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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
五章:迷宮都市サングリア
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腹芸



「さて、先ほどの稽古の反省会と行こうか」


「へーい」


 フェルグスさんの邸宅にて立ち会い稽古をつけてもらっていたセタンタ君。


 蘇生後の休憩を終えた後、ゆるりと座ってフェルグスさんに先ほどの立ち会いの採点を兼ねて反省会を行う事になりました。


「セタンタ、自分の悪かった点を挙げてみなさい」


「ん? 敗因じゃなくて?」


「うむ。立ち回り等に関して悪かった点の反省から行こう」


「えーっと……単純に俺の方が弱いのが悪い」


「漠然とし過ぎている」


「サクッと無効化された鮭飛びの敷設で、無駄な時間リソース使った」


「あれは一概に無駄とは言い切れん」


 フェルグスさんは腕組みをしつつ、小さく鼻息を吐きました。


「先日、カラティンの者達に簀巻すまきにされて捕まった際、鮭飛びを使って逃げたと聞いたぞ。バレずに素早く作った改良型だろう?」


「げー……オッサンにはまだ秘密にしとくつもりだったのに」


「観測していたマーリンが『セタンタすごいよ~』と嬉しげに教えてくれた」


「あ、あの猫娘バカ……人の手札を勝手にバラしやがって……」


 セタンタ君は苦々しげな表情を浮かべました。


 が、観念して改良型の事を――相談を兼ねて――フェルグスさんに話しました。


「やっぱ鮭飛びは敷設に時間かかるのが問題だからさー。防衛戦や待ち受けの罠として仕掛けるのは良いんだけど、遭遇戦とかで殆ど使い物にならないから」


「そこで敷設簡易型も作ってみた、といったところか?」


「うん。これも全く敷設の手間がねえわけじゃねえけど、従来型より格段に早え。敵と出くわして一合目で使えるわけじゃねえけど、最短10秒ぐらいで使える」


「それだけ聞くと良い業だ。鮭飛びに限らず、転移魔術は決まれば力量差をひっくり返す魔術だからな。希少魔術ゆえに、使えるお前の切り札になる」


「うーん……けど、簡易敷設型の方も問題があってさぁ」


「燃費、一度だけの使い切り、転移失敗率とかその辺りか?」


「いや、全部。下手したら転移失敗して壁の中送りだよ」


「うーむ……博打すぎて使い物にならんな」


「都市内ならまあ、笑い話で済ませられる可能性もあるんだけど……都市郊外とかで使うには、万が一の緊急回避用自殺魔術にしかなんねーよ」


「転移魔術すら使えない者も少なくないのだ。使えるだけマシだ」


「頑張って精度上げるなり、改善案考えるよ。現状じゃ博打すぎる」


 そこまで言って、セタンタ君は口を尖らせスネたような声を出しました。


「けどさぁ、もうちょい使い物になるようになってからオッサン相手に使って一勝もぎ取るのもアリかな~って思ってたのに。マーリンのヤツめ」


「その辺りが、今回の立ち会いの悪い点だな」


「は? マーリンが邪魔してるって事?」


「違う。見せなくて良い切り札を使った、という事がだ」


 フェルグスさんは鷹揚に頷きつつ、セタンタ君に槍を取るように言いました。


 そして、その槍を使って実演するように指示しました。



