地下迷宮の失せ物探し
「お前ら悪いな、今日は」
「いいよ、鷹狩り行こうか迷ってただけだし」
「ああ。手伝いついでに引率して貰えるなら有り難い」
セタンタ君が軽く手を上げると、やってきたパリス少年とガラハッド君もそれに軽く応じました。二人の足元を歩いていた犬も鼻を鳴らして応じました。
「首都地下に潜ると聞いたが、目的はレムスさんと同じか?」
「いや、こっちは失せ物探しだ」
「向こうは人探しだっけ?」
「そうそう。一応、潜る場所は近いからこっちの依頼ついでに向こうの手伝いもするけど、まあ、数日帰ってきてない人探しより気軽だよ、こっちは」
人探しが死体探しになりかねませんからね。
もっとも、魔物がいる領域に出る以上、失せ物探し中に死体がポロリと出て来るというのはよくある事なのですが……。
「つーか、ライラプスも手伝ってくれるんだな」
「暇みたいだ。散歩ついでに付き合ってくれるってさ」
少年達の言葉にライラちゃんは鳴かず、ふんすと鼻息だけで応じました。
応じつつ、セタンタ君の後方を警戒してパリス少年の足に隠れました。
「で、失せ物は何だ?」
「具体的に何を探せばいい?」
「それは――」
「それについては私が説明しちゃうよっ!」
セタンタ君の後ろから、一人の女の子が「ぴょこっ」と出てきました。
魔術で隠れていた事もあり、急に現れた少女の存在にパリス少年とガラハッド君は驚きましたが、その子の容姿にさらに驚きました。
女の子の種族はエルフ。
エレインさんと同じ長寿族ですが、エレインさんと違って金髪でした。
サラサラロングヘアーの金髪の持ち主で、そよ風を受け揺れる金髪は太陽の光りをキラキラと反射し、髪そのものが光っているのではと思うほど明るい色でした。
その髪色に負けないほどニコニコ笑顔で出てきた女の子の整った容姿、紐二本だけで支えられた白いワンピースの肩口に大胆に覗く白い肌、華奢な体つきにパリス少年とガラハッド君はしばし目を奪われました。
「可憐だ……だが、その胸部装甲があまりにも乏しい……」
ムッツリ呟いたガラハッド君に対し、パリス少年は蹴りを放ち黙らせました。
セタンタ君は少し呆れ顔でしたが、女の子の反応は違いました。
むふんっ、と得意げなワンちゃんのような笑顔を見せ、叫びました。
「おっぱいの話してる! おっぱいの話する? それか見る?」
「やめいっ」
金髪を揺らしつつ、小悪魔らしい表情でワンピースの胸元をチラッとめくろうとした女の子の後頭部をセタンタ君は優しくひっぱたきました。
「紹介しとく。このアホはフィン。俺がいたのと同じ孤児院にいるアホの子だ」
「こんにちわー! 私、フィンって言うの? 今日は名前だけも覚えて帰ってね」
エルフの女の子、フィンちゃんはピョコピョコ動き回りながらパリス少年、ガラハッド君とそれぞれ両手で握手しました。
ガラハッド君は自分の目の前に来た少女の胸元がワンピースの隙間から見えてしまったので、思わず「ホントに乏しい……」と呟きました。
「だが、男とは違う、ほの暗い隙間がある……。その隙間が私を狂わせる」
「お前ちょっとあっち行ってなさい。オラッ」
「ひゃんっ」
「ヒッ、媚びた声が出たぞ」
パリス少年はガラハッド君の向こう脛を蹴り、出てきた声に戦慄しました。
「オレ様はパリス。こっちがライラプス。このスケベ甲冑は覚えなくていい。胸に一家言ある頭の悪いヤツなんだ」
「あはは! スケベ甲冑だって! エロ本に出てくるエッチな鎧みた~い!」
「色々明るい子だなぁ」
「たまにうるさいけど、明るい良いヤツだよ」
「なんかワンちゃんがいる~!? あっ、逃げた!」
「おーい、どっちも戻ってこーい」
