出会いと再会と~芝本楓の場合~ 2
楓目線の部活紹介のシーン。
入学式の日、師範代の指し示す先にいたソラは、何とも可憐に成長していた。
師範代に似なくて本当に良かったと思う。
師範代からは、紹介すると言われたのだが、あえて断った。
親の紹介で再会するよりも、もっと自然に会いたかったから。
その日から、私は1年の後輩に会いに行くふりをして、良くソラのクラスを覗きに行った。
ソラはいつも1人だった。休み時間も昼ご飯の時も。
何だか心配になり、ソラと同じクラスの弓道部の後輩、佐治にそれとなくソラの事を聞いてみたりもした。
佐治かおりは、中学時代からの弓道部の後輩で、それなりに仲良く付き合っている。まあ、可愛い後輩だ。
佐治が言うには、1-Cは中学から持ち上がり進学の者が多く、グループがある程度出来上がってしまっていたらしい。
他校からの生徒ももちろんいたが、ソラはそのグループからもあぶれてしまったようなのだ。
なんかあの子、無口なんですよねーとは佐治の言。
クラスメイトも仲間外れにしているみたいで落ち着かず、最初は声をかけるグループもあったようなのだが、ソラが口達者でないが為に、上手く入り込む事が出来なかったようなのだ。
そうこうするうちに、すっかり一人でいる事が板についてしまったと、そういう具合らしい。
どうしたもんかな、と思いながら、楓はソラに声をかけるきっかけを捜していた。
だが、そのきっかけが中々見つからずいたずらに時だけが過ぎて、入学式から早1週間。
今日は新入生歓迎会と部活紹介がある。
今日こそは声をかけよう。
楓はそう決意していた。
今日の弓道部の出し物での楓の役目は派手なデモンストレーション。
一年生の誰かに的を持たせ、舞台上から弓を射るのだ。
顧問は危険だからと渋い顔をしていたが、楓の弓の腕は折り紙付きだ。
中学で弓道を始めてから毎年のように全国大会に出場し、それなりの成績を収めている。
だから、という訳ではないが、楓の腕の良さを理由に何とか許可をもぎ取った。
成功すればかなりのインパクトがあるはずだ。
舞台上では部長が挨拶をしている。
その後ろでは我が部の精鋭達が、弓を射る姿を披露していた。
そうこうするうちに、挨拶が終わったのだろう。
部長がこちらを見て合図をしたので、愛用の弓を持ち、彼女の隣に立った。
「え~、彼女は二年の芝本楓。うちの部のエースであり、次期主将候補でもあります。最後に、彼女に弓を射てもらいますが、せっかくなので一年生の誰かに協力してもらいたいと思います。誰かやってみたい人はいますか?」
そんな説明と共に、部長が体育館を見回す。
私も、1年生の席に目を向ける。特に1-Cの辺りに。
ざわざわしているが、挙手する者は誰もいない。
ならば、指名してしまおうと、ソラの方を見ると、彼女が顔を上げこちらを見た。
目をまん丸くして、びっくりした顔。
その顔が可愛いやら可笑しいやらで、思わず笑みが浮かんだ。
ソラから目を離さずに、部長の耳元に唇を寄せる。
「指名したい1年生がいます」
「えっ?指名?知り合いの子がいるの?」
「ええ。まあ、そんなところです。立候補する1年はいないみたいですし、ちょうどいいんじゃないですか?」
「んー、そうね。じゃあ、その子にお願いしようか。名前は?」
「1年C組、悠木ソラ」
「ん、分かった。じゃあ、下で待機してる佐治に指示をとばすわ」
そう言って、部長は待機していた部員に指示を出した。
「えーと、芝本がぜひ指名をしたいといってまして……ちょっと待ってください。いま、確認してます」
そんな言葉に、更にざわつく一年生達。
誰が指名されるのか、そんな事を話しているのだろう。
そうこうするうちに、佐治の元に部員が行って指示を伝えたようだ。
佐治は、何だか物言いたげな視線をこちらに送ってくるが、知らん顔をしておく。
準備が整ったのを確認した部長がソラの名前を呼ぶと、会場がまたざわついた。
ソラは困ったような顔をして固まっていた。だが、隣の席の女子が何か耳打ちをすると、ぎくしゃくと立ち上がった。
そんなソラに佐治が駆け寄り、広い場所へと連れ出す。
的を渡し、手助けしようとしている佐治を、
「佐次。手伝わなくていい。その子一人で持たせてみな」
そんな言葉で退ける。
が、佐治は反抗的な顔をして、
「でも、いきなり一人で持たせるのは……。動いたら危ないですし」
そんな事を言ってきた。
いう事を聞かない子は、後でお仕置き決定だ、とそんな事を考えながら、
「大丈夫。その子は動かない。大丈夫だな?悠木ソラ」
そう答えを返し、ソラの名前を呼ぶ。
ひょろひょろして見えるが、腐っても師範代の娘だ。
あの男が、自分の娘に護身術の1つや2つ、教えていない訳がない。
それなりに鍛えられているはずだ。
その予想の上の言葉だった。
だが、声に出しての返事が無く、頷くだけの返事を返す様子をみて、少しイラッとする。
(ちゃんと、声を出せ、声を。そんなんだから、上手に友達と話せないんだぞ!?)
