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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
四章:復讐と裏切り
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痛感



 セタンタ君達がレムスさんと別れた頃の事。


 ガラハッド君はパリス少年を甲冑の背に乗せ、走っていました。


「ガラハッド! もういい! あとはオレだけで追うから!」


「キミ一人に任せるより、二人でライラプスを追った方が確実だ。索敵に集中してくれ、走るのはこっちに任せろ」


「お前も危ない目に会うだろ!?」


「うるさい! キミ一人置いて逃げれるか……!」


 二人はライラプスちゃんを追跡していました。


 野営地襲撃の騒ぎが起き始めた頃、ライラちゃんが――消えた御主人を追って――パリス少年のもとから逃げた時から追っているのです。


 二人が通った道は期せずともケパロスさんが地下からの脱出に使った道と同じでしたが、二人はその事実を知らず、地下で出るところで崩落の爆音に驚かされ、魔物の群れがいる修羅場にいては考える暇もありませんでした。



「とにかく、私は戦うぐらいしか能が無いんだ! キミの目が頼り――」


「ガラハッド、右だ!」


「くっ……!」


 ガラハッド君は指示に従い、右側から走り込んできた魔物の顔面に対して剣を突き入れました。


 戦うための訓練を積み、武才に恵まれた少年の剣や魔物を即死させる事が出来ましたが――危機はそれだけでは終わりませんでした。


 倒した魔物の後続として、沢山の魔物達が迫ってきていたのです。


 五体ほど――いえ、もっといるでしょうか。訓練ではなく実戦の場の待ったなしの状況にガラハッド君は甲冑に隠された肌に冷や汗を浮かべて決断しました。


「パリス、先に行け」


「で、でも」


「私が食い止める。ライラプスを追え! 足手まといだ!」


「…………!」


 ガラハッド君の背より降ろされたパリス少年は立ち尽くしかけて、踵を返して走りました。ガラハッド君はその音を聞きつつ、ホッとしながら手に力を込め、応戦を開始しました。


 一体、二体と魔物を瞬時に斬り伏せた甲冑の少年は、別の魔物の体当たりを捌ききれず、雨中で泥だらけになりながら吹き飛ばされました。


 地面で泥を掴みつつ、立ち上がり、盾で魔物を殴り、いま対峙している魔物の中で一際大きい――体当たりしてきた魔物を――裂帛の勢いで斬り伏せました。


 そこで、休む間もなく別の魔物に後ろから襲われました。


「ギャウッ!?」


「…………!?」


 襲われ、襲ってきた魔物の悲鳴で存在に気づいたガラハッド君が振り返ると、そこには魔物がじたばたと動き、腹に刺さった矢に苦しんでいるところでした。


 ガラハッド君は慌てて剣でトドメを刺し、矢の飛んできた先を見ると、そこには木の上に登ったパリス少年の姿がありました。


 一度退き、後方から援護してくれていたようです。


「何やってるいるんだバカ! 早くライラプスを追え!」


「お前のことも見捨てられるか! さっさと魔物を倒して、一緒に――」


 そう叫んだパリス少年でしたが、木が乾いた音と大きく揺れ、衝撃によってバキンッと折れた事で「うわああ!?」と悲鳴をあげて地面に落ちていきました。


 別方向から突っ込んできた魔物が――硬い鱗を持つ魔物が木を倒したのです。


 その魔物は咆哮をあげるより早く、へっぴり腰で何とか逃げようとしているパリス少年の背に向け、辺りを照らすほどの火焔を吹きかけました。


 大雨が降っているとはいえ、吹きかけられる焔は肌を直火で炙られる所業。ガラハッド君が今まで間近に耳にした事が無いようなおぞましい悲鳴が響きました。


「や……やめろ!」


 ガラハッド君は立ち向かいました。


 がむしゃらに突っ込みました。


 剣と盾を手に魔物に正面から突っ込み、火焔の中へと飛び込んでいきました。


 そのおかげもあり、パリス少年に炎が届かなくなりましたが、ガラハッド君は甲冑越しに身体を焼かれました。少年剣士は歯を食いしばってそれに耐えました。


 直には焼かれずには済んだものの、全身をくまなく覆う無敵の鎧ではありません。覆ってしまえば関節の可動域が確保出来なくなってしまいます。


 だから、可動域確保のための鎧の隙間から入り込んだ炎の舌が耐え難い苦痛を与えてきましたが、それでもガラハッド君は前進し、魔物に斬りかかりました。


 まだ年若く未熟ながらも、才能ある冒険者の剣筋。


 武器強化魔術も添え、全力で振られた剣。


 それは、まったく、歯が立ちませんでした。


 それどころか、魔物の硬い鱗により、ポッキリと折れてしまいました。


 相手の鱗の方が勝ったのです。


「あっ……!」


 頼みの綱の剣が折れた事実にガラハッド君が呆け、思考停止して立ち尽くしているところに別の魔物が走り込んできた勢いのまま身体をぶつけました。


 少年は骨が折れる音をハッキリと聞きながら吹き飛ばされ、無力さを感じながら雨と泥の中へと再び倒れ込みました。


 勝てない。


 もはや勝機は無い。


 ガラハッド君は諦めました。


 諦めて、せめてもと倒れ苦しんでいるパリス少年を自分と甲冑で隠し、守ろうとしましたが――上からのしかかってきた魔物の圧力の前では全てが無駄でした。


 才能があるとはいえ、無敵ではありません。


 稽古で優秀な成績を残したからといって、全ての苦難を打開する事は出来ないという事を痛みと経験と共にガラハッド君は痛感しながら死のうとしていました。


 死ぬはずでした。


 セタンタ君達の救援は間に合いませんでした。


 しかし、別の救いの手がやってきたのです。


 それは黒い甲冑を着込んだ騎士のような冒険者でした。




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