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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
五章:迷宮都市サングリア
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試される良心



「都市郊外の落とし物は基本、冒険者ギルドに届けられるんだよ」


「拾って着服される事もあるけどなー……」


 セタンタ君の言をパリス少年が継ぎ、セタンタ君は「そうだな」と頷きました。


 頷き、遺失物の扱いに関して詳しく知らないガラハッド君に対し、二人でギルドへの道すがら、説明していきました。


「都市内ならともかく、都市郊外の落とし物に関しては自己責任。落とし物、遺失物の権利は拾った側に移る事になる」


「そういう落とし物を故買屋に売ったりするのが、前にオレ様がやってた腐肉漁りだ。落とし物というか、死体から剥いだりとかだけど……」


「へぇ!? パリス君、腐肉漁りだったの!?」


「お、おぅ……」


「いや、あのな、フィン――」


「でも、今はセタンタ兄達と戦ってるんでしょ? じゃあ私の将来の仲間だね!」


 ニコニコと快活に言ったフィンちゃんに対し、パリス少年は口をモゴモゴとしながら顔を赤らめ、顔を背けました。


 フィンちゃんはそれを「きょとん」とした様子で小首を傾げて見守り、セタンタ君はガラハッド君と共にニマニマしながら二人の様子を見送りました。


「所有権は、名前が書いてるものでも移るのか?」


「明らかに誰のものか証明出来るならともかく、単に書いてるだけだと魔術で簡単に消せるからな。取る気があるヤツは、そういうとこ抜かりがねえよ」


「うーん……何というか、悪意がまかり通る法だな」


 遺失物も色々です。


 お金が一番ちょろまかされやすく、財布は中身だけ取ってポイ捨て――というのは本格的に腐肉漁りしてない冒険者でもやる事があります。


 武器防具などは足がつきやすいのでギルドに遺失物として比較的提出されやすい物品ですが、これも一応は遺失物なので所有権は移っています。


 人の死体から剥いだ防具を恥ずかしげなく使ってる腐肉漁りさんもいます。


 しかし、悪意だけがまかり通るとは限りません。


「明らかに誰かの死体から剥いだ武器防具使って稼業してたら、長期的には不利だ――って言う意見多いから、お前らも止めとけよ。どうしても手元に武器が無い時は一時借りる、ってのはさておき」


「長期的には不利とは、どういう事だ?」


「ワタシは冒険者ナカマの死体から剥いだ武器防具を勝手に使ってま~す。ワタシと組んだら、隙あらばお前らのも使ってやるぜ、って喧伝する事になるからだよ」


「ああ……まあ、どうせ組むなら背中を預けられる信頼出来る相手がいいな」


「だろ?」


「パリスのようにな」


「やめろ、急に持ち上げるんじゃねー……」


 パリス君は心底嫌そうな顔を無理に浮かべて、ガラハッド君が着込んでいる甲冑を軽く叩いて抗議しました。


「一時的に魔が差して、だったらともかく……常にそういう事をしてると組んでくれる相手がガンガン減っていくって話だ」


「それで窮して、腐肉漁りに定着してしまったりするわけか。負の連鎖だな」


「そういう事。まあ、法じゃなくて良心に頼っている状態なんだが……ある意味、こりゃ国やギルドからもふるいにかけられてるんだよ」


「法の縛りが無くても、清廉潔白な冒険者でいられるかどうか……か」


「落とし物提出する事で実益得られたりもするけどな。悪人ばっかりが得をするとは限らないんだよ。100%、善人が得するわけじゃねえけど……」


「良い奴かどうかって意味じゃ、オレ様はもうダメだな」


「今は腐肉漁りなどしてないんだから、ダメじゃない」


 ガラハッド君はパリス少年の肩をコツン、と叩きました。


「もし仮に、何か悪いことをしようとしてたら叩いて止めてやろう」


「む……。おう」


「私も、キミ達に言葉で殴られて傲慢な態度を改めていこうとしているところだ。改めていこうとしても、今後も続けれるかはわからないが……。お互い、相手が間違ってたら遠慮なく言い合っていれば、まあ多分、大丈夫さ」


