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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
六章:お別れ
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槍の改造案



「あんにゃぁは、このワンちゃん気に入ったよ?」


「おー、そうかそうか」


「た……飼っていい?」


「いいか?」


 レムスさんに聞かれたパリス少年はブンブンと首を振りました。


 飼い主では無いものの、アンニアちゃんに抱っこされてジタバタと嫌がっているライラちゃんを見ると、首を振らざるを得なかったようです。


 しいて飼い主を挙げるとなるとケパロスさんなのですが、そのケパロスさんのところから家出してる事を考えるとライラちゃんの意志を尊重すべきなのでしょう。


 尊重する事になりました。アンニアちゃんもションボリしながら「仕方ナイナイねぇ」と言っています。その口元にヨダレの反射光で照らしながら……。


「あんにゃは、ワンちゃんと仲良ししたいよ? ワンちゃんおいで? ……んにっ!? ワンちゃんニゲータ! ふぇぇ!?」


「さっき食堂で、ライラの頭かじったからだよ……」


 かじられたものの、ライラちゃんは大人の対応をしました。


 そこそこの老犬ですが、ワンちゃんながら冒険者稼業を出来る事もあって賢い子なのです。魔術が使えるワンコなだけあって、本気で怒るとそこらの子供など楽に大怪我させられるほどです。


 それでも大人対応をして――大して痛く無い事もあって――かじられても鳴きもせず、とても嫌そうな表情で耳をしゃぶられるほどでした。


 ですが、いつまでもは甘い顔をしてくれる気は無いようです。


 ツンとした様子でアンニアちゃんから距離を取り、幼女を「んにぃぃぃ……!」とヤキモキさせました。ライラちゃん抱っこしたいあまり、レムスさんに肩車してもらわず、自分でトテトテ歩いてライラちゃんのプリケツを見つめ歩きました。



「お前ら、もう買い物終わりか?」


「どうしよ?」


「せっかくガリア来たし、もうちょっと見て帰ろうかな。オレ様とガラハッドはガリアのゲートのパス、1日限定のしか買って無いから勿体無いしー」


「そうだな」


「あ、そうだ。レムスさんもガラハッドに言ってやってくれよー、コイツ、あの鎧から新調しようとしねえんだよー!」


「ほー? ま、いいぜ、商工会行った後なら店とか工房案内してやるよ」


 レムスさんは「注文した品を取りに行かにゃならんのだ」と言い、少年少女ワンコ達を伴ってガリアの街を歩き始めました。


 アンニアちゃんがコケたり、迷子にならないように見守り、あらぬ方向に行こうとしたら方向修正をしつつ……。


注文生産品オーダーメイドとか……何か熟練冒険者っぽいな!」


「レムスさんぐらいになると、市販の物より毎回注文した品を買うんですか?」


「いや? 俺は結構使い捨てる使い方するから、棚卸し市の売れ残り品とかよく手ぇ出してるぜ。投げナイフとか特に使い捨てるし」


 そう言いつつ、レムスさんは軽くナイフを放るような仕草を見せました。


「職人に要望伝えて一品物作ってもらう事もあるけど、どっちかっつーと店にあるもん買う派だな。兄者に道具使いが荒いと怒られたりするんだよぉ」


 高価な品ばかりで固めない腕利き冒険者は、結構な数が存在しています。


 お金かけただけの効果があるものも少なくありませんが、死んでしまうと都市郊外にせっかくの高級品が置き去りになります。命は遠隔蘇生保険で拾えますが、落とし物に関しては回収しきれない事があるのです。