皆が静かになった後、セタンタ君が話を進めていきました。
「失せ物探しの依頼主はコイツ、フィンだ」
「うんとね? えっとね? これ探してるのっ」
フィンちゃんはパリス少年とガラハッド君に一枚の紙を渡しました。
そしてライラちゃんを抱っこし、紙に描かれているものの説明を始めました。
紙には指輪らしきものが二つ、描かれていました。
「ええっと、指輪を二つ無くしたんだな」
「うんっ! それぞれね? えっとね? 内側に名前かかれてるでしょ?」
「それぞれ違うのか」
「キミの指輪か?」
「いまは私の指輪だよっ。パパとママの結婚指輪なんだ~」
「「…………」」
二人の少年は、全てを察して固まりました。
固まって、「それは……絶対に見つけないとな」と答えました。
「地下で無くしたと聞いたが――」
「多分、首都地下行った時だと思う……。地上に戻ってきた時にね? あれっ、無い……って気づいて、赤蜜園帰って探してみても無かったの……」
フィンちゃんは、しょんぼりと答えました。
明るかった笑顔が日が沈むように失せ、俯いて、目を少し潤ませていました。
「首都地下なんて何をしに……あっ、冒険者か」
「冒険者稼業しているにしては華奢で可憐だ。可愛らしい」
「えへへ、ありがとっ。でも、まだ冒険者じゃ無いんだ~」
「「まだ?」」
「フィンはまだ未成年で、正式に冒険者稼業出来る年じゃ無いんだよ。地下に行ってたは政府に許可申請したうえで、引率付きでいった訓練なんだ」
「でも、冒険者目指してるよっ! エイ爺を木の棒で、えいっ! え~い! って叩いて頑張って強くなって、冒険者なる訓練してんの」
私設孤児院・赤蜜園は孤児の子達に職業訓練を施しています。
冒険者になるための訓練も――ちょっと厳しめの訓練ですが――孤児院の職業訓練として行われており、フィンちゃんだけではなく、セタンタ君やマーリンちゃんもそれを潜り抜けてきました。
「で、訓練中にウッカリ落としたみたいでな」
「自分で探しに行きたいんだけど~……」
「まだ未成年って事と、孤児院長の許可の問題とかがあって自由に潜れないんだ」
「で、セタンタを頼ってきたんだな」
「ううん? こういうのはマーリン姐が得意なんだけどマーリン姐が見つからないから、マーリン姐どこいるか知ってそうなセタンタ兄のとこ来たの」
「悪かったな、知らなくて!」
「ホントだよ!!」
「同意すんな!」
「ふぇぇ!? なんれぇ~!?」
「テメェ……俺が拾ってきたら報酬にキスさせる嫌がらせでもしてやろうか……」
「いいよぉ~❤」
まあ、確かに失せ物探しはマーリンの方が大得意だけどな――と言いつつ、セタンタ君は「仕事でいねえっぽいから仕方ない」と言いました。
優れた索敵手であるマーリンちゃんは引っ張りだこで、皆に「手伝いにこ~い」と言われる人気者。寝てても仕事が転がってくるほどです。
今回は折り悪く仕事に出た後にフィンちゃんが来てしまったようですが、「仕事したくな~い」と日向ぼっこしてても、孤児院の後輩が涙目で来たら「しょうがないにゃあ」とスタスタ探しに行ったでしょう。
「いないのは仕方ない。俺らで頑張る。パリスとガラハッドとライラも、報酬は得られるように他の依頼込みで動くから、すまん、ちょっと付き合ってくれ」
「おう」
「承知した。が、私達だけで足りるのか?」
「他にも探してくれてる人はいるよ。その辺の説明は、道すがらするよ」
「では、とりあえず地下に潜るか」
「いや、とりあえず冒険者ギルドの方に行こう」
「私も行く~」
「地下まではついてくんなよ、お前まだ冒険者じゃねえんだから」
「わかってるよぅ」
フィンちゃんはセタンタ君の言葉に「ぷくぅ」と頬を膨らませました。