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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
六章:お別れ
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王国の武器庫



 パリス少年は都市間転移ゲートを通り、首都から別の都市へと向かいました。


 少年の後にはガラハッド君とライラちゃん、そしてまだギャアギャア言っているセタンタ君とマーリンちゃんがいました。


「おしっ! 着いた着いた」


「ここがガリアか……初めて来た」


 四人と一匹が降り立った地。


 そこはいくつもの工房が立ち並ぶ金属臭い都市でした。


 都市の名をガリア。


 バッカス最大の工業都市で、日々、冒険者が使う武器防具が作成されています。駆け出し向けの品から熟練冒険者向けの上質品、オーダーメイドの品まで多数作成されている事もあり、バッカスの武器庫と呼ばれる事もあります。


 都市を自治しているカンピドリオ士族が腕利きの職人を集め、手厚く扱い、ガリアの商工会が雑多な仕事を一手に請負、職人達には「出来る限りモノ作りに集中出来る環境」を整備しています。営業活動も全て商工会が一手に引き受けています。


 商工会は工房に卸す材料の仕入れも士族戦士団を動かし、都市郊外から安く素早く大量に仕入れてきていますが――その代わり、各工房に「後進の育成」を行うように依頼もしています。


 後進育成は義務ではありませんが、徒弟を取って育てる事で商工会への材料調達等の依頼も融通が利かせて貰える事や、「後進育てきってこそ一人前の親方」という思想が広められている事もあり、後進育成は盛んです。


 商工会主催の勉強会やコンペも行われ、各工房の横の繋がりと分業体制も他所より格段に進んでおり、好待遇が他所からさらに別の腕利き職人を呼び込んでくるきっかけにもなっています。


 ガリアで揃わないものはない――と言われる事もあるほど、モノ作りが盛んな都市です。揃いすぎて珍妙な品も見つかる事もあるほどです。



「こ、これは……!」


「おっ? お兄さん、コレが気になるのかい?」


 ガラハッド君が珍品に引っかかり、感嘆しながらショーケースを見つめました。


 珍品過ぎた所為で、セタンタ君とマーリンちゃんもギャアギャア騒ぐのを止めて「うわ……」と言ってドン引きましたが、ガラハッド君の琴線に触れたようです。


「ヒヤッとしてますね」


「フフッ! アイスソードだからね!」


氷結アイス長剣ソード……!」


「ガリア第三工房が作り上げた一品さ。氷等で作られた刃は斬り裂いた魔物の傷口を凍らし、再生能力を阻害し……低温で内側から自由を奪っていく」


「恐ろしい……ですが、心強さもある剣ですね」


「そうだろ? この刀身を見てみな……綺麗なもんだろ?」


「妖しげな赤褐色をしていますね……?」


 あずき色とも言います。


「ちょっと刀身、触ってみるかい?」


「い、いいんですか!?」


「まあちょっとぐらいなら。叩いてごらん」


「ふんっ! ぬっ……! とっても、かたーい!」


「一般的なナイフの硬度はHRC60程度なんだが、コイツはその5倍……HRC300の硬さを持つ。金剛石ほどではないが、サファイア以上の硬さを持つコイツはちょっとやそっとじゃ壊せない。魔物の……竜種の牙ですら、歯が立たないかもしれないね。一線級の装甲板にも使えるほどの素材を使ってるんだ」


