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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
一章:採油遠征と酒保商人
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下手したら死ぬ排便行為


 ある日、セタンタ君は護衛の依頼を受けて歩いていました。


 依頼主はドワーフの山師さん。本人も冒険者兼業ですが一人でうろつくのは危険行為で、山師の仕事に集中するためにも6人の護衛を雇い、山師仕事の助手を1人連れて移動中です。


 バッカス山師の仕事は郊外における鉱脈等の探索です。バッカスの鉱業はおおむね二種類の方法に分けられます。


 一つ目は冒険者の護衛付きで野営地を鉱脈傍に作り採掘する方法。


 二つ目は鉱脈上、あるいは直ぐ近くに都市を作る方法です。


 前者はトンテンカンカンと魔術で掘っていき、とりやすい所を取り終わったり、魔物が暴れて面倒になったら野営地バラしてさっさと帰るという方法です。


 後者はもう採掘場所を都市内に、あるいは都市の直ぐ側に置くという方法。大きな鉱脈があれば前者の方法よりガッツリ掘れて、対魔物用に調整された市壁の守りなど、そこらの魔物など楽に撃退出来る防衛設備を配置出来るのです。


 一見すると後者の方法の方が良さそうですが、都市作っちゃう方が遥かにお金かかっちゃうので小さな鉱脈では大赤字となる可能性もあります。また、地理や近隣の魔物の条件などもあるので、どこへでも好き勝手に作る事は出来ません。


 前者は前者で必要に応じて掘りにいけるのでコンパクト。小さい鉱脈でもちゃんと経費見積もれる人がいれば黒字を出しやすい鉱業です。


 魔物さえいなければもっと気軽に都市郊外での採掘作業をする事が出来るのですが、バッカスではどうしてもその辺りも考慮しなければいけません。


 様々な産業に魔物の影響があるのです。


 鉱業以外にも農業とか漁業とか。


 でも、鉱石需要はけして低くないのでバッカス鉱業は上手くやりさえすればドカーン! と儲かります。楽に上手くやるのは難しい分、金属資源のリサイクルも発展していたりします。


 バッカス鉱業ではどんな方法を取るにしろ、まずは山師による鉱脈探索が必要になってきます。郊外うろつく必要上、山師は冒険者兼業の人が多いです。


「おっちゃん、見つかりそうかー?」


「あっちの気がするぞい!」


 キリッと言い放ったドワーフ山師さんの手には振り子ダウジング。


 キリッと言ったものの、言うほど断定してないので護衛冒険者の面々は「このオッサン大丈夫かな」と思ったものの口には出しませんでした。


「このオッサン頭おかしいのかな」


「こりゃ! セタンタ、聞こえとるぞ!」


「スンマセーン」


「まあ任せとれ。そのうち見つけちゃるわ」


「でも、さっきみたいに魔物の巣に入ってくのは勘弁だぜ」


「反省シテマース」


 ちょっと詐欺師臭のする山師ですが、そこそこ腕利き山師です。過去に都市採掘に見合った大きな鉱脈を6つ、小さな鉱脈ならいくつも見つけています。


 手に握っているダウジングは振り子式のもので、大変怪しげではありますが魔術を併用しており、バッカスではれっきとした鉱脈探索方法です。


 糸の先に加工した鉱石を結び、探査の魔術を起動しながら郊外をぶらぶら歩くのです。同種の鉱石があると引かれ合う磁石のように振り子のぶらぶらがそっち方向に行く事がたまにあるというものです。


 専門的な技術なので出来ない人は単に振り子持ってる詐欺師ですが、今回は大丈夫です。見つかったり見つからなかったりなので、見つかる保証はしません。


 とりあえず地層も見つつ鉱脈がありそうなとこを見て周り、あれば魔術で試掘して鉱脈の規模を把握していきます。規模に応じて動く事になるでしょう。見つからなかったら帰るのです。



