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第九章:メリーの心情

翌日、俺は何とか痛む体を起こし学校へ行く準備をしていた。

未だ傷口は残っているが、顔や手など肌が見える部分は何とか楓から借りた化粧品で多少は誤魔化せた。

外に出ると、マンション前には心配してか鉄也と一俊が待っていた。


「あっ、おはよう。

大丈夫だった?」


「ふむ、多少は誤魔化したようだな。

パッと見、喧嘩で出来た傷にか見えんぞ。」


会うの2日ぶりだが、俺にとっては随分と久しく感じた。


「たくお前等別に待ってなくてもよかっただろ?

どうせ学校で会えるんだし。」


「それはそうだけど……

やっぱり亮の事が心配でさ。

カズも連絡した時すっごい心配してて、説明するの大変だったんだからね。」


そう素直に言ってくれる鉄也とは別に、一俊はどこか恥ずかしそうに明後日の方向を見ていた。


「そうなのか。

カズ、お前にもちゃんと連絡しておけばよかったな。

心配かけてすまない。」


「なっ、別に俺はお前など心配はしていない。

メリーはどうなのだ。

研究対象に何かあったらタダでは済まさんぞ!!」


鉄也と違って素直に慣れない一俊。そして男のツンデレって誰得?と思ったが、ふと気がつけばいっつも朝からうるさいメリーの声を今日は聞いていない。

今までならすぐ気がつくのだが、今日は痛みと戦っていたから、正直気にかける余裕がなかった。


俺に憑いてる位だから、近くに浮遊でもしているのだろうと思ったけど辺りを見渡してもメリーの姿はなかった。

まだ部屋で寝ているのだろうか?

そう思い、一度部屋まで戻ろうか考えたがすぐにやめた。

ツクの話では、今メリーは消費した霊力の回復する為に寝ている。

下手に起こさないでおこうと思ったからだ。

そして取り憑いているのに普通に離れれるって何だよ、とも思った。


「……亮、どうかしたの?」


自分では一瞬と思っても、それなりに考え込んでしまっていたようで、鉄也と一俊が心配そうにこちらを見ていた。


「いや、なんでもない。

どうやらメリーはまだ寝ているみたいだ。

そっとしておいてやろう。」


2人はその言葉を信じ、とりあえず学校へ向かった。

だが、誰も気がつかなかった。

学校へ行く亮達の姿を、バルコニーからこっそり見ていたメリーの姿を。

その眼には以前のような明るく元気な瞳ではなく、暗い絶望したかのような悲しい眼をしていた。


・・・・・・・・・・・・・・・


丁度亮達学生が授業を受けている事、1人の男性がだだっ広い部屋で作業をしていた。

シワ一つないスーツに身を包み、資料を目にしていたが、その髪には少しばかし白髪も交じっており実年齢より少し老けて見えるが、その貫禄は年以上にも見えた。

すると突然、受話器が鳴り出ると若い男性の声が聞こえた。


『社長。

社長に面会したいと言う方がお見えです。』


社長と呼ばれた男性は手元の手帳と時刻を確認した。


「この時間は誰とも会う約束はしていな。

一体どこの誰がアポなしで会いたいと言うのだ?」


『それが、神主が話があると伝えれば分かると申しまして……』


神主と言う言葉に男性の顔が一瞬強張ったが、取り次いでいる社員には分からない。


「……分かった、通してくれ。」


少し考えた後、通すよう促し暫くするとドアがノックされた。

一言掛けると、ドアが開き女性社員とスーツ姿に身を包んだ神主が入ってきた。

その後、女性社員はお茶を用意するとそそくさと部屋を後にした。


「……珍しいですね、貴方がここに来るとは。

いったい何用で?」


「うん、そうだね。

先日、息子さんに会いましてね。」


「亮にですか?

大方、墓掃除など金にならないことでもやっていたのでしょう。

全く無駄な事を……」


「斎藤さん。」


「今度、愚息にあったら言っておいてもらえませんか。

いつまで過去にすがって無駄な事をしている。

そんなことをやって居る時間があるのならば、学を身につけ私の後でも継いだらどうだ、と。」


「……亮君が言って聞くとでも?」


「まあ、聞かないでしょうね。

妻が残していた遺産を手に勝手に家を飛び出しのですから。

まあ、あの程度のはした金くれてやりますが……

私が一代で築き上げたこの会社、この地位はいずれ引き継いでもらわないと困ります。」


「なぜ、そこまでこの会社や地位に執着するのですか?

以前の貴方はそんな方ではなかった。

どうしてそこまで変わってしまったのですか?」


「変わった?いえ、違いますよ。

悟ったんですよ。

所詮この世は、金が、地位が、名誉がものをいい全て都合よく回る。

私はあの時それを学んだ。」


「……貴方はかわいそうな人だ。」


「なんとでも言ってくれて構いませんよ。

さて、そろそろよろしいでしょうか?