守護しゅごい」


「硬すぎて、釘も打てる」


「すごーい!」


 ガラハッド君は目をキラキラさせながら、小豆あずき色の剣に引かれました。


「銘は何と言うのですか?」


「アイスソード……アズキ狩りバーEX」


「買います!」


「買うなッ!」


 パリス君がセタンタ君の槍を借り、ガラハッド君の頭を叩きました。


 しかし、「おれはしょうきにもどった」という事も無く、ガラハッド君はいぶかしそうに「パリス、何故止める……!」と鼻息荒く問いかけました。


「これは素晴らしいものだ」


「どう見ても小豆味のアイスじゃねえか!! 小豆あずきばー!」


「お前はこの剣を舐めた事も無いのに味がわかるのか?」


 パリス少年は剣の横に置いてあるものを指差しました。


 そこには片手で持つのにちょうど良い大きさのアズキ狩りバーEXが販売されており、少年達はそれを買い求め、ちょっと舐めてみました。


「「「「あずきだコレ」」」」


「中々するどい少年がいたものだね」


「誰がどう見てもわかるわッ! ガラハッド以外ッ!」


「アズキ狩りバー・チビ、かたーい!」


「歯が立たねえ……! けど、舐めると小豆の味がする……」


 セタンタ君とマーリンちゃんが魔術も使って噛み砕こうと頑張りましたが、先にアゴに限界が来たので仕方なくペロペロ舐め溶かし始めました。


 矢ぐらいは軽々と跳ね返しそうな硬度です。ちょっとした鈍器になるでしょう。


 ガラハッド君も舐めながら「確かに小豆味」と認めました。


「と、言う事は……そちらのデカい方は非常食になるという事ですね!?」


「そういう事さ! 察しが良いねえ!」


「魔物を倒せるうえに、装甲板並みの硬さで食べられる剣。攻守食一体だ!」


「食まで完備する必要ある?」


「私は小豆棒コレを自分の甲冑に取り付けたい」


「蟻が来るっつーの……」


 パリス少年は呆れ顔浮かべつつ、ライラちゃんに犬でも大丈夫な飲料水を手のひらをお皿にペロペロ舐めさせた後、ガラハッド君を引きずっていく事にしました。


「ほら、行くぞ」


「あぁ~! 私のアイスソードが~! 念願のアイスソードが~!」


「すまんけど、どっちにしろ売約済みで売れないんだわ~!」


「そんなぁ!」


「アホやってないで探せ! 教導隊持っていく用の剣を!」


「てか、剣で良いの? ガラハッドは槍とかも使えるじゃん」


 マーリンちゃんが小豆棒をペロペロ舐めながら言いました。


 セタンタ君はその隣で歯型すらつかず、カチカチ過ぎて溶ける様子もない小豆棒を口いっぱいに頬張り、激しく前後させる事で溶かそうと足掻いています。


 ガラハッド君は「どちらかと言うと剣の方が慣れてるしな」と返しつつも、小豆棒をひと舐めして問いかけました。


「教導隊なら、どちらを持っていくのが正解なんだろう?」


「うーん? どっちでもいいと思うよ? ただ、ちょっと長めの船旅になるから刃が錆びないように手入れの道具と油は持っていった方がいいよ」


「ふむ……いっその事、両方買おうかな……。鈍器にも興味あるし……」


 ガラハッド君は懐の金袋を服越しに触りつつ、呟きました。


 お金に関してはエルスさんに貰った支度金で十分足りるでしょう。


 武器も、いくつか持っておくのは良い事です。


 魔物によっては有効とされる武器も様々なので、多種多様な武器を扱える事は様々な状況に対応出来るために、各地を渡り歩く浪漫冒険者は使い分けが出来ると良い、という意見もあります。


 もちろん一つを極めるのも十分アリです。


 常に複数の武器を持ち歩くのも荷物が多くなって難しい、という問題もあります。教導隊は基本、船による移動になるので荷物の持ち運びに関してはそこまで気にせずとも良いのですが、いつも船に頼れるとは限りません。


 パリス少年はガラハッド君の意見に賛成しつつ、別の選択も示しました。



「どっちかに絞って、甲冑を買い替えるのもアリなんじゃないか?」


「まだあまり使って無いぞ」


「つっても、無理やり甲冑っぽい形にしてる超安物だぞ」


「……私はまだ使いたい」


 ガラハッド君は、むっつりと呟きました。


 今の甲冑は殆ど手作りの品ですが、その経緯こそが彼に「もっと使っていたい」という気持ちを抱かせ、言葉も吐かせました。


 パリス少年は、ガラハッド君ほど拘らずに反対しました。


「アスティ市街跡で焦げたりもしただろ? 正直ちょっと見た目悪いぜ」


「私は気に入っている。焦げた事で、むしろ良いものに仕上がった」


「教導隊に着ていくには、ちょっと……ダメだろ」


「ダメじゃない。お前とセタンタが作ってくれた鎧だぞ、まだいける」


「うーん……」


 パリス少年は困り顔で、セタンタ君に助けを求めました。


 小豆棒と格闘していたセタンタ君でしたが、視線で助けを求められた事もあり、一時奮戦を中断し、「俺も変えた方がいいと思うぞ」と言いました。


「教導隊に参加するのは、若手だろうと士族代表として強えヤツが派遣されてくる事もある。金持ちだから良い装備まとってるヤツが少なくない。悪目立ちするぞ」


「目立って結構。魔物の目も釘付けにして、上手く囮になれるな」


「一番困るのはお前だぞー」


「困らん。いつか買い換える事になるかもしれないが、それは今じゃない」


 ガラハッド君は鼻を鳴らし、「この話題はここまでだ」と言いたげにツンとし、足早になって少し先を歩き始めました。


 セタンタ君はその反応に嘆息し、マーリンちゃんは苦笑し、ライラちゃんはトテトテ歩き……パリス少年はとても困った顔をしていました。


「ガラハッドは頑固だから仕方ねえよ、手入れで誤魔化すしかねえ」


「けど、なぁ……」


「出来るだけこっちで、悪目立ちしないように見とくよ。アイツが今の鎧に、性能度外視でこだわっちまう気持ちも……まあ、多少はわかる」


「うーん……」


「それに全身甲冑となると、サイズが合うのも売ってないかもしれないし」


「採寸して作ってもらう事が普通だしねー」


「うーん……けどなぁ……」


 パリス少年は困り、迷いました。


 みずぼらしい格好で笑われる居心地の悪さは、わかっているつもりでした。


 だからこそ、現状でも「酷い鎧使ってるな」と思われているガラハッド君が教導隊でどういう目で見られるかが心配でたまりませんでした。


 けれども、ガラハッド君の意志が硬すぎて、ひとまずは諦める事にしました。



 そんなやり取りがあった後、彼らはガリアで知人に会う事になりました。




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