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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
五章:迷宮都市サングリア
136/379

バカの話



「…………」


「…………」


「…………あ、あれぇ? どっちだろ……?」


「このオッサン、道に迷いやがったな……」


「ま、迷ってねーし!」


 叫ぶラカムさんに対し、消音魔術起動したパリス少年が「ひぃ」と叫びました。地下に潜って何度も使っているため、本当に魔力切れ起こしそうなようです。


 ただ、ラカムさんも――魔物がいる領域で叫んでしまう事はともかく――ちょっと道に迷いつつある件に関しては悪気がある、とは言えないようです。


「いま俺は頭をぐるぐる回転させてるんだ」


「回ってないけど、そのまま死ねばいいのに……」


「比喩だよバカ! こりゃ、当初の想定より難物かもなぁ……」


「難物?」


「地図は確かに合ってるっぽいんだが、これ一つあればどうにかなる話じゃあねーのよ……。例えば、多分、これとかそうだな……」


 ラカムさんが地下道に落ちていた10フィートの棒――3メートルの棒――を手に取り、地下道の一角を慎重に突きました。


 すると、石畳の一つがカチッと押し込まれ、横の壁から槍が突き出てきました。


 罠です。うっかり踏んだら刺さっていたかもしれない勢いでした。


「な?」


「な? って……この辺、罠仕掛けられてのか」


「みたいだな、俺もいま気づいた」


「おい、このオッサン、メチャクチャ不安になる事を言ったぞ」


「親切にも長い棒が落ちていなければ……いや、誰かが置いておいてくれなければ? 無残にも罠にかかってたという事か……」


「ちげーよ!」


「もぉぉ……頼むから叫ぶなよラカムのオッサン、マジで魔力切れ起こしそう」


「つっかえませんなぁ、パリス君は……」


 ラカムさんは舌打ちしつつ、少し声を潜めました。


「棒を使ったのは俺の判断だろ……。地図に罠の位置がかかれてたんだよ……」


「ホントか? 見せてくれ」


「うん、これ……って見せさせんな! くそっ、さっきから道が複雑になってきて、ついに罠が出てき始めたんだよ、カス共。死にたくなけりゃ俺に従え」


「いっぺん帰るか?」


「その方が良さそうだな……」


 ホントに帰り始めたセタンタ君達に対し、ラカムさんは「こらこらこら~……!?」と必死で追いすがり、「帰んなよ~! 一人にしないでくれよぅ~!」と泣き言を言いました。


「けどオッサン、罠対策なんて大して準備してないだろ?」


「地図に描いてるから大丈夫だもんっ! たぶん」


「多分って」


「逆に考えてみればな……? この手の罠があるって事は、マジで宝物庫があるんじゃね……? 侵入者を防ぐ罠があるとか宝物庫の定番じゃん」


物語おはなしの中だったらな」


「昔、童話で読んだような話だ……。とある富豪が自分の財産を守るため、堅牢な金庫を作った。だが、それだけで安堵出来なかった男は、邸宅内に侵入者を防ぐ罠を仕掛けていって……」


『仕掛けていって?』


「外側から仕掛けていって、自分でもどこに罠を仕掛けたかわからなくなり、罠だらけの邸宅の中央で自分が出られなくなって餓死していった、という話だった」


『バカすぎる……』


 ガラハッド君が語った物語に対し、皆の意見が奇跡的に一致しました。


「案外、このサッカラ士族の隠し宝物庫? も同じように内側に向けて罠を仕掛けていって、その配置図を無くして閉じ込められて餓死でもしたのでは?」


「まっさか~……それは、いくら何でも……阿呆の所業だろ」


「その出れなくなった御仁が唯一宝物庫の存在を知っていたから、他の誰も眠りっぱなしの宝に気づかず、そのままだった……とか」


「いやー……どうなんだろなぁ……?」


「わかんね」


「一度帰って専門家呼んでこようぜ、罠師とか。マーリンいればホイホイ見つけていってくれるんだけどなぁ」


 セタンタ君は腕組みをし、一時帰還案を推しました。


「地図もどこまで信用おけるか……俺なら地図に描いてない罠も用意するぞ。一個ぐらい、地図作った本人しか覚えてない罠とか……」


「ここで戻ったら無駄足だろ!? 金に目が眩んだ輩が俺の宝を横取りしに来ちゃうかもしれないだろぉ!? こっちがコソコソと準備してたら察して……!」


「そん時は、諦めれば?」


「命あっての物種だと思いますよ」


「地図がホントに正しければ多少、先行されても大丈夫なんじゃ……?」


「えーい! うるさい! 子供ガキの意見聞いた俺が馬鹿だったよ!」


 ラカムさんは子供のように地団駄を踏み、ふんぞり返りました。



「今は俺がこのパーティーの隊長なんだ! 大人に従えカス共!」


「つまり、このまま探索続行?」


「そゆこと~。付き合わないと指輪返さないゾ」


「ぐ……わかったよ、そん代わりオッサン」


「なんだよ」


「罠とか回避しきれなくなってきたら、直ぐに戻ろうぜ。ヤバイ気配がしても一時帰還だ。アンタも無駄に死にたくねえだろ?」


「ふん。俺はそこらの貧乏冒険者と違って、保険ぐらいかけてるさ。一応……」


「遠隔蘇生のための保険も、かけなおすとなったら高額じゃん。一度ぐらい死んでも宝物庫の宝で何とか黒字に出来るかもしれないけど、どれだけのもんがあるかわからないし、下手したら保険代で大赤字だ。次の保険代払えるのか?」