正直1分1秒とて私には無駄にはできないのです。

貴方は以前よりお世話になっていましたから、こうして時間を割いてお話しましたが……

こんな無駄話をしているようなら、私は仕事に戻らさせてもらいます。」


そういい社長、亮の父親である斎藤時峯じほうは内線で社員を呼び出した。

神主もこれ以上の話し合いは無意味と分かると、席を立ち帰宅の準備をした。

そして社員に促され部屋を出ようとしるが、ふと何かを思い出したかのように足を止め時峯を見た。


「あっ、そうそう言い忘れるところだった。」


「なんですか?」


「これは先輩としての忠告だよ。

しばらくよくない天気が続きそうになるけど、気を付けてね。」


「……分かりました、気を付けておきましょう。

先輩の忠告は学生のころからよくあたりますからね。」


「それじゃあ。」


そういい残し、部屋を後にした。

案内をしてくれた社員は、最後の会話が気になったのか入口のホールで聞いてきた。


「あの、失礼ですが社長とはどのような御関係で?」


「ああ、学生の時からの後輩だよ。」


そういい、神主は斎藤時峯の会社を後にした。


・・・・・・・・・・・・・・・


その日、亮は何事もなく授業を終え教科書などを鞄にしまい教室を後にしようとしていた。

朝姿を見なかったメリーの事が気がかりだったからだ。

部活動にも属さず、帰宅部として寄り道をせずすぐに帰ろうとしていた。

だが、教室を出ると鉄也が亮を待っていた。


「テツ、どうしたんだ?」


「いや、亮ならすぐ帰ると思ってね。

僕もメリーちゃんのことは気がかりだし、部屋に行ってもいいかなって……」


「まあ、俺は別に構わないが……

カズは?」


「カズは生徒会の仕事と部活で忙しいみたいだよ。

それと何かすぐ連絡しろって言ってたよ。」


正直真っ先に食いついてきそうな人物、一俊が一緒にいないのが気がかりだったが、鉄也がいない理由と伝言を預かっていたようだ。


「そうか、とりあえず納得したわ。

んじゃ、帰るか。」


そういうと鉄也は二つ返事で、そのまま帰路へ着いた。

帰り道2、3回ほど鉄也が吐血し他の通行人がかなり驚いていたが、俺にとっては慣れっこなので場を落ち着かせたりしまくった。

慣れって怖いね。

それ以外は特に問題もなく、マンションについた。


「ただいまー」


玄関を開けると、習慣となっている言葉を口にした。

以前なら誰もいなくても、出かける時と帰ってくる時は必ず口にしていた。

だが今はメリーもいるから帰ってきた事を知らせる役割にもなっている。


「おじゃまします。」


俺に続いて鉄也も一言言ってから入ってきた。

だが、いるであろうメリーの返事はない。


「メリー?」


疑問に思い、リビングや寝床、風呂場に押入れ隅々探したがメリーはどこにもいなかった。

ただ……


「亮、これ亮がやったの?」


メリーを探していて気が付かなったが、鉄也が指差した場所を見るとそこには無造作に床に落ちていた一冊の本のようなもの開かれた状態で置いてあった。

見覚えのある俺はそれを拾い上げ、開かれているページを見た。

そこには何枚かの写真があり、そこには若い男女と幼い子供2人が映っていたり、大きな家、何かの会社の看板などが映っていた。


「アルバム、だよねそれ?」


俺の横から覗き込んできた鉄也がそう言うと、俺は黙ってそのアルバムを閉じ本来あった場所にしまった。


「母親が作ってたアルバムだよ。

たくっ、メリーのやつこれ見てどうするつもりだったんだよ。」


「ひょっとして、勝手にアルバム見たのがヤバいと思ってどこかに隠れたんじゃない?」


「出てきたらとっちめてやる。」


亮と鉄也が帰ってきたころ、メリーはマンションの屋上にいた。

普段は入口は閉鎖されており、業者や管理人以外は普通では入ることのない場所でメリーは1人うずくまっていた。

だがその様子は明らかにおかしかった。

歯茎からは血が滲み、目も充血しおり、苦しそうに頭をずっと抑えていた。

普段は透き通るようなきれいな白い肌だが、今は血の気のない真っ白で冷や汗が体中から吹き脱していた。


『くぁ……あ、頭が…痛っ…たす、け……誰か…りょ、亮さ――』


メリーは激しい頭痛に襲われているのか、頭をより強く押さえつけ痛みにもがき苦しみ助けを求めよとしていた。

だが、ふと口にした亮の名に頭の中でフラッシュバックのように様々な光景がメリーの頭の中を駆け巡った。


幼く泣き叫ぶ女の子と寄り添う男の子。

ずっと傍にいて、なにがっても守ってくれた男の子。

真っ白なベッドの上で寝ている女の子の傍で泣きじゃくる男の子。

そして真新しいセーラー服を着て、鏡の前で喜ぶ少女。

長い髪をなびかせながら、意気揚々と自転車に乗っている少女。

セーラー服を真っ赤に染めながら倒れこんでいる少女。

その場から逃げるように去っていく車を薄れ行く意識の中見ていた少女。

こちらに向かってぎこちないながらも笑顔で笑いかけてきた亮の姿。


『―――――!!』


そして最後の光景が頭の中を駆け抜けた瞬間、メリーは人知れずこの世のものとは思えぬ叫び声をあげ、その場でバタリッと倒れこんでしまった。

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