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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
六章:お別れ
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ドラゴン狩り



 ジャンヌちゃんは長剣を手に入れ、ホクホク顔。


 ホクホク顔のまま興奮気味に嗤って「試し斬りにいきます!」と言い、ブンブンと長剣を振ってガリアとは別の都市の郊外へと向かっていきました。


 ベオさんは軽く頭を下げ、「この礼は必ず」と言ってジャンヌちゃんに続き、去っていきました。その様は、やんちゃな妹と面倒見の良い兄のようです。


 少女の言動から目を背ければ……。


「色んな意味でイッちまった」


「でも、アレは結構な原石かもよ」


 ゲッソリ顔のセタンタ君と違い、マーリンちゃんは神妙な顔をしていました。


 セタンタ君がベオさんに説明している間もガラハッド君とパリス少年を盾にジャンヌちゃんの様子を伺っていたのですが――武器の試用場で軽く観測魔術込みで見守っただけでも――少女の才能の片鱗を見てしまったためのようです。


「自分の身体より大きな大鎚持ち上げて、軽く振ったんだけどさ」


「見事に扱ってみせたか」


「いや、振ってる最中で身体が追いつかなくなって筋肉がブチブチ、ってなって関節が外れかけたかと思ったら、自分の頭に思い切り落としたんだよ」


「……俺見てねえうちにそんな事なってたのか」


 そのわりにピンピンしてたな、とセタンタ君は思いました。


 ピンピンしていた理由を直ぐに知る事になりました。


「頭蓋にヒビが入ってたよ、アレは。それを『痛いですぅ』だけで、済ませて……次の瞬間には治癒魔術で完治させてた。瞬き程度のうちに……」


「……世の中、転がってるとこには転がってるなぁ、才能」


「だね。ああ、あと、アタランテさんの紹介でミボシ診療所のキロン先生に、しばらく面倒見てもらえるんだって。治癒の才能あるから最適そう」


「先生の胃痛の種になるだけじゃねえかな……いや、マーリンが言う通りならマジでそっち方向の才能あるんだろうから、そのうち蘇生魔術覚えたりしてなー」


「するかもねぇ」


 死者の蘇生は首都の保険屋だけではなく、個人が都市郊外で行う事も可能です。


 そのために使うのが蘇生魔術で――無事に生き返らせれるのは死体がグール化するまでの30分、1時間程度の猶予ですが――原形を留めていない状態でも間に合いさえすればその場で復活させる事が出来ます。


 治癒魔術より格段に習得が難しい魔術で、仮に使えても確実に成功させれる才能の持ち主となるとごく一握り。


 しかし、そのごく一握りの才の持ち主は即死させられながら次の瞬間には遅効性ディレイで発動した蘇生魔術で自力復帰し、敵を殺すという事すら出来ます。


 二人はジャンヌちゃんが「その領域まで届いて、人狼のように再生しながらゲラゲラ嗤いながら死んで、次の瞬間には蘇る不死兵になりそう」と妄想しましたが、見目麗しくないスプラッタ~な光景なので、直ぐに忘れる事にしました。



