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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
四章:復讐と裏切り
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真意の在り処



 マーリンちゃんが予定に無かった仕事を押し付けられている頃。


 セタンタ君はパリス少年とガラハッド君と一緒に地下坑道に入っていました。


 探し人――もとい、探し犬を追う事も兼ねて地下に入り、カラティンによる採掘の様子を見学しにきたのです。


「ライラのヤツ、大怪我したのにまたフラッといなくなるんだから……!」


「また御主人を追っていったんだろう」


 野営地から消えたライラちゃんに対し、プリプリと怒っているパリス少年に対し、ガラハッド君が「大丈夫だよ」となだめました。


「怪我も完治しているし、地下に入っていったのは見た人がいる。魔物もあらかた駆除したらしいし、また怪我する事もないだろう」


「坑道の出入りをやけに厳重に数えてたから確実な情報だしな」


「事故あって地下に埋もれたらどうするんだよ」


「あー……それは……」


「ゴーレム使えるから、それは何とか出来るさ」


 セタンタ君がパリス少年の肩を叩きつつ、そう言いました。


「もし仮に死んだとしても、保険もかけられてるんだろ?」


「うん。ケパロスさんはそう言ってたから、蘇生してもらえるはずだけど」


「なら大丈夫だ。むしろ自分の命の心配をしとけ」


「オレ様だって保険かけてるし」


「お前の場合、クアルンゲ商会に借金してかけてもらったもんだろ? それで何とか命繋げるとしても、保険代は安くねえんだからなー」


「うっ……わかってるよ。保険代も直ぐに返してみせらぁ」


借金そっちの件もあんまり焦るな。オッサン達も額が増えない限り10年ぐらいは待ってくれるさ。……あ、すんませーん、この辺、犬が通りませんでした?」


 少年達は地下坑道にいたカラティンの人達にライラちゃんの行方を聞きつつ、地下深くまで潜っていきました。


 ライラちゃんは確かに地下に潜っていき、それより前にケパロスさんが採掘する鉱石の場所に向かったあたり、また御主人様を追ってるのでしょう。


 冒険者さんが「危うく魔物と間違って攻撃するところだった」と言ってるのを聞いたパリス少年が慌てて、走り潜っていって坑道にたまった水たまりでコケかけるという事件もあったものの、三人はライラちゃんに追いつきました。



「あ、いた! コラッ、ライラプス」


 パリス少年が見つけたライラちゃんに向けて駆けていきました。


 ライラちゃんは採掘作業の邪魔にならない隅っこでちょこんと座り込み――視線の先には御主人ケパロスの姿がありましたが――パリス少年に抱っこされました。


 その様子を見ていたケパロスさんは苦笑しているらしく、肩を揺すっています。


 セタンタ君はケパロスさんが笑った後、そっとため息をついて視線を逸し、悲しげにしていた――ような気がしましたが、髪と髭に覆われたケパロスさんの顔からそれを読み取るのはとても困難な事でした。