「私に殴り殺される前に使った業を使ってみなさい」


「これ?」


 セタンタ君が念じつつ槍を握ると、穂先が光って伸びました。


 槍本体が稼働し、伸びたわけではありません。


 槍の穂先に魔力をまとわせ、魔術の槍を継ぎ足しているのです。


「魔槍か」


「うん。実体槍の威力よりは落ちるけど、間合い延長出来るのがいいっしょ?」


「間合いが広い事は良い事だ。鮭飛びと同じく、スカサハ殿が使っていたな」


「うん、まあ、鮭飛びと同じくパクッたんだけどさぁ」


「何故、先ほどの勝負で使った。使わなければ勝てていたぞ」


「使わなければ勝ててたってなんだよ……?」


 おかしなこと言うなぁ、とセタンタくんは首をひねりました。


 フェルグスさんも「言葉足らずだったな」と謝りつつ、言葉を続けました。


「今回の立ち会いの勝敗ではなく、温存して――精度を高め――使い物になるまで訓練した後、別の立ち会いの時の『初見殺し』として使えという話だ」


 初見殺しねぇ、とセタンタ君は呟きました。


 それに対し、フェルグスさんは「悪いものではない。初見ゆえの勝率底上げが出来るのだからな」と肯定の言葉を吐きました。


 鮭飛びもある意味では初見殺しの業です。


 タネと対処法が知られると通用しない時もあります。


 セタンタ君が新たに使った魔槍も「使う事ができる」とバレていると「間合いの拡張」という初見殺し要素が損なわれる事になるでしょう。


「まあ、魔槍は鮭飛びよりは使いやすい業だ。相手に既知の業として覚えられても十分以上に使い道はある。だが初見殺しの優位性アドバンテージも良いものだが」


「オッサンも、魔槍にヒヤッとした? 驚いた?」


「驚いた。未熟な業を振るってきたお前に驚いた」


 フェルグスさんはそう言い、セタンタ君の魔槍をデコピンで弾きました。


 その一撃で、魔槍は粉々に砕けました。


 媒体となっているミスリル槍は無事で、微かに揺れただけで無事ですが……。



「このように本体ミスリルは無事でも、魔槍の強度が脆すぎる」


「いま身体強化魔術込みでデコピンしただろー!?」


「まあな。だが、実戦で迎撃されたらデコピンの比では無いぞ」


「むぅ……」


「それこそ、私は殴り壊していただろう? 簡易式の鮭飛びを温存したように、魔槍も質が上がるまで温存していれば良かったのだ」


「殴り壊されないぐらい強度あれば、オッサン倒せていたって事かー」


「いや? 先程のは砕くより、腕で受けてその隙にお前を殺す意図があった。予想以上に脆かったから砕けたが、もうあそこまで行けば詰みだろう。残念だったな」


「面白くねえ事を言う!」


 セタンタ君はふてくされましたが、フェルグスさんは「片腕を捨てさせるとこまで頑張った、と言えたかもしれん」と言って笑いました。


「まあ、魔槍は取り回しも悪くない。平時から使いまくるのは燃費が悪くなりかねんが、私相手でも使い所を上手く選べば殺せる一撃になるぞ」


「今は初見殺しの優位性が失くしちゃったから――」


「未知の時ほど効果的では無くなったな。次から私は警戒するぞ」


「むむ……」


「魔槍に限らず、急場の切り札となる業に関してはポンポンと披露するものではない。あえて見せて相手に警戒させるだけでも効果はあるが、やはり初見殺しという要素……未知の業は立ち会いに有利に働く」