 ジャンヌちゃん達と別れた後、少年達はガラハッド君の武器探しに戻りました。


 結局、ガラハッド君は先日まで使っていた剣と殆ど同じ物を選びました。


 パリス少年が「それでいいのか?」と聞きましたが、ガラハッド君は笑って「前と似通っている方が間合いとか誤り難くていいだろう?」と言いました。



「武器選びで冒険するのは、またの機会にしておくさ」


「アイスソードに興奮していた頃のお前に聞かせてやりたいよ……」


「私も大人になったという事だ」


「大人になるの早いなー……」


「あにゃっ! リンちゃんたちだぁ! オッホホ~イ」


 パリス少年が呆れ顔を見せているところ、舌足らずな声が近づいてきました。


 アンニアちゃんです。


 お兄さんのレムスさんもいて、プニッとした幼女フトモモでお兄さんの頭を挟み込んで肩車してもらいながら近づいてきました。


 その小さな手に、小豆色の剣……もとい、アイスを持ちながら。



「おう。お前らも買い物か?」


「あ、うん。……その、アンニアちゃんが食べてるのって……」


「デッカイ小豆棒だよぉぉ」


 アンニアちゃんの小さなお手々にはベロベロ舐められ、刀身の3分の2が溶け果てたアズキ狩りバーEXの姿がありました。


 それなりに高級な品であった筈なのに、無残な残骸と化しつつアズキ狩りバーの舐め溶かされた柱に「はずれ」という文字を見つけたガラハッド君の目が小豆色に濁りましたが、他の皆は特に気にしませんでした。


「ガラハッドの装備買いに来たり、皆でうろついてたんだ」


「さっきベオさんにも会ったよ」


「おっ、そうなのか? アイツ、武器触れねえのにガリア来るとは珍しいな。うっかり触って揉め事になってなきゃいいけど」


「は? 何で触れねえの?」


「呪われてんだよ」


 セタンタ君達はレムスさんの言葉に首を傾げ、疑問しようとしましたが――レムスさんに肩車してもらっているアンニアちゃんが「にいた~ん」と甘えた声を出しながら呼んだ事で、問いかけられませんでした。


「あんにぁ、おなかペコペコさんだよ? とくべちゅなおべべもまだぁ?」


「おー、悪い悪い。食べてから取りに行こうな」


「やったぁ」


「お前らも来い。昼メシ奢ってやる」


『はーい』


 少年少女ワンコは狼に先導され、ガリアにある食堂に行きました。


 昼食にはまだ少し早い時間でしたが、食堂の厨房はとても忙しそうでした。


 店内の席はそこまで埋まってはいないのですが、おかもちを両手に持ち――あるいは荷車を引いた若い店員達が慌ただしく店の外へ出ていってます。


 ガリアにある工房に出前に行っているようです。


 バッカスの武器庫と呼ばれるだけあってガリアで仕事をしている職人は非常に多く、工房で働いている職人さん達からの昼食需要は非常に高くなっています。


 弁当の配達も盛んに行われており、弁当の業者さんが工房ごとにまとめて配達するのを狙い、注文取るべく営業をかけにくる事もあります。


 ただ、都市がカンピドリオ士族の自治都市なだけに、お弁当屋さんは士族の系譜に連なるお弁当屋さんが殆ど独占してしまっている状態だったりします。


 そんなガリアの都市で、少年達は食事を取りました。


 カンピドリオ士族の兄妹がキロ単位で肉を食べる光景に胸焼けしながら……。


 レムスさんは少年達の視線に気にせず、ハムスターが頬袋に食べ物を蓄えるように幸せそうに食事している妹さんのほっぺたについたソースを拭いてあげつつ、少年達に「そういや……」と話しかけ始めました。


