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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
五章:迷宮都市サングリア
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死合後の一休み



 稽古で死んだセタンタ君は蘇生され、意識を取り戻しました。


 戦闘思考が抜けず、咄嗟に飛び起きようとしましたが――無理でした。


 起きた先にあった巨乳の弾力に跳ね返され、起き上がれなかったのです。


「うおっ!?」


「ん……起きましたか」


「ゲッ。エレインさんの胸じゃん」


「げ、とは何ですか、ゲッとは」


「約得だったなぁ、と。もっとじっくり味あわせてもらえば良かっ――ぐむっ」


「すけべえ君ですね」


 エレインさんは気絶していた少年を膝枕してあげていました。


 そこで少年が起き上がり、すけべえな事を言うので「お仕置きです」と言いながら上体を前屈みにし、巨乳おっぱいとフトモモで少年をサンドイッチにしました。


「ぬぎゃあああ! フェルグスのオッサンに見られたら、浮気を疑われる」


「先ほどから隣にいるぞ」


「俺死んだ!」


「安心しろ、蘇生魔術で生き返らせて、治癒も終わっている」


 フェルグスさんは自分の奥さんが少年の顔面に「たぷん」とオッパイを置いても微笑するばかりで、特に咎める事はありませんでした。


 エレインさんも別段気にした様子も無く、少年を女体で挟みつつ、素知らぬ顔でお隣にいる旦那さんと手を繋いだまま、ゆるりとしています。


「私の弟子兼旦那様は寛容ですから、この程度のこと気にしませんよ」


「それ以上をしても構いませんよ、師匠殿。私はそれでも興奮するタチですので」


「フェルグスのすけべえ具合には困りますね」


「その辺、師匠達の性教育の影響もあるのですが?」


「そういえばそうですね……?」


 ふぅ、と軽く息を吐いたエレインさんは上体を起こしましたが、膝枕している少年が起き上がらないよう、少年のおでこに手を置きました。


「我が師はな、セタンタ。お前の事がお気に入りなのだ」


「お気に入りですよ。フェルグスの若い頃から礼儀を取り払ったら、セタンタ君に似ているのでお気に入りです。好みの男の子ですね」


「オッサンに印象、重ねられてるわけね」


「いやですか?」


「いや……悪くない、かな?」


「何ならセタンタ、我が師をめとってみるか?」


「は!?」


 セタンタ君はさすがにビックリして起きようとしました。


 が、エレインさんの手と巨乳に阻まれて膝枕に戻されました。


「娶るって、結婚だろ? エレインさんはオッサンの嫁じゃん。しかも子持ち!」


「双方が両思いなら、それも良かろう?」


「オッサンはスケベ通り越して変態だよなー……! 嫁さんは何人でも作るけど、浮気とか全然気にしないんだもん。皆に対してそうだろ?」


「未知の浮気は多少気にするぞ。公認の浮気はフツーに興奮するだけだ」


「エレインさん達も大変だ……」


「まあ、若い達はともかく、フェルグスがスケベエ変態オークになったのは確かに、私のような古株の嫁衆が煽った責任もありますからね」


 エレインさんはしみじみとした様子で「うんうん」と頷きました。



「まあ、フェルグスも真面目に考えてもいるのですよ」


「嫁さん寝取らせるのに真面目もクソもあんの……?」


「寿命の問題だ、セタンタ」


 フェルグスさんは穏やかな声色のまま、言葉を続けていきました。


「私はもう150歳近い。ヒューマン種よりは長生きだが、オークの私では、もう長くて50年といったところだろう。まあ50年持つかも怪しいが」


「……50年とか、まだまだ先じゃん」


「そうでもない。あっという間さ」


「対して、エレイン長寿族エルフの女です。細かい数字を言うのは嫌ですが、あと5、600年ほどは生きる事になるでしょう」


 エレインさんの声色も穏やかなものでしたが、その表情には旦那さんとは違い、憂いと寂しさが混在したものでした。


「フェルグスはその辺、考えてくれているのです。自分の死後の事を」


「バッカスは多種族国家で、寿命も様々だ。お前はまだ馴染みが無いと思うが……種族による寿命さを計算に入れて、伴侶の婚活をするというのはそう珍しくない」


「エレインさん強えから、一人でも大丈夫じゃねえの……?」


「そのつもりでした。……ただ、自分の弟子フェルグスに解きほぐされ、女としての人生と、母親としての人生を与えられてからは……何と言いますか、弱くなってしまいましてね……」