「ふーむ……」


「未知は恐怖であり、初見殺しという強さにも関わるものだ。自分のものは大事にして、敵が振るう未知はよく考えて解き明かしなさい」


「うん。……魔槍も、もうちょっと頑張ってみるか」


「お前にはよく合う業だと思うぞ。現状の質でも、工夫で使いようはある」


「オッサンぐらい反応出来る相手に振るっても、砕かれねーか?」


「普通に使えばな」


「普通じゃない使い方って何だよ」


「そこは自分で考えなさい。考え癖をつけるのも――」


「修練、だろ?」


「わかってるならよろしい」


「具体案がわからんから、俺はよろしくなーい」


「頑張って考えなさい。ああ、それと、お前の槍の話だが――」


「これ?」


「そう。孤児院長から貰ったお気に入りの愛槍だ」


「……別に、お気に入りじゃねーし」


 セタンタ君は居心地悪そうに顔を背けました。


 フェルグスさんはセタンタ君が何を考えているのかわかったうえで、少年の愛槍についての話をする事にしました。少年の指導者の一人として。


「お前はその槍を大事にしすぎだ。他の武器も使いなさい」


「逆に酷使してるよ。それに使い慣れた得物があった方がいいじゃん」


「お前の場合、使い慣れた――ではなく、依存しているのだ。使い手であるお前が主ではなく、恩人から賜った大事な槍の方を主に考えている時がある」


「…………」


「ただでさえ今のお前は小兵チビなのだから、私相手に立ち回るなら槍より他の武器を使った方が勝率を高められる。その槍に依存するのは控えなさい」


「……別に、依存なんかしてねえし」


「いずれ郊外で紛失するような事件があって、立ち直れなくなったどうする」


「そこまでヤワじゃねえよ」


「だが、無くしたり、完全に壊してしまったら傷つくだろう?」


「…………」


「お前がその槍を大事にするのも、まあわかる。大事なら大事で、もう……アレだ、紛失する可能性が高い郊外には持っていかず、部屋に飾っておきなさい」


「…………」


「お前は孤児院時代は器用に色んな武器が使えていたのに、今は槍ばかり使っていて、槍を使い捨てる戦闘を避けている。それはよろしくない」


「そういう説教、聞きたくねー」


「セタンタ」


「いくらオッサンの言う事でも、聞きたくねえ事ぐらい俺にもある」


「むぅ……」


 セタンタ君はふてくされたまま、床にゴロリと転がりました。


 フェルグスさんはそれを見て、頬を掻いて困り顔を見せました。


 セタンタ君が槍に依存している事を聞いたある人物が、フェルグスさんに「賢くない振る舞いはやめるよう、貴方の方から言っておいてくれないかしら?」と頼まれた事もあって言ったのですが、少年は聞き入れてくれる様子がありません。


 二人はしばし、黙っていました。


 やがて、転がって天井を眺めていたセタンタ君がポツリと呟きました。




「楽に強くなる方法、無いかなー」


「気持ちはわかるがな……そういう無いものねだりは止めなさい」


「超強い武器が金髪幼女になって、その辺歩いてて、それと友達になって、超強い武器の力で超強くしてもらえないかなー」


「そんな都合の良い存在などおらんわ」


「わかんねーぜ? 無職の困った野郎でも拾い上げて、更生させようとするような親切である意味救いようのない金髪幼女ぐらいバッカスにいるんじゃないか?」


「聖人か何かか、それは……」


「私は見た事ないですね、そんな出来た子。まあ、仮に出会ったところで女の子の間で遊び渡り歩いてるセタンタ君は、更生の対象では無いでしょうか?」


 あぐらかいて座っていたフェルグスさんの頭に腕を置き、しなだれかかりながらオッパイを押し付けていたエレインさんが口を挟むと、セタンタ君は「そんならお近づきにならないからいいわ」と返しました。


「あ~、楽して強くなりて~」


「フェルグス、貴方の教育の所為でセタンタ君がダメな子になってますよ」


「さらっと人の所為にしないで貰いたいですな……」


「セタンタ君、強くなりたいなら死線を潜りなさい、強者と戦いなさい。戦いの合間に勝ち筋や、それを果たすための技術習得インプットもしなさい」


「死線ねぇ、強者ねぇ……めんどくさいのは嫌だなー」


「若者の死線離れも著しいですねぇ」


「先達は直ぐに過酷ブラックな現場を推してくる!」


「じゃあどういうところが良いのです? 死地ぐらい選ばせてあげましょう」


「都市郊外を数日がかりでいかないとダメなのは面倒だなー。都市内で日帰りで行けるような安全なところが良い」


「フェルグス、ちょっとセタンタ君をスカサハ様のとこに捨てにいきましょう」


「再入門させるのですな。うむ、一応は都市内にいらっしゃるから丁度良い」


 楽しげに笑う二人に対し、セタンタ君は目をむいて反発しました。


「良くねえーーー! あのキチ……! 頭のおかしいオーガは未だ俺の夢の中に登場してくるんだよぅ! 人の腹をかっさばいて『セタンタの内臓かわいいわぁ』って言いながら、スプーンでかき混ぜてきたんだぞ!? 現実で!!」


「我々が心配になって様子を見に行った時は、確か頭部でしたな」


「ええ。ハンバーグの肉種作ってると勘違いしましたよ、ふふふ」


「ワハハ!」


「今の笑うとこ? 今の笑うところ!?」


 セタンタ君は自分の与り知らぬ事件に恐怖しました。


 頭の中身がなんとな~くモヤっとしましたが、「さすがに冗談だろ」と思いながら疼く古傷の痛みから全力で目を逸しました。



「あの鬼師匠といい、オッサンとエレインさんといい、強い人は大体頭おかしい」


「そんな事はありませんよ。私がお仕えしていたバッカス最強の御仁は、山だろうが海だろうが一瞬で吹き飛ばし、万里を一歩で移動しますが優しい常識人でした」


「ホントかよ~?」


「まあ、お仕事が嫌になると『ヤダ~! おウチ帰る~!』と子供のように駄々をこねたり、自分の家の中で遭難したり、恩師を天然で発狂に追い込んだりする方でしたが、外面も内面も優しい方でしたよ。ちょっとポンコツの毛があるだけで」


「まともって何だろ。てか、誰そのバッカス最強?」


「この国の王様です」


 多くのバッカス人が使う都市間転移ゲートを自身の魔術で制御しつつ、数千、数万の使い魔を滑る人物が玉座で「へくちっ」とくしゃみをしましたが、さすがのエレインさん達もその事は存じ上げませんでした。


