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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
一章:採油遠征と酒保商人
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悪友と郊外料理事情


 マーリンちゃんはセタンタ君と幼馴染の女の子です。


 白い猫の獣人で、ショタンタ君よりさらにちびっ子なのですが出るとこはほんのりと出ており、ふわふわと辺りを飛びつつ「スカートの中身が見たい」と欲した男性陣が地面に伏せって真顔で覗きたがるような可憐な少女です。


 一見、無防備なマーリンちゃんですが自分の絶対領域を把握し、魔術による衣服の操作や尻尾のガードで巧みにフフンと誘惑だけして翻弄しています。


 ちょっと小悪魔で魔性な女の子です。


 ちょっと普通とは違うところもありますが、一応は女の子なのです。


 セタンタ君とマーリンちゃんは同じ孤児院で育ち、時に一致団結して孤児院長さんのスカートめくりに挑み、時に敵対してわりと次元の低い子供の争いをしているイタズラっ子同士でもありました。


 親友と言うより、悪友といった感じの仲の少年少女です。


 孤児院を出た後は進路が違った事もあり、疎遠となっていたのですがマーリンちゃん曰く「前の仕事はクビになった」との事で同じ冒険者という立場で再会する事になりました。


 マーリンちゃんは人懐っこいネコちゃんのようにセタンタ君の周りをふわふわ浮遊してますが、セタンタ君はやや警戒しながら後ろを取られまいとしています。


 イタズラされまいと警戒しているのでしょう。


「マーリンお前、せっかく何かこう……良い就職先見つけたのにクビにされたってどういう事だよ。調理人も冒険者もならず選んだ仕事だろ?」


「それも話せば長くなるのだよ!」


「ホントかよ」


 マーリンちゃんは優秀な魔術師です。


 優秀過ぎて大きなオジさん達が才能目当てに「養子にしたい」と何人も押しかけてくるほどの子でした。優秀な子を輩出する私設孤児院・赤蜜園の中でも「他の子と頭一つ二つ以上の差がある」とも言われた天才児でした。


 イタズラっ子なマーリンちゃんは養子の話を全て断り、自由気ままに生きることを望んで一時は冒険者を目指して訓練も積んでいました。


 実際、冒険者になるのも秒読み段階でした。


 戦士としての才能はセタンタ君に劣りますが、類まれなる魔術の才を活かせば冒険者としても引く手あまたの逸材になる、とも言われていました。


 しかし、孤児院を出る直前でバッカス政府に誘われ、政府の研究機関への就職を決めたのです。真面目に勤めて成果を残していれば一研究者の枠に収まらず政府の要職についてもおかしくなかったでしょう。


 あくまで真面目に勤めていれば、ですが。


 マーリンちゃんは天衣無縫のイタズラっ子です。


 孤児院時代、あまりにもイタズラが過ぎて孤児院長が直々に特殊な罰を与えたほどですが、その気質は14歳になって成人してからも大差が無いようです。


「いや、上司の黒狐のお姉さんが厳しくってさぁ」


「厳しい以前にイタズラでもしたんだろ」


「イタズラじゃないよ! お菓子にカロリー表記を一々してあげたり、背中にそっとセミの抜け殻のブローチをつけてあげたり、ボクのすごい魔術で捕まえたネズミの死体を枕元に上納しにいったりとか、むしろ甲斐甲斐しく尽くしたよ」


「そりゃクビにもなるわ」


「いやいやセタンタ君よ、こんな事でクビになるボクじゃあないよ? お姉さんが憤怒の表情で即死級の魔術を放って追っかけてくるからそれで手打ちにしてあげたの。殺人未遂とイタズラを相殺とか良心的でしょ?」


「やっぱイタズラじゃねえか! 相殺出来たなら何でクビになったんだ?」


「それは向こうが一枚上手だったね! ボクが一ヶ月ほど無断欠勤してたら、それを正当事由だーとかのたまってクビにしてきたんだよ。敵ながらあっぱれ!」


 セタンタ君はマーリンちゃんの頭を「ぽかっ!」と殴り、マーリンちゃんの蛮行に苦しめられた女性に深く同情し、祈りを捧げました。


 美人なら、あわよくば、一発やらせてくれねーかなと思いつつ謝罪の祈りを適当に捧げました。うーん、このヤリチンショタ。


 二人がぎゃあぎゃあポコポコ殴り合って旧交を温めるているうちにクアルンゲ商会の補給部隊に同行していた料理人さんによる調理が進み、天井に防水処理の施された人工洞窟内に香ばしいカレーの匂いが漂ってきました。


 単なるカレーではなく、身体をほどよく温める特殊なスパイスが効いたカレーです。カレーは何でも入れれる自由度の高い料理です。それこそ毒を入れてもバレづらいほどです。


 問題を挙げるとすると、そこそこ匂うのでそれを頼りに魔物がよってくる事でしょう。お手軽で美味しいですが都市郊外で作るのは危ない料理です。


 ただ、ククルカン群峰に生息する魔物は嗅覚が存在しないものもおり、降り続く雨が匂いを消してくれるのでこの手の料理も振る舞いやすかったりします。


 逆に魔物の匂いも隠してしまう雨なのは要注意。地理や環境は上手く使いさえすれば人間の味方になってくれる事もあるので逆の意味でも把握していきましょう。


「でもカレーに限らず食事ぐらい好き勝手に食べさせてほしいよね。ボク、小さいの頃はもっとこう……冒険者ってグワーッ! と豪快に美味しいもんを食べてるもんだと思ってたよ。魔物の丸焼きとかさ」


