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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
五章:迷宮都市サングリア
141/379

格上



 少年剣士もまた、後ろを仲間に任せて戦っていました。


 ただ、こちらは一人きりで――相手は格上が二体もいました。


「ハッ――ハッ――ハッ――」


『手t@滑ljdq』


『過失相殺djd)4』


「ッ!」


 少年剣士・ガラハッドは痛む身体で思い切り飛び、敵の攻撃を回避しました。


 二体の士魂8型・改。


 不気味な機械音声を鳴らしつつ、少年を攻撃し続けています。


 先に戦っていた大型の方は鈍重ながらも重たい一撃ドリルと鋭い礫の散弾による牽制まで行っている相手。これだけならまだやりようはありました。


 少年の計算を粉砕したのは、遅効で無音起動した二体目のゴーレム。


 大型に意識が向かっているところを横合いから思い切り殴ってきた事でガラハッド君の左腕を折り砕き、使用不能に追い込んでいました。


 治癒魔術による治療は不可能ではありませんが、少なくともこの場において即座に治療出来るほど、ガラハッド君の治癒魔術は優れたものではありませんでした。


「もっと、しっかり取り組んでおけば良かったな……!」


『現場w@^./Zs外dwyd@',59tr』


 嘆いてもどうしようも無くても、少年は敵から逃げ回りながら悪態をつかずにはいられませんでした。腕が治ったら勝てるとは限りませんが、少なくとも激痛に悩まされ、身体に使用不可能な重りをぶら下げる必要はありませんでした。



 二体目の軽量型ゴーレム


 それは大型に比べると小さく攻撃も軽いのですが、軽量型だけに動きは大型より素早いものがありました。


 さらに石造りの巨大なハンマーまで振り回しており――大型の刺突ほどの威力はありませんでしたが――ガラハッド君を仕留めに行くには十分過ぎる威力。


 実際のところ、当てて見せた初撃の時点で少年剣士は死んでいてもおかしくありませんでしたが、咄嗟に飛び退って反応しつつ、全力で防護の魔術を使ったからこそ、左腕だけで事が済んだのです。


 ですが、少年にとって一番辛いのは別の事。


 軽量型の立ち回りが、非常に厄介なものだったのです。


「く、くそっ……! 来るなら真正面から来い!」


『7q@』


『r:^@d9473』


「いやらしい立ち回りにも程があるぞ! 誰だこんな設定したのは!?」


 軽量型の立ち回りは単純ながら、嫌らしいものでした。


 常に少年の正面に立つ事は避け、横移動――少年を中心に衛星軌道で避けつつ――少年の後方や横合いへの陣取りで立ち回り続けました。


 攻撃も少年の注意が無くなったタイミング、あるいは大型が仕掛けてくるのに合わせて動くものでした。普通の魔物なら中々出来ない動きです。


 これは人の手によって半端に戦闘用の設定プログラミングが施され、人間の魔力無しでも単独で――しかし魔物として暴走して――動かす事で実現しているという厄介極まりないものでした。


