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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
五章:迷宮都市サングリア
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魔物の巣窟



 ラカムさんの言う通り、一行が行く先には魔物の巣がありました。


 巣作りしているのは大ネズミ。駆け出し冒険者でも倒せる相手です。


 ただ、その数は一行が戦慄するものでした。


「ざっと数えて……100以上はいないか?」


「オレは200だと思う」


「300に一票」


「細かな数なんざ、どうでもいいわい。とにかく多い、でいいんだよ」


 そうのたまったラカムさんも、さすがに冷や汗を流しています。


 一行がいるのは大ネズミの巣がある大部屋フロアを上から覗き込める横穴で、ネズミ達がやってくるには壁をよじ登る必要がありそうです。


 しかし、一度派手に音を立ててしまうとひしめき合って部屋の温度を上昇させているネズミ達の群れが仲間を踏み台にやってきそうなものでした。


 さすがに、これは地図には描かれていなかったらしく、ラカムさんも言葉を失い、歯ぎしりせずにはいられないようです。


「おい、赤蜜園の。何か策を献上しろい」


「帰ろっか」


「やだ……! 大ネズミぐらい一掃しろっ」


「無茶言うな……! 備えがあれば方法あるけど、現状直ぐにどうこうするのは厳し過ぎる。物量で押されかねねえもん。俺は生きたままネズミに食われたくない」


「準備してればいけるのかよ」


「相手による。大ネズミなら色んな方法が試せるな。例えば……ホラ、パリスとガラハッドは事後の現場を見ただろうけど……お前らの同級生が火葬竜に襲われてた時があっただろう」


「あー、あったあった」


「火攻めか」


「大ネズミの毛皮は地味に油っこくてよく燃えるし、首都地下は閉鎖空間だから直接燃やせなくても、場所によっては燃焼で酸素奪って殺せる」


 実際、これは大量の大ネズミの巣を駆除する際に使われる手法です。


 大ネズミに限らず、首都地下で対処が面倒な魔物が出た場合は一酸化炭素中毒死を狙いやすい部屋に魔物を誘き寄せ、待機していた火炎放射部隊ファイアスロアーが「汚物~」「消毒~」と殺しにかかったりします。


 息をしない非生物型の魔物――例えばゴーレムなど――には効果は薄いものですが、生物型の魔物の多くには覿面てきめんに効果のある駆除方法です。


「毒ガス持ってくるのも手だけど、後始末が面倒だからな……。垂れ流しっぱなしで他の冒険者が死のうものなら監獄行きだ。そもそも毒ガスは専門外。その手のものは、多少しか使えねえ」


「その多少をやりくりしろ」


「多少、匂いをルーンで操作する程度だよ。殺傷力皆無」


「つかえねー」


「火炎放射なら多少は心得あるけど、毒ガスは専門家連れてきてくれ」


「心得あるんなら火焔で殺せ」


「だから、今の装備じゃ出来ないんだって……。そうパパッとデケえ火焔を生み出せるような大魔術師じゃねえんだよ、俺は。小細工専門の工兵だと思ってくれ」


「つっかえねえなあ」


「ムカァ……」


「意図して崩落を起こして、一網打尽にするのはどうだ?」


 ガラハッド君の提案にセタンタ君はうなりました。



「まあ、それなら現状の装備でも出来ん事は無いけど」


「出来るのかよ」


「絶対出来る、とまでは言わないけど」


「どうやってやるんだ?」


「爆砕のルーン文字フサルクをしっかり敷設したら、まあクソ厚い壁じゃなければ崩せるよ。魔術敷設の準備とかで現実的じゃねえけど」


「現実的にするためにやれ」


「じゃあ、そこの大ネズミの巣がある下階に直ぐ行ける道を見つけてきてくれよ。そこの天井にせっせとルーン文字を書いて、爆破したら一網打尽だ」


「それ見つけるのもお前の仕事だ」


「その宝の地図は飾りかよ、オッサン……下階への道、描かれてないか?」


「おっ、その手があったか」


 ラカムさんがノリノリで地図を見ましたが、それらしき場所に通じる道は示されていませんでした。ラカムさんはまた不機嫌になりました。


「つかえねえガキだなぁ……」


「こいつ、ネズミの巣に蹴り入れてやりたい」


「あ、下じゃなくて巣がある部屋の天井落としてくればいいじゃねえか」


「大ネズミの群れがいる中で、呑気に敷設作業なんか出来るか」


「天井にへばりついてやれ」


「へばりつくぐらいは出来るけど……敷設中の俺を見て大暴れしはじめた大ネズミが待機中のアンタを襲いに来ても俺は知らねえぞ。というか俺もネズミがネズミ踏み台に飛びかかってきたら死ぬな」


「ぐむ……」


「それに、下から落とし穴作るならともかく、そこの天井を崩落させたら上に誰かいた時に大変な事なるぞ。崩落で生き残っても生き残りのネズミが襲ってくる。俺達まとめて殺人犯として検挙だ」