 だからこそ、道具は必要最低限の機能がある物にして、死亡時の装備再購入の出費リスクを抑えようとする冒険者は、そう珍しくありません。


 逆にガッチガチに高級品で堅める人もいますが、道具ばかりで高級品で実力が劣っていると……赤字ばかりが積み上がっていく事になるでしょう。


「あと、念のため言っとくが……今回注文したのは俺が使う品じゃないからな」


「あ、そうなんだ」


「アンニアが使う着ぐるみを5着ほど頼んでてな。300万はかかった」


「アタランテさんに相談した?」


「してないけど?」


 マーリンちゃん達は後で血の雨なり魔矢の雨が降りそうな事を予感しましたが、関わり合いにならなければ大丈夫だと思いつつ、とある建物の扉をくぐりました。


 そこはガリアの商工会の建物扉でした。


 商工会内でレムスさんが窓口で商品受け取るのを待っていたのですが――。



「おっ、セタンタじゃないか。久しぶりだな」


「ん……? おっ、おおっ……久しぶりー」


 セタンタ君に、快活そうな笑みを浮かべたエルフさんが話しかけてきました。


 少年は「この人、誰だっけ」と内心思いつつも、顔は覚えてないけど取引先らしき人を出くわしたサラリーマンのような顔で応対しました。


 応対しつつ、必死に誰か思い出そうとした結果、何とか思い出せました。


「あっ、テセウスの旦那じゃん。久しぶり」


「おい、お前いま思い出しただろ……」


「そんなことないよ」


「めっちゃ目が泳いでたぞ」


 ちょっと渋い顔をしたエルフさん――テセウスさんは直ぐに笑顔に戻り、「まだちゃんと生きているみたいだな」と言ってセタンタ君の頭を軽く叩きました。


 テセウスさんはエルフの職人です。


 ただ、冒険者稼業もやっています。


 現在は職人として動く事の方が多い方なのですが、元々は冒険者専業の方で腕も立つ事から冒険者業界では名の知れた達人でもありました。


 フェルグスさんと組んで行動していた事もありました。


 現在もオークのフェルグスさんと、エルフのテセウスさんの親交は続いており、その縁があるためにセタンタ君もテセウスさんと知り合う事になったのです。


「音楽性の違いでパーティー解散って聞いたが、新しい子達と組んでるのか?」


「うん」


「フェルグスから聞いてはいたが……うん、いいな、実にいいな。一人だと色々危ないから協調しあって動けるってのは、良いことだ」


 テセウスさんは目を細め、微笑ましそうに少年達を見つめました。


「お前が前衛兼工兵、索敵手が女の子、背の高い男の子が前衛専門、あっちの子は弩辺りの飛び道具使い……それと、おっ? ケパロスのとこのライラもいるな」


「今日普段着なのに、見ただけでそこまでわかるもんなの?」


「半分ぐらい当てずっぽうだよ」


 あとは経験則と噂とか総合して適当なことを言ってみただけさ、とテセウスさんは笑いましたが、少年は的確な答えに感嘆しました。


「テセウスさんって意外とデキるんだなぁ」


「意外とってなんだ! 意外とって」


「いや、フェルグスのオッサンと同格の冒険者だったって事は聞いてたけど、あんま実力拝見した事なかったから、ちょっと驚いただけ。気にしないで」


「気にするぞ……。ま、今の僕は職人だし、気にしないでおいてやろう。そんな事より気になるのは、セタンタ、槍ばかり使ってるそうだな?」


「うわ、テセウスの旦那までその話題振ってくるか……」


 セタンタ君は少しゲンナリとした顔を浮かべました。


 フェルグスさんにしろ、テセウスさんにしろ、「槍にこだわりすぎだ」という話を振ってくるのは――自分を心配しての事だというのは理解しているものの、「そっとしといてほしい」という心情のようです。


 ただ強くは言い返せずとも、「その話題はもういいよ~」と抵抗したところ、テセウスさんの笑みに火をくべる結果となりました。


「ハハハ! ホントにこだわってるんだな?」


「いいじゃん、俺の勝手じゃん!」


「ああ、その通り! フェルグスはお前のこだわりを心配していたが僕は応援するぞ! 孤児院長メーヴさんに贈られた槍を抱きしめて寝るなど、いじらしいにも程がある! 僕もそういう愛は大好物だし、同士のように応援してやろう!」


「しーーーーっ! 周り、人メッチャいるんだから、その話題やめてくれ!」


 少年は快活なエルフの語り口に恥ずかしくなり、その胸ぐらを掴んで止めそうな勢いで口の前で指を立て、「しーーーーっ!」と言って黙ってもらいました。


 ただ、黙ってもらった後はポツリポツリと喋っていきました。



「俺もまあ、少しは自分の現状を危惧してるつもりだよ……」


「何だ、槍一本では難しいという壁にでもブチ当たったか?」


「まあ、そんな感じ……」


 少年は先日のことを――自身の敗北を思い出しました。


 採掘遠征で向かった砂漠では何とか目論見通りの結末に至れたとはいえ、その過程で魔物の物量に押しつぶされ、少年自身は一度死亡しました。


 その後、大雨の中で出会った狐面には鮮やかに不意打ちを決められ、最初から最後まで相手の手のひらの上で転がされました。


 相手が卑怯な手を使ったとはいえ、死人に口なし以前に「ルール無用の殺し合いに不意打ち違反の決まり無し」がバッカス冒険者の間では常識です。


 首都地下で出会った強敵の事も思い出しました。


 殺し合いをするか否かの主導権は騒乱者あいて側にあったとはいえ、対魔物戦闘よりは格段に正々堂々の勝負でした。言い訳が難しい勝負でした。


 最終的に相打ちには持ち込んだものの、情けをかけられていなければ敗北を喫していたのが事実です。それが例え、毒の介入があったものだとしても……バッカス冒険者の間で毒を使うのはポピュラーな戦術です。