 ちなみに山師さんの業務形態も色々です。


 大きな鉱脈は全部どうにかしようとすると一個人にはどうしようもない時があるので、そういう時は鉱業やってるお金持ちとかに情報売りつけてお金にします。


 小さな鉱脈であれば、改めて鉱夫と護衛・警備の冒険者を雇い、山師本人が事業主となって掘りに行ったりもします。


 自分で手配して掘る方が収入は最大化出来る可能性はありますが、大して採掘出来ないと大赤字叩き出す危険性もあるので注意です。


 セタンタ君が護衛している山師さんの場合、自分で掘るリスクの計算が面倒なので鉱脈情報はガンガン売り渡していきます。


 小鉱脈の採掘を得意にしている人達との取引窓口豊富で、護衛や助手に支払う給与差し引いてもそこそこ稼いでます。


 たまにお金持ちに「あの辺りに都市作ろうか考えてるから、あの辺を重点的に探してくれ。見つかったらボーナス払う」と直接頼まれる事もあるほどです。振り子持って山を歩く胡乱げなオッサンですが、詐欺師ではないのです。多分。



「むっ……ヤツが迫っておる」


「ヤツってなんだよ。魔物ならさっき倒したとこだぞ」


「ウンチだ! 括約筋の谷を超え、現界しようとしている。恐ろしい!」


「いい年こいたオッサンドワーフがウンチとか言わないでほしい」


「馬鹿者、ウンチ我慢して死んではいかんだろ。死体になった後、大変だぞ」


 ドワーフ山師さんはすぐそこでウンチしたがりましたが、護衛の面々が「はいはい、もうちょっと先でした方が安全なのでそっちでしようね」と岩陰まで誘導し、ウンチさせる事にしました。


「ウンウン! ウンウン!」


「こらこらオッサン、汚いケツはもう少し奥に入って出せ」


「仕方ないにゃあ……生理現象で仕方ないとはいえ、ウンコしてる時は怖いものだ。どう頑張っても出るから最終的には出さにゃならんが」


 ウンコネタを嬉々として振るっていいのは小学生までの気がしますが、普通の人間は生きている以上、排泄行為をしなければいけません。


 バッカス冒険者が都市郊外で活動する時もその辺は変わらず、毎日、世界のどこかで彼らが野糞をしているのです。大変デンジャーな野糞です。


 彼らの多くは性能的にも体面的にもヤギのように歩きながら排便行為は出来ないため、ズボンなりパンツなり水着を脱いでしゃがみ込み、排便します。


 この排便時に魔物に襲われると大変危険です。ズボンを完全に脱がずに排便していると足枷となって回避がままならず、魔物に食い殺される事すらあるほどです。


 スカートならまだ拭かずに戦う事が出来ますが、魔物による死とウンコ拭かずに戦う事によって生じかねない社会的な死を天秤にかけ、逡巡し、反応が遅れて魔物に食い殺される事もあるほどです。


 見張りを代わりながら排便すればいい話ではあるのですが、排便行為のために見張りをしてもらうのは中々に気恥ずかしく、慣れてない駆け出し冒険者が軽率に「みんな! ちょっと先に行ってて~☆」と送り出し、一人で排便しているところを狙われ魔物に殺されるという事は確かにあるのです。


 魔物達は容赦ありません。変身ヒーローの変身を待たないタイプの悪役の如く、排便終了を待たずに攻め立ててくる恐ろしい奴らなのです……。


 バッカスにはウンコしないアイドルみたいな種族もいます。淫魔とかしなくても大丈夫です。ただそれらは特殊な例で、ほぼ全ての者達が排便行為と切っても切れない関係にあります。


 一般市民はともかく、冒険者達は排便行為の工夫に迫られました。


 バッカス冒険者の排便行為工夫の中で最も有名なのは、やはり排便後の拭き取りに関するものでしょう。


 使うのは生け捕りにしたスライムを清掃用に調整し、手のひらサイズにちぎったものです。排便後、それをケツ穴にペタリとつけるとあら不思議、スライムがウンコの欠片をぺろりと食べてくれます。


 ちり紙代わりどころか水気含んでいるため水も使わず綺麗に掃除してくれるのです。この清掃用スライムを使えば厄介な排便行為も立ちションの如くササッと終わらせる冒険者もいるほどです。


 また、この手の清掃用スライムは一つで複数回使えます。拭き取られたウンコの欠片をスライムが体内で消化するので一々ウンコを取り除いたりする必要もないのです。複数のちり紙を持つより省スペースで大変便利!


