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からあげクン

僕の名前は印田健人。

24歳の男。1ヶ月前までは街を颯爽と闊歩するそこそこ凄腕営業マンだったはずだ。



コンコンコンと靴を鳴らしながら歩く、自分自身に自信を持ち、怖いものは店長だけだった。


そんな僕だった。あくまで過去形。

現在の僕はというとそうだニートだ。

貯金はそこそこある。

同棲する彼女持ち。

しかも鬱病持ち。

お先真っ暗である。



社会人経験約2年の僕を雇ってくれる会社はほぼブラック企業しかない。

インターネットサイトの転職サイトに登録したが、中々いいものがない。

だから、僕には公務員を目指すしか道がないんだ。




大学のときの就職活動はたくさんの道があった。太くて無数に広がるような選択肢。あー素晴らしい。たくさんあった内定の中から最も大変でインセンティブの大きいブラック企業を選んだ。それが僕だ。



今はというと、目の前の道は今にも崩れそうな一本道。細い細い一本道。たどり着く先は天国。そこから落ちたら地獄。




あー死にてえ本当に死にてえ。

就活の時の自分をなぐりてぇ。

そう思いながら、日々を過ごす。



「はぁ」

「どうしたん?」

「優奈ビンタしてー」


パンっっ冗談でいったにもかかわらず、

ものの1秒たたぬぐらいのフルスイング。


「目ー覚めた??」


とびきりの笑顔でフルスイングした手を元に戻すのが僕の彼女の優奈。

半年前に婚約指輪を渡したばかり。

大学の1つ年下で五年間付き合っている。会社を辞めた月から同棲を始めた。


目がぱっちり大きく、友達にも美人だと言われる自慢の彼女だ。会社を辞める時も心から応援してくれた。


「でもいいじゃん。」


彼女がぎゅっと抱き着く。


「どうせ、辞めたこと後悔してたんじゃないの?」


優奈はすごい。的確に想いを読み取る。


「ばれたか、なんでもお見通しやな」



「何年いると思ってるん。そんなことで元気なくしてたらあかん!はよ!ローソンでジュースでも買お!」



優奈に促され、築20年の3階建てのマンションを降りる。


二人手を繋いでコンビニまで歩く。


まだまだ寒い。しんしんとした寒空の中マフラーをつけ、手袋をつけ二人は歩く。

ふと途中まで歩いて気づく。



ああ、こんなこと、こんな当たり前のことができなかったんだ。



涙が少し流れた。


「どーしたん??」


優奈が顔を覗き込む。


「お腹すいたなあと思ってな」



ああ、幸せだ。金もない、職もない、それだけれど、そこには確かに幸せがあった。



だから僕は言った。今を噛み締めながら、笑顔で、



「なんでもないわ!はよからあげクンでも買お!」






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