そんな思いも募って、
「返事はちゃんと声に出せ!!」
思わず、少しきつめの言葉が口をついて出てしまった。
ソラはびくっとした様に首をすくめ、しかし今度はちゃんと返事を返してきた。
「だ、だいじょぶ……です」
よく通るいい声だった。
(なんだ、ちゃんといい声を出せるじゃないか)
楓は満足そうに頷くと、弓を番えた。
「では、いく。動くんじゃないぞ」
そう警告してから、弓を放つ。矢は真っ直ぐとび、的のど真ん中を射ぬいていた。
会場内から歓声が上がる。
だが、それに負けず劣らずのソラの声が、しっかりと耳に届いた。
「すごい!!かっこいい!!!」
そう叫ぶ声が。
そんな手放しの賞賛に、嬉しくなって口元が緩んだ。
舞台の上から一礼。それで楓の出番は終わりだ。
袖に向かいながら横目で見ると、ソラは再び佐治に手を引かれ、自分の席に戻るところだった。
(もしソラが弓道に興味を持つようなら、私が教えてやるのもいいな)
そんな事を考えながら袖に入ると、同じクラスの立樹涼香が声を掛けてきた。
ソラの事を聞いてきたので、逆にこちらからも質問を返してやると、学園祭で一度会っているのだという。
だが、詳しい話を聞く前に、涼香は舞台へ飛び出して行ってしまった。
忙しいやつだ。
なんとはなしに、舞台袖で涼香の歌を聞く。
彼女が自作したという曲は、優しげなバラードで、中々良くまとまっていた。
楓は涼香の歌が、結構好きだった。
ライブがあると聞くと、時間を見つけて何となく聞きに行ってしまうくらいには。
曲が、終わる。
拍手と歓声。それから、なんだ?悲鳴みたいな声。
涼香が何かしたんだろうか。
気になって幕の影からのぞいてみると、なんと涼香がソラの前にいた。
2人は何やら会話をし、そして。
なんと、ソラが叫んだのだ。びっくりするくらいの大声で。
「け、軽音部はいりたい、ですっ」
と。
楓は思わず小さく唸る。
涼香め、やってくれたな、とそんな風に思いながら。
ソラは綺麗な声をしているから、軽音部も決して悪くはないだろう。
だが、軽音部の部員は涼香以外は全員男子。しかも、少し悪そうな奴ばかり。
そんな中にソラを放り込む事態は出来れば避けたかった。
(本人の希望がもちろん一番だが、しかし、うーん……)
ソラが男だらけの部活に入ったと知ったら、過保護な父親の師範代は卒倒してしまうのではなかろうか。
それならまだいいが、軽音部の男共に決闘を申し込みかねない……気がする。
「……もちろん本人の希望を優先するが、勧誘するくらいは、いいよな」
先ほどの反応を見れば、ソラは弓道にも興味を持ってくれたはずだ。
自分や師範代、諸々の心の平穏の為に、出来る努力はしておこうと、そんな風に思う楓なのだった。
これで出会いと再会編はひとまず終了です。佐治さん、山根さん目線の話もいずれ書きたいなぁとは思ってます。
が、それよりなにより、早く女の子同士のイチャイチャが書きたいです。
ですが、ソラが奥手なため、そういう展開になるのはまだ先なんでしょうね。
次回は未定ですが、なるべく早く書きます。