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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
六章:お別れ
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剣の利点



「武器の選び方は色々あるけど、やっぱ実際に使ってしっくり来るのが一番だ」


「しっくり来るものが無かったら?」


「そりゃもちろん、練習するっきゃねえ」


 セタンタ君はそう言いつつ、皆を伴い、棚卸し市の場から離れました。


 やってきたのはガリアの一角にある武器屋さん。


 扱っている品は市と大きくは違いませんが、施設面での差異があります。


 武器の試用が出来るお店なのです。


 セタンタ君は店主のお姉さんに事情を話し、「前途有望な駆け出し冒険者のために協力して」と言いつつ心付けを渡そうとしました。


 しかしお姉さんはニッコリ笑ってそれを断わり、「駆け出し用の試し振り品があるから、それなら壊れるぐらい振るってもいいわ」と言いながら自分の自宅の住所を記した紙をセタンタ君に奥ゆかしく渡しました。


「おっ、試し切り用の土人形ゴーレムまである」


「フェルグスさんのとこにあるのと同じヤツだな」


 ガラハッド君が少し懐かしそうに眺めました。


 ジャンヌちゃんは惨たらしく魔物を殺す道具が多数あるのを嬉しげに眺めつつ、セタンタ君に「良さそう、と思ったものを実際に使ってみろ」と言われました。


「使ってみてしっくり来るのが一番だ」


「わかりましたー!」


「弩とかオススメだぞ」


「?? これの何が楽しいんですか……?」


「えっ?」


「離れたところから魔物を殺してたら……肉がプチプチ裂ける感触、骨のゴリッとした抵抗、人間相手にイキってる魔物の最初にして最期の断末魔を間近で感じ取れないじゃないですか……お兄さんは食事の匂いだけで満足な人なんですか……?」