 師の一人であるオークの事も思い出しました。


 最新の立ち会いにおいても、彼は師に完封されました。


 あくまで稽古上の殺し合いでしたが、少年にとっては敗北に他なりません。


「最近、結構よく負けてるんだ」


「そうなのか? だが、フェルグスはお前が順調に強くなってるって言ってたぞ」


「まだ弱い。まだ、強くなりてえ。……オッサンの事も踏み越えて行きたい」


「ほう?」


 テセウスさんは少年の物騒な物言いに居住まいを正しました。


 しかし、不敬で犯罪的な色は感じませんでした。


 テセウスさんの視線に映る少年の眼光は真っ直ぐで澄んでおり、眼光と同じく真っ直ぐな強さへの渇望を少年に感じたがゆえに、少し感嘆しました。


「強くなって、フェルグスに恩返し……とでも考えているのか?」


「うん……それも、正直ある」


「まあ……アイツはボチボチ、寿命が来てもおかしくないからな」


 職人エルフの物言いに、少年の瞳が少し揺れました。


 そこに宿った感情は、不安げなものが混ざっていました。


「オッサン……もう、結構、ヤバイの……?」


「おそらくまだ大丈夫だ。ただ、オークの寿命は長くて200歳ほどだからな。アイツは若い頃は結構無茶したし……200歳を超えるのは、おそらくキツい」


 今日は大丈夫でも、明日以降はわからない。


 テセウスさんも少年の気持ちを察し、静かに率直な意見を述べました。


 バッカス王国の治癒魔術は大怪我を瞬時に治し、脳腫瘍ですら専門家なら卵を割るように治し、老体を幼児の如き若々しさに戻す事すら可能となっています。


 蘇生すら限定的に可能にしています。


 ですが、それでも寿命には完全には抗えていないのです。


 肉体が健康そのものでも、そこに宿る魂は種族ごとに限界があります。


 ヒューマン種ならおおよそ100歳、オーク種は200歳、エルフなら1000歳、犬なら10~20歳といった限界があり……寿命による死には、バッカスの魔術でも抗えていません。


 寿命の無い不死の種族もいますが、フェルグスさんはそうではありません。


 老いて益々盛んな方ではあるのですが、他の人達と同じく、寿命という終わりに向かって歩みを止めず、進んでいきつつありました。


「まあ……仮にくたばるとしても、まだまだ先さ。アイツは強いからな」


「うん……」


「アイツに限界が訪れた時は、エレインさんの事を頼まれることになったんだろう? そりゃ、なおのこと必死で頑張らないとなぁ」


「うわ、何でテセウスの旦那が知ってんだよ……!」


「あの夫妻が嬉しそうに言いふらしてるんだよ。お前が……矢のように飛び出していって、そのまま帰って来なくなりそうな狂犬のようだったお前が、ちゃんと未来を見据えて生きてくれてる事が……あの二人には、たまらなく嬉しい事なんだよ」


「…………」


 少年は気まずそうに、恥ずかしそうに頬を掻きました。


 掻きつつ、話を逸していく事にしました。


 この話題を続け過ぎると、人前で赤面しかねないという危惧を抱いたがゆえに。



「俺も強くなりてえから、対策は考えてるつもりなんだよ」


「槍以外の武器を使うか?」


「うーん……そこは、あんまり外したくない」


 少年はそう言って頷きつつ、言葉を続けました。


「ただ、改造とかしてみようかなって思ってる」


「改造? 例えば槍を鋳潰して、他の武器にするとかか?」


「いや、そういうのじゃなくて」


「じゃあ、槍としての形態は残しつつ、形状記憶合金の如く槍形態、剣形態、槌形態に変化させれるのはどうだ? ミスリル以外にも色々混ぜて、どっちにしろ一度は鋳潰さないといけないが……それ出来る職人なら紹介するぞ」


「う……それは、ちょっと良いかもなぁ……って思うけど」


 少年が持っている改造案は別物でした。


 今ある槍を強化するという方向性で考えられたものでした。


「外付けで改造するのとか、いいかなーって思ってたんだけど」


「外付け? 例えば?」


「んー、この間、ルーンの巻き布を槍につけて使ってみたら結構イイ感じに機能してさ。それの性能を向上させた物を導入していこうかなー……と思ってたり」


「ほう……旗槍きそうか」


「旗槍?」


「僕の師匠が似たものの設計企画書を書いていたのを見た事がある」


「へぇぇ……テセウスの旦那の師匠って言うと、本職の職人さんか」


「ああ、バッカス最高の糸使い……最高の紡屋だ」


 テセウスさんはとても嬉しそうにそう語り、笑いました。


 自慢のお師匠様らしく、褒め称えるだけでも楽しげにしています。


「僕の師匠は凄いぞ。何なら旗槍の企画書見せてもらいに行くか?」


「えっ、いいの?」


「ああ、そういうの出し惜しみしない人だからな。使いたきゃ勝手に使いなって言いかねないぐらいだ。ひょっとしたら……本人が作ってくれるかもしれない」



 少年は「どうする、一緒に来るか?」と問われました。


 問われ、二つ返事で紹介を頼みました。




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