 問題を挙げるとしたら、生理的なハードルでしょう。


 元が魔物の身体で出来ているだけに、それで敏感な部分を拭き取っているうちに体内に入ってきて増殖でもされたら……と心配する冒険者もいるのです。


 実際はそうならないように調整しているので大丈夫ですが、生理的に嫌がる人もいるのです。便利なので売れっ子さんですけどね。


 中にはオムツ型のものもあるほどです。


 これはもう、着衣したままウンコもシッコもやるという代物です。軽く頭おかしい気がしますが、衣服ほど着脱が楽ではない全身甲冑を着て冒険してる人の中には愛用してる人も少なくありません。


 さらに、色々面倒なので腸内に直接、調整済みスライムを飼っている人もいます。たまにところてん式に出てくる事もありますが健康にも良いと噂です。まあ、個人の趣向の範囲なのでしょうか……。


 ウンコネタなど嬉々として使っていいのは小学生までの気がしますが、ウンコは小学校卒業以降も付き合っていかねばならない大事な生理現象です。


 そして小学生のように「あ~! 誰かウンコしてる~!」「囲め! 人を集めてトイレを封鎖しろ!」と排便は恥ずべき行為と囃し立ててハードル高めると、バッカス冒険者の場合は孤立排便で死に繋がる事もあるのです。


 皆さんも魔物がうろついているような郊外で排便する時はよく気をつけましょう。下痢にも気をつけてください。


 

 おや、ドワーフ山師さんも事を終えたようですね。


 何かをやり遂げたようなサッパリとした表情で岩陰から出てきました。


「いっぱい出た」


「報告すんな」


「排便を恥ずかしがってるようでは冒険者として二流だぞ」


「喧伝してたら人間として三流以下だぞ」


「一理ある。さて、余計なものを出したら腹が減ってきたな……食うか」


「せめて手が洗える水場まで我慢しようぜ……」


「みみっちいことを気にしてると冒険者として二流だぞ!」


「人間として一流でいたい」


 結局、多数決を取って「オッサンのクソがある側でメシ食うのはやだ!」という意見が圧倒し、「むむむ!」と唸るドワーフ山師さんを皆で木の棒でつついて河まで行く事になったようです。触りたくないんですね。


「嘆かわしいぞセタンタ! 昔のお前はもっとギラギラしておっただろう!」


「してねえよ」


「してたわい」


「昔って……セタンタ君、まだ15歳でしょ?」


 護衛の女性冒険者がドワーフ山師さんを棒で追いやりながら苦笑しています。


「特例でも下りない限り、成人しないと冒険者させてもらえないでしょうに」


「それはそうなんだが、成人したての頃のセタンタはギラギラしとったんじゃ。金がいる、金がいるとガツガツと儲け話に乗ったりな。ウチにも大きな鉱脈見つけにいく話でもないか、と聞きにきよったわい」


 山師さんの言う事は事実です。


 実際、セタンタ君は昔――昔というほど昔ではありませんが――餓狼の如くお金を求め、冒険者稼業に身を投じていた時期があったのです。


 セタンタ君より年上の冒険者さん達は「まさか親が残した借金があるのか」と不憫になって聞いてみたものの、セタンタ君は否定しました。


「そういうのじゃねえ」


「確か、娼婦の身請けがしたいんじゃなかったか? 助けたい子がいるとか」


「……いるんじゃねえ。いたんだよ」


 セタンタ君がとても重苦しく黙ったため、それ以上、その事を言及する人はおらず、山師さんも「悪い」と言って黙りました。


 結局、この日は特に鉱脈は見つかりませんでした。


 ですが、セタンタ君は特に困った様子も見せず、「まあそんな日もあるよな」といった感じで特に金に飢えた様子もなく、夕食をゆっくりと食べました。


 以前であれば、舌打ちの一つぐらいしていたかもしれません。


 それぐらいお金を欲していた時期が彼にはあったのです。


 ですが、いまはもう目指す目標は消えてしまいました。


 消えたからこそ、あくせくと働かなくなったのがいまの彼でした。



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