「俺から見たら、メチャクチャ強く見えるよ」


「そうでも無いですよ。精神的には結構脆いのです」


 エレインさんは今の自分の有り様を「ヤドリギのようなものです」と自嘲気味に言いました。夫が死ねば諸共です、と笑いました。


「後追いで自殺するのも、まあ悪くないと思っているのですけどね」


「…………」


「ただ、それは止めてくださいと夫に土下座されているわけです。次男も可愛らしい双子ちゃんを娶って、やっと落ち着いてくれたので……子供達の方は大丈夫とはいえ、後追い自殺なんて未来はあってほしくないと泣かれたのです」


「さすがに泣いてはいませんよ、師匠殿」


「そういう事にしておいてあげましょう」


「やれやれ……。ウチの師匠よめの事は嫌いかな? セタンタ」


「セタンタ君、ここは上手く言葉を選んでくださいね。いくら私が年増の人妻エルフだと言っても、ババアに用は無いですと言われると傷つくのです。断るなら上手な言葉で断るのです。ヤな事を言うとオッパイで圧殺です」


「い、いや……嫌って事は、無いけどさ……」


 セタンタ君は照れました。


 普段は結構プレイボーイなのですが、今回ばかりは言葉を濁してモゴモゴと、顔が赤くならないように務めながら言葉を続けました。



「エレインさん、美人だし……ヒューマン種規準なら20歳そこらにしか見えねえよ。十分若く見えるし、おっぱい大きいし、オッサンが惚れるのもわかる」


「私はちょっと上機嫌になってきましたよ?」


「セタンタは我が師の事をよくわかってる」


「可愛い人だなぁ、って思うことも……正直あるよ。けどさ、オッサンと二人で『ウチに養子に来ませんか?』って誘ってくれた……母親というか、姉さんみたいな人をどうこうって言うのは……さすがに……なんつーか」


「いやですか……ざんねんです」


「セタンタは我が師の価値をまったくわかってない。は~~~、溜息が出る」


「嫌とかそういう話じゃ無くて! こっ、心の準備させろって話だよ!」


「何、師匠の艷やかな肢体を好き勝手出来るのに、準備などという余計なものを挟みたいのか? まるで童貞のような事を言う」


「う、うるせえ!」


「師匠殿はとこでもホント、可愛らしいぞ。押し倒すと静かに恥じらって、『こんな昼間から……困った子ですね』と言いつつ、全て受け止めてくれるのだ。若い頃の私は自制が利かず、師匠の誘い受けにクラクラしっぱなしだった」


「落ち着きのある今も良いですが、ワンちゃんのように息を荒くして、青い欲望をぶつけてきていたフェルグスも可愛かったですね……。セタンタ君は床でどんな顔を見せてくれるのでしょう……?」


