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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
六章:お別れ
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か細い叫び



 イジメっ子達から解放されたものの、パリス少年の表情は浮かないものでした。


 ライラちゃんが心配そうに微かに鳴き、見上げていましたが……少年の心の中には「周りの足を引っ張っている」という言葉が重くのしかかっていたのです。


 自分でもそこに関しては思うところがあったからこそ、少年は落ち込み、胸にポッカリ穴が空いたような沈んだ気持ちを深め……トボトボ歩いていました。


 暗い気持ちになるあまり、ポツリと呟いていました。


「……ライラ、ちょっと、一人にしてくれ」


「…………」


「その……もうちょい、頭冷やして帰るから……な?」


 ライラちゃんはしゃがみ込み語りかけてくる少年の事をじっと見つめていましたが……やがて、その手のひらをペロペロ舐めた後、その場を離れました。


 それを見送ったパリス少年は直ぐにフェルグスさんの家に帰らず、嘆息しながら、普段は通らないようなところに寄り道していきました


 暗い裏通り……はさすがに避け、夜の首都サングリアを歩きました。


 夜とはいえ、バッカス最大の都という事もあり、表通りにはまだまだ昼間と同じく人通りが盛んです。特に冒険者の姿が昼間より増えています。


 朝のうちに都市郊外に出ていった冒険者達が日が暮れて都市内に戻ってきた事で数が増え、一日の稼ぎを豪快に料理店や酒場につぎ込む、騒いでいます。


 楽しげに酒宴を開いている光景がそこら中で見受けられていました。


 笑い、騒いでいる冒険者達の姿をパリス少年はボンヤリと見つめました。


「……楽しそうだなぁ」


 ボンヤリ見ながら、音の魔術で他の冒険者達の楽しげな会話を聞きました。


 今日は久しぶりの大物を狩った、死にそうな目にあったが華麗に切り抜けてみせた、うそつけ、ションベン漏らしてただろ、今回はイマイチだったが景気づけに朝まで飲もう――と聞こえる内容は様々でしたが、多くの人達が笑っています。


 パリス少年の稼ぎは、まだまだ少なく、他の冒険者達のように大盤振る舞いが出来るほど……未来を楽観できない状況だと彼は考えていました。


 考えつつも、皆のように自分の力で笑って、騒ぐ事が出来たら……この、胸に穴がポッカリ空いたようなこの気分を慰める事が出来るんだろうか……。


 少年は、そんな事を考えていました。


 俯かずに、楽しく仕事が出来たら、それはきっと幸せな事で……そうなりたいと強く願った少年は、魔術で一つの音を拾い上げていました。


『……す、けて……』


「ん……?」


 それはとても弱々しい、空耳かと思うほど小さな声でした。


 それでも妙に気になる声だったがゆえに、少年は声の聞こえた方角を探り、大体の目星をつけると首を傾げつつ、その方向へと歩いていきました。


 それは、飲食店が立ち並ぶ区画の裏にある暗い裏通りでしたが……。


「ふん……この程度、首都地下に比べたら……怖くねえ」


 少年は強がり、自分を勇気づけて無造作に裏通りに入っていきました。


 聞こえてきた小さな声。


 少年にはそれが「たすけて」と言う、か細い声のように思えたのです。



 それが聞こえた時点で、周辺を巡回している王様の使い魔に相談したら、使い魔越しに親身に話を聞いた王様が強力な観測魔術を起動していたでしょう。


 そして直属の騎士達も派遣してくれていたかもしれません。


 ですが、少年は――迂闊にも――無造作に裏通りに踏み込んでしまいました。


 たった一人で進み、か細い声が再び聞こえた方向に走りました。


 聞こえてきたのが微かに開いた料理屋の裏口で……そこから思わず中を覗き込んだ少年は「あっ!」と声をあげかけ、慌てて口を押さえました。


 裏口から覗き込んだ先に、声の主である幼児と、大人達がいたのです。


 ただそれだけなら特筆すべき事では無いのですが、幼児はポロポロと涙を流し、ガチガチに縛られ、口枷もされていて……大人達に抱えられていました。


 抱えられたまま、パリス少年と目が合いました。


「――――っ!」


「ぁ…………」


 目が合ったものの、直ぐに四角い背嚢リュックの中へと入れられていきました。


 少年は明らかに異常な事が起きていると思い、慌てました。


「ひ、人さらいだ……!」


 そう結論づけつつ、急いで表通りに戻って助けを呼んでこようとしました。


 振り返った少年の目の前に立っていた男にいきなり殴られていなければ助けを呼ぶ事が出来たでしょう。しかし、少年は殴られ、昏倒しました。


 殴ってきた相手は獣人の男性のようでした。


 ただ、獣の尾を持たない獣人でした。




「ぅ……ぁ……」


「おい、裏口開いてたぞ」


「あっ、いっけねー……って、誰すか、その少年ガキ


「開いてた裏口から覗いてたんだよ。お前らが悪~い事をしてるその瞬間を」


「あちゃぁ……そりゃ、悪いけど……コイツも連れていきますか?」


「当たり前だろ。このまま帰すわけにいくか」


「良い子にしてくれそうなら、売り飛ばしちゃおうかねぇ……?」


「どこに?」


「国内の物好き。買い手がつかなければ西方諸国の奴隷市場行き、だな」


「良い子にしなかったら?」


「殺すか、薬と拷問で廃人……ですよね、頭?」


「ああ……そう、だな」



 少年を捕まえた男達は困りつつも、少しだけ笑いました。


 見られると都合が悪い事を見られたがゆえに、口封じを画策する事にしました。




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