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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
四章:復讐と裏切り
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出そう! 黒字!



 セタンタ君は冒険者ギルドへとやってきました。


 アタランテさんとレムスさんについてきたのです。マーリンちゃんとアンニアちゃんも物見遊山でそれに追随です。


「そんじゃ、ちょっと手頃な依頼を探しましょうか」


「手頃な依頼っつーと……」


「アンニアに贈るための食肉取りと黒字を両立させようと思ったら、肉を多めに取って余剰を売るか、別で補填しなきゃダメでしょ?」


「別ってのは、肉取りついでにこなせる依頼を探すっつーことだな?」


「そゆこと。他にも手はあるけど、ひとまず討伐依頼とか無いか探しましょ」


「へーい」


「ああ、その前に……さっきアンニアが言ってたウサギって、どこのウサギ?」


 アンニアちゃんを抱っこしてあやしていたアタランテさんの問いに、レムスさんは「魔物じゃなくて普通のウサギなんだが」と前置きしつつ、答えました。


「アスティ市街跡の近所にいるウサギだ」


「げっ、マジ? あそこまで行くの?」


 アタランテさんは露骨に嫌そうな顔を浮かべました。


 それを見て、「アスティ市街跡」という場所がどこかわからなかったセタンタ君は首を捻りつつ、隣にいたマーリンちゃんに問いました。



「どこだ、アスティって?」


「この間、白狼会の初仕事でアルコン狩りに行ったでしょ? あそこをさらに東に進んだ場所にある山岳地帯に都市があったんだよ」


「あった?」


「今はもう都市は存在してないの。別のとこに移住したからね」


「ああ、だから市街跡……」


「ちなみに、そこからしばらく北東に行ったとこが鷹狩りの時にエレインさんが言ってた隕鉄が良く取れる隕石地帯ね。近いとはいえ、そこそこ離れてるけど」


「ふーん」


 セタンタ君はアタランテさんが嫌そうな顔を浮かべた理由を、「アスティ市街跡に強い魔物が出るのかな?」と考えました。


 が、実際には真逆のようです。


「アスティ市街跡ってまともな魔物いないじゃん」


「そうか? 大体、撫でると死ぬような可愛げのある奴らが多いぞ」


「雑魚ばっかりって話よ! 弱い奴らばっかりって事は、ギルドの方もわざわざ討伐依頼出さない可能性高いし、狩って解体したとこで大して金にならないし」


「確かに。まあ、何とかなるだろ」


「その根拠はどこから来るの?」


「フッ……何とかなるさ精神さ。俺の主人公ごつごうしゅぎ力に期待しろ!」



 駄目でした。


 まったくもって期待出来ませんでした。


 それどころか、アスティ市街跡に対する依頼は皆無でした。



「まさか、巡察依頼の一つも出てないとは……」


「出てたみたいだけど、ほんの二週間前にこなされたばっかりみたいだね」


 アスティ市街跡に向かう道中での依頼も――アスティに行くついでにこなすに相応しい報酬額の依頼が――特に無く、白狼会は壁にブチ当たる事になりました。


 他所から流れてきた危険な魔物が市街跡で巣を作り、近隣の危険度が一気に悪化でもすれば討伐依頼の出る可能性も上がるものの、その可能性も薄いようです。


 ちょうど市街跡の様子を見に行く巡察依頼がこなされたばかりで、ギルドの職員さんも「行くのは止めないけどギルドから報酬出ないから、他所に行ってみては?」と言うほど何ともタイミングの悪いものでした。


 一行は、ひとまず近所の喫茶店へ。


 いくつか目ぼしい依頼をメモして検討したものの、算盤そろばん弾いたアタランテさんも「厳しい」と渋面浮かべて判断せざるを得ないものでした。


 そうこう話し合いをしている間も、アンニアちゃんはご機嫌でスイーツを追加注文。白狼会及びレムスさんの財布にスリップダメージを与えているところでしたが、皆、その事には無自覚でした。


「そんな美味しいの? アスティ市街跡で取れるウサギって」


「普通の野ウサギなんだが、これが意外と美味いんだ。まー、つってもアスティまで行って取って帰ってきて採算取れるほどのものではないけど……」


「乱獲しても無理?」


「無理だと思うぜー、さすがに」


「市場に出てるの買って、それを代わりにするのは無し?」


 セタンタ君が問いましたが、レムスさんが「誰か養殖でもしてくれない限り、市場に並ぶのは稀だと思う」と答えました。


「獲っても身内で食う奴らばっかりだろ。アスティにまだ人が暮らしていた時代は、客人もてなすのに狩って出してたらしいけど」


「うーん……あ、そもそも、レムスの兄ちゃんは何で獲ってきたんだ?」


「走って首根っこ捕まえて、檻に入れて生け捕りにしてきたのさ」


「じゃなくて、何でアスティ市街跡に行ったのかって話」


「ああ、そりゃ採掘遠征だ。兄者の仕切りで行ってきたんだけどなー」


 レムスさんはそこで言葉を区切りつつ、アスティについて解説し始めました。


「アスティは元々、ポンペーイ士族っていう鉱業を生業なりわいにする士族が自治してる鉱業都市だったんだ。あの辺りで取れる紫鉱石の採掘で稼いでいてな。枯渇したと思われた関係もあって、都市引き払って士族は別の都市に移ったんだが」


「移転先はヴェスヴィオだったっけ?」


「そうそう。んで、都市はもう無くて枯渇したって思われてたんだけど、兄者が『僅かにだが残っている』って情報掴んで、採掘遠征企画してくれて、俺もそれについていったんだ。そのついでにウサギを獲ってきたって寸法だな」


