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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
五章:迷宮都市サングリア
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迷宮都市サングリア



 バッカス王国の首都、サングリアは「迷宮都市」と言われる事もあります。


 建国初期、住民達が「わぁい!」と好き勝手に建築していった影響で「行き止まり多数」「無茶苦茶な街路・遠くを確認しづらいひしめき合った建物配置」など入り組んだ区画もあるのです。


 特に昔からある首都中心区画付近はちょっとした迷路になってるところもあり、都市内転移ゲートがあっても――他所からやってきた人達が犠牲になり――遭難、行方不明、餓死、王様がうっかり迷子になるなどの事件が起こるほど。


 現在は区画整理が進み、表通り付近に限れば大分迷いにくくなりました。


 区画整備前は年に2回のペースで市街地で迷子になっていたバッカス王国の王様も、2年に4回ほど道がわからなくなる程度に区画状況が改善されました。


 それでもなお、路地裏をズンドコ進んでいくとバッカス在住の方でも迷いそうになる事もある事もあって、迷宮都市と呼ばれる事もあるのです。


 ただ、迷宮都市の由来はもう一つあります。


 それが首都地下に存在している迷宮区画です。


 元は人間が掘った坑道等だったのですが、そこに魔物が住み着いて以降は魔物の手により少しずつ拡張されていったりもしています。



「多くの人々が住んでいる足元に、魔物が住んでいるというのはゾッとするな」


「お前も首都暮らしじゃねえか、ガラハッド」


「まあそうなんだが……」


 ガラハッド君はキョロキョロと、暗い地下道を見渡しました。


「冒険者として働き始めるまで、その辺あまり実感が無かったんだ。地上じゃ生きた魔物なんて滅多に見なかったし、地上に限れば死人も出てないんじゃないか?」


「いや、年に数人は犠牲者出てるぞ」


「私が知らないだけか」


「犠牲者って言っても蘇生されて生き返ってるけどな」


「だから未帰還の死人は滅多に出ないらしいぜ。ただ、首都地下は浮浪者が流れ着く場所だから、地下でそういう人達が死んでるのは数えられてないみたいだけど」


「ふむ……どっちにしろ、魔物の脅威はあるのだな」


「パリスが言った浮浪者の話はさておき、魔物の脅威なんてどこの都市でもあるぞ。この間の鷹狩りの時にもその辺の話はしたけど」


「うーむ、そうなのだが、足元に潜んでいるのが気持ち悪い。冒険者にならなかったら……いざ自分が被害に遭うまで気にしなかったかもしれないが、魔物の脅威を直に体験した今では少しどころではなく怖く感じる」


 ガラハッド君は「お金貯めて、母さんと一緒に引っ越ししようかな……」と思案していたところ、足元の何かを踏んで転びかけました。


 死体――ではなく、迷宮を構成する壁の石がコロリと落ちていたようです。


 首都地下迷宮は石壁の迷宮。


 上下左右を石壁に囲まれた空間で、夏場もヒンヤリ、雨風凌げてる浮浪者の方々に人気のスポットです。魔物はいますが、地上は地上で「人様の家の軒先でくつろいでんじゃねえ!」と追い回されるのです。


 そういう事情もあり、首都地下の上層には浮浪者の方々が集まっています。


 魔物を世界に送り込んでいる神様が地下迷宮の整備も行っているらしく、建材として石壁をホイホイ盗まれて行っても「ンモ~ッ! 祟るぞ!!」とキレるだけで、いつの間にか壁が補修されているため管理者も概ね在住の物件です。


 深層は強い魔物が出てきますが、上層の魔物は駆け出し冒険者でも倒せる程度のものなので、戦闘経験の無い浮浪者の方々でも頑張ればたまに勝てます。


 勝てば産地直送の魔物肉を得る事もでき、負けても天に昇るような気分のまま激痛と共にガチで死んじゃうぐらいです。家賃なんて永遠無料なので住むところに困ったら首都地下迷宮に是非起こしくださいませ。今も昔も敷金0円です。