「……いつまでも、ずっと全員一緒とは限らねえだろ」


 パリス少年は少し足早に歩き、皆より先に進みました。


 進みながらポツリポツリと喋りました。


 皆と才能の差を感じているからこそ、弱音を口にしました。


「それぞれの歩幅にあった、別々の道にわかれていくんじゃねーかなー……」


「そうなるかもしれないな。だが、例え隣にいなくても、自分を咎めてくれる存在がいたという事は、忘れなければ不変だ。私はお前の事を見ているぞ、パリス」


「……おうっ」


「セタンタの事も見ているぞ」


「俺は何も改める事は無いな」


「ホントか? エレインさんが愚痴っていたぞ、お前がフラフラと女の子の間を行ったりきたりの遊び人で、寂しいです……とか溜息ついていたぞ」


「お、おぅ……」


「何故に、今の言葉で赤面するんだ……?」


 ガラハッド君は訝しがりました。


 三人の様子を見ていたフィンちゃんはニコニコ笑顔でライラちゃんを抱きしめつつ、「セタンタ兄、良かったね~」と言いました。



「いまの仲間パーティーは、よく続いてる感じに見えるー」


「常に一緒ってわけじゃねえけどな。まあ、続いてる云々は同意しとこう」


「前は音楽性の違いで解散したもんね」


「セタンタは仲間に何を求めているんだ……?」


「自分が働きたい時に付き合ってくれる都合の良さとかかなぁ……」


「働くだけマシだが、危うい考えにも思える」


「せかせか働きたくねえんだよ~。固定のパーティーでもクランでもその辺面倒臭くてな、俺は休んで遊びたいのに仲間の付き合いで働かなきゃいけないから」


「よくわからん感覚だ。仕事があるのは良いことだろうに」


「定休決まってた元鉱夫には馴染みがなさそうだな」


「ううむ……そう言われると、わかってしまう時が少し怖いな。遊びすぎないように気をつけなければ――と思う初心が変わりそうなのが怖い」


「俺のようにその日暮らしになっちまえ~。平日に、皆がせっせと働いている時に風呂の中で食うアイスクリームは魔性の味だぞ……」


「やめろ、誘惑するな」



 そんな話をしていると、冒険者ギルドに到着しました。


 セタンタ君は首都地下行きの依頼を見繕う事にしました。


 フィンちゃんから直接頼まれた報酬に関しては「貸しにしといてやる」と無報酬予定ですが、その分、落とし物探しついでに出来る依頼を探しているのです。


 一方、フィンちゃんはギルドの受付に行きました。


 自分の落とし物が届いてないか聞きにいったのですが……。



「届いてなかったぁ……うぅー……」


「うーん、そうか。ま、他の奴らも動いてくれてるから大丈夫だよ」


「んー……」


 しょんぼり俯いているフィンちゃんに言葉をかけたセタンタ君に対し、ガラハッド君は「他にも探してくれてる人がいるのか」と言いました。


「だが、私達だけじゃないのは心強いな。何人ぐらい動いてるんだ?」


「さあ? 多分、1000人は超えてるだろ」


「いま桁がおかしくなかったか?」


「落とし物したのはフィンだが、回収願い出してるのは赤蜜園だからな」


「ああ、赤蜜園が高額の報酬を出してくれているのか。彼女の代わりに」


「金額そのものは、まあ相場より少し高いぐらいかな? 重要なのは赤蜜園が困ってる――つまり、赤蜜の孤児院長が困ってるって事でな」


 ガラハッド君とパリス少年は話が理解出来ず、首をひねりました。


 報酬は相場より少し高いだけ。


 そのくせ1000人以上が捜索中というのは、遺失物探しとしては異常です。


「えーっとだな……先に赤蜜園について、改めて説明しておこう」


「うん」


「赤蜜園はいつも1000人ぐらい子供を抱えてるんだが、毎年成人したヤツが何人も出てくるし、バッカス建国初期からある孤児院らしいから、赤蜜園出身のヤツは少なくないんだよ」


「やっぱり話がわからん」


「待て待て、肝心なのはこの後だ。……赤蜜園は孤児院長が一人で切り盛りしてて、金銭的な問題も一人で解決してるんだよ。大人になっても生活費や教育費は一切請求されないし、受け取らない。孤児院長が趣味でやってるようなもんだから」


「む……わからん」


「あー、オレ様わかったかも。恩返しの機会チャンスって事か」


「パリスくん、せいかーい。お菓子をやろう、ホレ」


「やったぜ」


「賞味期限切れてるやつだけど」


「こ、この野郎」


 孤児院長さんは子供ならホイホイ受け入れて、孤児院を出た後の就職先や当面の生活費までも手配しています。


 その事に恩義を感じている赤蜜園出身者は少なくなく――しかし、恩を返そうにも「お金なんて受け取りませ~ん」と寄付すら突き返される始末なのです。


 赤蜜園が依頼を出している今回の件が、数少ない恩返しの機会になり得るからこそ、一人の女の子の失せ物探しでも血相変えて出ていく人もいるようです。



「皆、孤児院長が大好きな犬っころなのさ」


「セタンタ兄がそれ言うの~~~!? ひぅぅぅぅぅっ?! ひゃめへー!」


 フィンちゃんのほっぺが横に引っ張られました。


 とりあえず、フィンちゃんの落とし物はまだ未回収。


 セタンタ君はついでにこなす依頼を見つけたので、それを受注していざ出発。


 手をブンブン振って送り出してくれるフィンちゃんに手を振り返しつつ、三人と一匹で首都地下に広がる暗闇の中へと入っていきました。



 多くの人々が暮らすバッカス最大の都、首都サングリア。


 大きな都であるがゆえに、人の営みがそこら中に広がり、雰囲気も明るいです。


 ですが、その地下は――地下に広がる迷宮は――シン、と静まり返っています。


 地下だけに相応に暗い、首都地下迷宮。


 そこに広がる暗い闇は、犠牲者を待ち受ける獣の口内のようでした。




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