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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
五章:迷宮都市サングリア
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あの人はいま in地下迷宮



 セタンタ君達は地下迷宮をウロウロと進み続けました。


 あまり無計画に進み続けると、自分達がどこにいるのかわからなくなるので、地図や迷宮内の壁に書かれた区画番号を見ながら位置を確認しています。


 区画番号に関しては神様や犯罪者のゴミクズ野郎共がイタズラで書き換えたりするので、過信は禁物ですけどね。地上が近い上層なら、地上に戻って確認するという手もあります。番号と違って動かしようがない道標です。


 歩いて探して、魔物の内臓なかまで探しましたが、フィンちゃんが無くした両親の指輪は見つかる様子がありません。


 指なら見つかりました。


「あ、このネズミ。誰か食いやがったな。ホラ」


「こっちに見せんでいい……!」


「ひょっとして、レムスさんの知り合いが探してる子の指か?」


「いや、向こうが探してるのは難民の女の子らしい。このゴツさは男だろ」


 セタンタ君は一応、魔物の液体とか拭った指を袋に入れました。


 保険で生き返る事もなく、そのまま死んでいった人の死体の一部なら遺族が欲する可能性もあります。メモ帳にどこで拾ったかを書き、添付しました。誰の死体か特定する助けになるかもしれませんし、ならないかもしれません。


 地下をうろついていると、時折、同じ冒険者とすれ違いました。


 地上に魔物が湧いてこないよう駆除依頼をギルドがかけている事もありますが、セタンタ君達と同じ目的の赤蜜園関係者がゾロゾロいらっしゃってるようです。


「探せ! 見つけて孤児院長ママにナデナデしてもらうんだ!!」


孤児院長ママのおっぱい、もう一度だけ飲みたいよぅ❤」


総長そうちょー、金にモノ言わせて応援雇ってきましたぁ」


「でかした」


「オレ、フィンちゃんの指輪見つけたら孤児院長ママに『あら、犬程度には役に立つのね、駄犬君。私のベッドの下で飼ってあげようかしら』って言ってもらって、ガーターベルトに包まれたおみ足で、顎クイッとしてもらうんだ……」


「私がっ、私がっ! 孤児院長ママの貞操守らなきゃっ❤」


「向こうの人達、熱量がスゴいな」


「もうアイツらだけでいいんじゃないかな」


 ガラハッド君とパリス少年は真顔で引きました。


 ライラちゃんは別にどうでも良さそうに自分の前足をペロペロ舐めて、セタンタ君の方は「他人のフリしよ」と静かに目を逸しました。


 出会ったのは赤蜜園関係者――目を爛々と輝かせて地面を這いずり回っている良い年こいたオッサンやお姉さん――だけではありませんでした。


 セタンタ君のちょっとした知り合いもいました。



「あ、ホットドッグ屋のオッサン」


「おっ、赤蜜園の坊主。まだ生きてたか」


「足はついてるぜ。そっち、砂上船は売れた?」


「売れたぞ。カンピドリオの若旦那が口利きしてくれてな。相場より少し高めで」


 まあ、それでも借金は残ってるんだが――と言いながら、セタンタ君に話しかけられた男性は苦笑して首を掻きました。


 以前、セタンタ君達が砂漠に採掘遠征に行った際に出くわして、何だかんだで最後までご一緒した砂上船の親方さんです。


 採掘からはもう手を引いて、使っていた砂上船も――名残惜しみながら――手放して元親方さんになり、借金返済のために冒険者稼業を続けているようです。


「あの猫の子はどうした?」


「向こうは別に仕事してるから別行動中。そっちは何してんの?」


「ご近所の奥様方に頼まれて、そのお子さん達の引率中」


 元親方さんが指差した先には、地下迷宮をトテトテ歩いていたライラちゃんを物珍しがり、「ちっちゃーい」「かわいいー」「おれのほうがかわいいー」とナデナデしようとしてる子供達がいました。


