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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
六章:お別れ
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兎狩り



 パリス少年は幼女を背負い、ライラちゃんと地上へと向かいました。


 地下の地図など持ち合わせておらず、区画番号も全て暗記しているわけでもなく、地上への道は暗中模索しなければならない――という事はありませんでした。


「おっ、何とか帰れそうだな」


「だ、だいじょぶ……?」


「うん、ライラがここに来るまでに魔術で見える足跡つけてくれてるから」


 パリス少年はニッと笑い、幼女に「ちゃんと帰れるぞ」と言いました。


「でもここ、どの辺かな……?」


「ぜんぜん知らないとこ……?」


「んーでも、この間、来たばっかの区画の直ぐ近所みたいだ」


「知ってるとこ……?」


「まあまあ知ってる。この隣の区画辺りで……仲間と冒険したんだ」


 パリス少年は、少しずつ使えるようになってきた魔術でライラちゃんが助けに来るまでに辿った道に残された魔術の痕跡を見ながら、地上へと向かいました。


 複雑な地形だけに他にも近道はありそうですが、それでも地図が無く、全ては暗記していない事もあって安易に道をそれる事は出来ません。


 それでも、足跡に従って進めば何とか地上へと戻れそうでした。


 順調に、事が運びさえすれば。


「具合悪いか? もうちょっと待っててくれよ」


「だいじょぶ……」


 パリス少年の背中で幼女が少しつらそうな声を出しました。


 歩けはするものの、養父に痛めつけられた身体が少し痛むようです。精神的にも元気とは言い難い状況でしょう。背負われてもなお、苦しそうな様子です。


「魔物とか、だいじょうぶ……?」


「アイツらの剣、一本、勝手に借りてきたから大丈夫だ」


「あぶなくなったら……わたし、置いてっていーよ……」


「絶対やだ」


 少年は「ライラとオレ様に任せろ」と言い、笑みを浮かべました。


 そう言った矢先、魔物と遭遇する事になりました。


 首都地下を徘徊する大ネズミです――が、あっさりと蹴散らされました。


「わっ……」


「おぉ……さすが、ライラのゴーレム……」


 ストーンゴーレムがペチン、とネズミを床の染みに変えていました。


 常に人型の形態で移動させている事もあって、移動速度は少年達が走るよりも遅いものですが、パリス少年が本調子ではない事もあって出さざるを得ない状況です。ただ、頼りになる護衛にはなってくれました。


「区画番号的に……そんな深いとこまでは行ってないから、ライラのゴーレムがいてくれれば余裕だ。ヨユーで生きて帰れるぞ」


「ほんと……?」


「ホントだ。なあ、晩メシ食べたか?」


「んーん……」


「じゃあ、地上出て魔王様に通報したら、オレが何か奢ってやる」


「ありがと……」


「だから、もうちょっとガマンしてくれ」


「ん……」


 少年は幼女の返事に満足しつつ、先を急ぎました。


 地上に近い上層なので強い魔物は中々出ません。


 強い魔物に関してはあまり出ませんが……パリス少年達が先日、首都地下迷宮を訪れた時には無かった、危険度を上げる要素がありました。


 もう夜、という事です。


 遠征に行っている冒険者ならともかく、日帰りで冒険をしている者は夕方頃には都市郊外を切り上げるのが普通です。それは首都地下に潜っている冒険者も同じ事で、冒険者が減る事で増える危険があるのです。