 そうしていたのも束の間、ケパロスさんは「コラコラ」と言い、少年達に近寄ってきました。


「あまり好き勝手に坑道内を歩かない方がいいよ。あらぬ疑いをかけられる事もあるからね。まあ、ライラプスを好きに歩かせている私が言う事ではないが……」


 ケパロスさんはそう言いつつ、なぜそう言ったかの理由を説明してくれました。


 セタンタ君達はあくまでクアルンゲ商会に雇われた冒険者。


 今回の遠征の主体はあくまでカラティンです。


 遠征の目的が「鉱石の採掘」だけあって、好き勝手にうろついていると「密かに横取りするつもりなのではないか」と疑われる事もあるのです。


 実際、まったく盗んでないのに嫌疑をかけられ、追求が白熱するあまり郊外で私刑が起きる事もあります。勢いがつきすぎると死ぬ事もあります。


 保険をかけていれば生き返り、政府に助けを求める事が出来るものの遠隔蘇生ほけん無しだとひっそりと埋められそのまま、という事もあります。


 雇用者側にとっても、雇われ冒険者側にとっても揉め事は百害あって一利なしな事態なので、野営地で待つのがマナーだよ、と老人は少年達を諭しました。


 パリス少年はケパロスさんを慕っている事もあってか、もごもごと「でもライラが……」と言い訳しかけ、口をつぐみ、ちょっとシュンとしています。


 ただ、カラティンの冒険者さんの方が「まあまあ」と取りなしてくださり、「見学ぐらい好きにしてていいよ」と言ってくださいました。


 ケパロスさんはそれに感謝しつつ、採掘作業の邪魔をしない程度に少年達に採掘の様子を案内してくれる事になりました。


 そうして、少し待っていると坑道の奥から鉱石が運び出されてきました。



「すげー毒々しい色してる石だ」


「あれが紫鉱石だよ」


 見た目だけではなく、「実際に毒があるから気をつけるんだよ」と付け加えたケパロスさんの言葉にパリス少年が慌てて自分の鼻と抱っこしたライラちゃんの鼻を塞ぎました。


 ライラちゃんが少し苦しそうなので、ガラハッド君が肩を叩いて止めました。


「パリス、別に毒を出してるわけじゃないから、息してもいいぞ。長時間触っていたら手がただれる程度だ。それも治癒魔術で何とかなる」


「ほう、キミはよく知っているんだね」


「冒険者になる前に鉱夫として働いていたので……」


 その間に培ったガラハッド君の知識のようです。


 四人と一匹はしばし、紫鉱石を見ていました。


 灯りの光を受け、鈍く光る紫色の鉱石は見ようによっては宝石のようです。希少鉱石のため価格のうえでも下手な宝石より高い、価値あるものです。


 毒ガスを発しているわけでも無いので、土汚れを落として観賞用に使われる事もありますが、基本的にはアイオニオンという金属の材料として使われ、武具として新生していく事が多いです。


 毒持つ紫鉱石をよくばり、両手にも抱えて持ちかろうとした横着者の逸話を披露したケパロスさんがカラティンの方に呼ばれ、「失礼」とその場を去りました。


 パリス少年はそれに少しだけついていき、ライラちゃんと一緒に遠巻きに見学していましたがガラハッド君とセタンタ君はその場に残りました。


 運び出された紫鉱石をガラハッド君が首を捻りながら眺めていたためです。


「どうしたんだ、ガラハッド?」


「いや……私の気の所為かもしれないが……ちょっとおかしくてな」


 ガラハッド君は迷った様子でいましたが、カラティンの方が通りがかったので「少し触ってもいいですか?」と鉱石に触る許可を得ました。


「いいけど、盗っちゃダメだし毒にも気をつけなさいよ。危ないからね」


「ありがとうございます。セタンタ、ちょっと手袋を貸してくれ」


「おう?」


 ガラハッド君は甲冑の篭手を外しつつ、セタンタ君に借りた手袋をつけ、紫鉱石を触り、何かを拭い取りました。


 紫鉱石についていた土を取ったようです。


 その後、紫鉱石から離れた場所に行き、そこにある土を拾い上げ、手のひらのうえで弄びつつ、鉱石と周辺の土を見比べているようでした。


 ガラハッド君は両方の土に水筒の水もかけ、感触も確かめていましたが、やがて

「やっぱり違う……」と呟きました。



「何が違うんだ」


「土が違う。紫鉱石側にこびりついていた土は、この辺りのものじゃない」


「どういう事だ?」


「うーん……私の考え過ぎかもしれないが……」


 ガラハッド君は自分の考えに戸惑い、考えを巡らせました。


 そうしているうちにセタンタ君もガラハッド君の言葉を踏まえ、考え、ガラハッド君が思っている事と同じ事を口にしました。


「まさか、他所から運び込まれてきた紫鉱石だって言いたいのか?」


「いや、うん、私も荒唐無稽な考えだというのはわかっているんだが……。そうなのであれば土質が違うのも納得出来る」


 所詮は経験の浅い元鉱夫のにわか知識だから当てにはしないでくれ、と恥ずかしげにするガラハッド君でしたが、セタンタ君も「違う」とは断じれずにいました。


「鉱石に足でも生えて、勝手にここまで来たのかもしれないな」


「まあ足がある鉱石もあるけどよ」


「あるのか? それは知らなかったな……」


「あるとしても魔物が……例えばゴーレムが自分の身体を鉱石で形成してたって時ぐらいだ。それならそれで、魔物そいつがここにいないとおかしい」


「先遣隊が先に潜って、倒しておいてくれたのでは?」


「俺達、というかカラティンは場当たり的にここに来たわけじゃないからな。鉱石があるとわかっててここに来たんだ。ゴーレムとして動いてたもんなら、まったく別の場所に行く可能性もあるし」