「む、むぅぅ……」


 ラカムさんは唸り、しばし悩んでいました。


 悩んでいましたが、結局はセタンタ君の発案に乗る事にしました。


「マジで危なくなった時だけだぞー……」


「わかった。あと、本当に宝が欲しいなら叫んでパリスに負担かけないでくれ。それと安全のためにも俺達パーティーにも地図で罠の位置を確認させてくれ」


「やだ」


「やだじゃないっ! もうヤダァ、このオッサン……」


「フヒヒヒィ! 苦しめ……もっと苦しめ……ばーか!」


 セタンタ君は真剣にラカムさんを置き去りにする案を考えました。


 考えましたが、とりあえず探索を続ける事にしました。




 一行は慎重に地下迷宮を進んでいきました。


 幸いと言っていいのか怪しいところですが、ラカムさんが持っている「宝の地図」に記された罠の配置は今のところ全て正しいものでした。


 ラカムさんはそれを「信憑性が高まっている」とはしゃぎましたが、セタンタ君は首を傾げずにはいられませんでした。


「まあ、確かに配置は正しいみたいだけどさ」


「だろ? さっきの富豪の話以来の見解の一致だなぁ?」


「けどコレ、配置わかるだけで楽に突破出来るのばっかりじゃん」


「馬鹿しかいないのかな~赤蜜園。誰も突破できない罠地帯を作っちゃったら宝物庫の主も出入り出来なくなっちゃうから、それぐらいの難易度がフツーだろう?」


「んー……まあ、そうかもしれないけどさ……」


「そもそも、この罠って生きてんのかな?」


「は? 何言ってんのかな、パリス君~」


 ラカムさんが小馬鹿にした様子で顔を近づけて来たので、パリス少年は嫌そうな顔をして身をすくめましたが、言葉を続けました。


「ここの罠、もう壊れちゃってるんじゃね?」


「馬鹿だな~、パリス君。最初に槍の罠が起動したの忘れたのん? 起動したって事はつまり、ちゃんと生きてるって事だよ。ばーか。他にも罠は動いてた」


「槍の後とかに、ちょくちょく魔物がかかってたやつ?」


「そう。現実に罠が動いてるのに、何の不満があるってんだ」


「サッカラ士族が宝物庫を作ったのってバッカス建国初期って事は……ええっと、400年以上前? なんじゃね? 下手したら500年近く前」


「それがどーした」


 パリス少年の言葉にラカムさんは眉を潜めるだけでしたが、ガラハッド君は何かを納得したように手を叩きました。


「……ああ、なるほど」


「何がなるほどなんだよ、ガキ。大人の俺にも報告しなさいっ」


「年代物の罠がよく壊れずに存続してるな、ってパリスは言いたいんですよ」


「うん。ラカムのオッサ……ラカムさんの言う通り、確かに最初の罠は起動してた。けど、大昔の罠がガッツリ動くこと事体がおかしくね? オレ様は覚えて無いんだけど……誰か、突き出てきた槍が錆びてるの見たとか、無い?」


「「錆びて無かった」」


「ガゥ」


「ガラハッドとセタンタと、ライラまで保証してくれてるみたいなんだけど……。何で大昔の罠が錆びずにちゃんと稼働してんの?」


 パリス少年は不安と緊張が入り混じった顔で、「これこそヤバイ状況じゃね?」と言い、一時帰還案を推しました。他の少年達も同意しました。


 ラカムさんは「確かに怪しい」とは思いつつも、不機嫌そうな顔で少年達の提案を一蹴し、探索の続行を決定しました。



「地図によれば、宝物庫はもう直ぐなんだ。今更引けるかい、ばーか」


「ヤバイって絶対……」


「ヤバくない。罠はアレだ、錆びない金属使ってんだろ? 匠の技ってやつだ。いくらか壊れてるのあるかもしれねえ。全部の罠を確かめたわけでもあるめえ」


「うーん……でも……」


「ガキの分際で口答えするな! 大人が皆正しいんだから大人しく従えばか!」


 ラカムさんは止まりませんでした。


 少年達は、黙ってそれについていきました。


 着々と近づく宝物庫を示す場所、罠の配置の解読に夢中で、一見すると行き止まりに見える壁を操作し、目を輝かせている腐肉漁りから距離取って。


「……すまん、皆」


「謝るなよセタンタ」


「悪い方向に転がるのは予想してついてきた。ここまでとは、思わなかったが」


 少年達の足元にいるワンコは鳴かず、「ふんす」と鼻息だけ漏らしました。



「一応、ここまで通ってきた道は魔術で印つけてるが」


「いざとなったらそれを見て直ぐに離脱は出来る、か」


「誰かが消したりしなければな。途中から壁を開けて通ってきたから、ギルドが整備してる地図の外に来てるのもちょい心配だ。未知の領域って事だから……」


「印を逆に辿れば、それなりに早く元の場所に戻れるはずだ。というか隊長殿が馬鹿の一つ覚えのように爆心するから、進むしかないだろう」


「撤退のために使わずに済めばいいんだけどなー……」


「まあ、悪い方に考え過ぎんなよ。もうちょっとでラカムのオッサンの目的は達成できて、そしたらあの女の子の指輪も戻ってくる」


「すまん。この礼は、必ずする」


「帰ったらメシおごってくれー」


「ネズミ肉以外で頼む」


「ああ、任せ――」


 セタンタ君が皆に言葉を返そうとしました。


 が、ラカムさんが戻ってきた事で口をつぐみました。



「ちょっと、ヤバイかも……お前らも見てみろ……」


「新しい罠?」


「いや……魔物の巣だ。めちゃくちゃいる」



 さすがのラカムさんも額に汗を流しつつ、焦った様子で告げてきました。


 それでもなお、先に進む意志はくじけていないようでしたが……。




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