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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
四章:復讐と裏切り
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 遠征三日目の夜。


 三日目の野営地を作り始めた夕方から見張りの一人としての役目を勤めていたセタンタ君は「交代だ」と別の冒険者さんに声をかけられました。


「あれ? もう? 俺まだまだ行けるけど」


「そりゃセタンタ君が子供だからだよ」


「ムカ」


「冗談冗談。体力的には魔術で問題無くても、集中力は落ちていくもんだからね。後は朝までグッスリと寝てなさい」


「へーい。魔物やって来て永眠せずに済めばいいなぁ」


「それは約束出来ないなぁ~!」


「いやいや……見張りなんだから約束してよ」


「最悪の場合、保険の遠隔蘇生があるから安心しな」


「安心できねぇ……」


 交代の冒険者さんはニコニコ笑いつつ――それでいて索敵魔術はしっかり起動させつつ――声を潜めて「確約し難い事情もあるんだよ」と言いました。


「ここしばらく、赤蜜園の冒険者がよく死んでる件、知ってる?」


「あー、フェルグスのオッサン達に言われた」


「どいつも保険で生き返ってはいるものの、気がついたら死んでたってヤツもいるからさぁ。私達もそうなる可能性はあるでしょうよ」


「そうならない事を祈ってるよ」


「戦闘になったらよろしく頼むね。ああ、それとさ……」


「うん?」


「例の子、またこっそり見張りに参加してるよ」


 交代の冒険者さんの言葉にセタンタ君は眉を潜めました。


 眉を潜め、冒険者さんが口にした人物の姿を探し求めました。


「おい、パリス」


「うおっ……!?」


 探していた人物――パリス少年は野営地中央の端っこにいました。


 寝袋に収まりつつ、横になって寝たフリをしながら――中央を囲っている天幕を少しだけめくり、そこから外を覗いていました。


 観測魔術を使うとパリス少年が索敵魔術を使っている事もわかりました。寝たフリをしつつ、見張りの一人のように参加しているようです。


「ね、寝てるぞ」


「下手な狸寝入りすんなら、もうちょっと他の人もいるとこで寝ろ」


「寝てるって。お前が声かけたから起きたんだよ……」


 寝袋に収まり、芋虫のような格好になっていたパリス少年がふくれっ面を見せ、「放っといて寝かせてくれ」と言いました。


 パリス少年は見張りではありません。


 勉強兼ねて見張り役の補助としてつく事はありますが、まだまだ単独では見張りを任せてもらえていません。今は休む時間です。


 だというのに、パリス少年は寝て休んでいるフリをしつつ――索敵魔術で何かを探すため――野営地の隅っこにこっそり陣取っているようでした。



「お前、何探してんだよ。いいから休めって」


「休んでる。オレ様はとても休んでるぞ」


「ったく……お前が正規の遠征参加者なら、ぶん殴ってでも休むように言われてるとこだぞ。勉強がてら来てるから、目こぼししてもらってるだけで」


「…………」


「休むのも仕事だからな。良い加減にしとけよ」


「……うん」


 しゅんとした様子の声が返ってきたので、セタンタ君は「言い過ぎたか」と思いつつ頭を掻きながらその場を後にしました。


 寝不足は治癒魔術で対応出来ますが、睡眠は魔力を回復しやすくする効果もあるため、都市郊外でも見張り交代しつつ睡眠取る事は基本推奨されています。


 自分の体調と魔力を管理するのも仕事。パリス少年もその事はわかっているはずです。皆さんに口酸っぱく言われているので。


 それでも、パリス少年はこっそりと見張りに参加しています。


 それも一日目の夜から三日目の現在に至るまで、ずっとです。


 疲れて眠りに落ちている事もありますが、パリス少年はなぜか見張りに参加したがり――その理由はハッキリと語らずにいるのです。


 セタンタ君が「何を意固地になってるんだろう?」と首を捻りつつ、自分の寝具を取り、パリス少年を見張れる位置で休もうとしているとレムスさんがやってきました。ニコニコ笑顔です。



「おっ、セタンタ、奇遇だな」


「ゲッ……レムスの兄ちゃん……またアンニアの手紙自慢?」


「そうだよ、見るか? 見たいだろうなぁ~~~? 仕方ないなあ」


 レムスさんは遠征初日からずっと、ちょっと浮かれ気味です。


 理由は出発前にアンニアちゃんに貰った手紙。


 そこには「にいたんがんばれ~」「うさぎさんより、にいたんの命を大事にしてね~」という兄の身を案じる内容が書かれていたのです。


 元々、妹大好きっ子のレムスさんは手紙の内容にデレッデレ! 遠征参加者の皆さんに自慢しまくり、見せまくり、ちょっと辟易とされているとこです。


 手紙を見た某猫系獣人マーリンの女の子が「この間、アンニアちゃんと遊んだ時に子供向けの雑誌見てたんだけど、『パパやお兄ちゃんお姉ちゃんに媚びてお小遣いをもらう方法』って特集があってさぁ……その中の媚びる方法に手紙贈るってのがあったんだよねぇ」と呟き、セタンタ君はレムスさんのためを思ってそっとその口に手を添えるという事もありました。