 それがどうかしたか? とレムスさんがセタンタ君に問いかけました。


 セタンタ君は「それを絡めていけばいいんじゃねえの?」と言いました。


「もう一回、採掘遠征を企画するんだ。それを黒字出すための柱として据えつつ、ついでにウサギも獲ってくればアンニアの希望も叶えられるっしょ?」


「なるほどな。けど、難しいかもなぁ」


「ダメ?」


「実はさっきの話には続きがあってな。兄者が仕入れてきた情報は確かなもので、紫鉱石は確かに取れたんだ。結構な、噂になる量がな」


 ロムルスさん達は見事に採掘遠征を成功させました。


 しかし、成功させてしまった事である噂が流れる事となったのです。


 アスティ市街跡には、まだ紫鉱石が眠っている。


 ロムルスさん達が紫鉱石を持ち帰ったという事実と、それを骨子に噂に尾ひれがついていき、噂に煽られた冒険者さん達は市街跡を目指したそうです。


 結構な数の冒険者達が人が退去した市街跡に駆けつけた結果、結構大規模な野営地が形成。活気が戻り、鉱石を巡って喧嘩、策謀なんでもござれの混沌とした状況になったんだとか。


「何か、噂に尾ひれつきまくって500人ぐらいは押しかけたらしいなぁ」


「うわ……。で、そんだけの人数で探しても見つからなかった、とか?」


「そゆこと。多少は見つかったけど、全員まとめて大赤字って感じだったらしい」


「うへぇ。となると、もう眠ってないか」


「探し尽くしただろうしねぇ、さすがに」


「その可能性が高いだろなー」


「ちょびっとは残ってるかもだけど、当てもなく掘り返して探すのはキツいでしょうね。滞在費、人件費、採掘・運搬にかかる費用とか加味したら――」


 黒字を出すのは難しい計画、とアタランテさんが補足しました。


 全員が「厳しいか」という結論に達しました。


 ほっぺたにクリームつけながらスイーツを堪能していたアンニアちゃんも、難しい顔をしているお兄さん達を見て、ちょっとだけ察しました。



「んに……うしゃぎしゃん、たべれないのん?」


「あ、いや、大丈夫だぞ。俺に任せろアンニア!」


「でも、むずかしーんでしょ? れむにーたんの頭で、アタランねーちゃんの言うことをりかいするぐらい、むずかしーんでしょ?」


「グフッ……!」


 レムスさんは心中で血反吐を吐きました。


 アンニアちゃんはその事はつゆ知らず、モジモジとしています。


「むずかしーなら、あんにゃ……ガマンするぅ……」


「あ、アンニア……」


「またこんど、いけそーなときでいーよ。あんにゃ、自分で取りにいってもいいよ! そのぶん、れむにーたんはあんにゃのこと、すきすき言ってね?」


「アンニア……! 好きだぞ! 大好きだぞ! 皆さーん! 見てー! というか見ろー! ウチの妹がこんなにもカワイイ……!」


「騒がしいのよボケ」


 アタランテさんがレムスさんの頭をベシッ! と叩き、「お騒がせしましたー」と他のお客さんに謝りつつ、大人しくさせました。


 そしてアンニアちゃんの申し出を好都合……と思いつつも、「ねえたん、ねえたん」と慕ってくる幼女がガマンしてる様子はちょっとこたえるらしく、アタランテさんも直ぐには切り替えれず、迷った様子を見せました。


「竜種辺りが巣作りしてたら、討伐を軸に事が進めれるんだけどねぇ……」


「だよなー! どうせならアンニアが食べたいもの食べさせてやりたいし、例のティアマトがやってきたりしねえかな?」


「そんな都合よくは行かないでしょ」


「未だにどこらへんいるか目星ついてないから、巡察で『異常無し』と判断された後にひょっこりとやってきてるかもよ?」


「さすがに来ねえだろー、そんな都合良く」


「それなら望む所、なんだけどね。ああ、でも、相応に人を揃えないといけないから白狼会単独じゃあキツイかしらね」


「さらっとあんなデカブツ相手取ろうとする胆力がスゲーよ……ん?」


 お茶をすすっていたセタンタ君が喫茶店の外を見ました。


 そこにはちょうど、冒険者ギルドのある方向から茶封筒を抱え、小走りに移動している友達の姿がありました。



「あ、パリスだ。おーい」


 セタンタ君が手を振り、マーリンちゃんとアンニアちゃんがそれにつられて手を振ると、パリス少年の方も気づいて喫茶店の外まで近づいてきました。


 パリス少年は手を軽く挙げて呼びかけに答え、レムスさん達にペコリと頭を下げると「ちょうど良かった」とセタンタ君達に話しかけてきました。


「セタンタとマーリン、フェルグスの旦那が呼んでたぞ」


「仕事か?」


「うん。クアルンゲ商会が大手のクランから酒保の仕事請け負ったみたいで、輜重の護衛で参加して欲しいんだって」


 そこまで言ったパリス少年は腰に手をあて、胸を張りながら「オレとガラハッドも参加するんだぞ、初遠征だ」と自慢しました。


「つっても荷物運びと護衛手伝いだけどな」


「へぇ。まあ遠征の空気知っとくなら良い機会じゃないのか?」


「エレインさんにはダメって言われてるけど、オレは絶対行くぞ!」


「後が怖そうだな……」


「遠征はどこ行くの?」


「確か、あんま怖い魔物が出ないとこだって。前に鷹狩りしたとこから出発して、都市があった跡に行くとか……なん、とか……?」


 パリス少年は、自分に注がれる皆の視線がおかしなものだと気づきました。


 ただならぬ空気を感じ、サッと逃げようとしたものの、バッと喫茶店から出てきたレムスさんにつまみ上げられ「詳しい話を聞かせてくれ。なっ!?」と喫茶店内へと連れ込まれてきましたとさ。




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