「魔物だか神様が整備してるらしいとはいえ、気をつけて歩けよ」


「気をつけないと、どうなる?」


「地面が崩落して下階に落ちる」


「そんな脆」


 ガラハッド君がズボッ、と落ちました。


 幸い、完全に落ちるほどの穴にはならなかったので、セタンタ君とパリス少年が「わぁ!?」と飛びつき、ライラちゃんも甘噛して引っ張り上げてくれました。


「死ぬかと思った……!」


「実際、これで死人も出るんだよなぁ。ガラハッドは甲冑の分で体重増えてるから特に気をつけろよ。まあ、今のとこは落ちても2、3メートルぐらいみたいだな」


「ホントだ。下にも地下道が……」


「ぞっとする。どう気をつけろと」


「将来的な事も考えたら、観測魔術で床が抜けやすいところを見分けた方がいいんだが……ま、とりあえずはこれ掴んで端っこ移動しろ」


 セタンタ君はそう言いつつ、壁にぶら下がっているものを軽く叩きました。


 それは杭で固定されているロープでした。


 壁伝いに張られており、それを掴んでいれば落下死の危険も少しは避ける事ができそうです。壁ごと落ちる可能性もあるので完璧じゃないですけどね。


 天井が落ちてきたら、まあ、元気に生き埋めです。


「落下防止用のロープは冒険者ギルドが人使って、地図と一緒に整備してるんだ。張られてない場所とか壊れてるところもあるが、慣れないうちはこれ使っとけ」


「強度は大丈夫なんだろうな……?」


「杭で打ってるから平気さ」


 セタンタ君が強くロープを引っ張ると、見事に杭が抜けました。


 が、セタンタ君は「さ~、早いとこ指輪見つけてやらねえとなー」と全力でスルーして地下道を進んでいきました。



「おウチ帰りたくなってきた。魔物に負けて死ぬより辛いかもしれん」


「地下迷宮はいくつもの階層が下へ下へと広がってるから、一度の崩落で落ちて死ぬ事はそこまで頻繁には起きねえよ。10メートルぐらい落ちても身体強化魔術とか使えば着地出来るしな。多少怪我しても、治癒魔術使えれば何とかなる」


「全員まとめて落ちない限りは、上にいる仲間にロープでも垂らしてもらって救出してもらえば良いということか……」


「そういう事。一番怖いのは落ちた先で魔物と不意の遭遇する事だ」


「落ちないに越した事は無いって事だなー。逆に、さっさと地上に帰りたい時はわざと天井崩して、よじ登るのもアリなのか?」


「緊急事態の時だけにしとけよ。上に人いたら最悪人殺しだ。ギルドが作った地図あるから、それ見ながら魔物警戒しつつ、テクテク歩いていこう」


「了解」


「俺が先導するけど、念のため少しだけ距離取って歩くぞー。二番目はガラハッド、最後尾はパリスとライラで、後方の索敵しててくれ」


「おう」


 応じたパリス少年の足元をトテトテ歩くライラちゃんも、鼻息を鳴らしてセタンタ君の言うとおりにしました。


 ライラちゃんはドワーフマスティフという種の小型犬ワンコですが、賢く、冒険者としてのキャリアは少年達よりも長いです。


 先輩冒険者として指示してくれる事は基本無いですが、索敵魔術と自身の嗅覚使って魔物も見つけてくれるそこらの冒険者顔負けのワンコ冒険者です。


「この辺、照明無しの区画だ。暗視魔術使えー」


「私は暗視、まだ苦手なのだが……松明たいまつは止めた方がいいんだったか」


「目立つからな。暗闇に潜んでる魔物の良いまとだ」


 地下にある迷宮ゆえに、陽の光が届く場所は殆どありません。


 冒険者ギルドが発光する特殊鉱石等を地下道の天井や壁に配置しているのですが、全ての区画に照明が整備されているわけではありません。


 整備にもお金がかかり、魔物が壊す事もあるので、落下防止のロープと同じように上層の主要区画にしか設置されていない設備です。


「上層は弱い魔物ばかりだけど、暗闇の中だと雑魚相手でもやられかねない時がある。今回は俺が頑張って警戒するから照明無し区画行くけど、お前らだけで来る時は照明のあるとこだけで仕事した方がいい」


「逆に暗いとこでも戦えれば、夜の都市郊外で戦う練習にもなるだろ?」


「足場確認のための観測魔術の練習にもなりそうだ」


「まあな、そういう練習にもなる。ただ、危ないもんは危ない。首都地下迷宮は市壁の外よりは、他所からやってきた強え魔物が狩場に乱入してくる事が少ないけど……俺は暗闇と落下の危険も大概ヤバイからあんまオススメできねえ狩場だ」


 出て来る魔物は駆け出し冒険者向け。


 されど状況は魔物有利。


 それを両天秤にかけたうえで「首都地下は上層なら駆け出し冒険者向け派」「地下という時点で駆け出し向けではない派」の意見がわかれるところなのですが、セタンタ君は後者のようです。



「あえて松明を持つのも一つの手だけどな」


「あえて目立つのか」


「そうそう。目立ったヤツを囮に、寄ってきた魔物を狩るんだよ」


「ガラハッドは甲冑着てるし丈夫だから、やってみるか!」


「御免こうむるぞ、さすがに……」




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