「あー、王様は強いよな……神様殺せるぐらい強いって聞く」


「殺せますが、神様殺すと世界が滅んでしまいますからね。滅ぼさずに神様だけ排除するために、神様と協定ルールを作って世界を盤上とした陣取り合戦を続けているのがバッカス王国なのですから」


 冒険者が王様側の駒。


 そして、魔物が神様側の駒です。


 王様は正直そういう事はやりたくありませんが、神様の方は性格が悪いので人が不幸になるのが大好き。王様もそれに付き合わされているのが現状です。


 神様は人が惨たらしく死ぬのを見るのが大好きな邪神なので、世界を人質に勝負を成立させています。一応、今のところは王様側が勝率で勝っていますが……。



「あ、セタンタ君、騎士の子と立ち会いなさい。強いですよ、強者ですよ」


「都市内でも会えますから、ちょうどいいですな」


「騎士かぁ……うーん、悪くないかも。元近衛騎士のエレインさんに紹介状とか書いて貰えば、手合わせとかしてもらえる?」


「してもらえますよ。対人戦闘なら許可無しで出来ますからね、彼らも」


「超強いけど、人格者でまともな人と立ち会える紹介状とか欲しいナァ~! あ、ついでに美人で年上のお姉さんがいいなぁ~!」


「じゃあ、あの子が良いですね。今度、折を見てクリノンちゃんを紹介してあげましょう。美人で家族想いの人妻で概ね優しく、正直、私より強いです。セタンタ君と同じく転移魔術も使えるので勉強になると思いますよ」


「やったぜ」


 フェルグスさんは何かモノ言いたげにしましたが、結局、話題を逸しました。



「強くなるために死地に赴くと言えば、セタンタ。例の件はどうした?」


「例の件?」


「カンピドリオの若殿が、知人より依頼された首都地下迷宮巡りの依頼だ」


「レムスさんの受けた依頼? あー、俺は手伝う予定はねえよ?」


「マーリン共々誘われたと聞いたが、断ったのか」


「うん」


「まったく……お前は……」


 フェルグスさんは嘆かわしそうに呆れ顔を見せました。


 セタンタ君としては「地下かー、地下は面倒だしなー」という気分でレムスさんに誘われても断ったのですが、フェルグスさんは納得いかないご様子です。


「お前、カンピドリオ士族がバッカスでも十指に入る有力士族……いや、五指に入るほどの武装勢力だという事は知っているな」


「へー、そうだったんだー、スゴイナー」


「西方諸国とかの規準で言えば、大貴族どころか一国の王だぞ。バッカスだと上に魔王様がいるとはいえ、勢力的にはトンデモナイところなのだからな?」


「はいはい」


「そんな勢力の若殿と懇意になる機会なのに、昼食の献立を決めるようにサクッ! と決めおって! 私はやきもきしているのだぞ」


「若殿って言っても、レムスの兄ちゃんは次男だから家督継げないじゃん。気のいいアンちゃんだし、農家の次男坊みたいにフツーに付き合えば良くねえ?」


「全然違うわーーー! あああーーー!」


 フェルグスさんはやきもきするあまり、叫びながら床をゴロゴロ転がりました。


 セタンタ君はちょっと引いていますが、エレインさんは夫が普段見せない振る舞いを見せているので、とても嬉しそうにホンワカしています。



「次男と言っても、バッカスでも屈指の武闘派士族・カンピドリオの士族長家の次男坊だからな!? 超! エラいのだ! とても! エラいのだ! 家督は継がんだろうが、士族の要職につくのは確定的に明らかなのだ!! わかるか!?」


「う、うん、まあそんな感じだろうね? で?」


「つまり! 若殿と仲良くしておけば、お前も若殿の側近として召し抱えていただき、カンピドリオ士族と盃を交わし! カンピドリオ士族という後ろ盾を得て! 実力さえ示せば将来も安泰だったというのにアアアア! お前は! お前という奴は! 腹芸が出来なさ過ぎるッ!! 若殿が一時的に士族を追い出されて弱っている時に付け込んでいれば良かったものを……!」


「そんな上手くはいかないと思うけどなー」


 セタンタ君は大の大人がゴロンゴロンと転がっている光景を引きつった表情で見つつ、溜息をついて後ろに手をつき、天井を見上げました。


「俺は腹芸とか、そういうの苦手だ」


「そうだろうな知っておったわ!! アーッ! もっとこう、武芸以外のアレコレを仕込んでおくのだった~! 私の馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!」