 子供といっても成人はしているので、年齢的にはパリス少年達と同じです。パリス少年達は挨拶交わしつつ、ライラちゃんの事を紹介してあげています。


「そっちは友達と冒険中か」


「うん、まあ、そんなところかな」


「いいなぁ。大事にしろよ」


 セタンタ君は「オッサンは友達いねえの?」と聞きかけましたが、少年達の様子を眩しそうに見つめている元親方さんの横顔を見て、控えました。


 二人が話をしている中、ナデナデされて揉みくちゃになるのからトタタッと逃げてきたライラちゃんを抱き上げてきたパリス少年が「ん?」と首を傾げました。


 索敵魔術に反応があったようです。


「何か近づいて来てる。音の間隔的に走ってるっぽい」


「魔物……じゃなさそうだな」


「人っぽい足音だ」


「というか遠目に見ても人だな」


 二つのパーティーが近づいてきた人影を見守っていると、その人影はとても焦った様子で「助けてくれ!」と言ってきました。


 駆け出し冒険者4人が組んでいるパーティーのようです。魔物に追われて逃げてきた、のではなく負傷者がいるようです。


 4人のうち1人が、ぐったりとした様子でおんぶされています。


 背負われているのは女の子冒険者で、呼吸は「ひゅーひゅー」と荒く、震えて青ざめながら鼻水が垂れるのもそのままで、虚ろな瞳をしています。


「ぅ……ぁぁー……ぁぅー……」


「外傷無いのに、急に体調悪くなってこんな状態なって……!」


「毒っぽいな。症状出たのは? 地下のどの辺りでの事?」


「え、ええっと、どこだっけ……?」


「近所よ近所! 慌てて走って連れてきたから、覚えてるわけないでしょ!?」


「体調悪いのはこの子だけ? 他は全員無事?」


「お、おれたちもヤバイのか?」


「原因わからんとなんとも。うーん、近所って事は上層の話だろ? この辺りで毒ガスが出てたって話は無かった筈だけどなー……あ」


 症状を調べてたセタンタ君は一つの仮説を思いつきました。


 思いつき、そこを確かめるために問いかけました。



「大ネズミあたりと戦った?」


「戦ったよ、そりゃ地下だからその辺いるし!」


「この人、その時に噛まれなかった? 外傷は後で治癒魔術で消したとしても、大ネズミに噛まれてたらそれが原因かもしれない」


「あ、うん、多分噛まれてた。本人が自分で治して、直ぐ戦ってたけど……」


「傷口から汚えバイ菌が入って、遅れて効いてきたんじゃないかなー。不衛生な大ネズミみたいな魔物相手にしてるとそこそこある。単に傷を消すだけじゃなくて、消毒・殺菌もちゃんとした方がいいって本人に後で伝えといて」


「な、何とかなるんだな? どうすればいいんだ」


「解毒の治癒魔術かけれる人ー?」


 元親方さんが手をあげたので、セタンタ君は「俺、治癒魔術苦手だからお願い」と頼みつつ、地図を開き始めました。


「この状態じゃ直ぐ完治は難しいかもだけど、最悪、死体持って帰ればいい」


「埋葬しろって言うのか!?」


「ごめん、言い方が悪かった。この子、まだ死んでないし、ここは地上までそう遠くない。この状態から死んでも、死体のアンデッド化が始まる前に街で蘇生魔術かけてもらえば取り返しがつくって話。大丈夫大丈夫、地上戻るのも手伝うよ」


 本人はいま苦しいだろうけど、まだ取り返しはつく――と言いながら、セタンタ君は地図を使って地上まで行くのに最適なルートを提示しました。


 その後、元親方さん達も手伝ってくれる事になり、地上まで強行軍で突破。


 治癒魔術の影響もあって死なず、少しは落ち着いた負傷者を本職の治療師さんに任せた後、助けたパーティーにお礼を言われながら別れ、親方さん達とも昼食をご一緒した後に別れる事になりました。



「しかし、噛まれただけでああなると余計食べたくなくなるな、大ネズミ」


「オレ様も今日はやめとこ。ネズミ肉」


「今日は……?」


「今日は。でも、地下で餓死しそうになったら食っちゃいそうかなー」


「せめて生は避けるんだぞ……」


「自分に治癒魔術施しながら生で無理やり食べる方法もあるぞ」


「やめろ、聞きたくない……」



 ガラハッド君がおぞましそうに震えました。




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