「お前らの中で、誰か今度の教導隊行くヤツいねーか?」


「あー、うん、一応、いるよ」


「オレ様とライラ以外、3人共参加」


「マジか。よし、誰か俺と入れ替われ」


『はあ?』


「俺も教導隊、参加してえんだよぉ~~~~!」


 レムスさんは心底参加したさそうに腕を振りました。


 セタンタ君達は「いや、レムスさんは参加した事あるんじゃないの?」と問い、レムスさんは頷いたものの「今回が良いんだ」と神妙な顔つきになりました。


「今回は兄者も参加する教導隊だからな……!」


「ああ、一緒に行きたいんだ……」


「ロムルスさんって教導隊に呼ばれるような年齢じゃないんじゃ……?」


「引率側の人間だよ。政務官として……バッカス政府の仕事で西方諸国に顔出しつつ、移動中は若いヤツらの教導手伝うんだってよ。俺も教え導いてほしい」


「仮に参加出来る年齢でも『お前は来るな』と言われそう」


「もう言われた」


「そう……」


「今は距離置きたいから士族から追放されたんでしょ?」


「追放じゃくて爪磨の儀! 兄者の考えも小指の爪ぐらいはわかるけどよ!」


「少ない」


「今回は兄者にとって初の政務官として国外に赴く仕事なんだぜ!? 弟としてメッチャ気になるし、護衛とかメッチャしてえ」


「ロムルスさんなら別にフツーに、そつなくこなすでしょ」


「まあ、そうだろうけど、世の中には兄者に失脚して欲しいような嫌なヤツもいるんだよ。そういうヤツからの妨害があると面倒だなぁ、と思うわけよ」


 レムスさんは「マーリンちゃん、俺が女装するから代わってくれ」と言ったものの「ぜったいヤダ……!」と返され、寂しそうに嘆息しました。


 セタンタ君は「多少、股間もっこりしてても大丈夫そうだな……」と思いましたが、マーリンちゃんにブン殴られそうなので自重しました。


「兄者が大変な時に、俺は何をしているんだろう……自分が情けない……」


「にいたん、がんばぇー」


「元気出てきた。さすがアンニアの声援」


「あんにゃに、いっぱいごはんおごるために、がんばれぇ」


「おうっ! 何をどう頑張ろうかな……?」


「おしごとして?」


「お仕事するかぁ。アタランテにもケツを連打されてるから何かデカい仕事を……ドカン! とやってアイツに『ふぇぇ、レムスすごいじゃない』と言わせたい」


「絶対言わなさそう……。あ、デカいと言えば、かなりデカいミーティアが首都上空を横切るかもしれないみたいだよ」


「お、マジか? いつ?」


「ギルドの発表だと2~6ヶ月ぐらいの予定。まあ、首都通るのは確定じゃないけど北側から緩やか~に首都方面に来つつあるみたい」


「ほぉぉ。ま、近所来るまで期間変動しそうだが……」


「中々、陸地に来る進路にならないから狙ってる人達がヤキモキしてるみたいだよ。ブロセリアンド士族辺りが海上で仕留めるかもねー」


「良いこと聞いた。他の仕事もするとして……オレがそっちも狙うのアリだな」


 レムスさんが笑みを浮かべ、マーリンちゃんにお礼を言いつつ「アタランテにも相談してみるよ。アレなら納得してもらえるだろ」と返しました。


 セタンタ君は「ミーティア」が何であるのか知っているらしく、多少、「へえ、そうなんだ」と声もらす程度で昼食を続けていきました。


 パリス少年とガラハッド君は聞き覚えのない名称――名前なので、「魔物か何かかな?」とは思いつつも、何であるかは合点がいっていない様子でした。


 二人の様子を見たマーリンちゃんは、詳しく説明し始めてくれました。


「ミーティアってのは空飛ぶ魔物だよ」


「「へぇー」」


「別名、竜星龍。部類としては竜種。ただ、結構マヌケな竜種だから強さそのものはそこまででもない、かな? すごい大きいわりに、スイスイ飛ぶんだけどね」


「空飛ぶの弱いのか」


「デカいうえに、すごい高いとこ飛ぶんだけど、地面まで急降下してきて……そのまま地面に激突して自殺しちゃう事があるぐらい、マヌケなヤツだから……」


「ホントにマヌケだな……それは」


「……あ! そいつ、前に聞いた魔物ヤツか!?」


 パリス少年は以前、聞いた話を思い出しました。


 それは彼がセタンタ君達と初めて、ちゃんと冒険に行った日の出来事でした。


「魔物の残す痕跡について教えてくれた時、言ってたヤツか?」


「そうそう、よく覚えてたね」


「稼げるって聞いてたからな! でも、そいつって自殺するマヌケな魔物かもだけど、首都に落っこちてきたら大惨事じゃないか?」


「大惨事だねぇ。今回のはことさら大きいから、数区画ぐらい壊滅するかも」


「「ひぇぇぇ……」」


 首都は広いので都市の一部の被害で済みますが、他の都市によっては直撃コースで落ちてこられると都市が丸ごと一つ滅ぶほどです。


 間抜けな魔物ですが、ちょっとした隕石のような存在なだけにバッカス冒険者ギルドもミーティアの予想進路に関しては出来るだけ正確に、最新のものを公開し、急ぎ討伐する必要があれば討伐隊を編成し、都市上空を通る前に迎撃します。