「オッサン完全崩壊中。パリス辺りが見たらメッチャ幻滅しそう」


「たま~にこういうカワイイところを見せるのが、いいのです」


 少年が呆れ、奥さんが「キュン❤」とした表情で見守る中、大人オーク――というか年齢的にはもう老人オーク――の男性は転がったまま泣き真似をしました。


「ハァ……鬱になってきた……本当にままならん、この世は……クソムカつく」


「オッサン、がんばぇ~」


「うるさいわ子供真似で鳴くな!」


「やだぁ、エレインママ~、オッサンがキレる~」


「よしよし、母の胸で泣きなさい」


「先程の話に戻るがな! 私はお前を見込んでそこの黒髪巨乳エルフの師匠の事を任せるのだ! あんまりこう、出世とかに色気出さずにフラフラされていては死んでも死にきれんぞ!? 定職につけ!!」


冒険者稼業ていしょくついてるよ……」


独立遊兵フリーランス冒険者など、ならず者の10倍マシなだけだわ! たわけ!」


「10倍かぁ。何とも言い難い数字だ……」


「師匠からも何とか言っていただきたい! 稼ぎを増やす努力をしろと!! 男は甲斐性! その甲斐性を確固たるものにする収入を何とかしろと!!」


「いえ、私は世帯をちゃんと持てば収入に関しては、別に。無職のヒモはさすがにお尻ペンペンですが、今時は夫婦共働きも珍しく無いですからね」


「ハァー……師匠が頼りにならん」


「フェルグスは、後でお尻ペンペンです」


「夜にでも寝所に伺いますので、その時で」


「それは私がお尻パンパンされるアレですね。まあ、良いですけど」


「話を戻すがセタンタ、もうちょっとこう……頑張れ! 出世欲を持て!」


「ううん、まあ、オッサンとこのクアルンゲ商会が助かるって言うなら、レムスの兄ちゃん相手なら媚の一つ二つぐらいは売りにいくけど……」


「そういう話ではない。ウチはいいのだ、お前の将来だけ考えなさい」


「そこそこでいいよ、そこそこで」


 セタンタ君は目を瞑り、少し過去を思い出しました。


 思い出しながら、ポツリポツリと呟きました。


「暖かい家で、温かいメシが食えて、そこそこの暮らしが続けば満足だよ。ま、欲を言えば、そこでオッサン達とずっと、永遠に馬鹿騒ぎとか出来ればいいかな」


「ハァ……欲が無いな、一部の例外除いては」


「フェルグス、アレですよ。セタンタ君ぐらいの年頃になると『権力に媚びない俺ってカッケー』と思うようなものなのです。私達の子達もそうだったでしょう」


「なるほどな……?」


「ちげーよ!」


「権力に屈するのです、セタンタ君~」


「権力に屈するのだ、セタンタよ~」


「止めろ! 二人して変な踊りをするな! なんか魔力が消えていく気分だ」


「実際、二人して対象の魔力を奪う魔術使ってますからね」


「もうヤダ、この大人子供。たまにカワイイのがムカつく」


 セタンタ君は踊る二人の足元でゲッソリとしました。




「とにかく! 商会とかのためにやって来いとかじゃないなら、俺は権力に媚びにいかねえからなー! 地下も行かん! テコでも動かない覚悟だ!」


「「おれはっ、ぜったいけんりょくなんかに、負けない……!」」


「ハモんな! うぜえ……!」


 

 少なくともこの時は、セタンタ君は権力に負けませんでした。


 しかし、別のものに負ける事になりました。



「セタンタ兄っ、セタンタ兄ぃ~! 助けて~!」


「おや、可愛らしいお客様が来ましたね」


「嫌な予感しかしねぇ……」


「ち、地下迷宮で落とし物しちゃったの……! 大事なものなの! 探して!」


「ほら見ろ……」



 セタンタ君はそう言いつつも、嫌そうな顔は浮かべませんでした。


 重い腰を「どっこらしょ」と上げつつ、「どうした~?」と少しだけ間延びした声を出しながら、やってきた女の子の話を聞く事にしました。


 オークとエルフの夫妻は、それを微笑して見送りました。



「そういえば……マーリンちゃんは今どちらへ? 地下ですか?」


「騎士団及び第三指と共に王命をこなしているところかと」


「例のティアマト探しですか」


「まあ、そんなところでしょうな」


「あの魔物も見つかりませんね……まったく、どこに潜んでいるのやら」




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