「丸焼きは食べる事あるだろ」


「あるけど、豪快に丸焼きとかしてたら魔物寄ってきかねないし、あんまり気安くは出来ないでしょ? あと人間の身体の部位出てきたり。魔物を狩ってるのに魔物の顔色伺って過ごさないといけないっていうのはなんかこう不条理な気もする!」


 マーリンちゃん、ぶぅぶぅと文句を言ってます。


 実際、単騎では弱くても群れで襲ってこられると脅威となる魔物も沢山おり、バッカスの冒険者はまず何より魔物のことを念頭に置き、行動せねばなりません。


 人間にとって必要な食事も郊外では魔物の影響を受けやすい行動です。


 酷い時は昼食抜きどころか腰落ち着けて三食を食べる暇すら無い行軍が必要とされる時すらあるほどです。さすがにそういう時は携行食を多めに食べつつ、魔術や薬で疲労や眠気を取っ払いながらの強行軍となります。


 今回の補給部隊を仕切っているフェルグスさんは「可能ならちゃんと食べる派」なので冒険者と兼業の料理人さんを遠征につれてきており、そのお陰でカレーと事前に瓶詰めにして持ってきた酢漬けのサラダを食べる余裕がありました。


 フェルグスさんとは真逆に「郊外で料理するとか馬鹿だろ派」の人が仕切る遠征では食事は保存食をボリボリと食べて終わりとなる事もあります。単なる野外活動ではなく魔物がいるので、ある意味、一番正しい行動かもしれません。


 そもそも街ほど立派な調理設備が無く、衛生面や鮮度などの問題もある以上、郊外での料理は制限されがちです。


 作っても煮込み料理一品だったり、魔物に襲撃されて台無し。食材にも気を使わないといけない。調理器具がかさばる。色々と問題もあります。


 ただ、その手の生活が続くと栄養云々以前に「早く家に帰りたい」「街で腹いっぱい好き勝手に食べたい」などと士気がだだ下がりになる事すらあります。


 効率だけを追うなら料理しないのが正解。


 でも、キツい遠征のご褒美に食事だけは暖かく美味しいものを食べるのも間違いではないのです。あくまで調理時の危険性の対策をしていれば、の話ですが。


 マーリンちゃんは効率よりご褒美欲しく、それに共感して同意する冒険者さんの姿も少なくありませんでした。セタンタ君も同意しました。


「皆、欲しがりだなぁ」


「フェルグスのオッサンも食事は楽しみたいだろ」


「大いに同意する。そんな皆に良い商品を紹介してやろう」


 そう言ったフェルグスさんが懐から小袋を取り出しました。


 小袋の中身は塩に似た白いお薬ですが、鼻で吸う系のものではありません。


「ウチの商品開発部門が企画し、とある魔女殿の協力を得て作成した消臭剤だ」


「オジ様の足の裏にでも塗るの?」


「ハハッ、お前の尻の穴に塗ってほしいのか?」


「やだぁ!」


「就寝時、ケツの穴に注意する事だ。さて、阿呆な話はさておき、これは料理用の消臭剤だ。カレーやシチューなどに混ぜて使うことを想定している」


 薬品というか、調味料の一種です。


 料理に混ぜると匂いを消す事ができ、魔物を寄せ付ける要因を一つ消す事が出来るのです。分量で消臭の度合いも調整可能です。


 問題点としては「料理が少しだけ薬っぽい味になる」「匂いを消しすぎると味気ない」「料理方法次第では使いづらい」という事が挙げられます。


 それでも大量には使わないので荷物もかさばらず、魔物の追跡から逃れるための消臭剤としても転用可能という利点もあり、話を聞いた冒険者の中には興味深そうに身を乗り出し、街に戻ったら売ってほしいと言う者の姿もありました。


 フェルグスさんはそれに対して首を振り、「まだ売り出したばかりだから試供品としてタダで渡そう。良かったら宣伝でもしてくれ」と言いました。



 冒険者の中には郊外で調理をしない効率派もいます。


 でも、郊外でこそ美味しい料理を食べたいと追い求める人もいます。


 郊外食需要は小さいものではなく、追い求める欲求は「魔物に邪魔されず作るための対策・工夫」「調理器具や調味料、調理方法の改善」を推進してもいます。


 そのため、フェルグスさんが勧めていた薬以外にも匂い対策が出来る調理器具も存在しています。さらに消音までしてくれる一品です。


 商品名は消臭消音圧力鍋。


 そのまんまな名前ですが名の通り、消臭をしてくれるだけではなく消音もしてくれる優れもので愛用している屋外料理愛好冒険者も少なくありません。


 見た目は通常の圧力鍋の蓋を大きめにしたもので、圧力鍋として調理をしてくれつつ漏れ出る蒸気を冷やして排出し、音も出ない優れもの。圧力鍋なので少ない調理時間で食材をよく煮込めるという利点もあります。


 問題点を挙げるとすれば、少しかさばるという事。


 そしてあくまで圧力鍋なので水分を伴わない焼き物には使いづらい、という事もあります。もちろん、その辺に配慮した品もあるんですけどね。


 他にも荷物をより少なくするための工夫として調理器具と兼用出来る武器防具を使っている冒険者もいるほどです。


 代表例としてはフライパンや中華鍋などとしても使える盾。鍋として使える兜。肉焼きプレートとしても使える幅広の剣などがあります。後ろ二つは衛生的、生理的な問題がある気がしてなりませんけどね。


 食へのこだわりが工夫や発明へと至る事もあるのです。



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