 二人はお互いに、理解できないものを見る目で見つめ合いました。


 セタンタ君の方が「そ、そうか……じゃあ剣とか槍にしろよ」と大人の対応をした事でジャンヌちゃんが嗤ったので、特に口論にならずに終わりました。


 少年はムーンウォークで少女から離れ、ベオさんに言いました。


「アイツ大丈夫?」


「どうだろう? 腕前は俺が思っていた以上にあったのだが、純粋過ぎて頭の出来が人とは少し違うんだ。バッカスでちゃんと友達が出来るか、心配だ」


「そっちの心配……?」


「良ければ友達になってあげてくれ。何なら彼女にしても良いぞ」


「無視して説明始めてもいい?」


「ああ、頼む。ジャンヌ、こっちに来て話を聞きなさい」


「アハハハハ! アハハアハハハハハハハハハハハハ――!」


 少女は放置して、ひとまずベオさんだけで説明を聞く事になりました。


 少女の方は、パリス少年達に「任せた!」と言いながら……。



「本人がアレだから……とりあえず近接戦闘用の武器に関してからでいいかな」


「頼む」


「まあ、よく選ばれてオススメなのは……剣、槍、槌、斧あたりかな」


 セタンタ君は試し振りようの武器それらに触れつつ、言葉を続けました。


「知ってるかもしんねえけど、バッカスの魔術は基本的に行使者の身体から離れるほど弱くなる。だから威力や魔力の燃費考えると、近接用武器の方が優れている」


「身体強化魔術であれば体内で魔力をある程度循環出来るから、魔力の損失ロスが少ないが、矢に魔力を乗せると飛んでいったまま……といった感じか」


「そんな感じ。弓矢の方が剣槍より優れてる点は沢山あるけどさ」


 何よりも間合いは圧倒的に優れています。


 魔物が強くなれば強くなるほど、近接戦闘を主体とする冒険者は高い技能を要求されます。が、広い間合いを持つ弓使いであれば、その辺はまだ融通が効きます。


 前衛がいる戦いであれば、魔物は前衛に止めてもらって後衛として落ち着いて弓矢を射掛ける余裕が生まれるでしょう。


 地勢次第では一矢飛ばしては逃げ、一矢飛ばしては逃げとチクチクと間合いを活かして魔物の命を削っていけるのが弓矢の良いところです。


 ただ、魔術のあるバッカス王国だと威力と燃費は近接戦闘用の武器の方が優れており、広い間合いが絶対正義になるとは限らないのです。


「近接戦闘用の武器は、やっぱ剣や槍人口が一番多いと思う」


「槌の方が丈夫で、硬い魔物も相手取りやすそうだが」


「そん代わり、斬り裂くのは全然向いてないんだ」


「……失血死させやすいかどうか、という問題か?」


「うん。刃物はそれが出来るってのが強え。鱗が鎧のように硬え魔物もいるけど、武器強化魔術使えばそういうのある程度は対応出来るし……生まれ持ってのものじゃなきゃ、鎧をわざわざ着込む魔物も少ないからさ」


 ベオさんは少年の説明を聞きつつ、今までバッカス王国で経験した冒険者仲間との狩猟を思い出していました。


 ベオさん本人は拳ぐらいしか使わないとはいえ、周囲の冒険者――例えばレムスさんなどは――当たり前に武器を使い、当たり前に失血死も狙っていました。


 魔物相手には失血死も有効な戦術と成りえます。


 普通の生物よりは格段にタフとはいえ、首を落とさないと絶対に殺せない――という魔物ばかりでもありません。そういうものもいますが、大半の魔物が大量出血で息を引き取るなり、弱っていく事になります。


 ゴーレム等の非生物型の魔物には有効な戦い方ではありませんが、血が通っていて、なおかつ再生能力の優れていない魔物にはよく使われている狩猟方法です。


 失血死の狙える大型の魔物であれば――血が吹き出しやすい部位を解剖学的に見定め――不意打ちでそこを斬り、スタコラ撤退。大量出血しながらも弱っていく魔物が息絶えるまで、一定距離保って逃げる戦術もあるほどです。


 魔物には、基本的に傷口を手当する頭が無いだけに。


「まあ、硬い魔物には文字通り刃が立たなくなるから、どこ持っていっても使いやすいのは槌とか打撃で殺すヤツだ。けど、大型の魔物相手に打ち合い挑むよりは、失血死狙うのが楽~って事が多々あるんだ」


「若いうちに刃物に慣れておくのも良い、という事か」


「そういう事。何でも使えて、状況次第で使い分けるのが一番だろうけどさ」


 どういう武器が有効かは魔物によっても様々。


 使う人だけ考えるのではなく、振るう相手も考える必要があります。



 セタンタ君は他にも魔術適正による武器の選び方も告げました。


 駆け出し向けの魔物がいる場所と生態の紹介もしつつ、魔力無しの筋力で保持出来る武器選びに関しても言いつつ、「木製の棍棒とか安いぜ」と冗談交じりに言いつつ、武器選びの説明を続けました。


 説明の過程で少女を一人、冒険者業界に投げ出すのは危険なので――本人にもしっかりと――武器選びも大事だけど、仲間も見つけた方がいいとも言いました。


 少年のセリフは幼馴染の猫系獣人の少女に「ま~たセタンタは自分のことを棚上げして~」と言われる事になりましたが、少年はそれに対して「いや、最近は一人じゃねえだろ」と返し、少女はその返しに嬉しげに頷きました。


 そんなやり取りがあった後、ジャンヌちゃんの武器選びが終わりました。


 最終的に選ばれたのは、彼女の身の丈ほどの長剣でした。



「これが良いですっ! これが素敵です!!」


「値段は……うん、まあ、これなら俺も買ってやる事が出来る」


「ちょっとデカすぎないか? 身体強化無しだと持ちづらいだろ」


「全然平気です! 私はこれがいいです! これが気に入りました~~~~!」



 決め手は「本人の好み」でした。


 それも武器選びの方法ではありますが……セタンタ君は親切心で反対しました。


 が、彼女が打ち込み用の土塊を軽々と両断した事で黙りました。


 野生の才能の塊が、ゴロリと転がっていると思いながら……。




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