嫉妬心と焦燥感
「ふーっ、食った食った……」
セタンタ君が「ギャアアア!」と絶叫して血抜きされている頃、首都サングリアの街を満足げに歩く一人と一匹の姿がありました。
パリス少年とライラちゃんです。
ガリア見物の後、ガラハッド君に自宅での夕食に誘われ、マーリンちゃんと共に相伴に預かってきた帰り道のようです。
「ガラハッドの母ちゃんの手料理、美味かったなぁ」
「ワフッ……」
「ライラも脂くどくないお肉たっぷりで嬉しかったか? そうかそうか」
パリス少年は笑顔で、歩きながら少し身をかがめ、ライラちゃんの頭を指先で軽く撫で、ボンヤリと少し先の事を考えました。
「セタンタもガラハッドもマーリンも……しばらくいないんだよなぁ」
「…………」
「でも、オレ様は冒険者稼業続けるぞ。せっかく冒険者なったんだから……この、パリスって名前をバッカス王国中に……いや、世界中に轟かせるぐらい、スッゲー冒険者になるよう、頑張ってやる」
「…………」
「皆がいない間も魔物倒して、お前にも良いもん食べさせてやるからな」
パリス少年は微笑んで前を見据えていました。
ライラちゃんは少年の手のひらをぺろぺろ舐めて、励ましたそうにトテトテ歩いていましたが、歩きながらでは難しいので諦めました。
「…………」
「……オレ、頑張るから……大丈夫だ」
少年は友達と一時別れる事に、寂しさを感じていました。
一時どころの話ではなくなるかもしれません。
元々開いていた力量差が教導隊の訓練でさらに開き、パリス少年ではついていけないような冒険に行けるようになると、一時どころの話では無くなるでしょう。
そもそもセタンタ君とマーリンちゃんは前から強くて、いまは下に降りてきてくれているだけ。ガラハッド君は何とか同じ駆け出し冒険者でも……教導隊で大きく成長し、頭角を現していくかもしれません。
そう思うと、パリス少年に心に強い焦燥感が芽生えました。
蹲って泣きわめきたいのに――そんな事をしていても置いていかれるだけだと理解してしまっているがために――自分も頑張らないと、と焦燥感が生まれました。
友達の才能に嫉妬しました。
先に行き、そのまま走り去ってしまいそうな才能に嫉妬しました。
「教導隊で強くなったガラハッド達と……このままサヨナラかもしれねえ」
「…………」
「今までが恵まれすぎてたんだ。それが普通に戻るだけ、だよな」
「…………」
「いや、普通じゃあ……ねえな」
「ワフゥ……」
「クアルンゲ商会でのこと考えたら、十分恵まれてるもんなー」
少年は「へへっ」と笑いました。
悔しさが底にこびりついた笑みでしたが、それでも彼は笑いました。
例え少年時代の一時の友達になってしまったとしても、このままお別れだとしても、醜く嫉妬して……喧嘩別れするのは、嫌だったのです。
それが嫌だと思えるほど、一緒に冒険したい仲になった事を自覚しつつも、パリス少年はガラハッド君達が輝かしい栄光の道に進む事を祈りました。
そんな事を考えながら、歩いている時の事でした。
パリス少年は、同じ年頃の子供達に取り囲まれる事になったのです。
「おいおい、パリスじゃん!」
「なんだぁ? しょぼくれた顔しやがって」
「おっ! やっと冒険者やめたのか!?」
「いや、どーせ金魚の糞みたいに、みっともなく、寄生冒険者続けてんだろ」
「…………」
夜道にて、同級生の冒険者達に取り囲まれる事になりました。
それは、アイアースちゃんの取り巻きの子供達でした。