「先遣隊ではなく、最初に見つかった時点で倒されたんじゃないか?」


「その可能性もあるけどな。まあ、どっちにしろ、最初に鉱石見つけたのは……」


「ケパロスさん、だな」


 聞けばゴーレムの存在有無はわかる。


 そう考えた二人はケパロスさんの姿を探しました。


 ですが既に別の場所に進んで行ったのか、目に見えるところにはいません。


 パリス少年とライラちゃんの姿もありませんでした。


 ちょうど人通りが無くなった事もあり、陽の光が届かない暗い坑道の中で二人が薄気味悪い思いをしていたところ、セタンタ君に届く声がありました。


『セタンタ君やーい』


「うおっ……びびった、マーリンか」


「どうした?」


「マーリンが交信魔術使ってきたんだよ」


 地上から話しかけてきているようです。


 セタンタ君は「先行っててくれ」と手振りで示し、ガラハッド君を送り出しながらマーリンちゃんの魔術ちからを借りて返事をしました。



『どうした、マーリン』


『鉱石見つかった?』


『一応な。ただ、ちょっとおかしなところがある』


 セタンタ君はマーリンちゃんにガラハッド君が気づいた点を話しました。


『そいつは、ちょっとおかしいね』


『でも、仮に運び込んだところで何の意味があるんだよ』


『うーん……少なくとも、カラティンはここまでやってきたよね?』


『まあ、そうだな』


『いま、市街跡ここには沢山の赤蜜園出身者がいるよね』


『……そう、だな』



 セタンタ君の頭に嫌な考えが過りました。


 パリス少年が嬉しげに笑い、恩人であるドワーフさんに話しかける光景が脳裏を過るあまり、「まさか」と否定して自分の考えを棄却しました。


 しかし、マーリンちゃんの方は畳み掛けるように情報を提示してきました。



『ボクも気になって調べてみたんだけど……』


『何を?』


『この周辺の事。で、調べた結果、誰か野営した跡があったの』


『誰か……そりゃ、あれか? 白狼会で仕事探ししてる時にもうやられてた巡察依頼の件か? 俺らの前に来てたんだから、その人達の野営跡なんじゃないか』


『いや、それとは絶対別』


 マーリンちゃんはそう言い切りました。


『いまセタンタが言った巡察依頼はもう三週間も前の話。こっちで見つけた野営の跡はわりとつい最近のものだったの。先遣隊のものでも無い、はず』


『お前が見つけたのか?』


『ボクはちょっと野営地に釘付け中で……。代わりに野営地から出てたレムスさんに調べてもらって、レムスさんの目越しにボクも観測したの』


『そうなのか』


『レムスさんの金星だから今度何か奢らなきゃ。ちなみに、単に野営してただけじゃなくて、野営跡を埋めて隠そうとした痕跡があったんだよねー……』


『…………』


 アスティ市街跡は強い魔物は少なく、比較的平穏な地です。


 お金になる魔物もおらず、鉱石は取り尽くされたと考えているため、わざわざ訪れる者はもういない無価値なはずの土地。そこに隠された野営跡があった。


 二人はその事実に剣呑な光を見て、懸念を募らせました。


『それと、さっきセタンタが言ってた巡察依頼なんだけど、どうもアレってケパロスさんが関わってるみたいなんだよね。それらしいとこ見た人がいるって』


『巡察依頼にも、か?』


『そう。何か甲冑姿の人達とここに向けて進んでたとか何とか……。ともかく、その件も含めてケパロスさんに探りを入れたい。どこいるか知らない? 遠征隊長の方は、いや、遠征隊長の方もちょっと怪しげで――』


『ケパロスさんなら、ついさっきまで一緒にいたぞ』


『ごめん、ちょっと見張っ――く――? あれ? 本格的に降り――――』


『マーリン?』


『ん? ――? セ―――? な、グッ!? い』


 少女のくぐもった声が聞こえました。


 それに先んじ、二人の交信に雑音ノイズが入りました。


 それは直ぐに雨足が強くなっていくように次第に大きくなっていき、やがてマーリンちゃんの苦しげな息遣いどころか、雑音すら聞こえなくなりました。



「おい、マーリン? マーリン!?」


「セタンタ? 何かあったか?」


「わからん! とにかく地上に戻る!!」


「あっ、おい」


 ガラハッド君の声だけが追いすがり、セタンタ君は地上に向けて薄暗い坑道の中を登っていきました。


 カラティンの人達が怪訝な顔をして疾走する少年を見守っていましたが、直ぐにそれよりも注意を引かれる音が坑道内に鳴り響きました。


 緊急連絡用に要所に置かれていた音を伝える魔術の道具が坑道全体に音を届かさんとばかりにけたたましく鳴り始めたのです。


「おい、これって……」


「襲撃警報の符号だな」


「訓練か?」


「いやどっちにしろ地上に戻らねえとドヤされるぞ。作業中止、走れ走れ!」


「あっ、おい! 待てよ! ど、どこ行くんだよ、ライラプス! これあぶないの知らせる音なんだぞ! もどれー! バカー! 待てー!」


 騒ぐ人々の声と、図らずとも追随する形で走ってくる冒険者達の足音を聞きつつ、セタンタ君は地上へと帰還しました。


 そこには陽の光は既にありませんでした。


 代わりに鳴り響く無数の魔物達の咆哮と、土砂降りの雨音と、襲撃に対応すべく急いで迎撃準備を整える者達の叫び声で混沌の坩堝るつぼと化していました。




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