「もっとも、ミーティアは稼げる魔物だから自発的に狩りに行く人達は多いから……ギルドが討伐隊編成するのは結構稀かなぁ」


「動きつかめて無かったのが都市近くに来ると、急遽迎撃のための部隊を編成して派遣とかはしたりするけどな」


「遅くとも首都よりずっと北側の海上から、陸地の上空に入ってきた時点で討伐隊が動き出すだろ。……俺はそいつらを、海上で先んじて討伐してやろうかなぁ」


 レムスさんが少し邪悪な笑みを浮かべました。


 討伐は早い者勝ちなので、先んじて横取りするのも自由です。


 陸地で討伐した方が死体の切り分けが楽なのですが、海上でも専門家に手伝ってもらえば解体と運搬は不可能ではありません。レムスさんはその辺り、心当たりがあるので白狼会の仕事として真面目に検討を開始しました。


「パリス、お前こっち残るなら手伝えよ」


「えっ、オレっ!?」


「おう、ライラちゃんと一緒にな」


 パリス少年は不意に声をかけられた事で戸惑いましたが、若干上目づかいで「手伝いたいけど、足手まといになると思う……」と遠慮しました。


 が、レムスさんは「討伐はアタランテ辺りがズバァと済ませるから、解体と運搬手伝いに来いよ、って話だ」と言い、笑みを浮かべました。


「音の魔術も使えるなら、竜星龍あいてに音で自分の位置知らせて、地上に誘き寄せるとかも出来るかもだ。倒すのは難しくねえけど、倒したらクソデカい死体を解体したり、運ばにゃならんから、それ手伝いに来てくれよ。仮に狩猟失敗してボウズで終わっても日当と遠征手当ぐらいはちゃーんと出すぜ」


「うーん……」


「参加させてもらっとけ、戦闘はレムスの兄ちゃん達がこなすだろうから」


 セタンタ君は迷うパリス少年を肘で軽く突きつつ、後押ししました。


 レムスさんも主力として誘ってるわけではなく、実力はある程度知ってくれていて――それでもなお誘ってくれているのだから、大丈夫だよ、と言いながら。


「良い経験になるだろうから行っとけ」


「そうだそうだ、来いよパリス」


「じゃ……じゃあ、討伐隊に入れてもらって、いい?」


「いいぞ! つっても、直ぐに狩りにいくわけじゃねえから、早くともこっちの方来るの……2ヶ月ぐらい先だったっけ?」


「そんぐらいかなー。ボクもチラッと聞いたぐらいだから、詳細はギルドに聞いてね。進路もフラッと変わる可能性あるし、首都方面来ないかもだし」


「まあ、変わったら変わったで追うさ。つーわけでパリス、直ぐにって話じゃねえけど、討伐行く時にヒマだったら手伝いに来い。また声かけるわ」


「う、うんっ! うわあ……竜種ドラゴン狩りを間近で見れるとか、スゲエなぁ」


 パリス少年は目をキラキラさせ、ワクワクした様子を見せました。


 それを見た皆はほころび、セタンタ君達も「これで安心して教導隊に行けるかな……?」と考え、内心でホッと胸をなでおろしました。


 少年達の悩みを知らぬ幼女アンニアちゃんは、「じぃ……」とライラちゃんを見つめ、「ワンちゃんがいる……?」と今頃気づいていました。


 幼女はライラちゃんを見ている事でこぼれ出てきたヨダレを拭い、お肉を食べながらライラちゃんを見つめ続けました。ライラちゃんは身の危険を感じました。




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