬時に自分達の現在位置と状況を伝え合いました。


 そして、誰が階段封鎖に走るかを連絡し合いました。


 総勢、58名。


 獣人の頭目の指揮の下、群体ウルフ暴力パックに走りました。


「封鎖、じきに完了っす」


「良し。残りは主要地下道の封鎖と、小僧達の捜索に当たらせろ。捜索班は2人ずつで行動し、包囲網を敷いて徐々に狭めていけ」


「2人、っすか? あの犬っころに転がされそうな気が……」


「あの重傷から復帰したら、そうなるな」


 頭目は笑いもせず、そう言いました。


 彼は追撃戦の熱を身体に感じつつも、思考は冷えていくのを感じていました。


 その温と冷が自分の戦士としての感覚を研ぎ澄ましていっている心地よさと、久方ぶりの人狩りの感覚に心地よさを感じつつも、笑みは浮かべませんでした。


「復帰した場合、俺以外にアイツは倒せん」


「じゃあ、どうすれば……」


「だからこそ2人ずつで行動させろ。遭遇した際、犬が完全に復調しているようなら交戦避けさせろ。付かず離れずで追跡だけさせろ。1人は足止めしつつな」


「追跡しつつ、発見報告……俺らは鈴代わりっすか」


「不服か?」


「不服っすけど、それするしかねえっすよねぇ……」


「逃したら俺ら全員破滅だからな」


 部下が諦め顔をしつつ、指示通り動こうとしている事に頭目は鼻を鳴らしました。鳴らし、自分も動き出し始めました。


「俺は単騎で移動して、どこの網に引っかかろうと直ぐに走っていける場所で待機する。お前らは俺の目になれ。決着は俺がつける」


「了解」


「気張れよ」


「御武運を」


「お前らも、な」



 頭目は最後に短く言い、持ち場へと移動していきました。


 全員が必要な指示を受け取り終え、動き出し始めました。


 一時は逃げ切ったパリス少年は……再び、追い詰められていく事になりました。




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