 単騎での性能も低くないのに、連携する士魂8型・改。


 一体ずつでも少年剣士には格上だというのに、連携によって追い詰める戦闘。


 逃げようにも退路がろくに無いという選択肢を狭める状況。



 そんな中、少年剣士が持っているのは剣ではありませんでした。


 ただ一つの盾でした。


 剣は軽量型に叩き飛ばされた際に落とし、離れた場所に転がっています。


 少年は取りに行くか迷いましたが、迷わずに済む出来事が起きました。



『3<32@u|e』


「あっ、あーーーーーっ! やめっ! き、貴様ーーーーーッ!」


『誰tt@怪我r.前w@良tZqw@r』


『注意一秒<怪我一生』


 落ちていた剣は軽量型が「えいっ」と振るったハンマーで壊れました。


 立ち回りが嫌らしいだけではなく、武器破壊まで狙ってくるようです。


『0qd<tdbe~』


「何言ってるかわからんが殺す! お前は苦しめて殺す! くそぅ! かっ、母さんが贈ってくれた剣をよくも……! お値段以上の価値があったのだぞ!」


『敵愾心上昇』


『見事u煽lw@r』


『mZs褒/w』


『6j5hr@q@u#』


「クソッ! クソッ! クソッ!」


 もはや、少年の手元と床に武器はありません。


 あるのは盾と甲冑と己の身体一つのみ。


 少年は怒り、焦りながらも回避を続けて勝機をうかがい続けました。


 待ち続けて、避け続けて、勝機それは到来しました。



「シッ! く――た――ば、れッッ!!」


『67』


『3o』


 少年は思い切り飛んで、転げながら回避しました。


 回避した後、ギリギリのタイミングでゴーレム達の攻撃が空を切りました。


 空を切って――それぞれの刺突とハンマーが味方へと向かいました。


 同士討ち狙いです。


 ガラハッド君は思わず、転げ逃げた先でガッツポーズをしました。


「やったか!?」


 古今東西、たとえ世界は違えども言っちゃダメなセリフを吐きました。


『3Z<32@u|e』


『3uqif使用者責任t@発生djr』


「!?」


 狙い通りの相打ち――には、なりませんでした。


 大型の回転刺突ドリルは逆回転で止まり、軽量型を軽く突く程度に。


 軽量型は遠慮なくハンマーで大型をブン殴りましたが、それだけでは大型の表面石に軽くヒビが入り、揺れるだけで倒す事は出来ませんでした。


 逆転の秘策は失敗しました。


「…………」


 少年は自分の心が折れようとしている事を悟りました。


 つい先日の遠征で雨の中、焔に焼かれ、仲間を守ろうとした――守れるかどうかはともかく――何とか生かす努力をしたからもういいと、心折れた時のように。


 そして、折れた心に鞭を打ってきた憎き冒険者の事を思い出しました。


 あの男なら――父親ランスロットなら、この程度の窮地、打開するだろうと思いました。そもそも正面から斬り倒し、窮地にも陥らないだろうと考えました。


 あの男が今の自分を見たら、上から目線で説教してくる――と思いました。



「フザ……けるな……ッ!」



 少年の中に諦観ではなく、激しい怒りの炎が渦巻きました。


 それにより、秘められた力が発動する――なんて事はありませんでした。


 事はそれほどまでには都合よく進みませんでした。


 ただ、少年は憤怒に跨り、理性の手綱で操る気力だけは持ち合わせていました。


 いまここで何もかも投げ出したら、自分一人だけでは済まされない事ぐらいは――仲間を窮地に晒す事ぐらいは――わかるようになったのです。



「勝つ……勝つ……! お前達程度の壁……超えないと、先に進めんッ!」


『空回lを察知』


『無駄u努力を感知』



 石像達は空気など読まず、襲い掛かってきました。


 少年は絶え間なく動き回避し、憤怒と理性の狭間で思考しました。


 自分に何が出来る?


 どうやったらこの腹立たしい石像デク達に勝つ事が出来る?


 自分の手札はとても少なく、限られている。


 直情にかられて突っ込んだところで秘めた力が発揮される事はない。


 考えて考え抜いて、打開案で切り拓くしかない――そう考えました。



 一か八かで再び相手の関節狙い――武器消失中のため犬死可能性大。


 とにかく回避し続けて機会を待つ――単なる問題の先延ばしで限界は近い。


 身体強化魔術で思い切り蹴る――自分の脚にヒビが入るだけ。


 爪牙に武器強化魔術をかけて決戦を挑む――短剣以下の信頼度。


 盾で殴って殴って殴り続けて倒す――馬力が違いすぎるし数で負けている。



「ハハッ……! 無いな! 私には――僕には! 何の手立ても無いなッ!!」


『3go/jdqt?』


『対象<無力化da'Zqbsを確認?』



 自分では敵を倒せない事を悟り、少年は狂ったように嗤いました。


 大笑いしながら、自分が持ってる手札しゅだんなど限られていると諦めました。


 同時に「馬鹿か僕は! 手札など無限に増やせる!」と歓喜しました。


 勝利を阻む敵に打ち勝つ手段を、愚直に信じて行動を起こしました。


 盾を構え、突撃しました。



『g:y?』


『危険! 作業停止!』


「同士討ち――取らせてもらうッ!」



 少年が選んだのは先程と同じ決着でした。


 意図して敵陣に突撃し――相手の攻撃を誘い、回避行動。


 動く二体の士魂8型・改。


 大型の回転刺突は同士討ちを絶対回避します。


 軽量型のハンマーは相方の装甲で止まる程度の威力。


 同士討ちなど発生しません。


 発生しない――はずでした。



「――武器強化魔術ストレングスプラス



 涼しい顔で、無茶苦茶な姿勢で回避した少年が行使した魔術さえ無ければ。


 回避と同時に、少年の手は優しく――殺意を込めて――動いていました。


 触れた先は軽量型の石鎚ハンマー


 そっと触れる程度の優しい殺意でしたが、石鎚の速度は体感済み。


 少年の武器強化魔術は――石鎚に対して――十全に効果を発揮しました。


 石鎚は大型の巨躯に容易く吸い込まれ、一瞬で上半身を木っ端微塵にしました。


 砕けて飛んでいく石の身体の中には心臓部たるコアの姿。


 身体強化魔術と自身の体幹で独楽こまのように、バレリーナのように動いた少年の身体は、脚はそれを逃さず、蹴り砕き、殺しました。


 砕き殺した勢いのまま――少年は残りの敵から距離を取りました。


 その中には憤怒が渦巻いていましたが、理性が手綱を取っていました。



「あとは、お前だけだな……」


『9g<9g<予期p15o|w@r……』


「ああ……倒したい、殺したい……! 自分の力で、倒したいぃぃ……!」


『撤退不可能』


「それが、現状じゃ無理だと判断出来るぐらいには……成長した、つもりだ」


『敵性戦力1! 正面突破i9.勝利! 営業成績向上!』



 少年は朗らかな笑顔を浮かべ、敵の攻撃を回避しました。


 回避して、回避して、逃げて、逃げて、大笑いしながら戦い続けました。



「私は弱い。使える魔術も少ない、弱く、か弱い駆け出し冒険者だ。


 だが、これは密かな自慢なんだが……私の仲間達は強い。


 私の手札は少ないが、全員揃えばまあ……結構多いんじゃないかな。


 一人じゃ弱いが、仲間に頼れば無限に手札を揃えられる……良い方法だと思う。


 なので悪いが……このまま全員揃うまで、逃げて逃げて、逃げ続けてやる」



 少年は内心、悔しくてキレつつも、笑顔で回避行動を続けました。


 やがて、大ネズミを殲滅してきた仲間達が合流してきました。


 合流してきたので、皆仲良くタコ殴りにして士魂8型をやっつけました。



「おっしゃー! 倒したぞ! 足蹴にしてやろっ」


「すまーん、みんなー、すまんが、おつかれー……ひー、疲れた……」


「ヘッヘッヘッ…………ワンッ!」


「お疲れ。助かったよ……ああ、けど……そろそろ、必殺技の一つでも、欲しい」



 ガラハッド君はそう言って笑って倒れ、気絶しました。


 一体相手の連続回避行動でも、負傷していた事もあって限界に達したようです。


 ですが、二体を一体に減らした苦闘があったからこそ……彼は勝利しました。




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