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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
五章:迷宮都市サングリア
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遺品の行末



 こうして、フィンちゃんのもとにご両親の指輪が帰ってきました。


 ただ、帰るべき場所に至っていない落とし物はまだ沢山ありました。


 セタンタ君達がラカムさんから得た遺失物。


 そして、セタンタ君がネズミの巣で拾ってきた遺失物です。


 異形の剣士を倒した後、彼が切り刻んだ死体から出た遺失物も拾い集められ、地上へと持って帰る事になったのです。


「巣で拾った遺失物ヤツはセタンタのもんだな」


「いや、殆どレムスの兄ちゃん達が拾い集めてくれたやつじゃん」


「敵を倒したのはお前だ。俺は観戦して楽しませてもらっただけだからなぁ」


 レムスさんはそう言って笑い、譲ってきました。


 売り物にしてしまえば腐肉漁りのラカムさん達と同じ事をするだけですが、売り物にしないにしても冒険者にとっては価値あるものなので、セタンタ君は有難く受け取り、仲間内で全て冒険者ギルドに届ける事にしました。


 そこでセタンタ君は思い出しました。


 自分達が得た――ラカムさんから取った――遺失物の中に、レムスさん達が探していた難民の女の子の冒険者証を見つけた事を思い出しました。


 セタンタ君は気まずそうに、それを渡しました。



「冒険者証だけなんだけど……腐肉漁りから取り返したから渡しとく」


「おっ! 助かるぜぇ」


「ただ、遺体の方は……どこにあるかわからねえ。ごめん」


「そりゃそうだろ。死んでねえんだから」


「は?」


 レムスさんは魔物の血で汚れた冒険者証をハンカチで拭きつつ、少し離れたところにいた人達を「おーい」と呼びつけました。


 やってきたのはレムスさんに人探しを依頼してきた徒手空拳の冒険者さん。


 そして、その冒険者さんに肩車されながら――ケダモノのように目を爛々と輝かせた――ちょっと思考回路が危ない雰囲気のする女の子でした。


「その子の冒険者証、セタンタが拾ってきてくれたぜ」


「そうなのか。ありがとう、再発行費用も安くは無いからな……」


「いっ、生きてたのかよ……!?」


「実は、キミ達と今日会う少し前に捕まえたんだ」


「捕まえた?」


「地下に潜ってテケテケと走って魔物を殺して回るのが楽しすぎて、地上に帰還するのを忘れていたらしい。元気が有り余っていたようだな?」


「あはははあはは! 冒険者稼業って、たのしーーーんですね!? 魔物の死体すきっ! 人間の死体もだいすきですっ! 死にかけを治すのが一番すきですっ! あはは! あははははは! 死にかけを治して死にかけにすると無限です!?」


 肩車した女の子はゲラゲラ、アハアハと大笑いしています。


 悲壮感のかけらもない元気っぷりで、全身が返り血で汚れていました。



「は……? あの、二週間ぐらいずっと地下に潜りっぱなしだったの……?」


「そのようだ。食事ならその辺を這っていたそうでな」


「それって大ネズ」


「あーーーっ! お兄さん怪我してるぅぅ!? 治させてぇぇぇ?!」


「こら、暴れるな」


 ケタケタ笑う少女は肩車されながら大暴れ。


 肩車している冒険者さんはそれを「どうどう」となだめつつ、言いました。


「彼がお前の冒険者証を拾ってくれたのだ。感謝しなさい、ジャンヌ」


「お兄さんありがとおおおお!! お礼に切開して治したげるうううう!!」


 セタンタ君はレムスさんの後ろに隠れ、そっと「結構です」と断りました。


 女の子はその後も暴れ続けましたが、徒手空拳の冒険者さんに肩車されたまま「ご両親に無事を報告せねば」「はあああい! わあああい!」と連行されていきました。元気すぎですが、生きてて良かったですね。



「ちょっ……と、元気すぎじゃねえかな?」


「元気なのは良いことじゃねえか。そしてカワイイ。カワイイは無敵だ」


「レムスの兄ちゃん、女だったら何でもいいのか……?」


「そんな事ねえよ!? 可愛かったら大体何でもいいだけだよ!」


 セタンタ君はレムスさんに対しても引きました。


 レムスさんは大して気にせず、少年達を集めて「打ち上げしにいこうぜ!!」と叫びました。アタランテさんにどつかれて、「きゃひん」と泣きましたが。


「アンタいいご身分ね……大して稼いでないくせに打ち上げとは……!」


「未来への投資だよぉ!? 落とし物届けと同じでさ? 今回、大儲けはしてねえけど赤字にしないよう頑張ったので打ち上げ行かせてくれよぅ」


「はー……まあ、片付いたからいいか。今日はこの馬鹿の奢りだから、皆良かったら一緒に食事しにいきましょ。フィンちゃんも良かったら来なさいな」


『やったー!』


「レムスは明日からキリキリ働きなさいよ」


「うんっ!」


「ガキみたいな笑顔向けてくんな……カス」


 アタランテさんがむず痒そうに頬を染め、片手で顔を隠し、子供のような笑みを浮かべるレムスさんから目を逸しました。


 レムスさんに限らず、一仕事終えた後の打ち上げに皆笑顔です。ただ、地下の微かな汚臭を落とすためにも大衆浴場で身を清めた後の打ち上げとなりました。


 セタンタ君達の方は、別のところにも寄る必要がありましたが。



「俺らは先に、ギルドに落とし物全部届けてから行こう」


「りょーかい」


「わかった」


 三人で分けて持つ事になった遺失物おとしものは相当な量です。


 ギルドに持っていく事で、いくらかは持ち主に――あるいは持ち主の遺族に――ギルドを経由して届く事になるでしょう。


 ガラハッド君は治療師さんに治してもらい、少しは動くようになった腕も使って遺失物の入った袋を抱えつつ、「一時だが、小金持ちだな」と冗談を言いました。


「着服するなよ~? といってもこのまんまじゃ大金にはならないけど」


「しないしない。ただ、これだけドッサリあると少しだけ惜しい気持ちにはなっただけだ。持ち主や関係者の人を考えると、不謹慎極まりない思考だが……」


「まあ、これ全部手元から消えても……残るもんもあるんだよ」


「何が残るんだ?」


「人からの信頼、かな」


 ガラハッド君は首を傾げましたが、後日セタンタ君の言葉の意味を知る事になりました。法を悪用する悪人ばかりが得するわけでは無いのです。


 得られるものは目に見えないものでもありますが……それは後々、確かにガラハッド君達の財産となっていく事になりました。




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