「茶化すな!」


「セタンタ君、おでこまでアツアツです。お姉さん、キュンと来ます」


「やはり照れているな、コイツぅ~」


「あーーーーー! もーーーーー! この人ら、苦手だ! 嫌いじゃねえけど、手玉に取られてる感じが……苦手だ! いっつも子供扱いしやがって」


 セタンタ君はもう耐えきれず、逃げようとしました。


 しかし二人が逃してくれないので、仕方なく顔だけ手で覆い隠しました。


 まっかっかなのは知られていますが、せめてもの抵抗をしたかったのです。


「オッサンが寝取っていいって言うなら、俺が責任取ってやらあ! もうっ!」


「では、師匠はセタンタが予約という事で」


「若いツバメに、年甲斐も無くドキドキしてしまいそうですよ」


「でも50年先とか、ヒューマン種の俺だって爺みたいなもんじゃねえか! オッサン長生きすりゃ万事解決なんだ。エレインさん達を泣かせんなよ、ばか」


「それでもお前の方が長生きするし、私の限界はきっと来る。私も妻を任せる相手が誰でもいいわけでは無いのだぞ」


「もっと嫌がれよ、ちくしょう……嫌な話するなよ、くそじじい……」


「すまんすまん」


 フェルグスさんは笑って少年の腹を軽く叩きました。


 少年はそれで少しむせましたが、やがて気だるげに愚痴りました。



「あー……もう、寿命なんかさぁ、無くなって、みんな長生き出来ればいいのに」


「いずれはそうなるさ。ただそれは、世界を支配する神を排斥した後、この国の王――魔王様が新たな神となった後の話になるだろう」


「今直ぐ、そうなればいいんだ」


「そうだな」


「そうなったら俺、エレインさんの事は知らねえからな。オッサンが弱くした人なら、オッサンが責任取って永遠に添い遂げろよ」


「うむ……そうだな、もし寿命が無くなったら必ずそうする」


 心中で「そう簡単にはいくまい」と呟きながら、フェルグスさんは頷きました。


 エレインさんはその心中までは察する事は出来ませんでしたが、旦那さんが寿命の問題さえ解決すれば――と約束してくれた事には、頬をほころばせました。



「あ、そうだ。別にセタンタ君の子を孕んでも良いのですけど――」


「そういう生々しい話やめてくれぇ……いま俺、寝転がらされてるんだから!」


「すけべえなのは知ってるので、良いのですよ」


「ぬわーっ!」


 セタンタ君は再び巨乳プレスを食らって悲鳴をあげました。


「責任取っていただいても私は本妻にはなりませんからね。愛人か側室希望です。料理と索敵魔術が得意な女の子を妹嫁に欲しいですが、まあ姉嫁でも構いません。私の方から姉様、と甘えます。甘えられてばかりなのでそういうのもいいですね」


「なんか具体的な……いや、何であえて本妻ヤダって指定すんの?」


 バッカス王国は重婚可能です。


 が、初めから重婚ありきな事をセタンタ君は訝しがりました。


「家族が沢山欲しいとか、そういうの?」


「いえ、私の最愛いちばんはフェルグスだからです。それだけは死んだ後だろうと死守します。キミの一番になれない以上、ふしだらな私を許してくださいね」


「許す許さないの話なのかー……」


「私の中ではそうなのですよ」


「ああ、それと、私も師匠に未練たらたらなので、私が死ぬまでは師匠に手を出し続けるぞ。セタンタも私が死ぬまで師匠に手出し出来んのは生殺しなので、今日から手を出して子供を作っても構わんぞ」


「オッサンの思考回路ヤベえな……」


「いえ、駄目ですよ。最低限、セタンタ君が本妻を迎えて世帯を持たない限り、子作りはダメです。愛人だけでフラフラというのは私は好みません」


「マジか」


「色んな女の子に手を出すのは構いませんよ? ただし、手を出すなら出すでちゃんと責任取って娶りなさい。それこそウチの夫のように、大家族になるのです」


「家族が多いのは楽しいぞぉ、セタンタ」


「むぅ……逆に言えば、本妻作らなきゃ、現状のままでいられるって事か……」


「セタンタ君……? いま、ヤリチンのクズのような事を考えましたね……?」


「ギャアアア! 痛い痛い!」


「女の子引っ掛けて遊んでばっかりいるんじゃありません。むしろ、引っ掛けてきて責任持った女の子を私にも愛でさせなさい」


「師匠は両刀使いですからな」


「その辺は、フェルグスの所為もあるのですからね」


「エレインさん面倒くさそうだ……」


「面倒な女ですよ、私は。まあ、よく考えたうえで決めてくださいな。そして、その気があるなら覚悟しておいてください」


 溜息をついたセタンタ君の頬を愛でました。


「けどさ……俺は、今のまんまが一番いいよ。オッサンの代わりは光栄だけど、オッサンとエレインさんと……マーリンとか皆変わらず、誰も欠けずに、死人なんか出ずに、ずっとダラダラやれるのが一番好きだ」


「「…………」」


 フェルグスさんとエレインさんは同意の言葉を吐きませんでした。


 ただ、その代わり――自分達の息子にするように――同意代わりとして少年の頭を撫で回しました。相手が「やめろよ~!」と言うまで悶えさせました。


 二人だって少年と同じ気持ちなのです。


 ただ、即座に口にして同意出来るほど、青く純粋ではありませんでした。



 そんなやり取りをして一休みした後、稽古再開となりました。


 今度は殺し合いではなく、話し合いによる稽古ではありましたが。




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