 ただ、その所為もあってかレムスさんはちょっと浮かれポンチなのです。


「どうだ、このまるっこいカワイイ字……ウチの妹の可愛さがよくわかるな?」


「はいはい……そうでございますね……」


「ところで、パリスの様子はどうだった」


「は? え? 何だよ、急に」


「一応、心配だから俺も見張ってんの」


 野営地外ではなく、パリス少年をです。


 レムスさんの話ではマーリンちゃんやガラハッド君もそれとなく気にかけているらしく、地味に皆の監視下に置かれているパリス少年。


 本人は野営地の外を索敵するのに必死で、その辺りは気づいていないのですが……レムスさんもパリス少年の様子を見守るのに参加してくれているようです。


「頑張るのは良いことなんだが、アイツの雰囲気はアレでなぁ」


「アレって?」


「若い戦士が手柄に逸るのと、似た空気がする」


「うーん……手柄が欲しいってわけでは、無いと思うけど」


「まあ、そうだな。ただ、何か焦ってる様子はあるだろ?」


 焦るあまりに独断行動を起こさないよう、見守る必要はありそうです。


 セタンタ君もその活動に加わりましたが、ひとまずはレムスさんに任せる事になり、その隣で眠りにつく事にしました。


 時間が経ったら交代――なのですが、その必要はありませんでした。


 それより早くパリス少年が行動を起こしたのです。




「コラ! パリス、何やってんだ、危ねえだろ」


「離してくれ! 早く……早く行かなきゃ、ヤバイんだよ!」


 セタンタ君が寝ぼけ眼をこすりつつ起きると、そんな会話が聞こえてきました。


 見ると、パリス少年がレムスさんに首根っこを捕まれ、暴れています。振り払おうとしていますが、「落ち着けって」と言うレムスさんの手から抜け出せません。


 騒ぎを聞きつけた人がチラホラと集ってきて、その中にはセタンタ君、マーリンちゃん、ガラハッド君の姿もありました。


 近づいて見ると、パリス少年は少し青ざめている様子でした。


 混乱している様子もあり、盛んに叫んでます。


「どうしたんだよ、パリス」


「ライラが! ライラプスが危ないんだ!」


「ライ……なんだって?」


「ひょっとして、あの、例のワンコの名前じゃない?」


「そうだよ! ケパロスさんの相棒の名前だよ……!」


 パリス少年は焦った様子で叫び、その「ライラプス」の鳴き声がすると言いました。索敵魔術でずっと行方を探っていたようですね。


「南側にちょっと、聞こえたんだ、ライラプスの鳴き声が」


「魔物の鳴き声じゃないの?」


「魔物じゃない! ライラプスはちっこい犬で、魔術も使えるけど……こんな暗い中を一匹だけでいけるほどは強くないんだ。危なくて、助けに行かなきゃ……!」


「危ないっていうのは同意だな」


 寄ってきた冒険者さんの一人が声をあげました。


 同意しつつも――それはあくまで危険性に対しての感想でした。


「その、犬の鳴き声はどんぐらいの距離から聞こえたんだ? 少なくとも、こっちの索敵魔術、観測魔術には特に何も引っかかってないんだが」


「向こう……南側の……2、3キロ離れたとこ、かも」


「ちと遠いな。まあ、仕方ないだろう」


「仕方ない?」


「犬一匹のために危険に足突っ込むわけにはいかない。皆、ここでは何も聞かなかった。聞こえなかった以上、何もする必要なし。いいかな?」


「…………!」


 パリス少年は激昂しかけました。


 実際、大声で叫ぶ寸前でしたが、それはセタンタ君が遮りました。


「俺ちょっとションベン行ってきていいかな」


「は? 便所ならそこあるから、勝手にすればいいだろ」


「いやぁ、ちょっと外でしたい気分なんだよ」


「セタンタ君……あのね? 遊びで来てるわけじゃないんだから」


「行かせてあげていいよぉ」


 ノシノシと歩いてきた人がセタンタ君の行動を許可しました。


 今回の遠征部隊の隊長、隻眼の巨人のエイさんです。


「ただし、どうせなら連れションにしなさい。あと3人ほどは欲しいねぇ。マーリンちゃんがいると万全だろうから、ついてってあげてくれるかな?」


「それはもちろん」


「じゃあ、オレ様も!」


「私も――」


「パリス君とガラハッド君、だったかな? キミ達はねぇ、さすがに足手まといだろうからいいよ。うん、やめといて欲しいねぇ、エレインからも危ない事させんなって頼まれてるからねぇ」


 エイさんの厳しくも、現実を見ている言葉に気圧され、パリス少年とガラハッド君は言葉に詰まりました。


 二人もそれぐらいはわかっていますが、それでも――とパリス少年は声をあげました。自分が聞いた鳴き声の主を助けるために、訴えました。


「お、オレならライラプスの鳴き声はわかる。オレは行くべきだと、思う……思います。行かせてください!」


「しかしねぇ……」


「じゃ、パリスは俺の背中に捕まってな」


 ちょい、とパリス少年がつまみ上げられました。


 カンピドリオ士族の人狼、レムスさんです。


 これなら文句ねえだろ、と言いたげに肩をすくめたレムスさんに見られ、遠征隊長さんは頭を掻きつつ、「ま、じゃあそれで」と言いました。


 さすがにガラハッド君の同行は認められませんでしたが――パリス少年の証言を信じ――少数精鋭の救援隊が結成される事になりました。



「蘇生魔術使える子は三人連れてきてるから、最悪、こっち頼りなさい」


「わかった」


「よっしゃ、じゃあ皆行くか。パリス、案内頼むぞ」


「うん!」


「魔物引き連れて帰って来る時は、早めに知らせておくれよー」



 遠征隊長さんは軽く手を振り、セタンタ君、マーリンちゃん、レムスさん、パリス少年を見送りました。


 見送って、ついて行きたそうにしているガラハッド君を野営地内に戻るように促し、念のため数人に防衛体制を整えるように指示を飛ばしました。




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