 冒険者が減る事で、魔物は自由に闊歩しやすくなるのです。


 少年はそうやって増える危険に関して、助けた幼女には語りませんでした。


 言ったところで不安を煽る事にしか繋がらないためです。


 今はそんな事よりも地上へ。


 前へ、前へと進まないと……と思いながら、少年は剣を振りました。


「よし……大分、魔術使えるようになってきた、かな?」


 本調子では無いようですが、殆どの魔術が使えるようになってきたようです。


 剣も他人の物を使っているだけに使いづらいようですが、それでもこっそり、剣に関しても練習してきた甲斐あってか、大ネズミぐらいは倒せています。


 地上に近づくたび、少しずつ光明が見えてきました。


 少しずつ、事体が好転してきたと――少年は思っていました。


 ライラちゃんが、横合いから矢に刺し貫かれるまでは、そう思っていました。



「えっ……」


「きゃひんっ……」



 暗がりに潜み、矢を飛ばした男は――ライラちゃんが演技でもなく、しっかり悲鳴を上げた事を確認しつつ――クロスボウに次の矢をつがえました。


 同時に、周囲からは3人の男が出てきました。


 そのうち2人はパリス少年が知らない男でしたが、もう1人は知っていました。


 少し前に石室内に置き去りにした獣人の頭目です。


 その頭には獣の耳がありましたが、尾は切り取られ、存在していませんでした。


 尾を無くした獣人の彼は不機嫌そうな顔で双剣を抜き放ちつつ、呟きました。



「手こずらせやがって……」


「な、なんで……アンタが、ここに……」


「三流以下の雑魚にはわからねえか。単に、俺達はお前らが不意打ちしてくれた以上の頭数がいて……そいつらが戻ってきただけだよ」


「そいつらに、助けてもらってここに……!」


「フン。雑魚の頭でも、さすがにそれは理解出来るか」


 仲間に助けられたからこそ、少年達が進もうとしていた方向に少年達が知らない男が混じり――獲物を仕留めるために――待ち伏せしていたのです。


 少年達は、頭目達を殺さなかった甘さゆえに窮地に陥る事になりました。


「こっちは首都地下はよく利用してるから、先回りするのもお手のものよ」


「あ……あぁ……」


 パリス少年は幼女を背負ながら、戦意を喪失しかけました。


 頼みの綱のライラちゃんが小さな身体に矢を受け、内臓を壊されながら貫通した矢の影響で倒れ伏し、ぐったりしたからこそ、諦めかけました。


 諦めずに済んだのは、腕利きの冒険者がいてくれたおかげでした。


「ガァ――――!」


「コイツ……!」


 倒れていたライラちゃんが、パリス少年が助け起こすより早く起き上がり、動作を止めていたストーンゴーレムを稼働させていました。


 重傷を負っていましたが、それでも即死は免れ、矢を飛ばしてきた犯罪者の一人に対し、ゴーレムの手を振り、そこから分離させた石の弾を放り放っていました。


「ひっ……!」


「か、かしらぁ!」


「狼狽えんな、馬鹿共」


 ストーンゴーレムは飛び道具持ちに牽制しつつ、自分ゴーレムにひるまず前に進み出てきた獣人の男――頭目の男に殴りかかりにいきました。


「言ったはずだぞ」


 頭目が動いていました。


「不意打ちさえ、されてなきゃ――」


 頭目の双剣がギラリ、と閃きました。


「――俺は強いと言っただろうがッ!」


 一閃、二閃、三閃、四閃。


 瞬きの間に繰り出されていた連撃がストーンゴーレムの片腕を飛ばし、石の片足を斬り飛ばし、胴体を斬り飛ばし、最後に袈裟斬りを見舞っていました。


 ゴーレムの石の身体がバターのように斬られる最中、パリス少年は怯え――ライラちゃんを抱え、一目散に元来た道に逃げ込んでいきました。



「待ちやが、ぐっ……!」


 頭目が追撃をかけようとしましたが――ライラちゃんがゴーレムに何とか指示を飛ばし――コアを中空に飛ばしていました。


 飛ばして、見るものの視界を真っ白に染める眩い光を放たせ、一時、視界を奪いましたが――これもまた、頭目が剣を閃かせていました。


「舐めんなッ!」


 目を瞑ったままの一撃。


 それはゴーレムコアを真っ二つに斬り飛ばし、閃光を止めていました。


 止めていましたが、パリス少年は幼女を背負ったまま、重傷を負ったライラちゃんを抱え、一目散に逃げていった後でした。


「チッ……! さっさと追え! 生かして返すなッ!」


「へ、へいっ!」


「か、頭、姿変えねえんで!?」


「雑魚狩りに本気出すわけがねえだろうが!? いいから、さっさと行けッ!!」


「ひぎっ!」


 頭目は話しかけてきた部下の尻を蹴飛ばし、少年にけしかけました。


 歯噛みしつつ、自身も追走に加わっていきました。


 少年は恐怖に頬を引きつらせつつ、何とか走り、逃げました。


 しかし……形勢は完全にひっくり返ってしまいました。




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