「そんなもん、お前が一人で罪かぶればいいんだ」


「むちゃくちゃ言うなぁ」


「セタンタに悪ささせるのは論外としても……なあ、あそこの天井、なんか穴が空いてねえか? 人の二人、三人ぐらいは通れそうな穴が……」


 パリス少年の言葉を聞いた皆は密かに部屋を覗き込みました。


 確かに、少年が言う場所には穴が空いています。


 上階に通じているかもしれませんが……それを上手く利用する方法に関しては、一行の誰も特に思いつきませんでした。巣が無ければ、あそこから上に戻る事も出来るかなぁ……? という程度で。


「あそこだけ部分的に崩落したんなら、余裕で天井落とせそうだな」


「だから、そりゃ色々危ないんだって」


「あそこからなら、安全に毒ガスを流し込めそうだ。さすがにあそこまで大ネズミが登りきるのは不可能だろう。今の場所には仲間踏み台に来そうだが」


「あとさ、あの穴の下から何かグチャグチャ音がしてる気がする」


『音?』


「音ならさっきからキィキィってしてるだろうが」


 ラカムさんがパリス少年の言葉に肩をすくめ、「大ネズミが仲間を踏まないといけないぐらい隙間なく、ひしめきあってるんだから」と言いました。


 ただ、パリス少年は「そういうのじゃなくて……」と返しました。


「大ネズミが出してる音かもだけど、オレ様には食事の音に聞こえるよ」


「食事だぁ? まあ……大ネズミは共食いもするほど食事はするだろうが」


「何食ってんのかな」


「生まれたての大ネズミの子供とかかねぇ」


「悪趣味過ぎる」


「上の穴から、エサが降ってきてんのかねぇ……?」


「知らねえけど、あそこだけ数も多く群がってるからー……うーん」


「誰が何でエサやりしてんだよ」


「細切れにした人間の死体とか?」


「まさかぁ……」


 ともかく、目視では上手く確認出来ませんでした。


 本当に多くの大ネズミがウロウロしていて、パリス少年が気にしている区画に関しては汚らしい体毛がひしめき合っています。それが邪魔で見えません。


 どちらにせよ、大ネズミを一網打尽にする方法には繋がりそうにないので一行は「謎の食事音らしきもの」に関して直ぐ忘れてしまいました。


 他にも食事をする大ネズミに毒餌代わりにラカムさんのウンコを食べさせるという案もありましたが、全ての大ネズミのお腹を満たせるほどのウンコは出そうに無いので断念と相成りました。


「詰んだ。帰るか」


『わーい』


「待て待て! あとちょっとなのによぅ……!」


「悔しいのはさすがにわかるけど、正面突破するのも辛そうな数だ。俺らカンピドリオ士族みたいな戦闘狂じゃねえから帰ろうぜ」


「レムスさんが、たまたま通りがかってくれれば……」


「今日も地下潜ってるだろうけど……さすがに難しいだろ。確率はゼロじゃねえし、レムスさんなら大笑いして一人で突っ込んで殲滅してくるだろうけど」


「探しに行ってみる?」


「カンピドリオ士族は面倒くせえから、関わり合いになりたくねぇ……」


 ラカムさんが両手でバツを作って反対するので、その案は無しになりました。


「ホントに詰んだ。帰るか」


『やったー』


「同じこと言わすな、ばか共! あとちょっとなのによぅ……!」


「じゃあオッサンが代案出せよ。無いだろ? じゃあ帰ろう」


「帰ったらお前ら、あのクソ巨人も連れてきて指輪要求してくる気だろっ」


「まあ、最悪そうするけど」


「ほらみろ、馬脚あらわしやがって」


 顔を歪めてプンプン怒るラカムさんに、セタンタ君は少し譲歩しました。


「まあ、指輪を返して貰えるなら……俺だけで良ければ後日協力するよ。サッカラ士族の宝があるにしろ、空っぽにしろ、その辺はちと気になる」


「あ、お前、横取りする気だな?」


「しねえよ。何なら公証人立てて誓約書ぐらいは書いてやらぁ」


「んな事したら公証人経由で宝の事が皆にバレるだろ……!」


「まともな公証人なら守秘義務ぐらい守ると思うけど……」


「お前も公証人も信用出来ん」


「歪んでんなぁ、オッサン」


「…………どうとでも言え」


 セタンタ君は、「おや?」と訝しがりました。


 ラカムさんが一瞬だけ、とても寂しそうな顔をしたのです。


 しかし、気の所為だったかもしれないと思ってしまうほど、ラカムさんが直ぐに「他に何か手を考えろよ~……!」と怒り出したので気にしない事にしました。




「何とかしたいなら、自分で代案出してくれ。俺は無理」


「ほんっと! お前、口だけで使えねえなぁぁぁぁ」


「誰か鏡持ってきてくれ、鏡」


「はっ! そんな欲しいならやるよ、ホレッ」


 ラカムさんが軽く手を閃かせました。


 すると、セタンタ君の目の前にセタンタ君が現れました。


 いきなりセタンタ君とラカムさんの間に鏡が現れ、姿を映したのです。


「……オッサンの魔術か?」


「おうよ。空気を媒体に大鏡を作れるのさぁ。鏡使いのラカムとは俺の事よ」


「ネタに魔術で応える人は初めて見ました」


「なんだとこの私生児」


「このひと、ぶっころしたいな」


「すまん、ちょっと待て……鏡魔術それで突破出来るかもしれねえぞ」




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